オーガナイザー/座長:
大石 智
北里大学座長:
下村 裕見子
北里大学大学院医療系研究科身体疾患のために総合病院へ入院した人に精神症状があることはありふれています。せん妄状態、認 知症状態はその代表例といえるでしょう。しかし総合病院で用いられているクリニカルパス(以下、パス)
のBasic Outcome Master(以下、BOM)に、精神症状の用語は十分に整備されていません。このことは 精神科医療でパスを活用することにも影響します。精神症状があっても提供される医療の質が評価され、
改善されるためには、BOMに精神症状の用語を増やす必要があります。
こうした中で、標準化委員会の中に精神症状関連BOMを開発するワーキンググループ(WG)が発足 しました。本WGではBOMにはない精神症状の用語の中で、総合病院になじみのあるせん妄状態、認 知症状態の用語の検討から開始されました。この精神症状関連BOMが実装されることは、総合病院で せん妄状態、認知症状態のある人が適切な医療を受けることの実現に寄与すると期待されます。
本シンポジウムでは精神症状関連BOMの開発経緯を踏まえ、多職種からの報告、議論を通し、BOM に精神症状の用語を増やす上での課題を整理し、未来を描きたいと思います。大石は精神症状にまつわ る用語の課題と本WGの経緯について述べます。吉本は総合病院での経験をもとに、せん妄状態、認知 症状態のある人への看護における課題と、精神症状関連BOMへの期待について述べます。谷島はがん センターで食道がん手術後せん妄のパスを運用しバリアンス解析や調査をした経験から、用語の表現に おける課題と解決のための取り組みについて述べます。松原は精神科病院でBOMを用いたアウトカム 志向型パスを導入した経験をもとに、見出された課題と効果について述べます。中川は高齢者の地域包 括ケアの鍵になる精神保健福祉士として、認知症クリニカルパスの開発、運用に携わった経験から見出 された課題と、精神症状関連BOMへの期待について述べます。井川は電子カルテ開発者の立場で、総 合病院における電子化パスの精神症状関連BOMにおける課題と方向性について述べます。
総合討論では特にせん妄状態、認知症状態のアウトカム、観察項目、タスクにおける用語の標準化を 中心に議論します。診療科、職種の垣根を超えて学びあう本シンポジウムでの議論が、精神症状関連 BOM開発と実装に寄与し、身体と心の両面で変化が生じた人がアクセスする医療、支援の質が向上す ることを願うばかりです。
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精神症状にまつわる言葉の課題と
精神症状関連BOMへの期待 周術期パスにおけるせん妄ケアの標準化と 精神症状 BOM への期待
大石 智
(おおいし さとる)11学校法人北里研究所北里大学医学部 精神科学
吉本 千鶴
(よしもと ちづる)11公立大学法人大阪 大阪市立大学医学部附属病院 看護部
【はじめに】
せん妄状態など精神症状のある人は病院、病 棟の種類を問わず存在する。しかしクリニカルパスの Basic Outcome Master(以下、BOM)に、精神症状の用 語は十分に整備されていない。
【活動内容】
精神症状関連BOMを開発するワーキンググ ループが2018年10月13日に発足し、せん妄状態、認知 症状態を対象に検討が開始された。
【考察】
身体科から「BPSDへの加療」という依頼を受けるこ とがある。BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)とは認知症の行動・心理症状の略称だが、
実際にはせん妄状態による行動変化であることは少なく ない。このように精神症状に関連する用語の理解は人に より差異がある。せん妄状態と認知症状態の予後は全く 異なる。用語とその理解が標準化されていないと、誤解 が生じ提供している医療の質に影響を与えかねない。精 神症状に関連した用語がBOMに追加されることは、精 神症状もある人へ提供される医療の質向上につながるこ とが期待される。ただし精神症状のある人では、症状と 付き合いながら安心して生活できること、生きづらさが 周囲に理解できること、孤立しないことが支援の重要な 目標になることが少なくない。こうした状態に関連する アウトカム、観察項目の用語をどのようにBOMに落とし 込むかについても、今後は検討される必要がある。
【結論】 精神症状関連BOMの検討は、せん妄状態、認知 症状態のように一般医療でもなじみのある領域から開始 された。いくつかの課題を越えて取り組むことは、精神 症状がある人にも良質な医療を提供するために重要とい える。
当院は、大阪市内唯一の大学病院であり、高度な総合 医療機関としての役割を担っている。60歳以上の高齢者 が入院患者の6割を占めており、80歳以上の患者の手術 も増えている。2025年に向け、この割合は増加傾向にあ る。高齢者の術後で問題視されるのがせん妄である。せ ん妄は、高齢や軽度認知障害といった準備因子に環境の 変化や心理的ストレスといった促進因子、手術侵襲など の直線因子が複合的に関係しあって発症するといわれて いる。そのため、これからの周術期ケアにおいてせん妄 ケアの重要性はより高まってくると考える。せん妄ケア において、せん妄リスクを低減させ、重症化に移行させ ないようにするためにはせん妄にいち早く気付き、予防 ケアを行うことが必要であるといわれており、せん妄の 特徴の中でも日内変動の把握は、24時間患者の観察・記 録を行っている看護師にしかできないことである。
