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第 2 章 ハノイ聖室の組織と活動

第 3 節 聖室活動

ハノイ聖室の在家信徒が、聖室で取り組む主な活動は、大きく二つに分けられる。一つ 目は、儀礼、読経、説法会への参加および聖室施設の管理など、広くカオダイ教の信仰に 関連する宗教的活動として分類できるものである。二つ目は、政府主催の行事等への参加 といった、社会的な性格のつよい活動である。

3 - 1 宗教的活動

3-1-1 儀礼参加

在家信徒が最も重視する宗教的活動は、儀礼への参加である。儀礼は、通過儀礼と年中 儀礼の二つに大別できる。

通過儀礼は、子供を対象とした「聖浴儀礼(lê tắm thánh / レェ・タム・タイン)」、婚姻儀

21 ただし、カオダイ教系組織のすべてがこの組織形態をとっているわけではない。例えば、

ホーチミン市にある大道教理布教協会は、「宗派」という組織形態ではない。また信徒は、

他の宗派のように「職位」にもとづいて序列化されるのではなく、同協会に所属する協会 員であって、協会を運営するそれぞれの役職によって序列化される。

礼、葬送儀礼、そして供養儀礼から構成される。聖浴儀礼は、子供の額に聖水をたらすと いう行為が含まれることから、形式的にはカトリックの洗礼儀礼と似ているが、聖浴を受 けることでカオダイ教信徒になることを意味するわけではなく、むしろ子供のための邪気 払いの意味あいが強い。これらの他に、一種の通過儀礼として、カオダイ教に入信する際 の「入信儀礼(lễ nhập môn / レェ・ニャップ・モン)」がある。通過儀礼は、「宝殿」と「報 恩祠」の双方で儀礼が執り行われる。調査期間中には、聖浴儀礼が1 回、入信儀礼が 2 回 あったのみで、それ以外は、葬送や供養などに関わる、いわゆる死者儀礼が多かった22

年中儀礼は、各神格にまつわる儀礼とカオダイ教の歴史的事象を記念する祭礼から構成 される。これらは主に「大礼(lễ lớn / レェ・ロン)」とよばれ、概ね「宝殿」で執り行われ る。

ハノイ聖室の儀礼暦は、バンチンダオ派の儀礼暦を基本としながら、それにハノイ聖室 独自の儀礼、すなわちハノイ聖室創設記念儀礼やフォー師の寂滅儀礼等を加えて儀礼歴が 編まれている。以下に示すのが、ハノイ聖室における年中儀礼の儀礼暦である。なお、儀 礼は、12月25日のイエス・キリスト生誕儀礼を除いて、すべて旧暦にしたがっている。

・ 1月1日:「元旦記念礼(lễ kỷniệm ngày ngyên đán)」

通常毎月1日は朔望儀礼日であり、午後17時から始まるが、元旦に限っては午前11時 から儀礼をはじめる。この日は、信徒が家族をつれて聖室に集まり、ホアに挨拶をする

・ 1月8、9日:「玉皇上帝即位礼(lễ Via Trời tức ViaĐứcNgọc Hoàng Thượng Đế)」 カオダイ教至高神である玉皇上帝が降臨した日を祝う儀礼(大礼)

・ 1月14、15日:「上元礼(lễ Thương Ngươn)」 新年の始まりを祝う儀

・ 2月14、15日:「太上道祖聖誕礼(lễ VíaĐức Thái Thượng Đạo Tổ)」23

カオダイ教諸精霊のひとりで、道教の始祖である老子の誕生を祝う儀礼(大礼)

・ 4月8日:「釈迦無二聖誕礼(lễ ViaĐức Thích Ca Mâu Ni, Giáo tổ Tiên Đạo)」

カオダイ教諸精霊のひとりで、仏教の開祖である釈迦無二の誕生を祝う儀礼(大礼)

・ 4月18日:「姜太公生誕礼(lễ ViaĐức Khương Thái Công)」 カオダイ教諸精霊の道教神の姜太公の誕生を祝う儀礼(大礼)

22 ベトナム語で「lễ/ レェ」とは儀礼を意味する。正確には「nghị lễ / ギ・レェ」である が、省略語である「lễ」が一般的に繁用される。

23 太上道祖(太上道君)とは、神格化された道教の始祖、老子である。

・ 6月19日:「観音菩薩聖誕礼(lễ ViaĐức Quán Thế Àm BồTát)」 カオダイ教諸精霊のひとりの観音菩薩の誕生を祝う儀礼(大礼)

・ 6月24日:「関帝聖生誕礼(lễ ViaĐức Quan Thánh Đế Quân)」24 カオダイ教諸精霊のひとり、関帝の誕生を祝う儀礼(大礼)

・ 7月14日、15日:「中元礼(lễ Trưng Ngưon)」

・ 8月15日:「瑤池金母と九位天女聖誕礼(lễ ViaĐức Diêu Trì Kim Mẫu Vô Cực Từ Tôn tức Đức Phật Mẫu và CứuVị Tiên Nương)」

カオダイ教の諸精霊のひとりで、万物の母と表象される瑤池金母、あるいは仏母瑤池 と呼ばれる仏母の誕生を祝う儀礼(大礼)

・ 8月18日:「李太白聖誕礼(lễ ViaĐức Lý Đại Tiên Trưởng)」 カオダイ教諸精霊のひとりの李太白の誕生を祝う儀礼(大礼)

・ 8月27日:「孔子聖誕礼(lễ ViaĐức Khổng Thánh Tiên Sư)」 カオダイ教諸精霊のひとりの孔子の誕生を祝う儀礼(大礼)

