第7章 日本語教育実践の改善のために何をどうすべきか
1. 今回の「ピア・サポート」の評価
1.1 ヒューリスティックかつポリフェニックな場としての「ピア・サポート」
2.2.1 実践の改善に繋がる対話のパターン
まず、実践の改善に繋がる対話のパターンについて述べる。今回の「ピア・サポー ト」におけるカンファレンスでは、まず自分の実践と現場について暗黙の前提を持って いない他者に向けて、自分の実践をことばにして説明したり、主張したりしなければな らなかった。この自分の実践について暗黙の前提を持っていない他者に向けてことばに する行為が「実践の言語化」である。実践の言語化は、「ピア・サポート」遂行初期に 頻繁に見られたが、徐々に互いの実践について分かってくるにつれ、見られる頻度が初 期に比べて減っていくことが確認できた。これからIF分析による実践の言語化の例を紹 介するが、第3章の3.2で述べたIF分析における記号をもう一度説明する。IF分析におい
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ては、イニシアティブを表わすものとして「R(研究者: researcherの略で『研究者的実 践者』の便宜上の示し方)」、「T(教師: teacherの略)」、「R-T(研究者とナ先生かミレ 先生のどちらかの1人の教師)」、「T-T(ナ先生とミレ先生両方)」、「T-RT(ミレ先生か ナ先生かがもう1人の教師と研究者へ)のローマ字の頭文字を使う。一方、イニシアティ ブの7つの機能としては、「質問(Q: questionの略)」、「説明(E: explanationの略)」、
「主張(I: insistenceの略)」、「確認(C: confirmの略)「反論(O: objectionの略)、「助 言(A: advice)」、「激励(En: encourageの略)」であり、これらのローマ字の頭文字を 使う。それでは、以下に実践の言語化の例を示す。
表5 実践の言語化パターン「質問―説明」1(日本語訳)
<*表示されているものは、ミレ先生の発話>
R-T Q だから、書くのは?
*T-T Q (書く活動を)なさる時、どういうふうになさってますか?「書く」授業はどういう
ふうになさってるのかが気になって(笑)。
T-RT C あああ……(理解したように)
*T-T Q 板書はなさらないから(笑)、板書はなさらないで単語はどういうふうに子どもたち
に確認させてるのか、ただ見せるだけなのか…
R-T C うんうん T-RT E
うん…、だから、その日は「読む」授業だったんで、書くのはあまり重みを置かな いで簡単に1つ、2つぐらい僕が書いてみてって言うんですよ、「読む」授業でも ね。
*T-T C ええ…
T-T E 1つ、2つぐらいは書いてみてっていうけど、それはトータルでやるもので、「書
く」授業では、ええと………、書かせますね、子どもたちに。
*T-T Q 先生、板書は…?
T-T E 書かせるし、子どもたちに前に出てもらって書かせた後、正解を…、最近はパソコ ンでね、
*T-T C ええ、ええ。
T-T E 見せたりもするし、僕が書いてあげたりもするし、正解をまず書かせて、後で確認 させたりもするし、こういうふうにやってますね。
表5は、1回目の3CFにおけるナ先生の実践の言語化パターンである。表5を見れば、
最初のイニシアティブは筆者にあり、そのイニシアティブは「質問」の機能をしている ことが分かる。次に、ミレ先生にイニシアティブが移動し、「質問」の機能をしている。
つまり、筆者とミレ先生は、ナ先生の実践について暗黙の前提がないため、イニシアテ ィブをナ先生より先に持つ場合が多く、そのイニシアティブはナ先生の実践について
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「質問」の機能をしているのである。表5の筆者とミレ先生のイニシアティブは薄グレ イで表示されており、機能はやや濃いグレイで表示されている。上記の表5は、典型的 な実践の言語化パターンとしての「質問..
―説明..
