• 検索結果がありません。

制約下の効率的配分( Constrained Efficient Allocation )

ドキュメント内 課税の経済分析 (ページ 64-72)

のに対して)制約下の効率的資源配分においてはリスク・プレミアムが0 になるという条件を導出して,その経済的解釈を与えた.

以上の点はda Costa and Maestri (2007)では分析されていない.本章では,上 述のアプローチによって,政府の介入が無いケースに比べて制約下の効率的資 源配分の下では,貯蓄を抑制し,人的資本投資を促進させるべきであることが 導出される1

θ(H)> θ(L)が成立する.π(i)はタイプ iである確率を表す.θ は各個人間で互 いに独立に同一の分布に従い,平均値が1である(π(H)θ(H) +π(L)θ(L) = 1)

と仮定する.したがって,E[θ(i)ω(h)] =E[θ(i)]ω(h) =ω(h)が成立する.すな わち,θ は特異ショック(idiosyncratic shock)を想定している.大数の法則に よって事後的には,π(i)はタイプ i の個人の占める割合に等しくなる.

第1期には各個人は自分がどのタイプであるかを知らない.第1期に人的資本 投資を行った結果,第2期の期首に各個人は自分がどのタイプであるかを知り,

生産性w2 =θ(i)ω(h)が判明する.タイプiの個人は時間賦存量1のうち,n2(i) だけ働く(1−n2(i)の余暇を消費する)ことによってy2(i) =θ(i)ω(h)n2(i)の労 働所得を得る.グロスの利子率をR(すなわちr を利子率とするとR= 1 +r),

第1期の消費をc1,第2期の消費を c2(i),s を貯蓄とすると,タイプi の個人 の第1期と第2期の予算制約式をそれぞれ以下のように表すことができる.

(1) c1+s≤1−h,

(2) c2(i)≤Rs+θ(i)ω(h)n2(i).

各個人の選好は消費と余暇に関して加法分離可能(additively separable)で,各 個人は以下の期待効用を最大化すると仮定する.第1期に余暇を消費しないの で,第1期の余暇が効用関数に入っていない.

(3) u(c1) +βE[u(c2(i))−v(n2(i))] =u(c1) +β

i

[u(c2(i))−v(n2(i))]π(i).

ただし,β は割引因子(0< β <1)であり,u0 >0, u00<0, v0 >0, v00>0が成 立すると仮定する.

各個人は第2期の期首に自分がどのタイプであるかを知り,その後,第2期 の労働と消費を決定する.ただし,各個人がどのタイプであるかが自分自身に 判明した後も,どのタイプであるかは私的情報(private information)であり,

政府は知ることができない2.政府が観察できるのはy2(i)であって,θ(i), n2(i) を観察することはできない.政府はどの個人がどのタイプであるかを知らない ので,各個人にとって自分の真実のタイプを政府に申告することが虚偽の申告 をすることよりも望ましいという誘因両立性(Incentive Compatibility)の制約

2しかしながら,政府はθの確率分布は知っていると仮定する.

を満たすという条件の下で期待効用を最大化する.すなわち,制約下の効率的 資源配分は,資源制約と誘因両立性制約の下で個人の事前の期待効用を最大化 する配分である.

この計画問題は以下のように表される3. max

c1,h,c2(i),y2(i)u(c1) +βE [

u(c2(i))−v

( y2(i) θ(i)ω(h)

)]

(4)

=u(c1) +β

i

[

u(c2(i))−v

( y2(i) θ(i)ω(h)

)]

π(i), subject to

(5) u(c2(H))−v

( y2(H) θ(H)ω(h)

)

≥u(c2(L))−v

( y2(L) θ(H)ω(h)

) , (6) c1(1−h) + 1

R

i

[c2(i)−y2(i)]π(i)0.

上の制約式において,(5)式は誘因両立性の制約4,(6)式は資源制約の式である.

(5)式と (6)式のラグランジュ乗数をそれぞれ µ, λ とすると,ラグランジュ関 数を以下のように書くことができる.

L=u(c1) +β

i

[

u(c2(i))−v

( y2(i) θ(i)ω(h)

)]

π(i) (7)

+µ [

u(c2(H))−v

( y2(H) θ(H)ω(h)

)

−u(c2(L)) +v

( y2(L) θ(H)ω(h)

)]

+λ [

1−h−c1+ 1 R

i

[y2(i)−c2(i)]π(i) ]

.

