120
121
下線を引く箇所を選択するには、問題文を見直す・読み直す(モニター行動)
ことが求められる。事後のテストでは、立式情報抽出者や評価過程の正答者が 増加し、自発的に問題文に下線を引く者もみられた。指導直後であれば、モニ ター行動が触発できた可能性があるが、6 年テストまで、その指導効果の維持 はなく、(B)には視覚的な手がかりを付加し注意を促す援助が、継続して必要 となると考えられた。これらの結果から、(
B
)には、適切情報に注意を向け維 持するといった視覚的な情報抽出の弱さがあり、解決困難の要因になっている ことが示唆された。加えて、(B)は、情報抽出に改善がみられた
5
年事後テストであっても、ほ とんどの者が数値の大小関係(大きい数から小さい数は引けないという計算に かかわる知識)にもとづく解決にとどまり、立式水準の向上は認められなかっ た。援助で提示した数直線図では、全体-部分の関係を把握できるよう被減数 と減数にあたる箇所を提示したが、2 つの数値を統合的(可逆的)に捉えるこ とにつながらなかった。苦手とする(困難となる)解決方略を避け(成川,2017
)、(
B
)にとって利用しやすい数値の大小関係(既有の知識)に着目した解決を選 択したことも予想できる。(C)の
5
名は、数直線図の援助の有用性が乏しく、さらに具体的援助の必 要性があった。6年生時にも正答に至らなかった(C)には、一つの数直線上に2
数値(減数と被減数)を同時に捉えることが難しく、この2
つの数値を一つ ずつ教示する必要があったことから、岡本(1995)が指摘する低学年の解決段 階に相当すると考えられた。6年生時まで算数文章題解決を追跡した結果、(A)タイプ以外の(B)や(C)
に算数文章題の困難性が増大する可能性が示され、援助の有効性の差異から(
B
)(C)の解決における困難要因の違いが明らかとなった。
122
第9章 極低出生体重の算数学習困難児の指導事例(研究6)
第 1 節 問 題 と 目 的
研 究 4 で は 、 極 低 出 生 体 重 児 の 算 数 文 章 題 解 決 に は 3 つ の タ イ プ が 示 さ れ 、各 タ イ プ の 特 徴 が 明 ら か と な っ た 。こ の 3 タ イ プ に つ い て 、援 助 を 導 入 し て 困 難 要 因 を 検 討 し た 研 究 5 で は 、(
B) タ イ プ に 、 問 題 文 か ら の
適 切 情 報 の 抽 出 に 下 線 を 引 く 手 が か り が 必 要 に な る こ と 、 問 題 文 に あ る 2 つ の 数 値 を 数 直 線 上 に 図 示 す る 援 助 の 効 果 が み ら れ た 。ま た 、こ う し た 援 助 が 自 発 的 モ ニ タ ー 行 動 を 促 す こ と に 有 効 で あ っ た こ と も 示 さ れ た 。 し か し 、(C) タ イ プ に お い て は 、( B) タ イ プ に 認 め ら れ た 援 助 の 効 果 は
み ら れ な か っ た 。(C
) タ イ プ は 、 低 学 年 の 解 決 水 準 に と ど ま る と 考 え ら れ た 。こ の 解 決 水 準 に と ど ま る 児 に は 、よ り 具 体 的 な 援 助 を 考 慮 す る こ と 、 低 学 年 か ら の 学 習 課 題 の 定 着 が 求 め ら れ る こ と が 示 唆 さ れ た 。低 学 年 の 算 数 文 章 題 解 決 で は 、 数 直 線 図 の 利 用 よ り も 具 体 物 の イ メ ー ジ を 利 用 し た 解 決 で の 遂 行 が 示 さ れ て い る( 岡 本 ,1995)。こ の こ と か ら 中 学 年 水 準 の 解 決 に 至 ら な い 児 に つ い て は 、 具 体 的 な 図 示 を 導 入 し た 援 助 が 必 要 と な る と 考 え ら れ た 。
ま た 、 研 究 4 や 研 究 5 で 実 施 し た 算 数 文 章 題 で は 逆 思 考 問 題 を 使 用 し て お り 、そ の 他 の 問 題 タ イ プ の 算 数 文 章 題 は 検 討 し て い な い 。低 学 年 で 学 習 す る ほ か の 基 礎 的 な 文 章 題 で の 遂 行 に つ い て も 、 同 様 の 困 難 が 認 め ら れ る の か 明 ら か に す る 必 要 が あ る 。 算 数 文 章 題 解 決 は 問 題 の 難 易 度 に よ っ て 解 決 過 程 の 遂 行 が 異 な る こ と( 畑 中 ら ,
