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2 欧州各国における電力・ガス小売市場の競争評価

2.3 ドイツ

2.3.3 競争状況レビューにおける評価指標及び評価軸

BNetzA は、2005年改正エネルギー事業法(EnWG)に基づき2005年7月に設立された組織

であり、連邦経済技術省(BMWi: Bundesminiterium für Wirtschaft und Technologie)79の外局とし て位置付けられている。BNetzAは、2005年改正エネルギー事業法第35条に基づき、2006 年より毎年、市場監視報告書(Monitoringbericht80)を発表しており、卸市場・小売市場を電力・

ガス市場における競争環境等について分析を行っている。なお2012年版からは、市場監視 報告書は、BNetzA と連邦カルテル庁(BKartA: Bundeskartellamt)81の共同作業となっており、

2013年5月には初の共著となる「2012年版市場監視報告書 (Monitoringbericht 2012)」が発 表されている。

2.3.3.2 評価指標の実績数値及び評価結果~電力小売市場 (1) 評価指標及び評価軸の変遷

先述の通り、ドイツ市場監視報告書は、2012年版以降、BNetzAとBKartAによる共同と なっている。以下、当該報告書における評価指標及び評価軸の変遷について、以下の 2 つ のフェーズに区切って示す。

・ BNetzA 単独実施(2006~2011年)

・ BNetzAとBKartAによる共同実施(2012年以降)

(2) 市場監視報告書における実績数値及び評価結果 1) BNetzA 単独実施(2006~2010 年)

2006年8月、BNetzAが公表した2006年版市場監視報告書では、評価指標として需要家 規模、スイッチング率、電力料金内訳などを利用しており、これらを基本指標としつつ年 を経るごとに様々な評価指標を用いるようになった。基礎的供給者制度の運用が2007年1 月より開始されたのに伴い、2008 年版市場監視報告書からは需要家の契約状況に関する評 価指標が追加された。また2010年版市場監視報告書では、需要家種別の料金推移、地域ご との供給事業者変更率、契約形態、グリーン電力割合などが新たに追加された82

2) BNetzA と BkartA による共同実施レポートによる評価指標及び評価軸

2012 年版市場監視報告書からは、前年までの評価指標に加えて、需要家種別に応じた分 析が実施されている。2016年3月に公表された2015年版市場監視報告書において利用され

79 <http://www.bmwi.de/English/Navigation/ministry.html>

80<http://www.bundesnetzagentur.de/cln_1422/EN/Areas/Energy/Companies/DataCollection_Monitoring/Archived%

20Data/Archived_data-node.html;jsessionid=CF10A1439532D4352148C493543CBAF8>

81 <http://www.bundeskartellamt.de/DE/Home/home_node.html>

82なお2011年市場監視報告書からは、電力のサブセクションで取り扱かわれてきた小売部門が独立した章 で扱われる。

る評価指標を以下に示す。

① 小売供給事業の構造と供給事業者数 (小売供給事業の構造)

2015 年版市場監視報告書では、小売供給事業の構造について、小売供給事業者の抱える 顧客数(管轄するメーターポイント83の数)という観点から分析を実施している。実績では全

体で約 1,100 事業者のうち、メーターポイント数が 30,000 を下回る小規模事業者数は 867

事業者となっており、81%を占めている。一方、メーターポイント数が100,000を上回る大 規模事業者数は85事業者となっており全体の7.7%に過ぎない84

図 2-34 ドイツ電力小売供給事業の構造~顧客規模別の小売供給事業者数 (出所)BNetzA、BKartA「Monitoring Report 2015」

(各配電地域に存在する小売供給事業者数)

2015 年版市場監視報告書では、各配電地域(network area)に存在する小売供給事業者数と いう観点から分析を実施している。2014年時点では、ドイツ全体で793の配電地域の内、

50社以上の供給事業者が存在する配電地域は649箇所となっており、81.8%を占めている。

2007年時点において当該数値は23.1%に過ぎず、ここ数年で大きく増加している。

83 “請求を目的とした、ネットワーク上の電力・ガスの流量記録箇所”として位置づけられる。

84 このような大規模事業者が管轄するメーターポイント数は3,580万件となっており、全メーターポイン

ト数の73%を占めている。

199

399 269

121 67

18

0 100 200 300 400 500

0~1,000 1,000~10,000 10,000~30,000 30,000~100,000 100,000~500,000 500,000

(事業者数) 顧客規模

(メ ー ターポイント数)

図 2-35 ドイツにおける各配電地域に存在する小売供給事業者数の規模別構成比 (出所)BNetzA、BKartA「Monitoring Report 2015」

また2014年時点において、最終需要家にとって、各配電地域内で選択可能な小売供給事 業者数は平均106事業者となっており、2013年93社事業者から13件増加している85

(小売供給事業者の事業展開する配電地域数)

