1.各対象児の小学3年生時から6年生時の算数文章題解決の遂行
対象児
6
名の3年生時から6年生時に実施した逆思考問題の算数文章題にお ける立式、および記号問題(順思考問題・逆思考問題)で選択した式の種類を 表5-2
に示した。算数文章題といずれの記号問題とも減算式が正答である。なお、対象児
6
名は、小学1年生時と2年生時にも同じ逆思考問題の算数文 章題を実施している。1年生時には1
桁の数値、2年生時には2
桁の数値を使 用したが、正答した者はいなかった。表 5-2 対象児6名の3年生時から6年時生の算数文章題(逆思考問題)での立式 と記号問題(順思考問題・逆思考問題)の立式
対 象 児
算数文章題 立式 記号問題 順思考問題 式選択
記号問題 逆思考問題 式選択 3年 4年 5年 6年 3年 4年 5年 6年 3年 4年 5年 6年
A + + + × - - - - + + + +
B + + + × + - - - + + + +
C (-) - - 逆- - - - - + + 逆- +
D (-) - - ÷ - - - - + + (-) +
E 逆- - - ÷ - - - - + + + +
F + + + + - - - - + + + +
注)-は減算を立式・式選択、(-)は修正後に正しい減算の立式・式選択、
逆-は減数と被減数が逆、+は加算を立式・式選択、×は乗算を立式、÷は除算を立式。
(1)対象児Aにおける算数文章題・記号問題の解決
算数文章題は、3年生時から6年生時まで立式正答できず、問題理解では求 答事項のみ正答した。記号問題では、順思考問題のみ正答したが、選択理由は
「『残りはいくら』だから引き算」と問題文の一部を回答するのみだった。記号 問題の逆思考問題でも加算式を選択し誤答であり、「おねえさんがあめを『くれ
49
た』だから足し算」と、文章題の一部分の情報に依存した解決であることがう かがえた。
6年生時まで「間違っているかどうか分からない」と、誤りについて適切に 指摘できなかった。
(2)対象児Bにおける算数文章題・記号問題の解決
3年生時から5年生時まで、算数文章題の立式は加算であり、立式説明は「『も らった』からそれを足す」という言及がみられ。逆思考問題の記号問題でも加 算を選択し「あめを『くれた』から」といった理由を述べ、問題文の一部を手 がかりに加算を選択したことがうかがえた。問題理解では、求答事項のみ正答 した。
6年生時の算数文章題の立式は乗算で、「最初
1/5
で次に4/5『もらった』か
らかけた」と説明した。評価では「正答が出せた」を選択し、誤りに気づきが なかった。(3)対象児Cにおける算数文章題・記号問題の解決
3年生時、算数文章題では問題理解で正答できず、減算を選択したが数値は 逆となった。その後、計算時に小さい数から大きい数が引けないことに気づき 立式を修正したものの、計算で誤り解答できなかった。記号問題(逆思考問題)
では、「お姉さんがあめをくれたから多くなった」と問題文の一部のみに着目し て回答したことがうかがえた。
4年生時と5年生時の算数文章題では、修正なく立式は正答し「引き算は大 きい方の数から小さい方の数を引く」と言及し、2 つの数値の大小関係から立 式した説明がみられた。しかし、6年生時になると、減算を選択したものの、
数値を逆に立式する誤りを示した。立式説明時には、「はじめ
1/5・・4/5
もら った」と数値を順列に述べるだけで、数値を可逆的に捉えようとはしなかった。評価過程も「正しいかどうか分からない」と言及していた。
50
(4)対象Dにおける算数文章題・記号問題の解決
3年生時、算数文章題の問題理解の求答事項は正答、立式情報は数値のみを 抽出して答えた。最初、立式は加算だったが、評価で正しい答が出せたか問う たところ、立式を減算に修正し、筆算をおこない正答した。記号問題の逆思考 問題では加算を選択し、「これは足し算だと思った」と説明した。4年生時の算 数文章題は、修正なく立式に正答したが、「小さい方から大きい数は引けないか ら」という立式説明から、数値の大小関係にもとづき立式したことがうかがえ た。
5年生時「引き算、足し算だったら合わせて何mになるでしょうだから」と いう立式説明をおこなっており、問題文の一部分のみに注目し、そこから想定 できる式を用いて立式したと考えられた。5年生時には、答えに単位の欠落が 認められた。また、5年生時の記号問題のうち、逆思考問題は加算式を選択し た後に修正して、「足し算だとお姉さんがくれたより大きくなる」と説明した。
問題文の一部および大小関係を手がかりに回答したと思われた。
6年生時の立式は除算であり、「1/5 あっても1部屋足りないからお姉さんに リボンもらって、それが分からないから