2008
)が 示 さ れ て い る 。逆 思 考 問 題 よ り 難 易 度 が 低 い( 易 し い )問 題 を 用 い た 場 合 、解 決 水 準 の 向 上 が 示 さ れ る の か 、そ し て 水 準 向 上 に は 、典 型 発 達 児 と 同 様 の 習 得 プ ロ セ ス が 認 め ら れ る の か に つ い て も 確 認 す る 必 要 が あ ろ う 。研 究 6 で は 、 低 学 年 で 学 習 す る 算 数 文 章 題 に 困 難 を 示 し た 極 低 出 生 体 重 児
1
名 に 、 算 数 文 章 題 の 指 導 を 継 続 的 に 実 施 し た 。 研 究 3 に 示 さ れ た123
典 型 発 達 児 の 算 数 文 章 題 の 習 得 過 程 を 指 標 に 、 実 態 把 握 お よ び 指 導 計 画 を 立 案 し 、実 施 し た 指 導 の 効 果 の 有 無 を 示 す と 同 時 に 、算 数 文 章 題( 田 坂・
隝 田 ,
2000) の 教 育 的 支 援 へ の 有 用 性 に つ い て 検 討 す る 。
第 2 節 方 法
1 . 対 象 児
対象は極低出生体重児の
A
児(男児)、学習指導開始時は9歳5か月で、小 学校3年生であった。A
児は、出生体重1152g、在胎週数 29
週で出生した。小学校入学前(6歳)の全訂版田中ビネ-知能検査による
IQ
値は82
であった。学習指導開始時の
A
児(暦年齢9
歳5
か月)に実施したWISC-R
知能検査では
FIQ61、VIQ62、PIQ66
であり、IQ 値の低下がみられた。WISC-R 知能検査の下位検査評価点をみると、言語性課題では「単語」(8点)が比較的高かっ たものの、「知識」(2点)・「理解」(4点)が低く、動作性課題では「積木模様」
(5点)と「組合せ」(5点)が低かった。
小学校通常学級に入学後、学年が進むにつれて教科学習、特に算数で遅れを 示すという母親からの主訴があった。A 児も、教科では特に算数に自信が持て ないことを述べていた。全般的に発達の遅れが認められることに加えて、この 自信のなさが、他の教科学習にも影響を及ぼしていることが考えられ、学習援 助の必要性が認められた。ま た 、こ の
A
児 は 、筆 者 ら が 生後6か月から小学 校卒業まで発達相談援助を継続しておこなっていた児であった。2.学習(指導)開始時における対象児の算数学力
算数学力の実態調査では、加算の算数文章題(繰り上がりのない1位数+1 位数)タイプのうち増加(ある数量に他の数量を加える)と合併(2つの数量 を合わせて1つにする)には正しく答えることができた。減算(1位数-1位 数)では、数値が5以下の計算は正答したが、減算の文章題はすべて誤答であ った。
124
A
児の算数学力調査から、算数のつまずきとして、減算を使用した算数文章 題解決の問題が考えられた。算数文章題の解決には、問題文から必要情報を抽 出し、その情報を統合することが重要であり(石田・多鹿,1993)、減算の文章
題の立式には、問題文の数値のどちらが全体(被減数)で部分(減数)かを把 握する必要がある。A 児のWISC-R
知能検査の結果をみると「積木模様」や「組 合せ」の成績が悪く、全体の構成から部分を抽出し、部分を統合して全体を構成 させるといった柔軟性に弱さが認められ、算数文章題解決の問題理解過程に求 められる能力と共通した。また、「単語」の成績が比較的高かったものの、「知識」「理解」の成績は低く、単語について知識はあっても、一般的知識や理解といっ た学習経験・過去の経験の利用が求められる課題には困難であることが推察さ れた。
以上のことから、A 児に対して、未習得である減算の算数文章題解決の学習 指導が必要であると考えられた。小学校低学年で学習する減算の算数文章題の うち、求残(初めにある数量からその一部を減らす)、求差(2つの数量の差を 求める)を学習課題とした。求残および求差は、低学年で学習する算数文章題 の中でも比較的正答率が高い文章題である(Riley et al.,1983)。
算数文章題解決の指導では、解決過程のどこにつまずきがあるのかを検討す るため、3つの解決下位過程(田坂・隝田,2000)を設定し、各下位過程の解 決状況を把握し、指導計画を立てることとした。下位過程は、問題理解過程(求 答事項、立式情報の抽出)、プラン立案過程(立式)、実行過程(計算して答を 導く)であった。
3.実施期間
算数文章題の学習指導は、対象児の小学校3年生のX年8月~X