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ラッファー・カーブの定義

ドキュメント内 課税の経済分析 (ページ 81-91)

伝統的なRamsey-Cass-Koopmansモデルにおけるラッファー・カーブと内生

的成長モデルにおけるラッファー・カーブは,注意深く区別すべきである10.伝 統的なモデルにおいては,経済の一人当たり変数の長期成長率は外生的な技術 進歩率によって与えられる.長期成長率が一定で,それ故に租税政策は長期成 長率に影響を与えることができないから,税収の現在価値を増加させることに よって,より多くの効率単位当たりの政府支出をファイナンスすることが可能 になる.さしあたり,技術進歩率と人口成長率が共に0であると仮定しよう11

Chamley (1985) は,税率をτ から τ + ∆τ へ切り上げることによって引き起

こされる税収の現在価値の増加が以下のように近似できる(一次のオーダーま で)ことを示した12

(1) ∆PVR WR

ρ ,

10本節においてのみ,モデルを連続時間モデルで記述する.離散時間モデルの方が数値計算 には良いのだが,連続時間モデルの方が経済的洞察を得やすく,分析の目的のためにもより容 易に分析が可能であることがその理由である.第3節では,主に数値計算上の目的から,モデ ルを離散時間モデルで記述する.本節の連続時間モデルは,以下の節の離散時間問題の連続時 間極限と捉えることができる.

11この仮定によって以下の議論が単純化されるが,この仮定を緩めても結果には影響しない.

それは,技術進歩率も人口成長率も共に外生的に固定され,租税政策は双方に影響を与えるこ とはできないからである.

12Chamley (1985), p.355を参照.近似公式については,Bernheim (1981)も参照.

ただし,WR = ρ+κρ TR0+ ρ+κκ TR−TR = ρ+κρ (TR0 −TR) + ρ+κκ (TR−TR) である.ここで,ρは時間選好率,κは収束速度,TR は旧定常均衡における税 収,TR は新定常均衡における税収,TR0 は税率が変更された直後の時点0に おける税収である.付録Aにおいて,外生的労働供給モデルにおいては,ある 所与のτに対してTR が一定であり,TR0 は ∆τの線形増加関数であり,TR は厳密に凹で,最初は増加し,ある税率τ+ ∆τを越えると減少するので,WR は最初は増加し,ある税率を越えると減少する可能性があることを示す13.この とき,これがRamsey-Cass-Koopmansモデルのラッファー・カーブである.さ て,政府支出の一定の増分∆gをWRに等しく置く14.このとき,∆g の最大点 は ∆PVRの最大点に一致する.それは,政府支出の現在価値の増加分∆PVG が以下の式で近似することができるからである15

(2) ∆PVG

0

∆g eρtdt = ∆g ρ .

上の議論から,税収の現在価値を最大にする所得税率τ は,ファイナンス可能 な一定水準の g を最大にする所得税率 τ におおよそ一致する.したがってこ のケースにおいては,税収の現在価値の大きさを研究することには意味がある.

しかしながら内生的成長モデルの場合には,これら2つの最大点は一般的には 一致しない.これは,内生的成長の枠組では,税収の現在価値の最大点を調べ ることは有用ではなく,税収を比較するための別の尺度が必要であることを示 唆している.

内生的成長モデルにおいては,租税政策は長期成長率に影響を与えることが できる.したがって,たとえ税率の上昇によって税収の現在価値が増加したと しても,長期成長率が低くなりすぎて16,元(税率変化前)の政府支出の流列 をファイナンスすることができないかもしれない.この場合,様々な異なった 租税政策の下で,税収の現在価値の大きさを比較することには意味がない.税

13この議論は一次近似に基づいているが,同様の議論が数値シミュレーションによって可能 であろう.

14政府支出は一括的移転支出であると仮定する.技術進歩率と人口成長率が正ならば,∆g 効率単位労働1単位当たりの政府支出の一定の増分になる.

15Chamley (1985)の定理を適用すればよい.