BOMでせん妄症状がアウトカムとして実装されれば、
せん妄の症状が観察項目として網羅されるため評価に必 要な症状を継続的に観察でき、日内変動を踏まえた評価 につなげることができる。また、DSTやCAMなど別の ツールを併用することなく、アウトカム評価の際に客観 的な評価が可能となる。さらに、せん妄リスクの高い手 術には標準設定することで経験年数や部署に関わらずケ アが標準化され、医療の質向上を図ることができる。当 院では、せん妄に関するアウトカムは存在しておらずパ スで標準化は図れていない。せん妄のリスク評価をはじ め、ケアに関する取り組みは部署ごとで温度差があり、
統一されていない現状にあり、今回の取り組みに寄せる 期待は大きい。
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食道がん術後せん妄ハイリスクパスの
評価と修正の検討 精神科病院で BOM を用いた
アウトカム志向型パス導入の課題と効果
谷島 和美
(やじま かずみ)1、高橋 有子
2、伊藤 知美
2、 下小牧 明香
2、佐藤 愛梨
2、尾形 高士
3、横尾 実乃里
4、 上遠野 千夏
21神奈川県立がんセンター 緩和ケアセンター、2同 看護局、
3同 消化器外科、4同 精神腫瘍科
松原 拓郎
(まつばら たくろう)11社会医療法人財団松原愛育会松原病院 精神科
【はじめに】
当院では、2016年2月より食道がん手術を 受ける患者の、術後せん妄に焦点を当てた多職種介入プ ログラムを導入した。そのプログラムの一環として、看 護師が患者の術後せん妄を早期に発見し、適切な医療と 看護を提供するためのクリニカルパスを稼働している。
本クリニカルパスは2019年4月までに81名の患者に適 用された。
【概要】
本研究はバリアンス分析と看護師に対するアン ケート調査を用いて、クリニカルパスのアセスメントの 表現に関する課題を抽出することを目的とした。バリア ンス分析の結果、バリアンスの発生は術後2日目から4日 目に集中しており、看護師は「点滴やドレーンを気にせず 動いてしまう」などの注意・集中力の低下をバリアンスと し、せん妄症状をアセスメントしていることが明らかと なった。看護師に対するアンケート調査から、「周囲の音 や看護師の動きに気をとられる」、「感情が短時間でころ ころ変わる」などの表現が、せん妄と評価しにくいと回答 していた。
【考察】
バリアンス分析から、看護師は観察から得られや すいアセスメント項目で、せん妄を捉える傾向があると 考えられた。また表現が似ているアセスメント項目や、
看護師の主観に左右されやすいアセスメント項目を、看 護師は評価しにくいとしており、アセスメント項目の表 現に課題があることが考えられた。
【結論】
本研究で得られた結果をもとに、クリニカルパス のさらなる質の向上に向けた修正を行い、その有用性に ついて検討するとともに、他の疾患への応用についても 検討する予定である。
クリニカルパス学会は2011年に患者アウトカムの基本 マスター(BOM)を作成したが、BOMは精神科ではほと んど使用されてこなかったこともあり、精神科領域での BOMの適応性の報告は過去に認められていない。本発 表では、精神科病院におけるBOMを用いたアウトカム 志向型パスの作成ならびに実践の経験をもとに、精神科 領域の疾患に対してBOMを用いたアウトカム志向型パ スを導入する過程において、生じうるであろう課題と効 果について報告を行う。
作成過程においてとくに困難を感じた課題が、我々が 設定を検討していたアウトカムの半分近くがBOMに対 応していないことであった。精神科領域の疾患は他科と 比べると再発や再入院が多く、治療をしても症状が寛解 せず残遺してしまうこともよく認められるため、単なる 症状の改善によってのみで治療結果が評価されるわけで はなく、退院後に地域で安定した生活をおくることがで きるかによって治療結果が評価されることが多い。その ため、精神科では他科に比べて環境調整や社会生活能力 の獲得に時間をかけることが多く、その治療過程には精 神科独自の特徴が存在している。このような点がBOM の適応性に影響していたものと考えられる。
一方、我々がパスを導入後に生じた効果として、最も 大きかったものと考えているのが、看護師の記録業務が 大きく軽減したことである。精神科においては、全ての 看護業務の中における記録業務の割合は他の分野に比べ ると極めて高く、その点から考えると、精神科領域はア ウトカム志向型のクリニカルパスを導入することによる 恩恵を得やすい分野であるといえよう。
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ドキュメント内
第20回日本クリニカルパス学会学術集会抄録集
(ページ 74-78)