70
71
ニターすることが必要となる(田坂・隝田,
1997b
)。こうした見直しは、モニ タリングの指標として捉えられている(大河内,2001)。5年生では、文章題誤
答者(実行過程誤答者)であっても、全員に予測や評価過程に自己の遂行に対 する誤りへの気づきがみられた。また、実行過程の誤答者だけでなく、問題理 解過程で立式情報抽出ができなかった者や、プラン立案過程で立式ができなか った者にも、予測過程での誤りに対する気づきが推察された。つまり、5年生 では、解答結果の予測や評価をする際に、各解決過程に向けたモニター行動を おこなっていた可能性がある。以上のことから、両学年の遂行を比較すると、3年生では、まだ、問題理解 過程における問題文の数値や求答事項といった部分情報のみを手がかりに立式 している者が多かったこと、5年生では、問題文から立式に必要な情報を抽出 し、抽出した情報を統合的に把握した問題理解が十分にあり、そのうえで立式 する者が多いことが示された。加えて、算数文章題解決過程にみられた3年生 と5年生の差には、モニター行動の影響も示唆された。
2.算数文章題解決の立式水準の変化
数値がない記号問題(逆思考問題)になると、数値の大きさを比較する手が かりがないため、より文中のキーワードに注目してしまい、加算式を選択する などの誤答を招く可能性が示された。しかし、数値を含む文章題の解決では、
問題文にある1つのキーワードのみに着目してしまう誤りを示しても、数値を 手がかりとして問題の数値の大小関係(問題文にある
2
つの数の大きさから減 数と被減数を把握)を理解する能力があれば、立式修正が可能であることが認 められた。問題にある情報を統合的に把握した立式には、問題理解過程の適切 情報(立式情報と求答事項)の抽出が前提となることも明らかとなった。これらをまとめると、①最初、問題文のキーワードを手がかりにする(注目)
ようになり、②問題理解過程で立式に必要な数値を抽出し、その数値の大小関 係を手がかりにした立式が可能となる。そこでは、計算にかかわる知識(足す と大きくなりすぎる)や、問題文の全体(今ある数)と部分(もとの数)の関 係への気づきも必要となる。③問題文からの適切情報を抽出(立式情報と求答 事項をともに抽出)することが可能となり、④部分情報に偏らない問題情報を
72
統合的に把握した解決に発展していく。この過程は、問題の関係性を把握した
(統合過程)解決が、文単位の理解(変換過程)にもとづいておこなわれる問 題理解過程に相当する(石田・多鹿,1993)こと、そして、問題文にある数値 の大小関係を手がかりにした立式から、問題の情報を統合的に把握した立式へ 向かう立式水準の経年変化を示した田坂(2018b)や田坂・伊藤(2016)と、共 通すると考えられる。
3年生と5年生の予測過程・評価過程の3肢選択と実行結果の一致者(3肢 選択正答者)は、3年生の
1
名を除いて全員が実行過程正答者であった。この 予側過程と評価過程の3肢選択正答者は「この問題はとける」「正しい答が出せ た」という判断をおこなっている。算数文章題の立式や実行過程で正答できな いと、予測・評価の判断は難しかったことがうかがえる。しかし、5年生の予 測過程・評価過程の3肢選択正答者17
名のうち16
名は、問題理解過程での立 式情報と求答事項ともに正答しているのに対し、3年生の立式情報と求答事項 の両正答者は、予測過程での3肢選択正答者18
名中9
名、評価過程での3肢選 択正答者の17
名中10
名に留まり、多いとはいえなかった。このことから、予 測過程・評価過程における結果の予測と評価は、必ずしも問題理解過程での情 報抽出が十分なくても可能であったことが示唆される。予測過程と評価過程で の正しい結果の予測・評価は、前述の②数値の大小を手がかりにした立式が可 能になり、③立式に必要な適切情報の抽出が可能となる、②③の間に位置する ものと思われる。そして、これら3年生から5年生に認められた算数文章題立 式水準の上昇には、モニター行動が解決過程の遂行を支えていることが示唆さ れ、モニター能力の向上も文章題解決に重要となってくることが指摘できる。正期産の典型発達児3年生と5年生の算数文章題解決にみられた立式水準を もとに、立式水準の経年変化を想定し、図
6-5
に示した。73
