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2 欧州各国における電力・ガス小売市場の競争評価

2.6 スペイン

2.6.2 料金規制の存廃状況

2.6.2.1 電力小売市場

(1) ラストリゾート料金

自由化当初、需要家は自由市場か、並在するラストリゾート料金市場で供給を受けるこ ととなった140

旧規制料金は段階的に廃止された。契約電力1kV以上の高圧料金のうち、運送用料金が

2007年1月に廃止されたのを皮切りに、2007年7月には灌漑用料金、2008年7月には短期/中期

/長期契約、2009年7月には配電会社向け及び超高圧需要家向けが廃止された。契約電力1kV 以下の低圧規制料金は2009年7月に廃止されたが、このうち契約電力10kW以下の需要家は、

代わりにラストリゾート価格で電力供給を受ける権利を有することとなった141。スペイン

政府は、5大グループを“ラストリゾート供給会社”に指定し、希望者への供給を義務付けた。

ラストリゾート価格は、発電費用、系統利用費用(送配電費用、システム費用(エネルギー 規制委員会等の運営コスト)、再エネ買取費用、過去の赤字)、供給売上費用(検針費用等)の

138 Real Decreto 1914/1997, de 19 de diciembre, por el que se establecen las condiciones de acceso de terceros a las instalaciones de recepción, regasificación, almacenamiento y transporte de gas natural

<https://www.boe.es/diario_boe/txt.php?id=BOE-A-1998-552>

139 < https://www.boe.es/buscar/act.php?id=BOE-A-1998-23284&b=127&tn=1&p=20070703>

140 1998年炭化水素法は、一度自由料金市場を選択した需要家が規制料金市場に戻ることを認めていた。

141 CNE「Electricity Tariff Structure:The Spanish case」

<http://www2.aneel.gov.br/arquivos/PDF/El%20Sistema%20tarifario%20en%20Espa%c3%b1a%20(ingl%c3%a9s)%

20-%20MARTI.pdf>

見通しに基づいて政府により決定された。政府はラストリゾート価格を四半期ごとに、系 統利用価格を年一回見直した。ラストリゾート価格の改定では、1か月前の卸電力価格の予 想に基づいて発電費用を設定した。

(2) 競争移行費用

1997年電力法では、自由化に伴う回収不要費用の取扱いについて定め、最長で10年間、

競争移行費用(CTC: Competitive Transition Charges)を電気料金から回収することを認めた。

CTCの算定では、まず各発電所を経済運転可能な期間運用した場合に発生する費用の総額142

と、市場から期待される収入との差を所定の方法論に基づいて求める。その後、10年間で 見込まれる効率改善効果や割引率等を控除し、期間内に回収すべき総額を定めている。1998 年、政府と電力会社はCTCの総額の上限額と回収方法について協定を結んだ。総額1兆6,000 億ペセタの回収不能費用を巡り、以下の内容の協定が結ばれた。

・ 最大で2500億ペセタ程度の削減努力をする。

・ 最低でも1兆ペセタの回収を政府が保証し、電力会社はこの保証を証券化できる。

・ 市況が許すならば、2,500億ペセタ程度の上積みを認める。

・ 証券化を通じて総額上限を上回る補償を得たと判断された場合、政府は消費者への 還元手続きを構築する143

CTC制度は、2006年6月に廃止された。

(3) タリフ損失問題

タリフ損失(Tariff deficit)とは、電力の小売規制価格の設定が実際の電力会社の費用に比べ 低く設定されるために生じる収入不足の総称である。EUで広く問題となっているが、スペ インは特に深刻な状況にあり、規制料金市場での累積赤字は、2013年時点で300億ユーロを 超えた。2000年から2006年頃まで、この損失は主に発電費用が規制価格決定時の予想を超 えて高騰したことによって生じていた。2008年頃からは、政府の予想を上回る量の再生可 能エネルギーが導入されるようになり、系統利用価格に算入された再エネ買取費用を超過 することで、損失を生み出すようになった。赤字解消に向け、2007年には電力調達方法に オークション方式を追加したが、調達価格の低下に結びつかなかったため、2014年3月を最 後に廃止された。

142 政策的に進められていた国内炭の利用に伴う追加的費用も含まれる。

143 20086月、当時のエネルギー規制委員会(CNE:Comisión Nacional de Energía)は34億ユーロが過剰に徴 収されたと推計し、需要家への返還が必要だと指摘した。

<http://cincodias.com/cincodias/2008/07/02/empresas/1215005981_850215.html>

図 2-66 スペインのタリフ損失発生推移(2000年-2013年)

(出所)欧州委員会Economic Paper 534 「Electricity Tariff Deficit: Temporary or Permanent Problem in the EU? 144

