A Ramsey-Cass-Koopmans モデルにおけるラッフ ァー・カーブ
E.3. 政府支出の現在価値( PVG )
2. モデルと厚生尺度 1. モデル
2. モデルと厚生尺度
初期時点における家族数に対応する家計の単年度効用関数を,u(c(t),−l(t)) とする.労働供給量は家計の効用最大化行動の結果として決定されるので,効 用関数の中に余暇が入っている.その時,家計の目的関数U は次式で表される ものとする.
(6) U =
∫ ∞
0
e−(ρ−n)tu(c(t),−l(t))dt.
ただし,ρは時間選好率である.この家計の家族構成員数は,人口成長と共に 将来増加する.目的関数U はそれら成員の効用の総和であるから,人口成長率 nの項entが入っている.
θrを資本所得税率,θwを賃金税率,θcを消費税率とする.資本所得税率,賃 金税率,消費税率のすべてが(税制改革による税率変更以外は)固定されてい るものとする.このとき,0時点からt時点までの税引き後収益率 s(t) を次に よって定義できる.
(7) s(t) =
∫ t 0
(1−θr)r(τ)dτ.
これを用いると,家計の予算制約式は次のように書ける.
(8)
∫ ∞
0
e−(s(t)−nt)(1 +θc)c(t)dt =
∫ ∞
0
e−(s(t)−nt)(1−θw)w(t)l(t)dt+k(0).
家計は,完全予見の仮定の下で,要素価格 r(t) と w(t)の将来径路を所与と して,予算制約式(8)式の下で(6)を最大化するという異時点間効用最大化問題 を解く.
この問題の最適解のための一階の条件は,以下のようになる.
u1(c,−l)
u2(c,−l) = 1 +θc w(1−θw), (9)
˙
u1(c,−l)
u1(c,−l) =ρ−r(1−θr).
(10)
ただし,u1 = ∂u/∂c, u2 = ∂u/∂(−l) とする.(10)式はさらに次のように変形 できる.
(11) u11c˙−u12l˙=u1[ρ−r(1−θr)].
(4)式を(9)式に代入して l について解くと,
(12) l=l(k, c, θw, θc),
が得られる.(12)式を(5)式に代入すると,
(13) k˙ = ˙k(k, c, θw, θc), が得られる.
(12)式を微分して
(14) l˙=l1(k, c, θw, θc) ˙k+l2(k, c, θw, θc) ˙c,
を得る.ただし,l1 =∂l/∂k, l2 =∂l/∂c とする.(13), (14)式より (15) l˙=ψ(k, c, θw, θc) +l2(k, c, θw, θc) ˙c,
を得る.ただし,ψ(k, c, θw, θc) = l1(k, c, θw, θc) ˙k(k, c, θw, θc)である.(3), (12), (15)式を(11)式に代入すると,
(16) c˙= ˙c(k, c, θw, θc, θr), が得られる.
与えられた (k, c)の初期値に対して,(13)式と(16)式から( ˙k,c)˙ が得られる から,(k, c)の動学的径路を求めることができる.故に,与えられたパラメータ 値 θ = (θw, θc, θr) 及び初期値 (k(0), c(0)) に対して,(13)式と(16)式を (k, c) について解くと,すべての式を満たす通時的均衡解が得られる.ただし,任意 の点から出発して(13)式と(16)式を満たす解は一般的には定常解に近づく解で はない.しかしながら,与えられた (θw, θc, θr, k(0))に対して c(0) を適当に選 んでやれば,定常解を鞍点解とする径路が存在する3.
定常均衡は c˙ = ˙l = ˙k= 0 より,
(3) r=f1(k, l), (4) w=f2(k, l),
3Chamley(1985),Judd(1987)を参照.労働供給外生モデルの場合の図が,付録Cの図C1 で描かれている.
(17) u2(c,−l) = w(1−θw)
1 +θc u1(c,−l), (18) c=f(k, l)−nk,
(19) ρ=r(1−θr),
で特徴づけられ,この5本の方程式より,定常均衡における5個の変数 c¯ =
¯
c(θ),¯l= ¯l(θ),¯k= ¯k(θ),r¯= ¯r(θ),w¯= ¯w(θ)が決定される.
