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ハノイ聖室に集う女性たち

第 2 章 ハノイ聖室の組織と活動

第 4 節 ハノイ聖室に集う女性たち

ることは希なことであり、その意味においてハノイ聖室特有のものといえる。調査期間中 にも、二つの行事があった。

一つ目は、2005 年の独立記念日に開催された祝賀パレードとその事前練習である。これ は、各民族、各宗教、各団体組織などのそれぞれの代表が政府からの参加要請にもとづき 参加する5年に一回の国家行事である。ハノイ聖室では、政府からの連絡を受けたホアが、

事前に参加者を募り、政府の役人による指導のもとでおこなわれる 2 回の事前練習への参 加をへて、30名の信徒が当日のパレードに参加した。

二つ目は宗教委員会主催の宗教政策勉強会である。宗教政策勉強会は、地区内の各宗教 組織を対象にして、朝8 時からお昼までの 3 時間、祖国戦線事務所でおこなわれた。講師 は、政府宗教委員会の幹部が務めた。仏教、カトリック、プロテスタントそれぞれの代表 にまざって、ハノイ聖室からはホアとともに約20名の在家信徒が参加した。

なお、このふたつの政府関連行事では、政府から参加者個々人に対して参加費が配給さ れた。参加費は、前者が一人当たり30万ドン(約2019円)、後者では一人当たり2万ドン

(約134円)であった。

そのなかで、「朔望礼」にほぼ毎回参加している信徒 30 名を対象にして、性別、年齢、出 身地、入信年数、入信の際の紹介者、そして親族内における信徒数に関するアンケート調 査をおこない、それぞれを項目別に表にまとめた。以下にみていきたい(表1、2、3、4、5)。

4-1-1 性別

まず表1では性別について記してある。

表を見ても明らかなように、儀礼に訪れ る頻度の高い信徒30名のうち、男性は2 名のみで、それ以外は女性に占められる。

表中の男性の数は、現在ハノイ聖室に集う男性の実数と大差ない。実際、調査中に私が出 会ったハノイ聖室の男性信徒は 4 名であった。このような極端な男女比の偏重は、バンチ ンダオ派を含めたカオダイ教全体のほかの組織に類を見ない、ハノイ聖室の特徴といえる。

男女比の偏差は、聖室の役職の構成にも関わってくる。カオダイ教各宗派組織は、全般 的に女性が多いと言われているが、組織の運営に携わる要職は基本的に男性によって占め られる。それはカオダイ教の教理が、上述で示したような三教、すなわち儒教、仏教、道 教を基層として体系化されたものであり、とりわけ組織体系には儒教における理念が反映 されているからである。したがってカオダイ教では、組織上、男性と女性が明格に区分さ れる。組織の中枢の役割も、男性が担うように構成されている。したがって女性信徒の割 合が多い本山のベンチェー聖会やホーチミン市の中央聖室であるドウ・タイン聖室におい ても、代表者や組織運営に直接的に関わる役職は、年功の序にしたがった男性によって占 められている。

ハノイ聖室も、第 1 章でも述べたように、ホアが現在の座に就くまでの歴代の代表は、

本山のベンチェー聖会から派遣された男性であった。参照したレェ・アイン・ズンの著書

『カオダイ教ハノイ聖室の歴史』のなかでも男性職位者の名前が数多く挙がっており [Lê, Anh Dũng1993]、聖室運営に携わる男性数が決して少なくなかったことがわかる。また現在 の信徒のなかには、他界した両親がそろって信徒であったという2世代目や、夫も信徒で、

かつては聖室にも頻繁に通っていたのだが、現在は病気で儀礼に参加できないと語る女性 もおり、ハノイ聖室にも男性の信徒がある程度はいたことが推測される。しかしながら現 在は、代表者のホアを筆頭に、それを支える職位者も 17名中 15名が女性によって占めら れている。男性職位者は2名に過ぎない。また男性信徒は、その世代も40歳代、50歳代の みで、60歳代以上の男性信徒は道友を含めてひとりもいない。

また、本節で扱う資料は、調査期間中に私が参与観察した「朔望礼」に、ほぼ出席してい た30名の信徒にアンケートをとって収集したものである。

表1 性別信徒構成表 男性 女性 合計

人数 2名 28名 30名

4-1-2 年齢

表2では、信徒を年齢別に区分した。30歳代が1名(39歳)、40歳代が6名、50歳代 は最多の9名と、世代があがるほどに増え、60歳代になると、3名と減少するが、70歳代 は8名、80歳代の信徒も3名おり、70歳代以降の信徒が合計11名と、30名のうち3分の 1を占めていることがわかる。また、信徒の平均年齢を算出してみると、約 61 歳(60.96 歳)となった。年齢の年代別多寡のみに注目すると、50 歳代が最も多く、この世代が聖室 活動の主力になっているようにも思われる。実際、毎月 2 回の「朔望礼」には、ハノイ聖 室内で若手と称される40歳代、50歳代の年代が多く集まる。しかし、家計を担うこの世代 は、普段から仕事が忙しく、聖室活動に割ける時間も限られるという。したがって聖室活 動への参加形態は、「朔望礼」やいくつかの主要な「大礼」の参加に限られているのが現状 である。この世代のなかで聖室活動を支える中心グループに関わっているのは、未婚で治 事の女性と、孫の世話を夫に任せることができる治事の女性、姉と妹も信徒である礼生の 男性、そして母親と嫁も信徒であるという自営業の男性治事の4名に過ぎない。

