算数文章題解決(減算)の指導の効果は、事後テストの結果から評価をおこ なった。事後テストでは、A 児の解決行動に改善が認められ、文章題解決下位 過程での援助の有効性が示された。必要情報に下線を引いておくこと、立式や 計算時に図示を利用することは、いずれのタイプの文章題にも利用可能である ことが示された。問題文から必要情報を抽出して下線を引くことは、立式過程 で図示する際の手がかりになったことが示唆された。
指導Ⅱ期の事前テストでの求差タイプの文章題の立式では、
A
児は減数と被 減数を逆にしてしまった。求残タイプの文章題は、数値が被減数と減数が順に 問題文の中に記載されているため、立式に誤りが認められなかったと推察され る。指導Ⅱ期では求差タイプの指導を重点化した。被減数と減数を混乱しない ように、問題文から全体-部分の関係性を把握するような援助を付加し、その 効果が認められたことから、援助方法の有効性が示された。指導Ⅱ期終了後、指導者が実施した文章題解決の指導方法を母親に助言し、
家庭学習をおこなうことで、解決方略の使用を促すことができたことは、採用 した指導方法が家庭でも利用可能な学習援助であったと考えられた。
A
児は学習指導後に、求残・求差タイプの文章題とも問題文から被減数・減 数を丸で図示することを習得し、数直線図を用いた後にも、正しい立式が可能 となった。被減数と減数の大小関係の図示という外的手がかりを、立式する際 に利用することの有用性を認めることができた。その外的手がかりは、最初、実物をイメージしやすい具体的なものであったが、数直線図といったより抽象 的な手がかりの自発的使用につながった。算数文章題解決で、数値の大小関係 を手がかりにした立式が可能になるのは、典型発達児の中学年に認められてい る(研究3)。また、岡本(1995)は、低学年以降に、具体物をイメージした解 決段階から数直線上に2つの数値を同時に捉える解決段階の移行があることを 示している。A 児は指導Ⅰ期からフォローアップ期を通して、数直線上に大小 の数値を同時に把握できるようになっていった。A 児に実施した文章題は順思 考問題であったが、より易しい問題を使用した場合、研究3に認められた中学 年が示した立式水準と同様の解決が促進できたことがうかがえた。
135
A
児の算数文章題解決過程の遂行は、低学年の習得水準にとどまっていたこ とから、中学年の解決水準への遂行改善が目標となった。算数文章題解決の各 過程からA
児の学習状況(解決水準)を把握し、立式情報の抽出や減数(部分)と被減数(全体)の把握という指導内容を設定した。これにより、数値の大小 関係にもとづく立式という典型発達3年生が示す解決水準(研究3)への改善 が認められた。この立式水準の前提として、計算能力の向上が必要となったこ とも、研究3に示された算数文章題解決の習得過程(立式水準の変化)と一致 するものであった。どのタイプの問題にも、同様の算数文章題解決の習得変化 がうかがえたこと、算数文章題で正答できるようになっただけでなく、解き方 にも変化がみられたことから、算数文章題解決の教育的支援を実施するうえで、
本研究の算数文章題は有効なツールの1つとして考えられた。
136
第10 章 第Ⅱ部まとめ
極低出生体重児の学校での学習状況をみた研究
1
では、学校での教科学習の うち、算数学習、特に算数文章題解決の困難をかかえる者が学年上昇とともに 多くなった。高学年に向けて算数学習での困難が顕著となることについては、これまでの報告(鴨下,2008)と一致するものであった。しかし、出生体重、
在胎週数、アプガースコアや合併症のリスク要因、就学前の
IQ
値から、算数 文章題解決の困難要因は見出せなかった。そこで、研究2では、極低出生体重 児の算数学習への関与が指摘される視覚処理の問題 (Breslau et al.,2001;Taylor et al,,2009)を検討するため、WISC-Ⅲ知能検査での PIQ
値や知覚統 合指数の低値、K-ABC検査の同時処理尺度での劣位が認められる児について、算数文章題解決を縦断的に実施した。その結果、知覚統合や同時処理に同様の 弱さがみられた対象児であっても、算数文章題に正答する者と正答に至らない 者がおり、遂行状況も異なることが示された。知覚統合指数や同時処理尺度に 求められる能力は、読みや算数(前川,
2001)、そして算数文章題解決に関連が
ある(成 川,2017
)こ とが指 摘さ れている ものの 、複数 の要素 を含 む指標(Wechsler,1991)であり、算数文章題解決の遂行へどのように影響したのか 明確に示すことは難しいと考えられた。
極低出生体重児の学習の様相を捉えるうえでは、学習困難を示す児とそうで ない児を明らかにすると同時に、典型発達児の解決プロセスとの違いや困難性 をみていくことが必要と思われた。そのため、まず正期産の典型発達児におけ る算数文章題解決の遂行を明らかにし(研究3)、典型発達児との比較から極低 出生体重児の算数文章題解決の特徴を検討することとした(研究4)。