小売供給事業者の中には広域的に事業を展開するものあるが、2015 年版市場監視報告書 では、小売供給事業者がサービスを提供する配電地域数という観点から分析を実施してい る。分析対象となった992事業者のうち、10以下の配電地域にしかサービスを実施しない 事業者数は549社となっており、全体の55.3%となっている。なお1つの配電地域にしかサ ービスを実施しない事業者も156社存在しており、15.7%を占めている。一方で、ほぼドイ ツ全土に渡る500以上の配電地域にサービスを提供する事業者も56社存在しており、5.6%

を占めている。

85 当該数値を家庭用需要家だけにフォーカスすると97件となっており、201380事業者から17件増加 している。

1.9% 0.6% 1.3% 1.5% 1.3% 1.2% 0.5% 1.4%

23.1%

16.8% 10.8% 8.3% 7.2% 6.7% 8.7% 5.9%

51.9%

49.0%

37.6%

27.6%

17.9% 15.7% 11.0% 10.8%

19.4%

28.4%

40.5%

48.3%

50.4%

43.1%

39.4%

32.4%

3.7% 5.3% 9.9% 14.3%

23.2%

33.3%

40.3%

49.4%

0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

60.0%

70.0%

80.0%

90.0%

100.0%

2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014

100 51~100 2150 220 1 各配電地域に

存在する 小売供給事業者数

図 2-36 ドイツ電力小売供給事業者がサービスを提供する配電地域数 (出所)BNetzA、BKartA「Monitoring Report 2015」

② 契約形態とスイッチング (契約形態)

ドイツにおける電力小売契約形態は、以下の3つに分類される。

・ 基礎的供給事業者からの基礎的供給契約(default supply contract)

・ 基礎的供給事業者からの自由料金契約(special contract with the default supplier)

・ 基礎的供給事業者以外の供給事業者との自由料金契約(contract with a supplier who is not the local default supplier)

メータによる検針を実施している非家庭部門需要家86についてみると、全需要量 268TWh のうち、基礎的供給事業者からの基礎的供給契約にとどまっている需要家は僅か 0.8 TWh (0.3%)となっている。ほぼ全ての需要家が自由料金契約を選択しているが、そのうち基礎的 供給事業者以外の供給事業者と契約している需要家が177TWhと66.0%を占めており、基礎 的供給事業者との自由料金契約は90TWh(33.6%)となっている。

一方家庭部門需要家についてみると、全需要量123.TWhのうち、基礎的供給事業者から の基礎的供給契約にとどまっている需要家は40.5 TWhとなっており、32.8%を占めている。

自由料金契約となる 83.1TWh(67.2%)のうち、基礎的供給事業者以外の供給事業者と契約し ている需要家が 53.4TWh と 43.2%を占めており、基礎的供給事業者との自由料金契約は 29.7TWh(24.0%)となっている。

86 ドイツにおける料金請求はメータによって実績使用量(lord profile)を記録するinterval–meteredと、典型的 な負荷プロファイルに基づいて消費量を推計するSLP(standard lord profiles)の2種類が存在する。産業部門 においてはほぼすべての顧客が前者となっている。

156

393 230

116 41

56

0 100 200 300 400 500

1 2~10 11~50 51~250 251~500 500~

(事業者数)

配電 地域数

表 2-13 ドイツにおける電力小売の契約形態の内訳(2014年)

(出所)BNetzA、BKartA「Monitoring Report 2015」

(供給事業者変更件数・供給事業者変更率)

2015年市場監視報告書では、需要家分類について年間電力消費量に応じて、以下の3つ の区分に分類している。

・ 分類1: 年間電力消費量2GWh/年以上(主に産業用需要家に相当)

・ 分類2: 年間電力消費量10MWh以上~2GWh/年未満 (様々な非家庭部門需要家に相当)

・ 分類3: 年間電力消費量10MWh未満 (主に家庭用需要家に相当)

2014年における各分類における供給事業者変更状況を示す。

表 2-14 ドイツにおける電力小売供給事業者変更状況の内訳(2014年)

(出所)BNetzA、BKartA「Monitoring Report 2015」

年間電力消費量が10MWh以上である需要家(分類1と分類 2)について、供給事業者変更 率推移(消費量ベース)を見ると2014年は11.0%となっており、2013年12.1%と比較して1.1%

減となっている。なお2006年以降、当該分類の供給事業者変更率は、10.4~12.5%の間で推 移しており、概ね安定している。

一方、家庭部門における供給事業者変更件数は、転居等に伴う者も含め 2014 年は 377.4 万件に達しており、2013年359.4 万件と比較して17.9万件の増加となっている87。2006年 以降、家庭部門における供給事業者変更率は、概ね上昇傾向にある。

