で,Cov(u0(c2(i)), n2(i)θ(i)ω0(h))<0が成立する.この関係を用いることによっ て (26)式の最後の不等号,すなわち (26)式の最左辺が1より大きいことが言 える12.ゆえに,(26)式と(19)式より,
(27) τh <0, が成立する.
以上より,政府の介入が無いケースに比べて制約下の効率的資源配分の下で は,貯蓄を抑制し,人的資本投資を促進させるべきであると言える.
して民間では保険が供給されないので,政府の介入が無い場合には正のリスク・
プレミアムを要求するが,本章が想定しているように特異リスク(idiosyncratic risk)のみの世界では,政府がリスクをプールすることができるので,制約下の 効率的資源配分においてはリスク・プレミアムが0になるまで人的資本投資を 増加させることが望ましくなる.以上の分析により,政府の介入が無いケース に比べて制約下の効率的資源配分の下では,貯蓄を抑制し,人的資本投資を促 進させるべきであることが導出された.
付 録
A
本付録においては,da Costa and Maestri (2007) の分析に基づいて,政府の 介入が無い場合の均衡資源配分を分析する.各個人は第2期の期首に初めて自 分がどのタイプであるかを知り,その後,第2期の労働と消費を決定する.し たがって,第2期から逆向きに解いていく.すなわち,第1期に決定した s, h と第2期の期首に明らかになった自分のタイプθ(i) を所与として以下の問題を 解くことになる.
(A.1) V(s, h;θ(i)) = max
y2(i) u(Rs+y2(i))−v
( y2(i) θ(i)ω(h)
) . この問題の1階の条件は以下になる.
(A.2) u0(c2(i)) = 1
θ(i)ω(h)v0(n2(i)).
この間接効用関数を所与として第1期に個人は以下の問題を解く.
(A.3) max
h,s u(1−h−s)+βE[V(s, h;θ(i))] = u(1−h−s)+β∑
i
V(s, h;θ(i))π(i).
まずs で微分して0とおくことによって,この問題の1階の条件の1つは,
(A.4) u0(c1) = βR∑
i
u0(c2(i))π(i) =βRE[u0(c2(i))],
となる.(A.4)式は標準的なオイラー方程式(Euler Equation)が成立すること を意味している.さらにh で微分して0とおくことによって,この問題のもう 1つの1階の条件として,以下の式を得る.
u0(c1) = β∑
i
π(i)v0(n2(i))y2(i) θ(i)
ω0(h)
ω(h)2 =β∑
i
π(i)v0(n2(i))n2(i)ω0(h) (A.5) ω(h)
=β∑
i
π(i)u0(c2(i))n2(i)θ(i)ω0(h)
=βE[u0(c2(i))n2(i)θ(i)ω0(h)].
ただし,3番目の等号の成立には,(A.2)式を用いている.さらに,(A.4)式と
(A.5)式より以下の式が成立する.
(A.6) R= E[u0(c2(i))n2(i)θ(i)ω0(h)]
E[u0(c2(i))] .
ここで Cov(X, Y) = E[(X −E[X])(Y −E[Y])] =E[XY]−E[X]E[Y] の関係 式より,E[u0(c2(i))n2(i)θ(i)ω0(h)] = E[u0(c2(i))]E[n2(i)θ(i)ω0(h)]
+ Cov(u0(c2(i)), n2(i)θ(i)ω0(h))が言えるから,(A.6)式を次のように変形する ことができる.
(A.7) E[n2(i)θ(i)ω0(h)] =R− Cov(u0(c2(i)), n2(i)θ(i)ω0(h)) E[u0(c2(i))] .
n2(i)θ(i) が大きな値の時にはc2(i)が大きくなり,したがってc2(i)の限界効用 であるu0(c2(i))が小さくなるので,Cov(u0(c2(i)), n2(i)θ(i)ω0(h))<0が成立す る.したがって,(A.7)式の右辺第2項は正であり,リスク・プレミアムになっ ている.すなわち (A.7)式は,(グロスの収益率の意味において)危険資産(人 的資本)の期待限界収益率は安全資産(非人的資本)の限界収益率とリスク・
プレミアムの和であることを意味している.
参考文献
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『経済研究』,第51巻第2号,25–49.
第 4 章
二部門内生的成長モデルにおける 動学的ラッファー・カーブ再考
∗1. 序論
Ireland (1994)とPecorino (1995)の研究では1,成長効果(growth effect)を 考慮に入れてラッファー・カーブが再検討されている2.これらの研究において は,静学的な労働供給の意思決定に対する負の誘因効果に加えて,租税政策が 経済の長期成長率に影響を与える可能性が検討されている3.もう少し具体的に 説明すると,より高い税率に反応して成長率が低くなると,将来の課税ベース を縮小させ,それ故,将来の税収を小さくする可能性がある.
