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2 欧州各国における電力・ガス小売市場の競争評価

2.2 イギリス

2.2.3 競争状況レビューにおける評価指標及び評価軸

Ofgemは、2015年以降、「Retail Energy Market」として電力・ガス小売市場における包括

的な分析を実施しており、2016年8月には最新版として「Retail energy markets in 201642」が 公表されている。なお卸電力・ガス市場に関しては、小売市場とは別枠組みとなっており、

「Wholesale Energy Market43」として、安定供給、アクセス及び流動性、競争性、投資及び 持続可能性の4つの視点から評価・分析を実施している44

2.2.3.2 評価指標の実績数値及び評価結果~電力・ガス小売市場 (1) 評価指標及び評価軸の変遷

イギリスでは、2002年に料金規制を廃止した後も、Ofgem が毎年、電力・ガス小売市場 の競争評価を実施してきた。2000 年代中盤以降のエネルギー価格上昇を背景として、2008 年10月には、「エネルギー供給調査(ESP: Energy Supply Probe)45」と呼ばれる競争状況レビ ューが実施されており、新たに、エネルギー価格上昇による需要家への影響、更には社会 的弱者の状況、卸電力取引に関する課題等を提示された。さらに 2010 年以降は、「小売市 場レビュー(RMR: Retail Market Review)46」として、ESPにおける成果を踏まえつつ、需要家 の行動、市場シェア、卸電力取引の流動性、事業者の行動、利潤と費用分析、及び零細企 業の市場に焦点を当てて分析が実施された。

2013 年以降、Ofgem は、公正取引庁(OFT: Office of Fair Trading)と競争・市場庁(CMA:

Competition and Markets Authority)47と共同して、小売市場の競争評価に関する検討を開始し

ており、2014年3月には「市場評価状況(SMA: State of the Market Assessment)48」として枠組 み示されている。評価指標及び評価軸の変遷について、以下 3 つのフェーズに区切って示 す。

・ エネルギー供給調査(ESP)(2008年~)

・ 小売市場レビュー(RMR) (2010年~)

・ 市場評価状況(SMA) (2013年~)

42 <https://www.ofgem.gov.uk/publications-and-updates/retail-energy-markets-2016>

43 <https://www.ofgem.gov.uk/publications-and-updates/wholesale-energy-markets-2015>

44 OfgemWebサイトでは、電力価格及びそのボラティリティ、電源別発電量などに加え、契約種別の

bid-offer spreads、Churn Ratioなど市場流動性に関する指標、更には市場シェア、大手電力事業者による技

術別利益率等についても公表している

<https://www.ofgem.gov.uk/monitoring-market/wholesale-market-indicators>

45<https://www.ofgem.gov.uk/gas/retail-market/market-review-and-reform/retail-market-review/energy-supply-probe

>

46 <https://www.ofgem.gov.uk/gas/retail-market/market-review-and-reform/retail-market-review>

47 <https://www.gov.uk/government/organisations/competition-and-markets-authority/abou >

48 <https://www.ofgem.gov.uk/publications-and-updates/state-market-assessmente>

(2) エネルギー供給調査(ESP)

卸電力価格上昇に伴う電気料金の引き上げを背景として、2008年2月、Ofgemは、家庭 用需要家及び小規模業務用需要家を対象として、Energy Supply Probe(ESP)49と呼ばれる小売 市場調査を開始した。当該調査では、市場参加者、需要家、その他利害関係者から小売市 場に係る様々な問題点について意見等を募り、その得られた情報を端緒として、Ofgem が 追加的な情報収集や需要家調査等を実施したものである。2008年10月には「Energy Supply Prove – Initial Findings Report50」として、調査成果が示された。以下、当該調査における主 な評価指標を示す。

1) エネルギー供給市場~市場シェア及び集中度

競争状況を図る構造的指標として、市場シェア及び市場集中度、供給事業者変更率等を 用いて評価を実施している。

① 国内市場シェア (市場シェア)

2008年7月時点で、国内電力市場51においてBig6が99%以上のシェアを占めており、他 の供給事業者のシェア52は僅か0.3%程度となっている。事業者別にみると、British Gas社が 22%と最もシェアが高く、次いでE.ON社、SSE社、RWE npower社、EDF Energy社、Scottish

Power社となっている。一方、国内ガス市場53を見ると、Big6が99%以上のシェアを占めて

おり、事業者別にみると、British Gas社が44%と最もシェアが高くなっている。

(HHI)

自由化当初において、国内電力市場は、14 の地域独占形態であった。各地域の市場シェ

アは12%以下となっており、国全体のHHIも800を下回っていた。自由化以降、既存事業

者が5社に集約されることにより、2002年にはHHIは1,779まで上昇しており、以降はこ のレベルで推移している(2008年6月時点1,735)。

一方ガス市場は、自由化当初は1社独占のためHHIは10,000であったが、2008年6月時

点で2,625まで低下した。このように顕著な低下にもかかわらず、OFTによる定義に基づく

と、寡占状態は継続している。

49 <http://www.ofgem.gov.uk/Markets/RetMkts/ensuppro/Pages/Energysupplyprobe.aspx>

50 <https://www.ofgem.gov.uk/publications-and-updates/energy-supply-probe-initial-findings-report>

51 200712月時点における電力市場需要家数は2,670万件

52 Ecotricity社、First Utility社、Good Energy社、Utilita社など

53 200712月時点における電力市場需要家数は2,240万件

図 2-12 イギリス電力・ガス市場におけるHHI推移 (出所)Ofgem「Energy Supply Probe – Initial Findings Report」

