A Ramsey-Cass-Koopmans モデルにおけるラッフ ァー・カーブ
E.3. 政府支出の現在価値( PVG )
3. 日本経済における限界厚生費用
参考にして 0 〜 0.4 とする.この弾力性の範囲だと表1aよりσ1の妥当な範囲 は 0 〜 0.5 ということになる10.
表1a.労働供給の補償弾力性
σ1 0.10 0.20 0.30 0.40 0.50 η 0.092 0.183 0.274 0.365 0.454
貯蓄の利子弾力性の値を計算したのは表1bである.表1bよりσ2と貯蓄の利子 弾力性との関係が分かる.本章ではBoskin(1978)とHowrey and Hymans(1980) の結果を参照して,弾力性値の妥当な範囲を0 〜0.2 とする.この範囲だとσ2 の妥当な範囲は 0 〜 0.5 ということになる11.σ1, σ2の値は結果に大きな影響 を与えるにも関わらず,その値の大きさに関しては様々な見解が存在するので,
以上の範囲にわたって広範に限界厚生費用の値を計算することにする.
表1b.貯蓄の利子弾力性
HHHH
HHHHH
σ1
σ2
0.10 0.20 0.30 0.40 0.50 0.10 0.042 0.084 0.126 0.168 0.211 0.40 0.041 0.083 0.124 0.165 0.207
初期税率は税収を tax base で割ったものに等しい.労働所得の tax base は 雇用者所得と,個人企業所得の内の労働所得分を加えたものとする.資本所得
の tax baseは財産所得,民間法人企業所得,公的企業所得,それに個人企業所
10実証研究の諸結果のサーベイについてはKillingsworth(1983)を参照.大半の研究結果では 労働供給の補償弾力性の値は0.4をかなり下回っているが,Hausman(1981)ではより高い弾力 性値を推定している.
11貯蓄の利子弾力性については多くの論争があるが,有名な実証研究としてはBoskin(1978) がある.彼の実証結果によると,貯蓄の利子弾力性は0.2〜0.6の範囲にあり,ほぼ0.4である と結論づけた.しかしながらBoskinの結果に対しては,Howrey and Hymans(1980)の批判が ある.彼らが得た結果は税引き後の実質金利の貯蓄率に対する影響はほとんど0というもので あり,Boskinの主張を全面的に否定している.この論争に関する簡潔な展望については,小椋
得の内の資本所得分を加えたものとする12.消費税のtax baseは民間最終消費 支出とする.
労働所得税収は所得税中の申告分と,源泉分の中の給与所得税収,住民税 を加えたものとした.資本所得税収は利子,配当所得税収と法人所得税収を 加えたものとした.消費税収は間接税収とした.この結果,税率はそれぞれ θw = 0.12, θr = 0.24, θc = 0.06 となる.これらの税率に対して GNP に対する 税収の割合,すなわち租税負担率は 19.3 パーセントになる.
定常状態においては(19)式より ρ = r(1−θr) が成立する.これに(3)式を 代入することにより,ρ=f1(1−θr) = 0.046(1−0.24) = 0.035 となる.従って 基準年に経済が定常均衡にあるという仮定より,時間選好率を0.035 とする13. 基準年における名目利子率をi,インフレ率をπで表そう.この時,表2の注で 引用したデータよりi = 0.066,π = 0.02 であることが分かる.従って,モデル から導出される初期定常状態の変数r の値はデータから計算される実際の実質 利子率(0.066−0.02 = 0.046) と等しくなり,整合性が保たれている.
表2.パラメータ値
α ε n A b ρ
0.17 0.75 0.006 1.24 2/3 0.035
θw θr θc σ1 σ2
0.12 0.24 0.06 0.0 - 0.5 0.0 - 0.5
注:
データ出所: 基準年は 1985年の年度計数
α, ε(ただし,ε= 1/(1+0.3321)):経済白書(1987),n:経済要覧(1987),ρ:名目利子率i を経済統計年報(1987)より,インフレ率πを経済要覧(1987)より,b:Chamley(1985),
税率:国民経済計算年報(1987),財政金融統計月報租税特集(1987),Aはモデルから 導出される資本労働比率と資本産出比率がそれぞれ1985年における現実の値2.26,3.79 に等しくなるように設定した.
