• 検索結果がありません。

3 米国各州における電力・ガス小売市場の競争評価

3.4 テキサス州

3.4.3 競争状況レビューにおける評価指標及び評価軸

3.4.3.1 競争状況レビューの考え方 (1) 電力小売市場

テキサス州では、PUCT が電力市場における競争状況を評価している。公益事業規制法

(PURA)第31.003節に基づき、PUCTは、テキサス州における電力市場(卸市場及び小売市場)

の競争評価報告書「Scope of Competition in Electric Markets in Texas」(以下、競争評価報告書) を作成し、テキサス州議会に対して隔年で提出する215,216

なおテキサス電力実体規則(Electric Substantive Rules)217は、テキサスの電力小売市場の実 績評価に用いる情報を PUCT が得るための報告要件を定めており、REPs 等は、 競争市場 指標(competitive market indicators)として定められた項目について報告義務を負うことが示 されている。

(2) ガス小売市場

先述の通り、ガス小売市場における競争的市場環境は、特に形成されていない。TRC の 承認を得た家庭用料金はRRCのホームページに掲載されているが、競争状況レビューに準 じたものは特に実施していない。

214 テキサス州公益事業法典の「第3ガス規則(Gas Regulation)」における「小節A ガス事業規制法(Gas Utility Regulation Act)」において規定される。

215 <https://www.puc.texas.gov/industry/electric/reports/scope/ScopeArchive.aspx >

216 卸電力市場ERCOTに関しては、PUCTに加え、独立市場監視機関(IMM: Independent Market Monitor)

であるPotomac Economics社により、競争状況レビューが実施されている。Potomac Economics社は、月次

報告書として「ERCOT Wholesale Electricity Market Monthly Report」、年次報告書として「State of the Market Report for the ERCOT Wholesale Electricity Markets」を発表しており、基礎的分析に加え、競争パフォーマン ス分析等を実施している。

<https://www.potomaceconomics.com/index.php/markets_monitored/ERCOT>

<https://www.potomaceconomics.com/uploads/ercot_documents/2014_ERCOT_State_of_the_Market_Report.pdf>

217 テキサス州行政法典(Texas Administrative Code)の「第16経済規制(TITLE16 :Economic Regulation)」

の「第二部 テキサス州公益事業委員会(PartⅡ Public Utility Commission Of Texas)」では、各24~28章にお いてPUCTの管轄する公益事業に対する規制内容が規定されている。電気事業に関しては、「第25電力 サービス提供者に適用される実体規則 ( Chapter25 Substantive Rules Applicable to Electric Service Providers)」

として、PUCTによる規制詳細が示されている。

3.4.3.2 評価指標の実績数値及び評価結果~電力小売市場 (1) 評価指標及び評価軸の変遷

PUCT は、1997 年以降隔年で、競争評価報告書をテキサス議会に対して提出している。

当報告書における評価指標及び評価軸は、自由化の進展状況や料金規制である基準価格制 度の変遷によって、大きく変化している。以下、競争評価報告書における評価指標及び評 価軸の変遷について、以下の3つのフェーズに区切って示す。

・ 小売全面自由化以前(1997年、1999年、2001年)

・ 小売全面自由化以降~基準価格制度存続 (2003年、2005年、2007年)

・ 小売全面自由化以降~基準価格制度廃止 (2009年、2011年、2013年、2015年)

(2) 競争評価報告書における実績数値及び評価結果 1) 小売全面自由化以前 (1997 年、1999 年、2001 年)

1997 年の競争評価報告書218では、電力小売市場における競争状況レビューとして、既に 自由化が実施されている大規模産業部門及び商業部門について分析を実施している。当該 報告書は、事業者変更(Bypassing)と費用負担移転(Cost-Shifting)に焦点を当てており、自由化 部門において競争が激化することにより、非自由化部門である家庭部門に対して費用負担 移転が実施される状況について懸念を示している。

また2001年の競争評価報告書では、電力価格の推移、競争的エネルギーサービス、エネ ルギー効率、顧客教育プログラム等について状況を示している。ただ特に定量的な評価指 標及び評価軸などを用いた分析は実施していない。

2) 小売全面自由化以降~基準価格制度存続(2003 年、2005 年、2007 年)

2003 年の競争評価報告書では、電力小売市場に関連する評価指標として、①小売市場の 競争進展に伴う価格への影響、②顧客によるスイッチングの動向等に焦点を当てており、

これは 2005年及び 2007 年の競争評価報告書においても同様の枠組みとなっている219。ま た先述の通り、基準価格制度の緩和の条件として、“当該供給区域内において、新規 REPs

が 40%超の市場シェアを獲得”と設定されていたことを受け、この達成状況に関するレビ

ューも実施されている。

① 小売市場の競争進展に伴う価格への影響

競争評価報告書では、顧客にとって利用可能な選択、電力価格(家庭用電力料金、産業用・

商業用電力料金)、アグリゲーション・プロジェクトの状況等について分析を実施している。

218 PUCT「Electric Power Industry Scope of Competition and Potentially Strandable Investment Report」

219 電力価格に関して、既存REPsによる基準価格料金の比較、PoLR供給事業者による料金なども公表。

この他にも、PoLR供給事業者から供給を受ける顧客事業者数と不払いに伴う供給途絶件数の比較なども実 施している。

(顧客にとって利用可能な選択)