② 地域的市場シェア

Ofgem によると、国全体の市場シェアだけでは、地域独占といったイギリスの過去の市

場特性を明らかにしているとは言えない。電力市場に関して言えば、各地域における既存 事業者(incumbent suppliers)は、2008年時点において、いまだに約50%の市場シェアを持っ ている。一方、ガス市場に関して言えば、既存事業者は、British Gas社に対する主要な挑戦 者となっている。なおBritish Gas 社は、電力市場では、各地域において主要なチャレンジ ャーとなっている。

その結果として、2つの市場では、対称的な動きがみられる。自由化に伴い既存の電力事 業者から離れた顧客の約50%がBritish Gas社に向かう一方で、British Gas社から離れた顧客

の約 50%が、デュアル・フュエル契約を通じて、既存供給事業者へと流れている。結果と

して、既存供給事業者は、電力・ガス市場の双方において、平均して、約 70%の地域シェ アを維持している。

この構造の結果として、地域的市場は電力・ガスの双方においてより集中度が高くなる 結果となり、HHIは国家平均よりも高くなっている。地域平均HHIは電力で3,356、ガスで

3,036となっており、国平均1,735及び2,625と比較すると顕著に高い。

図 2-13 イギリス電力・ガス市場におけるHHI推移(地域的市場) (出所)Ofgem「Energy Supply Probe – Initial Findings Report」

③ デュアル・フュエル供給など

(デュアル・フュエル供給、非デュアル・フュエル供給)

Ofgem による定量的分析結果によると、昨年のスイッチングの約 90%が、結果として電

力とガスを同じ供給事業者とするものだった54。2007年12月時点において、デュアル・フ ュエル供給を受ける需要家数は1,480万件に達しており、これは全ての電力・ガス供給を受 ける事業者の2/3に達している。

このようにデュアル・フュエル供給契約への移行が進んだことにより、約28%(760万件) の顧客のみが、電力とガス供給を別の事業者から受けている。なおこれら顧客の多くは、

既存の電気事業者から供給を受けており、一度も供給事業者の変更をしたことが無い顧客 である。

(地域内供給 vs 地域域外供給)

イギリス電力・ガス市場は、かつての地域独占の影響を強く受けており、顧客は以下の カテゴリに分類することが出来る。

・ 地域内供給(In-area)…当該地域における既存供給者からの供給を維持しているもの(若 しくは、変更を経て戻ったもの)

・ 地域外供給(Out-of area)…当該地域に新規参入した供給事業者から供給を受ける場合。

すなわち、British Gas社、もしくは元々は当該地域において事業展開していなかった他 の供給事業者から供給を受ける場合を意味する

かつての既存供給事業者からの電力供給をベースに考えると、電力で 42%、ガスで 15%

が引き続きIn-areaとなっており、計57%が地域独占を継続している形態となっている。

54 off the gas gridの需要家を除く

④ 支払い方法他

料 金 の 支 払 い 方 法 と し て は 、Direct Debit(DD)55、Standard Credit(SC)56、Prepayment

meter(PPM)57の3種類があり、2007年12月時点における市場シェアはDDが43%、SCが

40%、PPMが16%となっている58

2) 供給事業者変更とその要因

Ofgemによると、供給事業者変更は、競争的エネルギー供給市場における原動力である。

供給事業者を変更することによって、消費者は、供給事業者による価格設定における競争 的制約として機能することができ、また供給事業者によるコスト削減、サービス改善及び イノベーティブな商品開発に向けた強力なインセンティブを提供することが出来るとして いる。

① 供給事業者変更率の推移

イギリスにおける供給事業者の変更は、自由化以降かなりの数に上っている。少なくと

も75%の顧客が、少なくとも1度は供給事業者の変更を実施しており、累計で2,000万世帯

にのぼる計算になる。なおOfgem による消費者調査によると、対象サンプルの 1/4 超が過 去12カ月以内に少なくとも1度は事業者変更を実施している。また2004年1月から2007 年12月にかけて各月の解約率(Churn)は1~2%となっており、年平均で16~17%となってい る。

② 供給者事業者変更率の国際比較及び産業間比較

イギリスの電力・ガスの供給事業者変更率は、他国の競争的エネルギー市場と比較して も最も高い。欧州域内に関して言えば、年間供給事業者変更率は、ノルウェー(12%)、スウ ェーデン(8%)、オランダ(7%)などを凌いで18%となっている。

続いて産業間の比較として、過去 5 年間において供給事業者を変更した人口割合につい てみてみると、電力(54%)及びガス(54%)は、自動車保険(61%)に次いで高くなっており、事 業者変更が比較的進んでいる。

55 前年度の使用量をもとに、定額を毎月支払い、年1回差額を精算する方式

56 使用量に応じた電気代を支払うもの

57 前払でプリペイメントメータを使用するもの

58 この他にもオンラインでの支払状況、price guarantee tariffsの提供状況について分析をしている。

図 2-14 過去5年間において供給事業者を変更した人口割合(産業別) (出所)Ofgem「Energy Supply Probe – Initial Findings Report」

③ 消費者セグメント別の事業者変更率

事業者変更は、初期においては高い社会階層及び中間年齢層の間で進展した。先述の支 払方法別にみると、現状において、PPMによる顧客は、SC及びDDより切り替えが多くな っている。また地域別に事業者変更動向を見ると、スコットランドやウェールズ地方では、

イングランドと比較して事業者変更が遅れている。

事業者変更の頻度を見ると、電力・ガスともに、事業者変更を経験した顧客の内、約半 数が1度きりの変更にとどまっており、何度も変更を繰り返す消費者は稀である。

図 2-15 供給事業者の変更頻度 (2008年7月) (出所)Ofgem「Energy Supply Probe – Initial Findings Report」