16以下で示すように,たとえ成長率が負でも,負の成長率効果を相殺するほど利子率が低く

収の現在価値の大きさを解釈するにあたって,いくつかの可能な比較基準は以 下の通りである.(a)ファイナンス可能な初期の公債,(b)ファイナンス可能な

政府支出G(ただし効率単位当たりの政府支出gは一定であるがGは基準年の

成長率で成長する),(c)ファイナンス可能な一定の G,(d)ファイナンス可能 な一定の G/Y,である.

内生的成長モデルの枠組では,ラッファー・カーブに対する2つのアプロー チ,すなわちIreland (1994)のアプローチと Pecorino (1995)のアプローチ,が 存在する.2つのアプローチを1つの枠組で説明するために,以下のAK成長 モデルを考える.生産関数はY =F(K) =AKで与えられる.ただし,Y は生 産量,A は定数,Kは物的資本と人的資本の合成資本である.相対的危険回避 度が一定である効用関数を仮定すると,経済の成長率 ν は,ν = cc˙ = σ1−ρ) によって内生的に決定される.ただし,cは一人当たり消費,σは異時点間代替 弾力性の逆数,ρ は時間選好率,γ は税引後純利子率(純利子率は減価償却引 後の意味)である.このとき,ρ+σν =γが成立する17.資本減耗費用の税控 除可能性を認めないと仮定すると,γ = (1−τ)A−δ が成立する.ただし,τ は所得税率,δ は減価償却率である.この経済は常に定常状態にあり,移行動 学(transitional dynamics)はない.各期の税収はTRt =τ AK0eνtである.た だし,K0 は初期資本ストックである.当初,政府予算は毎期均衡している,す なわちTRt =Gt =g eνtが成立しているとする.ただし,g は定数で,初期の 公債は0であると仮定する.政府支出は一括的移転支出であると仮定する.税 収の現在価値PVRは以下になる.

PVR=

0

TRteγtdt=τ AK0

0

eγ)tdt (3)

= τ AK0

γ −ν = AK0 ρ+ (σ1)ντ.

単純化のために,σ= 1であると仮定する.このとき,PVRは税率の線形関数 になる.このケースでは,たとえ経済の成長率が負でも,PVRは常にτの増加 関数になる18.したがって,たとえ税率の引き上げにより税収の現在価値が増 加しても,元の政府支出の流列{g eν0t} をファイナンスすることができないか

17この式より,∆ν= ∆γ/σが成立する.したがって,σが小さければ小さいほど,成長率効 果が大きくなることになる.

18σ >1のときもまた,ν τの減少関数であるから,PVRは常にτの増加関数になる.

もしれない.PVR の大きさ自身は,ファイナンス可能な初期の公債(a)として 大雑把に解釈できるかもしれない19

移行径路を分析することなくラッファー・カーブを研究するために,Pecorino

(1995)は「異なった課税水準の国々にわたって税収の現在価値を比較している20」.

したがって,異なった経済にわたって現在価値を比較するために,Pecorino (1995) は一貫した割引率を用いる必要があり,それ故,γとして非課税経済における 一定 の定常状態の純利子率を用いている.すなわち,Pecorino (1995)はγを非 課税経済における純利子率γdであると仮定している.したがって,PVRは以 下の形になる.

(4) PVRP = τ AK0

γd−ν.

税率とPVRP との関係がPecorino (1995)のラッファー・カーブである.ν は τ の減少関数で,γd は固定されているから,(4) 式右辺の分子の直接的な税収増 加効果に比較して成長率効果が強ければ,PVRP はある税率を超えると減少す る可能性がある.しかしながらこの単純なモデルにおいては,ラッファー・カー ブは転換点を持たない.これは,以下のように(4) 式を変形することによって,

簡単に見ることができる.