この問題の1階の条件は以下のように表される.

(8) ∂L

∂c1 =u0(c1)−λ = 0,

(9) ∂L

∂c2(H) =βu0(c2(H))π(H) +µu0(c2(H)) λ

Rπ(H) = 0,

(10) ∂L

∂c2(L) =βu0(c2(L))π(L)−µu0(c2(L)) λ

Rπ(L) = 0,

3y1= 1hであるから,hを決定することとy1を決定することは同値である.ここでは,

人的資本投資決定を明示的に分析するために,hを明示的な決定変数として記述している.

4功利主義的社会厚生関数を想定している本章の設定の下では,低能力タイプが真実を申告

∂L

∂h =β

i

v0(n2(i))y2(i) θ(i)

ω0(h) ω(h)2π(i) (11)

+µ [

v0(n2(H))y2(H) θ(H)

ω0(h)

ω(h)2 −v0(n2(LH))y2(L) θ(H)

ω0(h) ω(h)2 ]

−λ

=β

i

v0(n2(i))n2(i)ω0(h) ω(h)π(i) +µω0(h)

ω(h) [v0(n2(H))n2(H)−v0(n2(LH))n2(LH)]−λ

= 0,

∂L

∂y2(H) =−β 1

θ(H)ω(h)v0(n2(H))π(H)−µ 1

θ(H)ω(h)v0(n2(H)) + λ Rπ(H) (12)

= 0,

∂L

∂y2(L) =−β 1

θ(L)ω(h)v0(n2(L))π(L) +µ 1

θ(H)ω(h)v0(n2(LH)) + λ Rπ(L) (13)

= 0.

ただし,n2(LH) θ(H)ω(h)y2(L) と定義する.

以上の(8)式から(13)式の1階の条件を変形して整理すると,以下の(8’)式 から(13’)式を得る.

(8’) u0(c1) = λ,

(9’) u0(c2(H))[βπ(H) +µ] = λ Rπ(H), (10’) u0(c2(L))[βπ(L)−µ] = λ

Rπ(L), λ=β∑

i

v0(n2(i))n2(i)ω0(h) ω(h)π(i) (11’)

+µω0(h)

ω(h) [v0(n2(H))n2(H)−v0(n2(LH))n2(LH)], (12’) v0(n2(H))n2(H)[βπ(H) +µ] = λ

Rπ(H)θ(H)ω(h)n2(H), (13’) v0(n2(L))n2(L)βπ(L)−µv0(n2(LH))n2(LH) = λ

Rπ(L)θ(L)ω(h)n2(L).

(10’)式より µ=βπ(L)− u0(cλπ(L)2(L))R と解くことができるから,これを (9’)式 に代入すると,

u0(c2(H)) [

βπ(H) +βπ(L)− λπ(L) u0(c2(L))R

]

= λ Rπ(H),

を得る.この式の両辺をλβu0(c2(H))で割って π(H) +π(L) = 1 と (8’)式を利 用すると,

1

u0(c1) = 1 βR

[ π(H)

u0(c2(H)) + π(L) u0(c2(L))

]

= 1 βR

i

1

u0(c2(i))π(i) (14)

= 1 βRE

[ 1 u0(c2(i))

] ,

が得られる.この式が逆オイラー方程式(Inverse Euler Equation)である5.(14) 式は2通りの解釈(Golosov et al. (2003))が可能である.まず,ある個人につ いて uu0(c0(c1)

2(i)) の期待値が βR であると解釈できる.これは事前的にある1個人 の期待値を求めるという意味である.次に,uu0(c0(c2(i))1) を各個人にわたって平均を とるとβR に等しいと解釈できる.これは事後的に全ての個人の平均値を求め るという意味である.大数の法則によって2つの解釈は同値である.

ここで,f(x) = x1(x > 0)という関数を考える.f(x) は厳密に凸な関数で あるからジェンセンの不等式(Jensen’s inequality)より,

(15) E[f(x)]> f(E[x]) すなわち E [1

x ]

> 1 E[x],

が成立する.ここで x = u0(c2(i)) とおいて (15)式に代入すると,(14)式を次 のように変形することができる.