」のパターンである。典型的な実践の言 語化パターンである理由は、当然であるが、カンファレンスの対象となった実践の様子 を参加者たちが見て、気になることをそのまま質問することが多かったことが考えられ る。そのため、イニシアティブは「研究者的実践者」と他の実践者が先に持つ場合が多 かった。これは、以下の表6のミレ先生の言語化パターンからも確認できる。
表6 実践の言語化パターン「質問―説明」2(日本語訳)
R-T Q でも、先輩は、新たに気づいた点でですね、本人は(説明が)簡潔だと思ってたんですけ ど?
T-R C うん、うん!ええ、ええ。
R-T C 僕があんまり簡潔じゃないと申し上げたんですけど、
T-R E
うん、なぜなら、ただ「ば(日本語で)」と「たら(日本語で)」だけを提示したり、1 つ、1つずつ2つだけを提示したりすると、ちょっと学生たちが、初めて学習をするん だから、負担が少なかったはずなのに私がそれを4つを全部いっぺんに提示したから、
学生たちは大変そうだったし、で、ちょっと…簡潔な…それとも私が分けたその4つを プリントより…、私はあれが欲しいの、(崔が紹介した)その先生の授業ではすごく本当 に簡潔だった、その話を聞いたことがあるから、後で見てみて、それを参考にしてや ろうと思ってたから、そう書いたの。
上記の表6は、2012年10月の2回目のミレ先生と筆者との2CFにおけるミレ先生の実 践の言語化パターンである。表6で、筆者はミレ先生が作成した省察シートを読んでミ レ先生に質問をしている。つまり、「研究者的実践者」が「質問」のイニシアティブを 先に持っている。ミレ先生は「質問」に対して、実践を振り返りながら「質問」に「説 明」をしている。これは、表5での「質問―説明」とは異なり、カンファレンスの対象 となっている実践に暗黙の前提がなくて「分からないから聞く」ものではない。「研究 者的実践者」が他の実践者に実践の改善点と関連して実践の振り返りを促すために「質 問」をしているのである。実践の言語化のパターンとして同じ「質問―説明」のパター ンであるが、その内容は異なっているものである。一方、実践の言語化パターンには、
基本的に「なぜこれか」、「なぜその方法か」などといったそれぞれの実践者の目指す 日本語教育を聞き合うものが多数見られている。「ピア・サポート」において、実践者...
間で「日本語......
そのものをどのように捉えており、どのように教えており、どのような教.................................
育を目指したいのか.........
」.
について....
真摯かつ真剣な対話が行われていたことがこの実践の言.........................
語化パターンで確認できる............
。
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また、実践の言語化パターンは、「質問―説明」以外に「主張..
―説明..
」のパターンも 確認されている。以下の表7に「主張―説明」のパターンを示す。
表7 実践の言語化パターン「主張―説明」1(日本語訳)
<*表示されているものは、ミレ先生の発話>
T-R I
右側のドアのほうの何人かの生徒たちはペアがいなくて独りで立っていることが 気になった…と(2CF資料)に書いてありますが、僕はこれに対してはどう考えるの かというと…、ペアにしてあげてもやらない子はどうせやらないから(笑)、(ペア を)指定してあげなくてもやる子はやると考えてるんです(笑)。
R-T O
そりゃそうだけど、てんで何かを試そうともしないと…、僕が2年前のことも(思 い出して)気になって(2CF資料で)お聞きしたんですよ。あそこの、あそこの窓側 のぼーっとしてる子達はどうするのかって、今…
T-R E
うんん…、実は昔、(日本語教師)3人でやった頃は、僕が回りながら「君たち、こ の3人、ここの君たち3人」、こういうふうに(ペア作り)をしながら、回りながら やってこともあるんですよ。
T-R E
やったことはあるんだけど…、はあ……(ため息)、それが…僕が努力した分の成果 があまりなかったんですよ。やらないほうよりはマシだとは思うけど、うん…大 きな成果はなかったと思うんだ。どうせやる子はやるし、僕が指定してあげたか らといってやったり、やらなかったりするんじゃないんですね。「やってみて」
っていうと、やる子もいるんだけど……、でもやらないほうよりはやったほうが いいんでしょうね?