これまでのところ,Pecorino (1995)やIreland (1994)の研究では,分析が定 常状態に限定されていた4.しかしながら,移行径路の分析を除外すると,移行 径路上で利子率が変化する可能性があるという理由から,現在価値の評価に関
∗本章作成に関して,John Laitner,Miles Kimball,Roger Gordonの各教授から有益なコ メントを頂いた.ここに記して感謝したい.もちろんありうべき誤りはすべて筆者の責に帰す る.
1Stokey and Rebelo (1995)が税率と総所得に占める税収のシェアの間の関係のみを分析し たのに対して,Ireland (1994)とPecorino (1995)は現在価値の観点から税収を分析した.
2伝統的な静学的ラッファー・カーブに関しては,例えば,Fullerton (1982)を参照.
3この効果は,伝統的なRamsey-Cass-Koopmans型外生的成長モデルとは著しい対照をな している.Ramsey-Cass-Koopmansモデルでは,経済の長期成長率は外生的な技術進歩率で決 定され,それ故,租税政策は長期成長率に影響を与えることはできない.
4Ireland (1994)のモデルは単純な一部門 AKモデルであり,したがって,経済は常に均斉
成長径路上にあり移行動学は無い.一方,Pecorino (1995)のモデルは二部門内生的成長モデル であるが,分析を定常状態における各国の税収比較に限定している.
して重大な結果をもたらす.例えば,Pecorino (1995)はこの効果を捉えようと するいかなる試みも行っていない.さらに,税率が高くなるにつれて,定常状 態への収束速度が減速し,経済は移行径路上により長く留まるようになり,移 行径路の重要性がますます高まるのである.ラッファー・カーブの分析におい て将来の税収を割り引くということは,短期の重要性がより増すことを意味し ている.
既存の諸文献においては,税収の流列を異なった方法で評価しているという 理由から,結果に大きな差が見られる.Ireland (1994) はラッファー・カーブの 頂点に対応する税率が15%であるという結果を得た.これは,Ireland (1994) のモデルでは,現行税率からの税率切り下げはself-financingであることを意味 している.それに対してPecorino (1995) は,税収の現在価値は税率が64%の ときに最大化されるという結果を得た.すなわち,ラッファー・カーブの頂点 に対応する税率が64%であるということである.このように,従来研究の結果 が大きく乖離し,その比較が複雑であることを考慮すると,従来研究の結果を 統一した尺度を用いて統一した内生的成長モデルの枠組の中で比較し,再評価 を行う必要がある.
本章ではまず第一に,Ramsey-Cass-Koopmans モデルとは対照的に,内生的 成長モデルにおいては税収の現在価値の最大点を研究することはあまり有用で はなく,税収を比較する別の尺度が必要であることを示す.ラッファー・カーブ の観点からは,税収の現在価値は以下のように異なった解釈が可能である.そ の解釈とは,(a)ファイナンス可能な初期の公債,(b)ファイナンス可能な政府支
出G(ただし,効率単位当たり政府支出は一定であるが,G は基準年の成長率
で成長する),(c)ファイナンス可能な一定のG,(d)ファイナンス可能な一定の G/Y,である.この解釈を受け,内生的成長の観点からは(a)あるいは(d)の観 点から税収を比較することは有用ではなく,(b) あるいは(c)の観点から異なっ た租税制度における税収を比較する方がより適切であることを示す.従来研究 の中で,Ireland (1994)が暗黙のうちに(b)を考察しているのに対し5,Pecorino
(1995)は一定の割引率を用いることによって,概念(c)を部分的に捉えようと
したと解釈できるかもしれない6.
5
次に本章では,(b) と (c)の観点から,税率とファイナンス可能な政府支出 の流列との関係を分析する.この観点からは,税収の現在価値によってファイ ナンス可能な政府支出の定額流列の現在価値を最大化する税率において,ラッ ファー・カーブの転換点は起こる.Pecorino (1995)のパラメータ・セット(例 えば,初期賃金税率はLucas (1990)と同じ40%を仮定する)の下で,そのよ うな税率は(b)の観点では46%,(c)の観点では53%になる.これは,Ireland
(1994)の結果とは異なり,減税はself-financingではないことを意味している.
