第7章 日本語教育実践の改善のために何をどうすべきか
1. 今回の「ピア・サポート」の評価
1.1 ヒューリスティックかつポリフェニックな場としての「ピア・サポート」
2.2.2 実践の改善に繋がらない対話のパターン
ここでは、「実践の改善に繋がらない対話のパターン」についてIF分析の結果から述 べる。2012年9月23日の4回目の3CFでは、ナ先生と筆者の意見にミレ先生は納得がい かず、コンフリクトが起きていた。このコンフリクトによって、筆者は「ピア・サポー ト」におけるファシリテーターとしての力量不足について痛烈な自己反省をさせられて いた。実践者の目指す方向への実践の変化にも、実践者のエンパワーメントにも繋がら ない対話があることを4回目の3CFを通して、筆者は肌身を持って実感させられたので ある。今回の「ピア・サポート」におけるカンファレンスデータにIF分析を行った結果、
上記のような実践の改善にも、「実践者のエンパワーメント」にも繋がらない対話のパ ターンには、「『主張』の繰り返し」と「主張―反論」の2種類があることが明らかに なった。なお、この2種類の対話のパターンは、「研究者的実践者」のファシリテータ ーとしての力量と関係していることも浮き彫りになった。まずは、表15に「『主張』の 繰り返し」のパターンを示す。
表15 実践の改善に繋がらない対話のパターン「主張」の繰り返し(日本語訳)
<*表示されているものは、ナ先生の発話>
R-T A あ、ですから、説明を先輩がこの日はウェイトを、重みを前半に置きすぎてた んですよ。
T-R C ううん…!
R-T A ですから、これをちょっと分けてやったらどうだろう…、前半に「さあ、違い を考えてみてください。基本的な意味は『状態』です。作り方は『「て形」』
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分かりますね?」、こういうふうに軽く説明をして…、それから教科書にその まま入ってもいいですし、それとも…、あの用意してきたもの、八王子(日本語 で)の用意してきたもの、絵を見せたりして、まあ、それをやってから「さあ、
そろそろ『~ている』と『~てある』と何が違うか見てみましょうか」、こん な感じで本文をやって、休憩もあるでしょうし、それからまた「考えてみまし た?そこの人、どこが違うと思いますか?予習してきた人は?」こういうやり 方もありますし、その次に説明をしたらもう少しウェイトが分散されて…、(説 明が)偏らなかったかな…。
T-R C うん……
*T-RT I あのう…、とにかくね、今日、すごい、クリエイティブな教師にならなきゃい
けないというのがどんなことなのか分かりそうで、
R-T C ぷぷっ…(笑)
T-R I 僕、今日すごい降りてきたんだから(笑)、はははは……(笑)
R-*T I もう集中してくださいよ。今日、先生の話ばかりですよ(笑)。
表15の対話は、2012年9月23日の4回目の3CFで行われたものである。第4章の2.2で 述べたように、4回目の3CFでナ先生は「ピア・サポート」を通して自分の目指してい た授業とそれを実現させる「クリエイティブな教師」について初心に戻って考えさせら れる場面があった。ナ先生は「ピア・サポート」を通して、意欲を取り戻し、大きくエ ンパワーメントされていたのである。しかし、ナ先生が自分の目指す授業についてあま りにも夢中になって語っていたため、ナ先生は何に対しても「創造力」と「クリエイテ ィブな教師」を話題として「主張」を繰り返していた。対話の内容も抽象的なものにな ってしまっていた。何よりも、せっかくのカンファレンスの場において、筆者はファシ リテーターとしての役割に徹しておらず、これまでと打って変わって実践の改善のため の意欲に燃えていたナ先生の「主張」についてつい賛同してしまい、それを「主張」で 示していた。対話は自然と「主張」の繰り返しになっていった。ナ先生の「主張」と筆 者の「主張」の繰り返しによって、ミレ先生は一生懸命、自分の実践について「説明」
をしても、対話の内容と直結しないような「主張」が繰り返されていたのである。筆者 からの「助言」はあったものの、ナ先生からの「助言」はもらえず、フラストレーショ ンを「反論」で示していた。これが表15で示した「主張―反論」のパターンである。
一方、「『主張』の繰り返し」が続いてしまい、結局、ナ先生と筆者の「主張」に続 き、ミレ先生が「反論」のイニシアティブを頻繁に持つことが見られ、コンフリクトが 顕在化していった。これが2つ目の実践の改善に繋がらない対話のパターンである「主 張―反論」である。以下の表16に「主張―反論」のパターンを示す。
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表16 実践の改善に繋がらない対話のパターン「主張―反論」(日本語訳)
<*表示されているものは、ナ先生の発話>
T-R O じゃ、創造力が目的なの?私が、この授業で得ようとするものが、学生たち が?