表7を見ると、ナ先生が2CFの資料を読んで、生徒たちの学習意欲がないため、何か を試そうとしても、どうせやらないに決まっているという主張でイニシアティブを最初 に持つことが分かる。それに対して筆者が「反論」をすると、ナ先生は過去の実践の経 験を「説明」することで、自分の実践を言語化していることが分かる。この「主張―説 明」のパターンは、「質問」からではなく、自分の実践がカンファレンスの対象となっ ている教師の「主張」で開始されている。その理由は、今回の「ピア・サポート」は20 12年9月までは、2CFの後、3CFを行う形を採っており、2CFの後、「研究者的実践 者」が作成した2CF資料には「研究者的実践者」と他の実践者の気になることが「質 問」として書いてあったため、このように「質問」からではなく、「主張」の機能を持 つイニシアティブから実践の言語化が行われていたと考えられる。なお、表7の「研究 者的実践者」の「反論」は偶然発生的な機能であり、次のナ先生の「説明」を見れば分 かるように、実践者の「主張」に納得がいかず、「更に説明がほしい」という意図で発 せられたものである。つまり、「反論」で「説明」を求め、実践の言語化が行われる場 合も確認できたのである。「主張―説明」の実践の言語化パターンは、2012年10月か
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ら2CFの後に3CFを行う形を止めてからは見られなくなったことから、カンファレンス のデザインの影響で発生したパターンと考えられる。「主張―説明」の実践の言語化パ ターンについて、以下の表8でミレ先生の場合を挙げてもう1つ紹介する。
表8 実践の言語化パターン「主張―説明」2(日本語訳)
T-R I ちょっと出来なかったと思います。それから、ええ…、ほんと、会話の授業であるこ とを意識しながらやってると(笑)思うんですけど、ほんとに、
R-T C (2CFでの前の質問と)もっとかぶりますね。
T-RT E
ずっと、もう初出の単語はずっと確認させてるんですよ。ですから、読解(の授業)で 勉強したものはチェックさせないんですね、それは学生の皆分かるから、いつも、だ から、小テストを受けてほとんど、単語のチェックはほぼできるから、勉強したもの はほとんど学生も分かるんですよ、「それ勉強しました」って言ってくるから、初め て出たものは学生たちにちょっと書かせて、最初に書く時は大きめに書くんですよ、
で、学生たちがこの漢字の書き方はこうだということを確認させて、それから書きな がら、韓国語…漢字、韓国語の漢字と日本語の漢字は違うから、そこのところを注意 喚起させて、で、それを1回やって、初出の漢字は必ず書かせるんですよ、で、それ をまた確認させたりするんですけど、とにかくそれを書くのがあって、そのう…単語 じゃないのは板書をほとんどしないんですよ(笑)、文型は書いたりするけど、はい。
R-T Q 単語は、単語も予習をすることになってるのに、授業時間にまたそれを板書して?
T-R E 学生たちは予習をしてこないがちなんですよ。
表8でもミレ先生がイニシアティブを先に持ち、「主張」をしていることが分かる。
ミレ先生もナ先生と同じく、2CFの資料を読んで、そこに書いてある質問に「主張」す ることで答えており、その後、ミレ先生が自分の実践に暗黙の前提を持っていない筆者 とナ先生に向けて具体的に実践の流れとやり方を「説明」していることが確認できる。
ミレ先生の「説明」に対して、筆者は直接「質問」をすることでイニシアティブが移動 し、ミレ先生が更にこれまでの学生たちの傾向を「説明」し、更にイニシアティブが移 動したことが分かる。以上のようなことから、実践の言語化パターンは、「質問―説 明」と「主張―説明」の2つがあり、「質問―説明」のパターンが典型的なものである ことが明らかになった。次は、実践の分析パターンについて述べる。
実践の分析パターンは、実践の言語化パターンと同時に現れる場合が多かった。そし て、実践の分析パターンには、「質問―確認―説明」と「激励―説明」の2種類がある ことが明らかになった。「質問―確認―説明」のパターンは、「研究者的実践者」や他 の実践者がカンファレンスの対象となっている実践者の実践のやり方、運営、学習者の 反応などについて気になることを聞き、質問を受けた教師は質問に対して了解したこと