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第3章 研究目的と研究方法

3. 分析方法

ここでは、今回の「ピア・サポート」の遂行から得られたデータの分析方法について 述べる。本論文の分析方法には2つがある。1つ目は、インタビュー・授業観察データの 分析方法である。この分析方法では、ナ先生とミレ先生へのインタビューデータと筆者 の非参与観察で得られたデータをどう分析したかについて述べる。2つ目は、カンファ レンスデータの分析方法である。カンファレンスデータの分析方法にはまた2つがある。

1つ目は「トピックわけ」であり、2つ目は「IF分析(Initiative-function Analysis)であ る。IF分析は筆者考案のものである。まずは、分析方法1としてインタビュー・授業観 察データの分析方法について述べる。

2CF:筆者とナ先生 (ミレ先生の実践を対象)

2CF:筆者とミレ先生 (ナ先生の実践を対象)

2CF資料を吟味

3CF

31 3.1 分析方法1: インタビュー・授業観察データの分析方法

インタビューデータと授業観察のデータの分析方法は、以下のとおりである。

■インタビューデータ:インタビューデータは、佐藤郁哉(2008)での「定性的コーディ ング」を行って分析した。まず、インタビューデータは、全て文字化した。文字化した テキストデータは、帰納的コーディング4を行った。最初に文字化したテキストテータ を1行1行丹念に読み込みながら、それぞれの部分が含む内容を示す小見出し、つまり

「コード」をつけていった。この過程で立ち上がった問いや疑問点、気になる点はテキ ストデータの余白に書き込んだり、付箋に書いて貼ったりしていく作業(オープン・コ ーディング)を行った。オープン・コーディングの後は、コード間の関係とそれが指す 意味を何回も繰り返して丹念に解釈し、抽象度の高い一定の概念的カテゴリーを立ち上 げてコードを割り当てる作業(焦点的コーディング)を行った。佐藤郁哉(2008)で説明し ている帰納的コーディングは、上記の作業で完了するが、本論文では、焦点的コーディ ングのあと、概念的カテゴリー間の関係をさらに吟味および解釈し、より抽象度の高い

「カテゴリー(以下、【】の中に示す」)を立ち上げた。立ち上げたカテゴリー間の関係 をさらに丹念にテキストデータを読み込みながら解釈し、インタビューデータを語られ た文脈から解釈された文脈へ再文脈化した。インタビューデータの分析結果は、第5章 と第6章で図にして解釈によるインタビューデータの再文脈化を分かりやすく示す。

■授業観察データ:授業観察は「完全なる観察者」5の立場で非参与観察を行った。授 業録画においては、筆者は教室の一番後ろの端に座り、ビデオカメラを筆者の前に位置 させて適宜ズームイン・アウトを行いながら録画した。録画をしながら、筆者は教室で 起きていること、観察しながら生じた疑問、感想、出来事への即興的な解釈などをその 場でメモをとり、「現場メモ」を作成した。その後、作成した現場メモをさらに時間軸 に沿って教室で起きたことや筆者の解釈と感想を丁寧に清書し、「清書版フィールドノ ーツ(以下、フィールドノーツと略す)」6を作成した。作成したフィールドノーツは、後 述するカンファレンスデータと授業の録画データと合わせて授業の様子の描写や教室内 の出来事への筆者の解釈に使用する。

以上、インタビューと授業観察データの分析方法について述べた。次は、カンファレ ンスデータの分析方法について述べる。

4 帰納的コーディングについては、佐藤郁哉(2008)のpp.97-104.を参照のこと。

5 観察者の4つの立場については、メリアム(1998)pp.146-148を参照のこと。

6 現場メモと清書版フィールドノーツにつていは、佐藤郁哉(2002) pp.160-161.を参照のこと。

32 3.2 分析方法2: カンファレンスデータの分析方法とIF分析

カンファレンスデータは、以下の2つの方法を用いて分析する。1つ目は「トピック分 け」で、2つ目は「IF分析」である。まずは、トピック分けから述べる。

1つ目のトピック分けの分析方法は、まず、カンファレンスデータを文字化する。文 字化したテキストデータは、Sherin & Han(2004)での授業の録画データのトピック分 け7を参考として、1行1行丹念に読み込みながらトピック(以下、<>の中に示す)を抽出 していった。トピックの抽出は何回も繰り返して行い、その結果、<日本語(言語として の日本語、日本語教授法に関連するもの)>、<教育(教師の教育観・授業観、教室・授業 運営、教授法、教材・教具の利用に関連するもの)>、<学習者(生徒と学生に関連するも の)>、<現場(教育現場ならではのもの)>、<制度(入試制度、教育課程に関連するもの)>、