図 6-5 正期産典型発達児の算数文章題(逆思考問題)解決に示された 立式の水準の経年変化
①問題文のキーワードを手がかりに立式
②問題文にある数値の大小関係を 手がかりにした立式
③問題文から適切情報を抽出
(立式情報と求答事項をともに抽出)
④抽出した情報を統合的に把握した立式
計算にかかわる知識(計算力)
自己の遂行結果の予測や結果 の評価が可能になっていく
問題文にある情報の 全体-部分の関係性の把握
(可逆的な把握)
低学年
中 学 年
高 学 年
74
第7章 正期産の典型発達児との比較からみた極低出生体重児における 算数文章題解決の特徴(研究4)
第1節 問題と目的
研究
1
で示したように、学齢期の極低出生体重児では、小学3年生・4年生 の中学年から困難教科がある者が増していき、小学6年生では、教科の中でも 算数に問題を示す者が多くなった。特に、算数の中でも算数文章題解決が苦手 であることがうかがえた。算数および算数文章題での困難は、これまでも極低 出生体重児に指摘されている(長尾ら,2015;大西ら,2017)。しかし、極低出 生体重児の中でも、算数文章題解決に遅れを示す者がどのくらい存在し、その 遅れが学年上昇とともにどのように改善し、あるいは変化していくのか、につ いては明確になっていない。小学校低学年から学習する減算文章題の逆思考問題を取り上げ、典型発達児 を対象とした石田・子安(
1988
)研究では、逆思考問題の正答者が増加するの は小学2年生3学期以降であることを報告している。加えて、研究3での典型 発達児の算数文章題解決においては、問題理解過程における問題文の数値やキ ーワードといった部分情報のみを手がかりに立式している者が、小学3年生で 多くなり、問題文から立式に必要な情報を抽出して問題状況を理解したうえで 立式する者は、5年生になると多くなるといった遂行変化が示された。極低出生体重児のうち、WISC-Ⅲ知能検査での
PIQ(動作性検査 IQ)の低値
や
K-ABC
検査での同時処理に弱さがみられた極低出生体重児を対象にした研究2では、3年生時の算数文章題に誤答した対象児の中に、その後の学年で正 答する者が出現した。この者たちには、数値の大小を手がかりにした解決がみ られ、正答したとしても同年齢の典型発達児と同様の解決水準には至っていな いことが示唆された。また、研究2の対象児の中には、高学年になっても文章 題に正答できなかった者もいたことから、同じ認知能力の弱さをもつ対象児で あっても解決の困難性は異なることがうかがえ、実態を明らかに示すことはで きなかった。
75
このことから、研究4では、小学3年生と5年生(極低出生体重児について は学年時。以下、同様)を対象に、極低出生体重児と正期産の典型発達児にお ける算数文章題解決過程の遂行を検討する。典型発達児の算数文章題解決との 比較から、極低出生体重児の算数文章題解決において、遅れがなく良好な遂行 を示す者、遅れるが文章題解決が改善していく者、改善がみられない者、の存 在を確認することを目的とした。
第2節 方法
1.対象児
(1)極低出生体重児
本研究は、筆者が修正
6
か月の乳児期から小学校6年生まで発達を追跡して きた超早産児・早期早産児および極低出生体重児の25
名(男子17
名、女子8
名)であり、研究1と同じ対象児である。対象児全員が在胎34
週未満の早産出 生であり、出生体重は、1500g台が 1
名いたが、他の24
名は1500g未満の超
および極低出生体重児であった。対象児は障害診断がなく、小学校入学前の
6
歳時に実施した全版田中ビネー 知能検査による知能指数(IQ)値が90
以上の者であった。対象児25
名に対し て、3年時と5年時に実施したWISC-R
知能検査のFIQ
(全検査IQ)
・VIQ(言 語性検査IQ
)・PIQ
(動作性検査IQ
)の平均値および標準偏差(SD
)を、表7-1
に示した。対象児
25
名の出生体重、在胎週数、1
分後アプガースコア得点、リスク要因 数の平均値と標準偏差(SD)を表7-2
に示した。リスク要因数は、出生した病 院のカルテに記載された診断名のうち、仮死・SFD
(在胎期間に対して体格 が小さい)・IVH
(脳室内出血)・ROP(未熟児網膜症)・RDS
(呼吸窮迫症候群)・CLD
(慢性肺疾患)などの疾患数を数えた。なおPVL
(脳室周囲白質軟化症)は、対象児の中にいなかった。
対象児