R-T I
教師、教師は力を持ってると思うんですけど、能力といってもいいし、ability といってもいいし。教師の能力は、スキルもあるし、創造力もあると思うんで すね。こっちのほうが強い人もいれば、こっちのほうがもっと強い人もいる し、どっちがいい、悪いの話じゃなくて、おっしゃったように現場によってみ んな違うと思うんですよ。それもスキル中心の授業をする現場なら歓迎される でしょうね。
T-R C うん…
R-T I
でも、そうじゃないほうからはちょっとよくないことを言われるかもしれない けど、どっちも無視はできないというのは僕の立場なんですね。代わりに、自 分がやりたいものは何かは分からないとだめだということなんです。先輩が何 がいいかをおっしゃって…
T-R O ここで創造力と目標があって、こういうやり方でやるのがスキルじゃない?
R-T Q 来月にやることをもうやります?
T-R I いや、私は気になるの。創造力って何なのか分からないの。
R-T I 創造力は、
T-R O 今、(崔が作成した教案を指す)これを教えるのでしょ?これはスキルじゃん?
R-T E ええ、それはクリエイティブな授業なんとかじゃなくて T-R C うん
R-T E 決まった文法をどういうふうに、効率的に教えるかというスキルです。
T-R Q じゃ、ここに創造力は入らないということだよね?
R-T E スキルだけど、活動の場合は、僕の考え方が入りますね。
T-R C うん、でしょ?
R-T I
例えば、こういうのがありますよね?まあ、絵を移動させながらやるのも面白 そうで、興味も持ってもらえそうというのは僕の考え方で、板書だけをする人 もいれば、問題に答えさせる人もいるでしょうね。だから、それはスキルを獲 得する…、教師のスキルの中の1つなんです。授業全体じゃないじゃないです か。
*T-R I こういうふうに授業をしたいというのもこの人の創造力なんでしょうね。
R-T C あああ…
T-RT O ううん、スキルと創造力と一緒のように聞こえるんですよ。そのスキルをつけ
るためには私がこんな授業をしたいということを考えてスキルが出てんでしょ
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*T-T C ええ。
T-T Q でも、もっと大きいということですよね、創造力のほうが?全体的な何か…
*T-T I
そうだね、例えば…(崔の教案を指しながら)こういうふうにしないで僕なら…う ん……絵を渡してこの絵の状態を子どもたちに説明させるかな?こういうのも 創造力ですよね?じゃ、それをどうしてみようか、しようか、まあ、絵を何枚 か用意する、まあ、子どもたちにどういうふうに指示する、こういうのも具体 的な方法論のスキルになるでしょうね。
R-T C うんうんうんうん
T-RT O 方法論じゃない?私にはそれが方法論みたいなんだけど。
上記の表16からは、ミレ先生がカンファレンスの途中、「『主張』の繰り返し」のパ ターンに堪えられなくなり、頻繁に「反論」のイニシアティブを取っていることが分か る。まず、ミレ先生は、ナ先生と筆者が「主張」を繰り返している「創造力」について
「私のクラスの学生たちが得ようとするものが創造力というのか。そんなことはない」
と強く「反論」をしている。このミレ先生の「反論」に対して筆者は抽象的かつ説得力 に欠ける「主張」を長々としており、それにミレ先生は更に「反論」し、それに対して また筆者が「主張」を繰り返している。それに、表16の最後から8番目のイニシアティ ブから分かるように、ナ先生も筆者の「主張」に賛同をするような「主張」を更にして おり、ミレ先生は、このナ先生の「主張」に対してナ先生と筆者両方を向けてまた「反 論」を繰り広げている。このミレ先生の「反論」にナ先生が更に「主張」をしているが、
ミレ先生はその「主張」に納得がいかず、更に「反論」のイニシアティブを取っている。
なお、表16の対話では、所々「説明」、「確認」、「質問」も見られているが、対話の 大きな軸は「主張―反論」となっていることが分かる。
以上のことから、上記の「『主張の繰り返し』」と「主張―反論」は、実践の改善に も、「実践者のエンパワーメント」にも繋がらない対話のパターンであることが分かる。
従って、実践の改善のためには、「『主張』の繰り返し」と「主張―反論」のように
「言いたい放題状態」が生じないように.................
心掛ける....
必要..
がある...
のである。この必要性は、
「研究者的実践者」がファシリテーターとしての役割に徹しなければならないことを意 味しており、決して参加者たちが自分の主張を他の参加者たちに強いたり、ある参加者 の肩を持ったりすることをしてはならないという教訓を与えている。実践の改善と「実 践者のエンパワーメント」のためには、次節の3.3で後述するが、「相互尊重」が大前 提である。今回の「ピア・サポート」の事例からは、実践者間で「相互尊重」を忘れ、
自分の言いたいことばかり繰り返しては、実践の改善は期待できないものであることが 浮き彫りになったのである。
以上のように、今回の「ピア・サポート」の2つ目の成果として、「実践の改善に繋