<その他(上記の4つのトピックのどちらにも当てはまらないもの)>の6つのトピックが立 ち上がった。トピック分けをすることによって、カンファレンスでどのようなトピック で話し合われたかが分かる。

2つ目のIF分析は、筆者考案のもので、「イニシアティブ(initiative: 発話の主導)」

と「ファクション(function: 発話の機能)」の両方を分析する手法である。イニシアテ ィブは、Sherin and Han(2004)では、「発話が誰によって主導されたか(initiated by whom)」の意味として使用しているが、本論文でにおいても同様の意味として使用して いる。つまり、誰によって、その発話が始まったのかを表わすのがイニシアティブであ る。Sherin and Han(2004)では、ビデオクラブにおけるイニシアティブは分析してい るが、それがカンファレンスにおいて、どのような機能を果たしていたのかまでは視野 に入れておらず、ただイニシアティブの数を数え、その変移を示しているにとどまって いる。発話の主導だけを分析しては、その発話によって実践者が対話の中で実践を言語 化したか、あるいは分析したかは把握しようがない。実践者と研究者の発話の主導につ いて、その機能まで分析しないと、どのような対話で実践が改善されたか、もしくは改 善されなかったかの全容は分からないのである。そこで、イニシアティブのカンファレ ンスにおける機能を一体化させた分析手法が必要となる。本論文では、先行研究におけ る研究方法を援用および補完し、「IF分析」と名づけて使用している。つまり、IF分 析は、「カンファレンスにおいて誰が発言を始めており、その発言はカンファレンスに おいてどのような機能として働いているのか」を分析する手法なのである。

Linnel et al.(1988)では、イニシアティブ・レスポンス分析(Initiative-response A-nalysis: IR分析)という会話分析手法で、スウェーデンの警察官と容疑者、夫と妻、検 事と被告の会話(原著ではdialogue)における話者たちの発言の主導権の変移8を量的に示 している。IR分析は、緻密な会話分析の記号に基づいて分析しているため、事例の相対

7 Sherin & Han(2004)のpp.167-168の2.3 Data analysisを参照のこと。

8 Linnel et al.(1988)のpp.419-426.までの説明と図2から4までの変移を参照のこと。

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化が可能で客観的な会話分析の手法として知られている。しかし、Linnel et al.(1988) や後述するGille, J.(1999)のように、発話者たちが1つのトピックだけについて話し合 うのではなく、「ピア・サポート」のカンファレンスのようにトピックが頻繁に変わり、

その中で発言の主導者が瞬時に変わる対話(dialogue: monologueに対するもの)におい ては、その数を示すだけで機能までを分析範疇に入れないと、なぜこの対話から実践の 改善に繋がったのか、もしくは繋がらなかったのかが説明できない。

Gille, J.(1999)でも、筆者と同じく、発話(utterance)の分析には、機能を分析カテゴ リーに入れる必要があることを主張し、議論における発話の機能を綿密に分析している。

Gille, J.(1999: 15)では、相互作用における議論(argumentation in interaction)の様 相について、Linnel et al.(1988)のIR分析を用いて分析しているが、相互作用における 議論の様相を記述するためには、「発話の機能(function of utterances)」をも分析の カテゴリーに入れる必要があることを主張している。そこで、Gille, J.(1999)では、ま ず、「INOP(initial opinion:第一の意見)」、「ARGC(counterargument:反駁)」、

「SNOP(subordinate opinion:付随的意見)」を発話者1と発話者2などを併記して分析 を試みている。その分析から、Gille, J.(1999)は、「Initian Opinion(第一の意見)」、

「Subordinate Opinion(付随的意見)」、「Acceptance(受容)」、「Rejection(拒否)」、

「Proargument(反論)」、「Counterargument(反駁)」、「Request for additional information(追加情報の要求)」、「Clarification(解明)」の8つの議論における発話の 機能を導き出している。そして、「Expresses argument(討議の表現)」、「Implies taking a stand(明確な態度の強調)」、「Introduces new topic(新しいトピックの提 示)」、「Introduces new information(新しい情報の提示)」と上記の発話の機能との 関連性(relevant or irrelevant)についても分析している(Gille, J.1999:16-17)。この 分析結果を踏まえ、Gille, J.(1999: 21)では、新しく発話の機能を加えて、発話の内容、