・ 10月15日:「開明大道記念礼(lễ kỷ niệm ngàyKhai Minh Đai Đạo)」

カオダイ教が創設された日の記念儀礼(大礼)、および下元儀礼(lễ Hạ Ngưon)

・ 11月14、15日:「ハノイ聖室開室記念礼(lễ kỷ niệm ngày Khai Thánh Thánh Thất Thử Đô Hả Nội)」

・ 12月25日(新暦):「イエス・キリスト聖誕礼(lễ ViaĐức Gia Tô GiáoChủ)」 カオダイ教諸精霊のひとりイエス・キリストの誕生を祝う儀礼(大礼)

以上の年中儀礼にくわえて、毎月1日と15日の朔望日には「朔望礼」がある25。これは

「小礼(tiêu lễ/ ティウ・レェ)」とよばれる。

ハノイ聖室の信徒たちはこれら全ての儀礼に参加するわけではない。信徒たちは、月 2 回の「朔望礼」のほかは、4つの「大礼」、すなわち至高神である玉皇上帝の降臨を祝う「玉

24 関帝あるいは関帝聖君とよばれる。後漢三国志時代の武将として知られる関羽が神格化 されたもので、中国を中心に主に商売の神として信仰される。

25 「朔(sóc / ソック)」とは陰暦の1日を、「望(vọng / ボン)」とは陰暦の15日を指し、

それぞれ新月と満月にあたる。

皇上帝即位礼」、仏母の生誕を祝う「瑤池金母と九位天女聖誕記念礼」、カオダイ教創設を 記念する「開明大道記念礼」、そしてハノイ聖室の「開室記念礼」にのみ参加する。それ以 外の儀礼日には、中心メンバーの1 人ないし 2人が参加する程度か、ホアが一人でいつも どおりの「四時礼拝」をおこなうだけにとどまり、他の在家信徒がハノイ聖室を訪れるこ とはほとんどない。

3-1-2 読経会

読経会は一年のうち夏と冬の2回、一定の期間内に連日おこなわれる。「夏経(kinh hè / キ ン・ヘ)」とよばれる夏の読経期間は、4月1日から7月1日までの4ヶ月間、「冬経(kinh

mùa đông / キン・ムア・ドン)」とよばれる冬の読経期間は、1月1日から2月1日までの

1ヶ月間である。信徒たちは、この期間になると、毎日夕方 6 時ごろから聖室に集まり、

夜7時から「宝殿」で1時間の読経に取りくむ。信徒たちが読む経は、『四時経(kinh tứ thời / キン・トゥ・トイ)』、『断孽経(kinh đoạn nghiệt / キン・ドアン・ギェット)』、『弥勒真経

(DiLạc Chơn kinh / ジー・ラック・チョン・キン)』、そして『救難経(kinh cứu khô / キン・

キュー・コォ)』である。『四時供』は、「宝殿」でおこなわれる全ての儀礼で最初に読まれ る、読経の基本となる経だ。それ以外は、読経会でのみ読まれる経である。それぞれに、

自らの過ちに対する自省を促す内容や、世界の成り立ちに関する内容、苦難からの救済を 請願する内容が示されている。信徒たちは、これらを一時間徹して読経する。

読経の後は、ホアによる説法会がある。8 時過ぎからはじまる説法会は、10 時を過ぎる ことも珍しくない。説法会では、ホアがカオダイ教の組織内で編纂され、流通している本 を読むことが多く、カオダイ教の成立史が主な内容である。教理の内容や至高神の玉皇上 帝の教えに関して説かれることはあまりない。

読経会と説法会に参加するのは、基本的に、聖室活動の中心メンバーに限られる。時折、

それ以外の「道友」も読経会に参加するが、説法会には参加せず、大方帰宅する。

3-1-3 聖室の清掃

在家信徒は、聖室内の掃除を当番制でおこなっている。毎週日曜日の朝に40歳代から50 歳代までの女性信徒によって構成される1班5名からなる3班が二週間ずつ交替でおこな う。彼女たちは朝7時頃から聖室施設に集まりはじめ、それぞれに掃除をはじめる。

加えて、いわゆる大掃除を年に数回おこなう。祭壇上の神像や周囲の置物、花瓶などに 積もった埃を払い、金属製のものは灰汁を使って研磨する。大掃除は、主に中心メンバー が取りくむ。清掃に関しては、第5章で詳述する。

3 - 2 社会的な活動

ハノイ聖室の在家信徒は、政府が主催した行事にもしばしば参加する。第 1 章でも述べ たように、こうした活動は、カオダイ教各宗派所属の下部組織である聖室レベルが関与す

ることは希なことであり、その意味においてハノイ聖室特有のものといえる。調査期間中 にも、二つの行事があった。

一つ目は、2005 年の独立記念日に開催された祝賀パレードとその事前練習である。これ は、各民族、各宗教、各団体組織などのそれぞれの代表が政府からの参加要請にもとづき 参加する5年に一回の国家行事である。ハノイ聖室では、政府からの連絡を受けたホアが、

事前に参加者を募り、政府の役人による指導のもとでおこなわれる 2 回の事前練習への参 加をへて、30名の信徒が当日のパレードに参加した。

二つ目は宗教委員会主催の宗教政策勉強会である。宗教政策勉強会は、地区内の各宗教 組織を対象にして、朝8 時からお昼までの 3 時間、祖国戦線事務所でおこなわれた。講師 は、政府宗教委員会の幹部が務めた。仏教、カトリック、プロテスタントそれぞれの代表 にまざって、ハノイ聖室からはホアとともに約20名の在家信徒が参加した。

なお、このふたつの政府関連行事では、政府から参加者個々人に対して参加費が配給さ れた。参加費は、前者が一人当たり30万ドン(約2019円)、後者では一人当たり2万ドン

(約134円)であった。