4/5
にして1部屋足りた」という不明 瞭な説明をした。評価は「正しい」を選択し「授業で同じ問題をやったから」という理由を述べ、記号問題(逆思考問題)は誤答となった。
(5)対象児Eにおける算数文章題・記号問題の解決
3年生時の算数文章題は、問題理解の質問に回答できなかった。立式は減算 を選択したものの、問題文にある数値の記載順に立式し、減数と被減数が逆で あった。計算時は小さい数から大きい数が引けず、計算途中で修正なく辞めて しまった。大きい数から小さい数が引けないという計算の知識はあったと考え られたが、見直して修正することはなかった。
4年生時と5年生時では、算数文章題の問題理解で求答事項のみ正答できた が、立式情報は回答できなかった。立式は減算を選択し文章題に正答したが、
正しい答が出せたかは評価できなかった。数値のない記号問題(逆思考問題)
では誤答だったことから、数値の大小を手がかりにした解決であることが推察 された。
51
6年生時の算数文章題は除算を選択し、立式説明も「わからない」と混乱が みられた。
(6)対象児Fにおける算数文章題・記号問題の解決
3年生時、算数文章題の問題理解の求答事項に、問題文の質問文に下線を引 き回答した。立式情報は数値のみを抽出して答えた。立式は加算で、立式説明 では「『何枚折ったのでしょう』だから」と問題文の一部を回答した。記号問題 の順思考問題は、正答で「『使った』だから引き算」という式選択の説明を述べ た。記号問題の逆思考問題は加算式を選択し、「何個か『くれた』だから足し算」
と説明したことから、問題文の一部を手がかりにした立式であったことがうか がえた。評価では、「正答が出せた」を選択し、誤りに対する気づきはなかった。
3年生時から6年生時まで問題理解と立式の遂行に変化はなく、記号問題(逆 思考問題)においても加算式の選択が続いた。
2.対象児 6名の算数文章題解決
3年生時から6年生時にかけて、算数文章題に正答できなかったのは、
A
児、B
児、F
児であった。一方、5年生時までに算数文章題に正答したのは、C
児、D
児、E
児の3
名であった。しかしながら、6
名のWISC-R、 WISC-Ⅲ、 K-ABC
の諸検査の差はほとんどなく、検査結果から遂行の相違は確認できなかった。3年生時から6年生時に算数文章題に正答できなかった
A
児、B
児、F
児は、小学1年生時と2年生時にも正答していなかったことから、この
3
名は低学年 から高学年まで、解決の改善がみられなかったといえる。算数文章題に正答で きなかったこのA
児、B児、F 児の立式説明では、「『もらったから』『くれた から』足し算」という言及がみられた。問題文のキーワードのみに着目するこ とに変化がなく、加算を選択する誤りが6年生時まで継続した。一方、算数文章題に正答した
C
児、D児、E
児の3
名の立式説明では、「大 きい数から小さい数が引けない」という言及がみられ、問題文にある数値の大 小関係を手がかりにした立式が共通して認められた。この3
名のうち、C 児 は3年生時に計算の誤り、4年生時は単位の欠落があり、正答したのは5年生 時であった。D
児は、3年生時と4年生時に文章題正答に至ったが、5年生時52
に答の単位に欠落がみられ誤答となった。
E
児は、4年生時になり正答に至っ た。C
児、D
児、E
児の3
名とも、学年向上とともに立式に改善がみられたが、6年生時で算数文章題が誤答となり解決は不安定であった。
6
名とも算数文章題に誤答しても、評価過程で誤りを指摘する者はいなかっ た。第4節 考察
6
年間に算数文章題に正答できなかったA
児、B 児、F 児は、文章題の問題 理解で「分かっていることは何か」(立式情報)に回答できず、問題文から立式 に必要な情報を十分抽出できなかった。継続して「今日、何枚か折ったから」「あめをくれたから」という問題文の一部分の情報(キーワード)を手がかり に算数文章題の立式に加算を用いる誤りがみられ、それは記号問題(逆思考問 題)での加算選択という誤りにもうかがえた。
6
年間のいずれかの学年で算数文章題に正答したC
児、D
児、E
児の3
名は、数値の大小関係を手がかりに立式したことを説明するようになった。立式を説 明する際、「足してしまうと、くれた数より多くなる」ことを言及し、数値の大 小関係にもとづく立式をおこなっていたことが示された。3年生時の
C
児やD
児が、計算時に大きい数から小さい数が引けないことに気づいて立式修正した ことにも、数値へ依存した解決の様相がうかがえた。文章題に正答した3
名で あったが、同じ逆思考問題の記号問題で誤答したことは、数値の大小の手がか りがなくなったことが影響したと思われた。5年生時までに正答に至った