図 2-67 スペインの系統利用料金推移(2000年-2013年)

(出所) 欧州委員会Economic Paper 534 「Electricity Tariff Deficit: Temporary or Permanent Problem in the EU?」

(4) 電気事業改革と小規模需要家のための自発的料金制度(PVPC)への移行 2013年7月、産業エネルギー観光省(MIET: Ministerio de Industria y Energía y Turismo)は、電 気事業の赤字問題解消を主な目的とする電気事業改革の概要を発表した145。この改革によ り、ラストリゾート料金制度は2014年4月から「小規模需要家のための自発的料金制度 (PVPC: Precio Voluntario para el Pequeño Consumidor)」へと移行した。PVPCは、卸電力価格 を1時間ごとに反映して小売料金単価が変わる変動料金制度であり、“参照小売会社”の資格 を与えられた5大グループの小売会社(旧ラストリゾート供給会社)が供給事業者となる。

PVPCの料金計算に使用される卸電力の平均時間単価は、前日市場及び当日市場第一セッシ ョンの結果に応じて計算され、OMIE146のウェブサイトで発表される。

144 <http://ec.europa.eu/economy_finance/publications/economic_paper/2014/pdf/ecp534_en.pdf>

145 MIET「Reforma del Sistema Eléctrico: Una reforma necesaria」

<http://www.minetad.gob.es/es-es/gabineteprensa/notasprensa/2013/documents/presentacion_reforma%20el%C3%A 9ctrica120713_v5.pdf>

146 <http://www.omie.es/inicio>

■ラストリゾート供給費用

■ラストリゾート供給収入

■タリフ損失 百万ユーロ

■過去の赤字

■島嶼部費用

■再エネ買取費用

■配電費用

■送電費用 百万ユーロ

図 2-68 PVPCの料金計算根拠となる平均時間単価の公表状況

(出所)OMIEウェブサイト147

2.6.2.2 ガス小売市場

1998年炭化水素法は、2007年7月の改正で、規制料金制を廃止し、ラストリゾート料金制 へ移行した。2008年7月1日で全規制料金が廃止され、家庭を中心とする小規模需要家のみ を適格需要家とするラストリゾート料金制が開始し、契約者は順調に自由料金市場へと移 動していった。2015年時点で、全760万口の需要家のうち、77%が自由料金市場でガス供給 を受けている148。市民を対象とする販売事業者間の競争は、CNE(当時)による価格比較ツー ルの整備等により2006年以降急速に活発となった。市民はWebサイト上で、郵便番号、年間 消費量等を入力することにより、その地域で最も安い販売事業者およびその料金の試算を 知ることができる。これら規制機関による情報提供により、事業者を変更する契約者は年々 増加し、欧州の中でも比較的高いスイッチング率を達成している。

炭化水素法2007年改正の際、ラストリゾート価格は①原材料費、②流通設備アクセス料 金、③マーケティング費用、④供給確保に係る費用を含むものとされ、その詳細な計算方 法と更新の考え方については2009年指令1660号149で規定された。このうち原材料費は、国 際市場における天然ガス価格(ヘンリーハブ価格またはNBPベース)、長期需要契約に基づく 費用(ブレント価格、為替差損益)、ラストリゾート料金用のガス取得価格(オークション方

147 <http://www.omie.es/files/flash/ResultadosMercado.swf>

148 CNMC「INFORME DE SUPERVISIÓN DEL MERCADO DE GAS NATURAL EN ESPAÑA año 2015」

<https://www.cnmc.es/LinkClick.aspx?fileticket=bdOnSt89VJI%3d&amp;tabid=806&amp;portalid=0&amp;mid=23 71&amp;language=es-ES>

149 Orden ITC/1660/2009, de 22 de junio, por la que se establece la metodología de cálculo de la tarifa de último recurso de gas natural

< https://www.boe.es/diario_boe/txt.php?id=BOE-A-2009-10329>

式にて決定)を組み合わせて算出される。

流通設備アクセス料金の変更は随時反映される。また変動部分については、入札等によ って計算される原材料費の変化率が2%を超えた場合に反映されることとなっており、その 機会は四半期毎と定められている。

表 2-33 ラストリゾート価格の構成要素

構成要素 単位

①原材料費 /kWh

②流通設備アクセス料金

ガス製造料金:固定部分 /月

ガス製造料金:変動部分 /kWh

輸送費用の平均値 /kWh

地下貯蔵設備費用の平均値 /kWh

③マーケティング費用

マーケティング費用:固定部分 /月

マーケティング費用:変動部分 /kWh

④供給確保に係る費用(輸送及び配送設備の予備率確保費用) /月 (出所) ITC/1660/2009等よりMURC作成

2.6.3 競争状況レビューにおける評価指標及び評価軸