第5章 韓国の高校での事例:ナ先生の事例
2.1 授業内容の矛盾に気づく
1回目の3CFで支援の対象となったナ先生の授業は、2012年4月19日に実施した第2課
「はじめまして」で、その日は「読んでみましょう」活動をしていた。1回目の3CFは 初めてのカンファレンスということもあり、ナ先生は、ミレ先生に自分の実践を説明す る場面がよく見られていた。その中でナ先生は、「ピア・サポート」遂行初期ごろの実 践では全く新しいことを試していなかったことが浮き彫りになった。以下に紹介する。
トピック<学習者1-1>18から(日本語訳) ミレ先生:先生、板書は…?
ナ先生:書かせたりして、子どもたちに出てもらって書かせてから答えあわせを…、最近 はパソコンで見せたり、僕が書いてあげたり、正解をまず書かせてから確認させたりして ますね、こういうふうに。
ミレ先生:ええ…、でも子どもたちは上手に書けてますか?ただ見るだけで書くのに?
ナ先生:<中略>書ける子は書けますね、意欲のある子は書くし。<中略>それはしょうがな いんですよ、ゆっくり、ゆっくりついてもらうしか。それからここはE大学みたいに学生 がそこまで優秀ではないので・・・(笑)
ミレ先生・崔:ぷっ・・・・・・(笑)
ナ先生:うん、この子たちは、もうついてきてくれてる子はこれぐらいで(少ないという ジェスチャー)、諦めた子たちはこん~なに(多いというジェスチャー)いるから中間がない んです。だから、こういう子たちを引っ張っていかなきゃいけないから皆がちゃんとやっ てくれることを期待しては進度が進まないんですよ。少しずつ少しずつ諦めないでついて きてねっていうのにそれでも諦める子たちがいるんですもん。
この対話で、ナ先生は「読んでみましょう」活動でひらがなの読み方を教えるのでは なく、文字と音声を同時に提示して生徒たちはそれをついて発音することで自然と文字 を覚えさせる教授法を使用していることが分かる。そして、ミレ先生は、その教授法で は「読む」のはできるが、「書く」のはどうなるのかを気にしていることも分かる。ミ
18 トピックの横の数字は、3CFの回数とトピックの中で何番目のものかのかを表わす。例えば、<学習者1-1>の場 合は、1回目の3CFで、<学習者>というトピックの中で1つ目のであることを意味する。
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レ先生は、ひらがなが読めることと書けることはセットとして捉えていることも窺える。
このミレ先生の質問に対してナ先生は、半年が経ってもひらがなすら覚えていない生徒 が半分以上と嘆いており、その原因は生徒がそこまで優秀ではないことと日本語の学習 意欲がないことを挙げている。つまり、実践を言語化はするが、実践の分析には至らず、
実践を取り巻く状況を主に説明しているのである。筆者はナ先生が実践を分析すること なく、自身の実践か置かれている状況ばかり説明しつづけていることに以下のように疑 問を呈している。
トピック<教育1-26>から(日本語訳)
ナ先生:<前略>右側のドアのほうの何人かの生徒たちはペアがいなくて独りで立っている ことが気になった…と(2CF資料)に書いてありますが、僕はこれに対してはどう考えるの かというと…、ペアにしてあげてもやらない子はどうせやらないから(笑)、(ペアを)指定 してあげなくてもやる子はやると考えてるんです(笑)。
崔:そりゃそうだけど、てんで何かを試そうともしないと…、僕が2年前のことも(思い 出して)気になって(2CF資料で)お聞きしたんですよ。あそこの、あそこの窓側のぼーっ としてる子達はどうするのかって、今…
ナ先生:<中略>やったことはあるんだけど…、はあ……(ため息)、それが…僕が努力した 分の成果があまりなかったんですよ。やらないほうよりはマシだとは思うけど、うん…大 きな成果はなかったと思うんだ。どうせやる子はやるし、僕が指定してあげたからといっ てやったり、やらなかったりするんじゃないんですね。「やってみて」っていうと、やる 子もいるんだけど……、でもやらないほうよりはやったほうがいいんでしょうね?
上記の対話で、ナ先生は「ペア活動をさせても成果はあまり無かった」、「ペア指定 とは関係なく、やる子はやるし、やらない子はやらない」と繰り返して主張している。
それに対して筆者は「実践でまったく何かを試そうともしないと変化はないのではない か」とナ先生を励まそうとしており、ナ先生はまた成果がなかったことを繰り返して発 言するが、「何もやらないほうよりはやったほうがいいのだろう」と実践に変化を与え ようとすることを仄めかしてはいる。上記に紹介したナ先生の語りからも分かるように、
1回目の3CFでは、ナ先生は現実的に何かを試そうとしても生徒たちの意欲がないため、
成果を上げにくいことから、実践で新しいことを試そうとしていなかったという状況が 分かった。なお、3CFにおいてナ先生には「実践を言語化するが、分析はせず、状況の 説明をする」傾向が見られていたことが確認できた。
1回目の3CFで自分自身が実践に変化を試そうとしていなかったことについて注意を 喚起させられたナ先生は、2回目の3CFでは大きな授業内容の矛盾に気づくようになる。
以下に紹介する。
55 トピック<日本語2-2>から(日本語訳)
崔:<前略>なぜなら、そのう、「に」を覚えてないのに「にゅう」が出てしまうと、(生 徒たちは)読めないから。
ナ先生:ああ・・・・・・!