(16) u0(c1)< βR

i

u0(c2(i))π(i) =βRE[u0(c2(i))].

付録の(A.4)式で示すように,政府の介入が無い場合の均衡資源配分においては,

(16)式は等号で成立する.(16)式の不等号は,貯蓄を抑制して次期に労働のイ ンセンティブを高めて生産を増大させることが社会的により望ましい(Golosov et al. (2003))ことを示している6

5

ここで Golosov et al. (2006) と同様に,くさび(wedge)を以下のように定 義する7.まず,第2期の消費・労働間のくさびを,

(17) τy2(i)1 v0(y2(i)/[θ(i)ω(h)]) u0(c2(i))[θ(i)ω(h)] ,

と定義する.次に,異時点間のくさび(intertemporal wedge)を,

(18) τk 1 u0(c1) βR

iu0(c2(i))π(i),

と定義する.最後に,人的資本・非人的資本投資間(危険資産・安全資産間)の くさびを,

(19) τh 1 R

E[u0(c2(i))y2(i){ω0(h)/ω(h)}] E[u0(c2(i))]

,

と定義する.付録で示すように,政府の介入が無い場合には,全てのくさびが 0に等しくなる.

まず第1に,(16)式と(18)式より τk>0が言える.

次に,タイプ H の消費・労働間のくさびに関しては,(12’)式を(9’)式で割 ることによって以下の式を求めることができる.

(20) v0(n2(H))

u0(c2(H)) =θ(H)ω(h).

ゆえに,(20)式と(17)式より,以下が成立する.

(21) τy2(H) = 0.

は不要であるから,(9’), (10’)式においてµ = 0とおいて解くと c2(H) = c2(L),すなわち,

完全保険が最適になる.しかしながら,実際には政府は各個人の θ(i)を知らないので,もし 完全保険を実施すると,タイプ H はタイプ L を装って c2(L)(= c2(H))の消費を享受し,

y2(L)

θ(H)ω(h)(< θ(H)ω(h)y2(H) )の労働をするインセンティブが発生してしまう.したがって,完全保 険は最適ではない.この問題を回避するためには,タイプ H が自分の真のタイプを表明する ことが自分自身の利益になるように十分に高い c2(H)(> c2(L))をタイプ H に割り当てる 必要がある.しかしながらこの制約のために,付加的な(additional)社会的費用が発生する.

個人はこの費用を考慮に入れずに行動するが,計画者はこの費用を考慮に入れて社会的最適 解を計算することになる.以上の理由により,政府の介入がない均衡資源配分においては付録

(A.4)式,制約下の効率的資源配分においては(16)式が成立するのである.注10で導出する

u0(c1) =βRE[u0(c2(i))] +Rµ(u0(c2(H))u0(c2(L)))をさらに(14)式を用いてµを消去して 変形すると,u0(c1) +βRπ(L)π(H)(φ1+π(H)(φ1)1)(u0(c2(L))u0(c2(H))) =βRE[u0(c2(i))]を得る(ただ し,φuu00(c(c22(H))(L)) >1).この式の左辺第2項(明らかに正)が,個人が考慮に入れない付加的 に発生する社会的費用になる.

7くさびの定義に関しては,Kocherlakota (2004)も参照.

次に,(13’)式を次のように変形する.

v0(n2(L))n2(L)[βπ(L)−µ] +µ[v0(n2(L))n2(L)−v0(n2(LH))n2(LH)]

(22)

= λ

Rπ(L)θ(L)ω(h)n2(L).

(22)式の両辺を (10’)式で割ることによって,タイプ Lの消費・労働間のくさ びに関して以下の式を得ることができる.

(23) v0(n2(L)) u0(c2(L)) +

µ [

v0(n2(L))−v0(n2(LH))nn2(LH)

2(L)

]

u0(c2(L))[βπ(L)−µ] =θ(L)ω(h).

n2(L) θ(L)ω(h)y2(L) , n2(LH) θ(H)ω(h)y2(L) より,n2(L) > n2(LH) が成立するから,

v00 > 0 の性質を用いると,(23)式の左辺第2項の符号は正となる8.ゆえに,

(23)式と(17)式より,

(24) τy2(L)>0,

が成立する.(21)式と(24)式は通例の条件である(Stiglitz (1987)).

最後に,(11’)式を次のように変形する.