近年は、新たな入信者も少なく、2004年に亡くなった母親の信仰を継承して入信した40 歳代の女性が 1 名と、礼生の 80 歳の母親の勧めで 2005

年に入信した40歳代の男性が1名の、2名のみである。

したがって、必然的に信徒の高齢化が進むと同時に、聖室 活動の主力は、中心グループを構成する60歳~70歳代の 高齢信徒が担っている。

4-1-3 出身地

表3は信徒を出身地別に分類したものである。これをみ ると、ハノイ市出身者は3名にとどまり27、多くは北部地 域一帯の地方出身者であることがわかる。このうち最も信 徒が多いのは、ハイフォン市の7名で、次いでハタイ省が 6 名28、以下バクニン省、およびナムディン省、タイビン 省、ニンビン省、ハナム省、タインホア省がそれぞれ1名 ずつとならぶ。

27 ハノイ市出身と語る3名のなかでも、中心の市街地出身のものは1名(フランス植民地 期以前からハノイの中心地となってきた旧市街とよばれる商業地区)で、他の2名は市街 地周辺の村落の出身者である。

28 2008年のハノイ都市計画によって、ハタイ省の一部は、現在ハノイ市に統合された。

表2 世代別信徒構成表

10代 20代 30代 40代 50代 60代 70代 80代 合計

人数 ‐ ‐ 1名 6名 9名 3名 8名 3名 30名

表3 出身地別信徒構成表 ハイフォン省 7名

ハタイ省 6名

ハノイ市(※1) 3名

バクニン省 3名

ゲアン省 1名

タイビン省 1名

ナムディン省 1名

ニンビン省 1名

ナムハ省 1名

タインホア省 1名

未調査 5名

合計 30名

このほかに、ベトナム中部地域のゲアン省の出身者が 1 名いる。信徒たちに共通するの は、大半が北部地域内の出身地からハノイに移動し、定住していることである。現在のハ ノイ聖室に集う在家信徒の大半が、このような移住者によって構成されているといえる。

4-1-4 入信年代

信徒の信仰歴や入信年代については、どのような傾向が見られるだろうか。表 4 に整理 したように、ベトナム戦争以前の1930 年代後半に2名、戦争開始期の1950 年代は新たな 入信者がいない。しかし経済状況が最も不安定であったとされるドイモイ政策施行期前後 の1980年代に入ると10名、1990年代には6名が入信している。そして、ベトナムが急速 な経済成長を遂げた2000年以降の入信者は3名と、決して入信者がいなくなったわけでは ないが、一時期より比べると減少傾向にある。

入信年代から入信歴を概算してみると、5 年に満たない信徒が2 名、6 年から10 年が1 名、11年から15年が最多の6名、16年から20年が4名、21年から25年が4名、26年か ら30年が5名、31年から35年が3名、そして36年以上が3名おり、最長入信年数は約 70年となっている。また不明の2名に関しても、他界した両親が信徒であったり、当人が 幼少の頃から信仰しているという語りから、信仰歴は35年以上である可能性が高い。

4-1-5 入信に影響を与えた人物

最後に、入信に影響を与えた人物について述べておく。表5をみるかぎり、母親や両親の 信仰を継承して入信した者が12名と最も多い。そのうち、母親が強く入信を働きかけたケ ースが 8 例を数える。その場合の母親は、夫の早世を経験した寡婦である傾向が高く、彼 女たちのなかには、夫の死を契機にカオダイ教に入信したという者が数名いた。

次に多いのは、婚姻後、義父母、すなわち夫方の両親の勧めによって入信したという 6 名の女性である。このうち 4名は入信に影響を与えた人物として義母を挙げ、内 1名は夫 との離婚後も信仰を維持している。また、母方祖母をさす「外祖母(bà ngoại)」から入信を 勧められたケースが2例ある。

以上の点から、一つの傾向として、家族内における女性から女性への信仰の継承がみら れ、その結果として現在のハノイ聖室の在家信徒は、女性の信徒数が多くなっていること

表5 紹介者別信徒構成表 職場の知人

(女性)

近隣の知人

(女性) 義父母 実父母 実母 義母 外祖母 不明 合計 人数 4名 5名 2名 4名 8名 4名 2名 1名 30名

表4 入信年代別信徒構成表 1930年

1940年 代

1950年 代

1960年 代

1970年 代

1980年 代

1990年 代

2000年

代 不明 合計 人数 2名 ‐ 1名 ‐ 4名 11名 6名 3名 3名 30名