12個人企業所得に関しては資本所得と労働所得の比率のデータが得られないので,雇用者所 得と(財産所得+民間法人企業所得+公的企業所得)の割合と同じ比率であると仮定し,個人 企業所得を労働所得と資本所得に分類した.
13この仮定はJorgenson and Yun(1986a,b)の仮定と同じである.
3.2.
シミュレーション結果表3はσ1とσ2の妥当な組み合わせに対して,限界厚生費用を計算したもので ある.表3から,考察しているパラメータ値のすべての範囲にわたって,資本 所得税が最も非効率的であり,消費税が最も効率的であることが分かる14.例え ば,(σ1, σ2) = (0.2,0.2)の時,賃金から資本所得へ課税をシフトさせたときに 発生する厚生損失は追加的に発生する税収の15.6%であり,消費課税から資本 所得課税へシフトしたときの厚生損失は16.5%であることが分かる.表3で考 察しているσ1とσ2のすべての組み合わせに対して,そのような厚生損失(す なわち,差別的厚生費用)は約10%〜20%である.
表3.限界厚生費用
HHHH
HHHHH
σ2
σ1
0.100 0.200 0.300 0.400 0.500
1.73 3.49 5.28 7.10 8.96
(2.45) (4.98) (7.60) (10.31) (13.12)
0.100 15.43 16.44 17.44 18.44 19.43
(85.56) (90.58) (95.81) (101.27) (106.97)
1.28 2.57 3.88 5.19 6.51
(1.82) (3.68) (5.58) (7.53) (9.53)
1.75 3.54 5.37 7.23 9.14
0.200 17.73 19.11 20.49 21.90 23.31
1.30 2.61 3.94 5.28 6.64
1.76 3.56 5.41 7.29 9.22
0.300 18.83 20.38 21.97 23.57 25.21
1.31 2.63 3.97 5.33 6.70
14消費者の予算制約式(8)より,消費に対する課税は(i)労働所得に対する課税と(ii)非人的 資本に対する一度きりの課税に分解される.非人的資本に対する課税は短期には一括税と同値 であるので,Chamley(1985)は消費課税が常に労働所得課税よりも効率的であることを示して
1.77 3.58 5.43 7.33 9.28 0.400 19.50 21.17 22.87 24.61 26.38
1.31 2.64 3.99 5.35 6.74 1.77 3.59 5.45 7.35 9.31 0.500 19.95 21.70 23.49 25.32 27.19
1.31 2.65 4.00 5.37 6.76
注:
数値はそれぞれ,第一行が賃金税,第二行が資本所得税,第三行が消費税の限界厚生費 用を表している.ただし,丸括弧内の数値はそれぞれ,定常均衡間の比較による厚生尺 度を用いて計算された限界厚生費用である.すべての数値はパーセント表示である.以 下の表はすべてこの形式に従う.限界厚生費用は本来,マイナスの数値で表されるもの であるが,本章では全ての表を通じて,限界厚生費用を絶対値のプラスの数値で表して いる.
一見して分かるのは,妥当な弾力性の値の下では資本所得課税が常に最も非 効率的であるように見えることである.しかしながら表4で示しているように,
資本所得課税の効率性は初期実効税率に強く依存している.表4から,ある初 期実効税率の下では,資本所得課税が最も効率的になる場合があり得ることが 分かる.
表4. 初期実効税率
θr 0.000 0.010 0.020 0.030 0.040 0.050 0.100 0.150 0.200 3.15 3.17 3.18 3.20 3.21 3.23 3.31 3.39 3.47 1.43 2.00 2.58 3.17 3.78 4.39 7.68 11.34 15.45 2.36 2.37 2.38 2.39 2.40 2.41 2.46 2.51 2.57
注:
(σ1, σ2) = (0.20,0.20)
第一行: 賃金課税の限界厚生費用 第二行: 資本所得課税の限界厚生費用 第三行: 消費課税の限界厚生費用
厚生費用のすべての数値はパーセント表示である.