λ=βv0(n2(H))n2(H)ω0(h)

ω(h)π(H) +βv0(n2(L))n2(L)ω0(h) ω(h)π(L) +µω0(h)

ω(h)[v0(n2(H))n2(H)−v0(n2(LH))n2(LH)]

= ω0(h)

ω(h) {v0(n2(H))n2(H)[βπ(H) +µ]

+[v0(n2(L))n2(L)βπ(L)−µv0(n2(LH))n2(LH)]}

= λ

R[π(H)θ(H)n2(H)ω0(h) +π(L)θ(L)n2(L)ω0(h)]

= λ R

i

π(i)θ(i)n2(i)ω0(h) = λ

RE[θ(i)n2(i)ω0(h)].

ただし,3番目の等号の成立には (12’)式と (13’)式を用いている.この式を整 理すると,次の式を得る.

(25) R=E[θ(i)n2(i)ω0(h)].

(25)式の左辺は非人的資本(安全資産)のグロスの限界収益率であり,(25)式 の右辺は人的資本(危険資産)のグロスの期待限界収益率である.付録の(A.7)

式で示すように,政府の介入が無い場合の均衡資源配分においては,人的資本

(危険資産)のグロスの期待限界収益率は非人的資本(安全資産)のグロスの 限界収益率とリスク・プレミアムの和に等しくなる.したがって,この計画問 題の最適配分においてはリスク・プレミアムが0になっている.この式の意味 は直観的には次のように解釈することができる.本章で考察している人的資本 の収益のリスクは特異リスク(idiosyncratic risk)のみである.したがって,各 個人にとっては人的資本の収益にはリスクが生じるが,経済全体ではリスクを プールすることができるので,経済全体の平均収益にはリスクは生じない.し たがって,リスク・プレミアムが0になる点まで人的資本投資を増加させるべ きということになる9

最後に,人的資本・非人的資本投資間(危険資産・安全資産間)のくさびを 導出するために,以下の計算を行う.

R

E[u0(c2(i))n2(i)θ(i)ω0(h)]

E[u0(c2(i))]

(26)

= RE[u0(c2(i))]

E[u0(c2(i))n2(i)θ(i)ω0(h)]

= RE[u0(c2(i))]

E[u0(c2(i))]E[n2(i)θ(i)ω0(h)] + Cov(u0(c2(i)), n2(i)θ(i)ω0(h))

= 1

E[n2(i)θ(i)ω0(h)]

R +Cov(u0(cRE[u2(i)),n0(c2(i)θ(i)ω0(h))

2(i))]

= 1

1 + Cov(u0(cRE[u2(i)),n0(c2(i)θ(i)ω0(h))

2(i))]

>1.

ただし,2番目の等号の成立には Cov(X, Y) = E[(X −E[X])(Y −E[Y])] = E[XY]−E[X]E[Y] の関係を10,4番目の等号の成立には(25)式を用いている.

さて,n2(i)θ(i)が大きな値の時(したがって y2(i)が大きな値の時)にはc2(i) が大きくなり11,したがって c2(i) の限界効用である u0(c2(i)) が小さくなるの

9(25)式をhについて解くと,h=ω0−1 ( R

E[θ(i)n2(i)]

)

という関数が得られる.ただし,ω01(·) 関数はω0(·)関数の逆関数であり,減少関数である.

10X=u0(c2(i)), Y =n2(i)θ(i)ω0(h)とおけば,確認できる.

11(9’)式と(10’)式を辺々足してから(8’)式を代入して変形すると,u0(c1) =βRE[u0(c2(i))]+

Rµ(u0(c2(H))u0(c2(L))) が得られる.後に示すようにµ > 0であるから,(16)式が成立す るためには,u0(c2(H)) < u0(c2(L)) が成立しなければならない(Diamond (2006)).した

で,Cov(u0(c2(i)), n2(i)θ(i)ω0(h))<0が成立する.この関係を用いることによっ て (26)式の最後の不等号,すなわち (26)式の最左辺が1より大きいことが言 える12.ゆえに,(26)式と(19)式より,

(27) τh <0, が成立する.

以上より,政府の介入が無いケースに比べて制約下の効率的資源配分の下で は,貯蓄を抑制し,人的資本投資を促進させるべきであると言える.

ドキュメント内 課税の経済分析 (ページ 64-72)