90
91
極低出生体重児の立式正答者は、3年生は半数以下(
48
%)であった。5年 生になると18
名(72
%)になり、問題文の情報を統合的に理解した解決を示す ようになった者(6名)がいた一方で、大半(12 名)が問題文の一部の情報に 依存、あるいは数値の大小関係を手がかりに立式したことがうかがえた。7 名 の者は、5年生になっても改善がみられず、立式正答に至らなかった。この7
名について、その後の6
年生時に算数文章題を実施した結果、2
名が問題文に ある数値等の部分情報の手がかりから、立式正答を導くことができた。その他、6年生時になっても改善がみられなかった者は、
5
名残存することになった。本研究で用いた算数文章題(逆思考問題)の通過率が、小学2年生の3学期に は
8
割以上(石田・子安,1988
)になることから、この5
名は、小学校低学年 の解決水準にとどまっていると考えられる。極低出生体重児の3年生時と5年生時の予測過程および評価過程の3肢選択 と実行結果の一致者(3肢選択正答者)は
36%以下であり、5年生時でも顕著
な増加はうかがえなかった。選択説明で見直すことなく、即時に「分からない」「なんとなく」といった回答がみられ、解決結果の予測や評価に、自発的なモ ニター行動がほとんど認められなかった。遂行結果の予測には、予めどのよう な解決をしたらよいか見通す、評価における正誤判断には解決結果を見直す、
といった自己の遂行をモニターすることが必要(田坂・隝田,2000)となる。
問題理解過程においても、手がかりがある情報への注目は可能であるが、その 他の適切情報が抽出できず、一部の情報抽出にとどまる者が多かった。このこ とをあわせると、極低出生体重児の遂行の困難には、モニター行動の問題も推 察される。
3.典型発達児の比較からみた極低出生体重児の算数文章題解決での困難性 と特徴
研究3において、典型発達児の3年生では、問題理解過程における問題文の 数値や求答事項といった部分情報のみを手がかりに立式している者も多かった こと、5年生では、問題文から立式に必要な情報を抽出し、抽出した情報を統 合的に把握した問題理解が十分にあり、そのうえで立式する者が多いことが示 された。
92
極低出生体重児の算数文章題解決は、3年生時と比べ5年生時での改善がみ られたが、典型発達児との比較では、遂行の差が依然として確認された。前述 のように、典型発達では、5年生になると問題文から適切情報を抽出し、情報 を統合した理解にもとづく立式をおこなう者が多くなったのに対し、極低出生 体重児5年生時の解決は、この典型発達児5年生に認められた解決に至らない 者が多く、極低出生体重児は5年生になっても、問題文から手がかりとなる情 報を部分的に抽出し、数値の大小関係にもとづく解決を示していた者も多かっ た。
研究3では、典型発達児の算数文章題の立式水準として、①問題文のキーワ ードのみを手がかりに立式(このため正しい立式が困難となる)、次に②問題文 にある数値の大小関係を手がかりにした(計算にかかわる知識にもとづいた)
立式が可能となる。③問題文からの適切情報を抽出(立式情報・求答事項をと もに抽出)することが可能となることで、④部分情報に偏らない問題情報を統 合的に把握した解決をおこなうようになる、ことを報告した。典型発達児3年 生と5年生では、②の習得から④までの習得がみられた。だが、極低出生体重 児については、5年生時でも立式正答者に至らず①にとどまる者、文章題に正 答しても④が困難であり②にとどまる者も多いことが認められた。
極低出生体重児3年生時に実行過程に正答(算数文章題に正答)した
7
名の うち6
名は、5年生時でも正答し、立式説明には④情報の関係を統合した理解 にもとづく解決がうかがえた。この6
名の解決は、典型発達児の示した立式水 準と同様の遂行がみられ、安定した解決であった。極低出生体重児の中には5 年生になっても、算数文章題正答に至らなかった者が7
名いた。その後、6年 生時まで追跡した結果、そのうち2
名は文章題正答に至ったが、その他の5
名 は、文章題正答に至らず上述の①にとどまっていた。極低出生体重児
25
名の算数文章題解決をみると、(A
)3年生時から典型発 達児の示した習得水準と同様の遂行を示す者が6
名、(B)典型発達児には遅れ るものの、高学年(6年生時)になるまでに(数値を示した通常の)文章題解 決正答に至る者が14
名、(C)高学年になっても文章題解決できない者が5