典型発達児の小学校3年生と5年生に逆思考問題の算数文章題を実施し、解 決下位過程の遂行変化を検討した研究3の結果、田坂・隝田(2000)と同様の 習得過程(立式水準の変化)が示され、3年生、5年生の解決水準を把握する ことができた。まず、①問題文のキーワードを手がかりに注目するようになり、
計算にかかわる知識が向上すると、②問題文の数値の大小関係を手がかりにし た立式がみられるようになる。③問題文からの適切情報を抽出できるようにな
137
った後、④抽出した情報を統合的に把握して立式をおこなうようになる。典型 発達3年生には②、5年生には④の習得水準が、算数文章題解決に認められた。
低学年の解決は、①の水準にとどまると推察された。
この典型発達児にみられた解決水準の変化から極低出生体重児の解決を捉え た研究4では、(A)算数文章題解決において典型発達と同様の解決水準を示す 者、(B)高学年までに文章題を正答するが典型発達と同水準に至っておらず、
典型発達3年生の習得水準と考えられる者、(C)高学年になっても改善がみら れず低学年の解決水準にとどまる者、の3タイプが確認できた。
3年生時から正答し、安定した解決がみられた(
A)は、問題文から必要情報
を捉え、その情報を統合的に把握した解決を示し、正しい結果の評価も可能で あった(典型発達児の解決④の水準)。(B)は、問題文から必要情報を十分捉え られず、問題文の数値の大小関係を手がかりにした立式で(典型発達児の解決②の水準)、解決は不安定であった。(C)は、①問題文のキーワードのみに着目 するのみで(典型発達児の解決①の水準)、高学年になっても算数文章題は正答 できなかった。
研究4の結果、算数文章題解決の様相から分かれた3タイプ(
A)(B)(C)
の定義、解決の特徴についてまとめ、次に示した。
138
典 型 発 達 児 の 比 較 か ら 極 低 出 生 体 重 児 の 算 数 文 章 題 解 決 ( 研 究 4 ) に 示 さ れ た 3 タ イ プ の 定 義 お よ び 特 徴
A
高 学 年 ま で 継 続 し て
(3年生時から)正答。
安定した解決。
B 高学年(5年あるいは 6 年生時)までに正答。
しかし、解決が不安定。
C 高学年(5年あるいは6 年生時)になっても誤 答。
A
・問題文から必要情報を捉える。
・情報を統合的に把握した解決。
・正しい結果の評価。
(典型発達児5年生と同等の解決水準)
B
・問題文から必要情報を十分捉えら れ ない。
・問題文の数値の大小関係を手がか り にした立式。
・結果の評価に誤り。
(典型発達3年生相当の解決水準)
C
・問題文のキーワードのみに着目。
・立式の誤答。
(典型発達低学年の解決水準に相当)
算数文章題 正答
算数文章題 誤答
定 義 研究
特 徴
3年生時 5年生時・6年生時
139
研究5では、援助を導入して、研究4にみられた算数文章題解決の困難要因 を検討した。注意を喚起するなどの間接的な援助で、見直し行動が触発された ことから、モニター行動の自発性の弱さがさらに示された。問題理解過程では 問題文に下線を引く、プラン立案過程では数直線図の提示、といった視覚的援 助を導入したことで、必要情報に注意を向けることが促進され、指導直後の文 章題解決の改善につながったと考えられた。指導でのこうした視覚的援助の有 効性が示された者は、研究4における(B)に該当する児であった。
(B)には、問題理解過程において立式情報の抽出に困難を示したことから、
問題文のどこに注目すべきか情報を得ることができず、解決過程を比較し見直 すモニター行動の出現を、困難にしていることが考えられた。予測過程や評価 過程の回答にも、即時に回答する様子がみられた。この
2
つの過程での質問は、「この問題ができるかどうか」「正しい答が出せたか」問うものであり、モニタ ー行動が要求される設問であったが、モニター行動の触発は弱かった。必要情 報に注意を向けることができず限られた情報の中で解決に向かうため、誤りに 気づくことがなく即時的な回答になることには、視覚的情報の抽出を起因とし たモニター行動の弱さが推察された。
算数文章題困難を示す児の中に、認知的な偏りがあっても得意な思考ルート で回答を導く者が存在し、典型発達児と異なる方法で解決に向かっている可能 性があることが指摘されている(成川,2017)。(B)については、必要情報に 注意を向けることにつまずき、数値の大小関係に着目することで、解決を導い ていたことも考えられた。
(C)は、数直線上に(減数と被減数にあたる)大小の数値に該当する箇所を 図示しても利用できず、援助の効果が認められなかった。(
C)は、まだ 2
つの 数値を数直線上に同時に捉えられない段階(岡本,1995)にあり、岡本(1995)
が指摘する低学年における具体物から問題状況を捉える段階にあると考えられ た。高学年になっても文章題正答に至らなかった(C)には、立式水準の向上が みられず、継続して問題文のキーワードのみに依存した解決に停滞していた。
研究5の結果、算数文章題解決の様相から分かれた3タイプ(
A)(B)(C)
の解決差とその要因についてまとめ、次に示した。