87そのうち、供給事業者変更件数(転居除く)は264.1万件となっており、2013年比4.3%の増加となっている。

TWh 構成比 TWh 構成比 TWh 構成比

基礎的供給契約 0.8 0.3% 40.5 32.8% 41.3 10.6%

177.0 66.1% 53.4 43.2% 230.4 58.9%

基礎的供給事業者以外 90.0 33.6% 29.7 24.0% 119.7 30.6%

267.8 100.0% 123.6 100.0% 391.4 100.0%

全部門

合計

供給主体 非家庭部門 家庭部門

基礎的供給事業者

自由料金契約 契約形態

2GWh/年以上 2,627 12.3% 25.3 10.4%

10MWh以上~2GWh/年未満 203,504 9.5% 15.1 12.1%

10MWh未満 2,902,558 6.1% 7.9 6.6%

メーター ポイント数(件)

各分類に 占める割合

電力取引量 (TWh)

各分類に 占める割合 需要家区分

注: 2011,2013年については供給事業者の破綻に伴う供給事業者の変更が多数発生した。このため、破綻に 伴う供給事業者件数を50万件程度と推計して補正を行っている。

図 2-37 ドイツ家庭部門における供給事業者変更件数の推移(電力) (出所)BNetzA、BKartA「Monitoring Report 2015」

表 2-15 ドイツ家庭部門における供給事業者変更件数内訳(電力) (2014年)

(出所)BNetzA、BKartA「Monitoring Report 2015」

③ 供給停止通知、供給停止

電力基礎的供給規則(StromGVV) 88に基づき、基礎的供給事業者は、需要家が電気料金の 支払いを 100 ユーロ以上滞納し、その後適切な通達を実施した場合において、需要家への 供給を停止することができる。BNetzAによる事業者調査89によると、2014年における基礎 的供給事業者による供給停止通知件数は 633.2 万件となっており、その 21.8%に相当する

137.9 件について DSO に対して供給停止要請を実施している。最終的に供給停止にまで至

ったのは、供給停止通知件数の5.6%に相当する35.2万件となっている。この供給停止件数 35.2万件は、2011年以降最も多い数値となっており、前年比2.0%増加となっている。

88 <http://www.gesetze-im-internet.de/stromgvv/>

89 配電事業者(DSO)739社、小売供給事業者887社から得られたデータをもとに分析を実施。

678 1,134

1,806 1,745

2,267 2,484 2,578 2,533 2,641 220

305 443

443

592 646 1,061 1,133

678

1,354

2,110 2,188

2,710 3,076

3,224 3,594 3,774

0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 4,000 4,500

0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 4,000 4,500

2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 (千件)

事業者破綻に伴う補正分 供給事業者変更件数(転居) 供給事業者変更件数(転居以外) 合計

500

500

転居 2,641,397 5.6% 8.2 6.8%

転居以外 1,132,928 2.4% 2.4 2.0%

合計 3,774,325 8.0% 10.6 8.8%

件数ベース 電力消費量ベース

件数 家庭用需要家に

占める割合

家庭用需要家に 占める割合

TWh

図 2-38 家庭部門における供給停止通知件数、要請件数、停止件数(電力) (出所)BNetzA、BKartA「Monitoring Report 2015」

④ 料金水準 (非家庭部門)

2015 年版市場監視報告書では、非家庭部門における電力料金レベルについて、以下の 2 つの需要家に分類の上、分析を実施している。

・ 分類1: 年間電力消費量24GWh/年程度(産業部門需要家に相当)

・ 分類2: 年間電力消費量50MWh/年程度(業務部門需要家に相当)

産業用需要家(年間電力消費量 24GWh/年程度)における 2015 年平均電力価格90は、14.80

ct/kWhとなっている。内訳を見るとEEG負担額が6.17 ct/kWhと最も大きく42%を占めて

いる。ネットワーク関連料金や許可料・その他負担額、税金などを全て合算すると 10.61

ct/kWhとなり、電力料金全体の70%程度となる。小売供給事業者からの調達分は残りの4.19

ct/kWhであり、従って、小売供給事業者により影響を受ける金額は30%程度となっている。

一方、業務用需要家(年間電力消費量50MWh/年程度)における2015年平均電力価格91は、

21.47 ct/kWhとなっている。内訳を見るとEEG負担額が6.17 ct/kWhと最も大きく29%を占

めている。またネットワーク料金も 5.44 ct/kWh となっており産業部門と比較すると 3.38

ct/kWh ほど高くなっている。ネットワーク関連料金や許可料・その他負担額、税金などを

全て合算すると15.5ct/kWh程度となり、産業部門と同様に電力料金全体の70%程度となる。

90 年間電力消費量が10~50GWh/年となる需要家が1件でも存在する小売供給事業者が対象。そのうち計 212の事業者から電力料金データの提供を受け分析を実施し、年間電力消費量24GWh/年における平均電力 料金を算出。

91 年間電力消費量が10~100MWh/年となる需要家が1件でも存在する小売供給事業者が対象。そのうち計 827の事業者から電力料金データの提供を受け分析を実施し、年間電力消費量50MWh/年における平均電力 料金を算出。

6,075

5,679

6,996

6,333

1,255 1,180 1,477 1,379

312 322 345 352

0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000

2011年 2012年 2013年 2014年

(千件)

通知件数 要請件数 停止件数