名、存在していたことが確認された。
(B)タイプの極低出生体重児は、高学年で算数文章題に正答したものの、問
93
題理解過程での適切情報抽出の困難から部分情報に依存した解決にとどまる傾 向がうかがえた。そのため②数値の大小関係を手がかりにした解決となったと 考えられる。問題理解過程での立式に必要となる情報の抽出には、問題文を見 直すなどのモニター行動が必要となる。こうしたモニター行動の解決への影響 も示唆された。
予測過程や評価過程では、いったん立ち止まり遂行結果を予測する、自己の 遂行を振り返るといった自発的なモニター行動が必要となる。典型発達児5年 生の算数文章題誤答者には、予測過程と評価過程で「この問題がとけたか(正 しい答が出せたか)どうか分からない」を選択するなど、自己の遂行の誤りに 対する気づきがうかがえている(研究3)。加えて、典型発達児5年生では、問 題理解過程で必要情報の抽出に誤りがあった者にも、予測過程での「とけるか どうか分からない」という選択肢から誤りへの気づきがうかがえた(研究3)。
しかし、極低出生体重児の5年生の実行誤答者(7 名)には、予測過程でこう した気づきを示す者は
1
名しかいなかった。算数文章題誤答者の中にも、極低 出生体重児と典型発達児の差異がみられたといえよう。本研究の対象となった極低出生体重児は、障害診断がなく、就学前の
6
歳時 に実施した知能検査での知能指数IQ90
以上の者を選定し知的障害域を示す者 を除いた。だが、学齢期に算数文章題学習においても順調な伸びを示す者と停 滞がみられる者が出現し、3つの(A
)(B
)(C
)タイプに分かれる結果となっ た。示された3つのタイプの差については、その要因をさらに明らかにしてい くことが課題となる。極低出生体重児の算数文章題解決が困難となる要因の1 つとして、モニター行動の弱さが考えられた。極低出生体重児の算数文章題支 援では、問題文の注目すべき箇所(必要情報)に下線を引く援助や問題状況を 図で示すことで、改善が認められたことが報告されている(田坂・隝田,2000)。
こうした視覚的な援助は、モニター行動の弱さを補うことにつながるか、援助 の有効性も検討する必要があると思われた。
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第8章 極低出生体重児の算数文章題解決困難に示される要因(研究5)
第1節 問題と目的
極低出生体重児の小学3年生時と5年生時に算数文章題を実施した研究4で は、減算の逆思考問題を使用し、結果の予測・問題理解・プラン立案・実行・
評価の
5
つの解決下位過程を、正期産の典型発達児の遂行と比較した。極低出 生体重児の3年生では、問題文にある一部の情報(キーワード)のみを手がか りに立式を試み、誤答する者が多かった。5年生になると、極低出生体重児の 中にも、算数文章題に正答する者が増えたが、典型発達児との解決差は継続し て示された。典型発達児は5年生になると、問題文から適切情報を抽出し、そ の情報を統合的に把握したうえで、立式をおこなうようになった。しかし、極 低出生体重児5年生の解決は、問題文の情報の一部や問題文にある数値の大き さを手がかりにした解決水準にとどまる者も多く、それは、典型発達児3年生 にみられた解決水準と同様であることが示唆された。極低出生体重児の小学3年生時から小学5年生時における算数文章題解決過 程の経年変化を典型発達児と比較した結果からは、(A)(B)(C)の3タイプの 存在が明らかとなった。この3タイプに示された遂行の差異については、その 要因を検討することが課題となった。
加えて、研究4では、極低出生体重児の算数文章題解決に、自発的な見直し 行動といったモニター行動の問題も示唆された。モニターの出現を困難として いる要因として、問題文の必要情報へ注意を向けることができない(一部のみ の情報を注目してしまう)、といった問題が予想された。
本研究5では、さらに算数文章題解決の高学年での経過を検討するため、極 低出生体重児の小学5年生時から6年生時での算数文章題解決の遂行を確認す る。そして、モニター行動を促進するための注意の促しや注意維持に向けた援 助を含め、研究4において各下位過程に認められた困難に向けた指導を導入す る。指導後の解決改善の有無から指導の有効性を示し、算数文章題解決に示さ れた3タイプ((A)(B)(C))の困難性の要因を検討することとした。