(4’) PVRP = τ AK0

γd−ν = τ AK0

(A−δ)−[(1−τ)A−δ−ρ] = τ AK0

τ A+ρ = AK0 A+ρ/τ. 明らかに,PVRPτ の上昇につれて常に増加する.より一般的なPecorino

(1995)のモデルにおいては,税率が高くなるにつれて,分母の増加が分子の増

加を上回るようになる21.これが,Pecorino (1995)において異なった経済にわ

19もし初期の公債が0ではなく,税収が公債元本とその利子の返済にのみ用いられるなら,

TRt = γdtd˙tが成立する.ただし,d は公債を表す.したがってこのケースにおいては,

d0=

0 TRteγtdtが成立する.

20Pecorino (1995)のモデルはより一般的な二部門内生的成長モデルであり,したがって税率

変化の後,経済は移行径路上にある.しかしながら,分析を定常状態に限定するために,彼が思 い描いた実験方法は「各国が異なった水準の課税を経験し,自身の均斉成長径路上にあるよう な多くの経済を考察することである.実験のための計算が実行されるちょうどそのときに,各 経済は同じ潜在的GNPを有するよう制約されている.」(Pecorino (1995), p.532)

21PVRP(τ)γτ AKdν(τ)0 と定義する.ただし,γd =ρ+ν(0)である.このとき,PVRP0(τ) =

AK0 {γ ν(τ) +τ ν0(τ)}が成立する.ラッファー・カーブの転換点が存在するためには,

たってラッファー・カーブの転換点が存在する理由である22

しかしながら,一つの経済において異なった課税水準に対応する税収の現在 価値を比較するためには,現在価値を計算する際に利子率の変化の効果を含め るべきである.このとき,上で説明したように,税収の現在価値は常に増加し,

それ故に転換点がない23.それにもかかわらず,税率引き上げによって元の政 府支出の流列をファイナンスすることはできないかもしれない.この結果が示 しているのは,一つの経済において税収を比較するという観点からは,税収の 現在価値の大きさを比較することには意味がないということである.

対照的にIreland (1994)は,異なった課税水準にある一つの経済において,元

の政府支出の流列をファイナンスすることに焦点をあてている.Ireland (1994) の実験は以下の通りである.経済が τ0の税率で定常状態にあると仮定しよう.

このとき,γ0 = (1−τ0)A−δν0 =γ0−ρが成立し,政府予算は毎期均衡し ている.Ireland (1994)は,税率をτ0 から τ1(τ1 < τ0)に引き下げて,元の政 府支出の流列{g eν0t}を維持することが可能かどうかを問うている24.したがっ て,Ireland (1994) は暗黙のうちに(b)を想定しているのである.PVRと元の

AKモデルのケースでは,成長率関数ν(τ)が線型であるから,この不等式は決して成立しない.

例えば,もしν(τ)が厳密に凹ならば(図2Aを参照),たとえ低いτに対して成長率効果が相 対的に小さくても,この不等式が成立する可能性がある.さらに,税率が高くなるにつれて初 期の課税ベースAK0 が小さくなるならば,転換点を得る可能性がさらに高くなる.Pecorino

(1995)のケースでは内生的労働供給を仮定しているので,この事態が生じている.この議論の

詳細とより一般的なケースの議論に関しては,付録Bを参照.

22Pecorino (1995)Ireland (1994)よりも弱い成長率効果を捉えるために,二部門内生的成 長モデルを用いている.ある一つの経済において様々な税収流列の現在価値を比較するために は,税率変化後の利子率の流列の全ての動きを考慮に入れなければならないし,それ故に移行 径路を分析しなければならない.Pecorino (1995)は移行径路を分析しようと試みていないの で,異なった経済にわたって税収の現在価値を比較することに自身の分析を限定している.

23(3)式において,PVR PVR=AKρ0τとして表される.

24各期の政府予算の赤字は公債の発行によってファイナンスされると仮定している.公債の中 立命題によって,この公債を一括固定税で置き換えることができる.したがって,Ireland (1994) の実験は以下のようにも表すことができる.所得税で税を徴収し,一括的移転支出でそれを返 還する.もしこの税収が政府支出の元の必要水準に達しないならば,残りの税収を一括固定税 で徴収し,一括的移転支出でそれを返還する.所得税で徴収された税収が政府支出の元の必要 水準を上回るならば,同様の議論がまた適用される.一括固定税の性質により,この経済は,税 収を所得税のみで徴収し,それを一括的移転支出で返還する経済と同値である.したがって,明 示的に公債を考える必要もないし,毎期政府予算が均衡しないことが経済活動に与える効果に ついても考える必要はない.

ドキュメント内 課税の経済分析 (ページ 81-91)