というのは,Ireland (1994)の一部門AKモデルよりも成長率効果が小さいか らである.したがって,経済はラッファー・カーブの右上がりの部分に在るこ とになる.同時に,これらの税率は,定常均衡にある異なった国々にわたって 税収の現在価値を比較することによってPecorino (1995)が見つけた税率よりも 小さい.本章では移行径路上の利子率の変化の効果を捉え,一つの経済におい て税収を評価することができたために,このような結果が生じたのである.し かしながらこれらの結果は,異時点間代替弾力性と労働供給弾力性のようなパ ラメータの値に決定的に依存している.これらの弾力性がさらに小さい場合に は,結果として生じる転換点はさらにずっと高い税率で発生する.他方,異時 点間代替弾力性が1に近いか1より大きい場合,あるいは,労働供給がかなり 弾力的な場合には,上の結果がひっくり返る可能性がある.すなわち,減税が
self-financingになる可能性がある.したがって,人的資本蓄積に対する税が軽
課され,それ故に成長率効果が相対的に小さい二部門内生的成長モデルにおい てでさえ,税率を下げることによって,政府の現在価値予算制約式を依然とし て維持しながら,厚生利得を得ることができる7.
本章ではまた,従来研究の対立的な結果は,異なった概念のラッファー・カー
把に言えば(a)と解釈できるかもしれない.しかしながら,歪みの無い一定の収益率を割引率 として用いようとした彼の試みは,(c)のような他の概念を捉えようとしたと解釈できるかもし れない.より詳細については,次節を参照.
7伝統的な静学的ラッファー・カーブに関する従来研究は,課税が労働供給に与える負のイン センティブ効果を強調してきた.同じ負のインセンティブ効果はもう一つのルートを持ち,本章 のモデルにおいてはこのルートを通じて,歪められた労働供給の意思決定が人的資本蓄積に対 して負の効果を持ち,それ故に成長率に負の効果を持つ.減価償却の税制上の取扱いもまた成 長率に対して大きな効果を持つ.仮定された減価償却費用の税制上の取扱いに応じて,たとえ 一部門AKモデルでも,減税はself-financingになる可能性もあるし,ならない可能性もある.
ブと異なった主要なパラメータの値から主に生じていることを示す.本章では,
これらの研究結果を統一した枠組で統一した尺度を用いて評価することによっ て,その差はPecorino (1995)が論じるほど大きくないことを示す.実際,結果 はIreland (1994)とPecorino (1995)の中間にある.Pecorino (1995)が感度分析 で用いたパラメータ・セットを用いると,Ireland (1994)の結論が成立する場合 がある.Pecorino (1995)が標準ケースで用いたパラメータ・セットの下では,
本章のラッファー・カーブの転換点はPecorino (1995)の転換点よりも低いが,
Ireland (1994)の転換点よりは高い.実証的により妥当なパラメータの値の下
では,減税はself-financingではなく,ラッファー・カーブの転換点は相対的に 高い.しかしながら,たとえ減税がself-financingになり得る場合でさえも,税 率を転換点まで引き下げることによって結果として生ずる厚生利得は,Ireland
(1994)が主張するよりもずっと小さい.いくつかの要因が成長率効果を弱める
とともに,移行径路を考慮に入れることによって,本章では従来研究の結果と は異なる結果を得たというわけである.
本章の目的のために,税収は以下の条件の下で分析される.予期しない,突 然の,恒久的な定率税率の変更が行われ,既存文献と同様の内生的成長の枠組 を用いて,均衡移行径路を考慮に入れる,という条件である.比較のために,
Pecorino (1995)と同じ租税構造を仮定する.すなわち,人的資本蓄積に対する
税は軽課される8.体系の非線形性ゆえに,本章ではこの問題の数値解析を行 う9.手順を簡単にまとめると,以下の通りである.まず最初に,非線形定差方 程式体系を定常均衡で線形近似し,固有値と固有ベクトルを計算する.次に,固 有値から鞍点安定性をチェックし,安定径路に対応する固有ベクトルの向きで 新定常均衡から逆方向に後方発射する(shoot backwards)ことによって移行径 路を非線形的に解く.この手順は,Laitner (1995)の線形近似法を組み合わせる ことによって,backward shooting法を拡張したものである.最後に,統一的尺
8それは,ある程度「人的資本蓄積への人的資本の投入物が放棄所得(放棄所得は非課税)を 反映」しており,人的資本生産部門の物的資本が「高等教育の非営利性」を反映しているから である.Pecorino (1995), p.533を参照.
9二部門内生的成長モデルにおける移行動学は,Bond et al. (1996), Caballe and Santos (1993), Faig (1995), Mino (1996)では大域的安定性の観点から分析され,一方,Devereux and Love (1994), Mulligan and Martin (1991, 1993)では数値シミュレーションによって分析され