発話者を同時に分析する手法を提示しているのである。

Gille, J.(1999)は、相互作用における議論を先行研究の分析手法での分析から問題提 起を行い、新たに発話の機能をも視野に入れて更に分析し、その機能の議論の展開にお ける関連性まで記述できたという点では大いに評価できる。しかし、Gille, J.(1999)の 分析には3つの限界がある。1つ目は、発話の機能を議論全体ではなく、「討議の表現」、

「明確な態度の強調」、「新しいトピックの提示」、「新しい情報の提示」といった限 られた局面における関連性だけに焦点を当てている点である。というのは、上記の4つ の局面以外の分析のためには、再度、分析を行い、両者を合わせて考察するしかないと いう限界があることになる。そこで、分析者が局面を恣意的に指定するのではなく、対 話(dialogue)全体の分析を行うことが必要となるのである。2つ目の限界は、まるで実験 のような条件設定下の議論を分析しているという点である。Gille, J.(1999)の分析結果 に、「INOP(Initian Opinion:第一の意見)」は一回しか現われない。しかも、INOP は、研究者だけが持っていることが分析結果に示されている(Gille, J.1999:21-23)。

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つまり、研究者は最初の意見を投げかけてから存在を消し、その研究者が投げかけた意 見に対して参加者たちが議論をしているのである。最初の意見者が意見を投げかけてか ら議論から存在を消し、しかも最初の意見者の存在が消えたにもかかわらず、議論を続 けるという極めて不自然かつ非現実的な議論を分析しているのである。発話の機能をあ りのまま分析するためには、研究者が議論に参加する場合は、研究者は存在を消すこと なく、正式に議論の一参加者にならなければならない。しかも、その研究者の発話をも 分析しなければならないのである。3つ目の限界は、「議論(argumentation)」の分析で あって、「対話」の分析ではないという点である。議論は、あるトピックに対して、対 立する意見を持つ者同士で話し合うものである。議論には、「対立」と「両極」が前提 になっている。本論文における「ピア・サポート」では、参加者間で議論だけをするわ けではない。「ピア・サポート」における対話の分析対象は、「対立する意見」ばかり でなく、対話全体にならなければならない。牧野(2008)では、西洋哲学、論理学におけ る議論(argument, argumentation)について綿密に分析し、ナラティブ的学びを促すも のとしての「議論のデザイン」と「議論の十字モデル」を提唱しており、そういう意味 での議論のデザインは、学習環境デザインとして認められるため、議論と論証が当然、

分析の対象となる。しかし、「ピア・サポート」における対話は、議論だけを分析対象 としては、カンファレンス全体を通して研究協力者の実践が改善されたか、あるいは改 善されなかったかは分からない。そのため、「ピア・サポート」における議論ではなく、

対話全体を分析対象とする必要がある。以上のことを踏まえ、本論文では、イニシアテ ィブとそのイニシアティブの機能をも視野に入れ、IF分析を考案したのである。ちなみ に、IF分析におけるイニシアティブの表わし方は、Sherin and Han(2004)を、イニシ アティブの機能の分類は、Gille, J.(1999)を参考としている。

次は、IF分析の手順について述べる。IF分析の手順は、まず、カンファレンスの文 字化データを1行ずつ読み込みながらイニシアティブを書き込んでいく。本論文では、

イニシアティブを表わすものとして「R(研究者: researcherの略)」9、「T(教師: teach-erの略)」、「R-T(研究者が教師へ)」、「T-T(教師が他の教師へ)」、「T-RT(教師が研 究者と他の教師へ)のローマ字の頭文字を使う。イニシアティブをつけながら、イニシ アティブの機能をテキストデータの余白に書き込んでいく。それからイニシアティブの 機能を設定する。本論文では、「質問(Q: Questionの略)」、「説明(E: explanationの 略)」、「主張(I: insistenceの略)」、「確認(C: confirmの略)」、「反論(O: objection の略)」、「助言(A: advice)」、「激励(En: encourageの略)」の7つの機能を設定して 分析した。イニシアティブの機能を設定してからは、文字化データをまた読み込みなが ら、イニシアティブの下にその機能を書き込んでいく。この過程を数回繰り返し、イニ シアティブとその機能を確定していく。分析時に、1つの文が複文になっており、それ ぞれの単文に機能がある場合は、2つに区切ってそれぞれの機能を示す。 例えば、以下

9 IF分析において、「研究者的実践者」のことは、便宜上、「R(研究者: researcherの略)」で示す。

ドキュメント内 日本語教育実践はどのように改善されるか (ページ 34-39)