当初,与えられた租税構造の下で経済が定常均衡にあるものと仮定しよう4. 初期時点(時点0)に突然,税制改革が行われ,例えばθrが恒常的に引き下げ られたとしよう.この引き下げは家計には事前に予期されていないものとする.
また税率はこの値にずっと固定されるものと仮定する.このような税制改革が 行われると,経済は鞍点径路上の点(¯k, c(0))にジャンプし,調整径路に沿って 新定常均衡に移行する5.
政府支出はすべて一括的移転支出で返還されると仮定することによって,政 府の課税がもたらす歪み(distortion)の効果だけをみることができる.すなわ ち,政府が課税を行っていない状態,(θw, θc, θr) = 0の状態を政府が一括税で課 税し一括的移転支出で返還する状態と考え,一方 distortionary taxで課税がな された状態を,distortionary tax で課税し一括的移転支出で返還する状態と考 える.この時両者を比較すれば,(一括税と比較して)純粋に distortionary tax がもたらす歪みの大きさだけを測定することができるのである.本章ではこの ような方法を採用している.まず厚生指標の定義から始めよう6.
2.2.
厚生尺度調整径路上の動学方程式は(3), (4), (5), (9), (10)の5つの式と横断性条件によっ て表すことができる.この解は鞍点解であるから,ある租税体系θ = (θw, θc, θr) が与えられるとk に対して c, lが一意に決まる.故に調整径路上での消費,余 暇を c=c(k), l =l(k) と表すことができる.c= c(k), l =l(k)を(5)式に代入
4したがって,k(0) = ¯kが成立する.
5労働供給外生モデルの場合の図が,付録Cの図C2で描かれている.
6労働供給が外生的な場合の同様の公式の導出に関しては,補論を参照.より単純な形で公
することによって,この連立微分方程式体系を次の一本の微分方程式にreduce することができる.
(20) k˙ =f(k, l(k))−nk−c(k).
この体系の局所的安定条件より,
(21) λ≡c0(k∗)−w∗l0(k∗)−(r∗−n)>0,
が成立する.ただし,∗で税制改革後の新定常均衡点における値を表している.
このとき,(20)式を定常均衡点のまわりで一次近似するとλに関して次式が成 立する.
(22) k˙ =−λ(k−k∗).
k˙ = (k−˙k∗) であるから,動学調整径路上の k の動きは次式で表すことがで きる.
(23) k(t) =k∗+ (k(0)−k∗)e−λt.
故に調整径路上において u(c,−l) = φ(k(t), θ) とおくと,厚生水準は次式の ように表すことができる.
(24) U =
∫ ∞
0
e−νtφ(k(t), θ)dt.
ただし,ν ≡ρ−n と定義する.
U1を税制改革後,調整径路に沿って新定常均衡に向かう場合の厚生水準,U0
を改革前の旧定常均衡に留まる場合の厚生水準として定義すると,厚生変化∆U は,∆U ≡U1 −U0として定義できる.∆U を新定常均衡点における消費の限 界効用u∗1で除して資産のタ−ムに換算したものを∆V と定義する.
(25) ∆V ≡ ∆U u∗1 .
一方,新旧税体系間の税収の差の割引現在価値Rは次式で表される.
(26) ∆R =
∫ ∞
0
e−(s(t)−nt)[m(t, θ)−m(t,θ)]dt.¯
ただし,m(t, θ) = θrr(t, θ)k(t, θ) +θww(t, θ)l(t, θ) +θcc(t, θ) = m(k(t), θ)であ り,θ¯は旧税体系を表している.
∆V と∆R との比を,税収一単位増分あたり厚生費用として次のように表す ことができる.
(27) ∆V
∆R.
さて以上のように厚生指標を定義したものの,実際の厚生評価の際には調整 径路の導出が困難であるためになんらかの数量的手段に訴える必要がある.大 域的シミュレーション法が用いられる場合もあるが,微少の税制変化に対して は,調整径路を線形近似し,その上での厚生変化をもって近似することができ る.(以下,特に断わりの無い限り,関数や税率は∗の新定常均衡点で評価して いる.)