崔:だから「に」の場合は……簡単なもので…<中略>「あに、あに、あに(日本語で)」
(を3回提示して)ピンポンピンポン(の音を)鳴らしてから、「にゅうがく(日本語で)」を読 ませると「に」というものをもう一緒に(復習できる)、
ミレ先生:うんうん、一緒に関連付けてね。
ナ先生:<中略>うん……、うんん~~~、ああ~~~!分かりました。(ひらがなを)提示 する時にそのう…直音を先に提示して、そこに拗音を入れると子どもたちは「に」をちゃ んと覚えた状態で「にゅう」、「あ、あれは『にゅう』だよな」になるんだということで すね?
ミレ先生:それが順番的にはよさそうですね。
崔:はい、時間もそんなにかからなさそうだし。
ナ先生:ええ……、うんん~~~、なるほど(日本語で)。じゃ、教科書にもそういうふう に書けばよかったなぁ、「あに、にゅうがく(日本語で)」、こういうふうに。
2回目の3CFは、2012年5月21日に行った。2回目の3CFで対象となったナ先生の授業 では1学期が始まって2ヶ月が経ってもまだひらがなすら読めない生徒が多すぎたため、
ひらがなの復習をしていた。その授業で、ナ先生は直音の「に」を覚えていない生徒に
「にゅう」、「にょう」の拗音を読む練習をさせていたのである。ひらがなの復習であ ったなら、直音の復習をして、それから拗音の復習をするのが復習の順番としてよいと 筆者は思い、上記のような助言をしていた。筆者は「に」も、「よ」も覚えていない生 徒たちをつかまえて「にゅう」を読めというのは矛盾だと判断していたのである。この 助言にナ先生は大いに授業内容の矛盾に気づくのであった。ナ先生は新しいことは試そ うとせず、教科書どおりに練習させることに慣れてしまっており、その教科書の練習の させ方の矛盾に気づいていなかったのである。しかも、その教科書の著者の1人はナ先 生本人であった。生徒たちが日本語学習を開始して2ヶ月が経ってもひらがなを覚えて いないのは、学習意欲の無さも原因であろうが、教科書と教授法といった実践上の問題 点もあったのである。
2012年5月21日に2回目の3CFが行われてから、同年6月からはE大学は期末テストの 後、夏休みに入り、G高校は同年7月に期末テストを控えて生徒たちは試験対策に追わ れることになり、「ピア・サポート」は夏休み明けの同年9月から再開することとなっ た。そのため、「ピア・サポート」は2012年9月から再開された。同年5月までのカン ファレンスは、2回の2CFの後、1回の3CFと行う形になっていたが、2012年9月16日の 3回目の3CFでナ先生は、この「ピア・サポート」の遂行デザインに教師自身が自分の
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実践を見ることができないという不満を示し、ミレ先生と相談した結果、同年10月から は教師自身の実践を対象に筆者と2CFだけを行う形に変更した。以下から紹介する3回 目の3CFで対象となったナ先生の授業は「いっしょに行きませんか」の「読んでみまし ょう」活動であった。3回目の3CFでナ先生は2回目の3CFの時よりも自分の実践を言語 化するとともに分析する場面が見られていた。以下に関連する対話を紹介する。
トピック<教育3-5>から(日本語訳)
ナ先生:<前略>単語が多くてちょっとつまらないなと思ったんですよ、僕も、実は…昔は ここまで単語が多くなかったけど、単語が増えっちゃったからちょっとつまらないなと思 ってたんですけど、うん……、ここに提案してもらった内容を見て……、ああ、次回から は僕もこういうふうにしてみようかなと思ったんですよ。子供たちで動きながらやってみ て…、どうすればもうちょっと……、でも…、とにかく参加してくれる子たちを中心に参 加させたいと思います。………僕の悩みも、どうすればもっと多くの子供たちに参加して もらえるか…、それが悩みではあるんですけど、たまに子供たちで動きながらやるのも、
うん、いいと思います。
ミレ先生:課題…、課題とかはありますか?
ナ先生:課題を…出してもどうせやってこないに決まっているので…(笑) 崔:ぷふっ…(笑)
ナ先生:(笑)ほとんどないですね。
上記の対話で、ナ先生は「教師が生徒に学習意欲を促して自己主導的に授業に参加し てもらう授業」という自分の目指す授業の実現はどうすればできるかについても言語化 していることが分かる。また、2回目の3CFの時とは異なり、ナ先生は自分の実践を言 語化するだけでなく、綿密に分析までしていることが分かる。上記の対話でナ先生は生 徒の学習意欲の無さを主張するより、単語量が増えていて生徒に退屈感を与えていたか もしれないと実践を分析している。また、その分析に加えてミレ先生と筆者の助言を参 考として次回の実践では「生徒が動きながら参加する授業」にすると語っており、「授 業の組み立てなおし」を図っていることが分かる。このナ先生の「実践の言語化→実践 の分析→実践の再構築」という対話のパターンは、1・2回目の3CFでのナ先生の語りに は見られなかった。実践を語るという「実践の言語化」は見られたが、「実践の分析」
と「実践の再構築」のパターンは見られなかったのである。このナ先生のカンファレン スにおける対話のパターンの変容がナ先生の実践にどのような影響を及ぼすかは4回目 の3CFで歴然と表れている。ナ先生の実践の変化については次項で後述する。
ナ先生は、3回目の3CFで、また大きな授業運営上の問題点に気づき、実践を分析す る場面が見られた。以下に紹介する。