初期実効税率が低いときには,資本所得課税の厚生費用は小さい.日本では,
資本所得の一部,例えばキャピタルゲインや生命保険などには低い税率が課せ られている.したがって上の結果より,そのような低税率の資本所得に課税をシ フトし,賃金税率ないしは消費税率を下げることによって純厚生利得を得ること ができる.資本所得税が消費税より効率的になり得る可能性はChamley(1985)
やJudd(1987)では指摘されていない.というのも彼らのモデルには明示的に消
費税が導入されていないからである.他方,Judd(1987)の結論では,妥当なパ ラメータ値の下では資本所得税は賃金税と比べてかなり非効率的であり,資本 所得課税の厚生費用は Chamley(1985)の値よりも大きくなっている.Judd は
Chamleyよりも高い初期実効税率を仮定しているが,このことが主な原因とな
り Judd の結果は Chamley よりも大きな厚生費用を報告しているのである15.
3.3.
感度分析表5では,ε, ρ, bに関する感度分析を行っている.εが小さくなるほど,各税 の限界厚生費用は小さくなるが,とりわけ資本所得税の場合はその効果が大き い.しかしながら,逆にεが大きくなるにつれて資本所得課税は賃金課税ない しは消費課税に比べて非常に非効率的になってしまう.ε= 0.5 の時には,資本 所得税へのシフトによって発生する厚生損失は約10%であるが,ε= 0.95の時 には20%を越えてしまう.資本所得に課税されているときには,εが大きくな ればなるほどより多くの資本が労働に代替される.したがって資本蓄積をより 急速に阻害するので,厚生損失が急速に大きくなるのである.
表5. 感度分析 ε 0.50 0.75 0.95
3.28 3.54 3.85 12.73 19.11 24.69
2.51 2.61 2.72
15Chamley(1985)が(θ , θ ) = (0.2,0.2)と設定しているのに対し,Judd(1987)は(θ , θ ) =
ρ 0.010 0.070 0.100 3.41 3.61 3.65 23.30 18.60 18.52
2.67 2.58 2.56
b 0.125 0.250 0.500 0.750 0.900 0.75 1.45 2.75 3.92 4.58 16.24 16.75 18.01 19.78 21.35
0.56 1.08 2.03 2.89 3.37
注:
(σ1, σ2) = (0.20,0.20)
第一行: 賃金課税の限界厚生費用 第二行: 資本所得課税の限界厚生費用 第三行: 消費課税の限界厚生費用
厚生費用のすべての数値はパーセント表示である.
ρが小さくなるにつれて資本所得課税の厚生費用は大きくなる.ρが小さいと きには,定理3から明らかなように,税制改革による厚生費用の決定要因の中 で定常均衡間の比較がより重要な要因になってくる.賃金課税や消費課税と比 べて,資本所得課税の短期効果は長期効果とは大きく異なっている.なぜなら 資本所得に対する課税は短期には一括税に近い性質を有しているが,長期には 資本蓄積を阻害し大きな厚生損失を発生させるからである.従って資本所得課 税の厚生費用はρの値に最も敏感である.
最後に,bが大きくなると労働供給の補償弾力性が大きくなるので,各税の 限界厚生費用,とりわけ賃金税と消費税の限界厚生費用が増加する.
Chamley(1985)やJudd(1987)の研究と比べて,本章ではより小さなεの値
(日本のデータから実証研究で推定された値を使用しているので,実証的な観点 から見てより適切であると言える)とより大きなρの値を仮定している.以上 の計算結果から考えると,このことが原因となって本章では資本所得課税の厚 生費用が Chamley(1985)や Judd(1987)の値より小さくなっている.