定理 1
c0(k∗), l0(k∗) の間には次の関係が成立する.
(28) l0(k∗) = β1+β2c0(k∗).
ただし,αを資本分配率,εを資本労働間代替弾力性とすると,
β1 =
α εk∗
H12−H22+ εlα∗, β2 = H11−H21 H12−H22+εlα∗, H11 = u11
u1
, H12= u12 u1
, H21 = u21 u2
, H22= u22 u2
, が成立する.
定理 2
c0(k∗) は A2x2+A1x+A0 = 0 の正根である.ただし,
A0 =−β1H12(w∗β1+r∗−n)−(1−α) ρ
εk∗ + (1−α)ρβ1 εl∗,
A1 =−β1H12(w∗β2−1) + (H11−β2H12)(w∗β1+r∗−n) + (1−α)ρβ2 εl∗ , A2 = (H11−β2H12)(w∗β2−1),
である.
なおこの定理1と定理2を用いると,(21)式からλの値を求めることができ る.さらにこのλの値を用いて調整径路上の効用水準を次式で得ることができ る7.
定理 3
U1 =
∫ ∞
0
e−νtφ(k(t), θ)dt (29)
= ν
ν+λ
φ(k(0), θ)
ν + λ
ν+λ
φ(k∗, θ) ν .
調整径路上の厚生は割引率と調整速度を加重として,短期均衡と長期均衡の 厚生の加重平均で表される.しかしながらこれからただちに厚生評価を行える わけではない.なぜならば,c(0), l(0)の水準が分からないからである.c(0), l(0) の導出のために,c0(k∗), l0(k∗)を用いる.新定常均衡のまわりでテイラー展開す ると次の関係が成立する.
(30) u(c(0),−l(0)) =u(c∗,−l∗)−u∗1 [
c0− w∗(1−θw) 1 +θc l0
]
(k∗−k).¯
またk˙ = 0 線を線形で近似すると,¯c と c∗ を傾き r∗ −n と w∗ によって関係 づけ,¯c−c∗を求めることができる.
(31) ¯c−c∗ = (r∗−n)(¯k−k∗) +w∗(¯l−l∗).
(30), (31)式と定理3を用いると,厚生変化∆U ≡U1−U0 は次の近似公式で表 すことができる.
定理 4
(32) ∆V = L ν. ただし,
L≡ [
r∗θr(k∗−k) +¯ w∗ (
1− 1−θw 1 +θc
)
(l∗−¯l)
− ν ν+λ
[
r∗θr+w∗ (
1−1−θw 1 +θc
) l0
]
(k∗−k)¯ ]
, とする.
7Chamley(1985)は定理3を証明無しで述べている.本定理の証明に関して,神谷和也教授
に貴重なコメントを頂いたことを感謝する.
税収についても定理3を適用すると,次式が得られる.
定理 5
(33) ∆R = M
ν . ただし,
M ≡ [
(m∗−m) + ν
ν+λ(m(0)−m∗) ]
,
とする.m(0)−m∗に関しては,上と同様の線形近似によって次のように求め ることができる.
(34) m(0)−m∗ =m0(k∗)(¯k−k∗).
ただし,
m0(k∗) =θr[r∗+ (r1+r2l0(k∗))k∗]
+θw[w∗l0(k∗) + (w1+w2l0(k∗))l∗] +θcc0(k∗), r1+r2l0(k∗) = r∗(1−α)
ε [l0(k∗)
l∗ −k1∗
],
w1+w2l0(k∗) = w∗α ε
[1
k∗ − l0(kl∗∗)
],
である.
(27)式の極限をとって限界的に税率が変化した時の厚生変化の指標として限 界厚生費用を定義する.意味づけとしては,(一括税ではなく)distortionary tax を用いて一円の税収を得る際の厚生変化(超過負担)である.上の結果を用い ると,限界厚生費用は近似公式によって表すことができる8.
(35) C ≡ lim
∆θ→0
∆V
∆R = lim
∆θ→0
L M.
8定理4,定理5の証明と限界厚生費用の導出は,Chamley(1985)の公式に消費税を導入し