顧客にとっての選択肢の数について着目した指標であり、特にREPs数や提供商品数につ いて評価をしている。家庭用需要家に関しては、送配電事業者(TDU: Transmission and Distribution Utility)によるサービスエリア単位で分析を実施している。

・ 家庭用需要家に対するREPs数、提供商品数(TDUによるサービスエリア単位)

・ 産業・業務用需要家に対するREPs数(州全体)

(電力価格)

家庭用電力価格に関しては、基準価格制度に着目した分析が実施されている。2003 年競 争評価報告書では、基準価格制度導入による節約効果について、TDU によるサービスエリ ア単位で分析されており220、さらに 2005年及び 2007 年競争評価報告書では、基準価格と 競争価格の比較に焦点を当てて分析を実施している。主な評価指標は、以下の通り。

・ 基準価格の時系列推移(企業別)

・ 基準価格と競争的オファー価格(平均及び最安価格)の時系列推移

・ 基準価格と競争的オファー価格(最安価格)の比較(TDUによるサービスエリア単位)

・ 州内電力価格と州外電力価格の時系列推移

図 3-5 基準価格と競争的オファー価格(平均及び最安価格)の時系列推移 (出所)PUCT「Scope of Competition in Electric Markets in Texas 2007」

また業務用・産業用価格に関しては、既存REPs と新規 REPs、それぞれによる平均電力 価格の推移に関する分析が実施されている。

220 この他にも、家庭用需要家が最も安い競争的オファーを選択したと仮定した場合における、追加的節約 効果についても推計

② 顧客によるスイッチングの動向

2003年及び2005年競争評価報告書では、競争的REPsによって提供を受ける需要家数の 推移について、家庭部門、商業部門・業務部門別に分けて分析を実施している。また競争 的REPsによって提供を受ける需要家について、ある時間断面を対象とし221、①家庭用需要 家、②一次電圧レベルの商業用・産業用需要家222、③二次電圧レベルの商業用・産業用需 要家、④電灯の4つの顧客種別に分けてその構成比(需要家数ベース及びMWhベース)を分 析している。

さらにスイッチング率の推移として、上記の4つの需要家種別ごとに、“競争的REPsか ら供給を受ける需要家割合の月別推移”、更には“競争的 REPs の市場シェアの月別推移”

について、TDUによるサービスエリア単位で分析している。

・ 競争的REPsから供給を受ける需要家割合の推移(需要家種別・TDUによるサービスエ リア単位)

・ 競争的REPsの市場シェアの月別推移(需要家種別・TDUによるサービスエリア単位)

図 3-6 競争的REPsから供給を受ける需要家割合の推移(左)、及び競争的REPsの市場シェ アの月別推移(右)(注:家庭用需要家市場)

(出所)PUCT「Scope of Competition in Electric Markets in Texas 2007」

3) 小売全面自由化以降~基準価格制度廃止 (2009 年、2011 年、2013 年、2015 年) 2009年及び2011年の競争評価報告書では、過年度を継承する形で、①小売市場の競争進 展に伴う価格への影響、②顧客によるスイッチングの動向に焦点を当てた分析が実施され ていた。2013 年競争評価報告書からは、顧客によるスイッチングの動向に関しては簡易化 された分析が実施されている。

① 小売市場の競争進展に伴う価格への影響 (顧客にとって利用可能な選択肢)

最新の2015年競争評価報告書では、競争市場における需要家数について部門別(家庭、商 業、産業)について把握するとともに、家庭用電力料金の推移について言及している。また 電力小売市場における重要指標として、供給事業者の数及び多様性を掲げており、TDU に

221 2003年競争評価報告書の場合は20029月、2005年競争評価報告書の場合は20049

222 原文: Primary and Transmission Voltage Level Commercial and Industrial Customer

よるサービスエリアにおける供給事業者数及び競争的オファーの数について分析している。

主な評価指標を以下に示す。

・ REPsの数及び多様性

・ 競争的オファーの数及び多様性

・ 家庭用需要家に供給するREPsの数(TDUによるサービスエリア別)

また事業者変更率に関して、2002 年以降、1 度でもスイッチングした需要家の割合につ いて分析しており、家庭部門90%、大規模非家庭部門97%、小規模非家庭部門91%がスイ ッチング経験があるとしている。

(電力価格)

過去の規制料金と現在の競争料金について、インフレ率を考慮しつつ比較することによ り、競争進展による電力価格の低減効果について評価している。

・ 規制料金(2001年時)と競争料金(現在)の比較(TDUによるサービスエリアにおけるREPs 別)

・ 州内電力料金と州外電力料金の比較(全部門、家庭、商業、産業)

② 顧客不満への対応

PUCTは、顧客からの不満について記録する義務を有しており、その記録は、企業行動と 顧客に対する効果を分析するバロメーターとして利用される。

・ 顧客からの苦情受付件数推移(2005~2014年)

・ 苦情受付から対応までに要した平均日数

・ 顧客からの苦情の類型化(例: 請求、サービス改定、途絶、メータ等)

③ エネルギー効率

電気事業者(Utility)別の電力節約量及びそのコスト削減効果について取りまとめを実施て いる。

④ 顧客教育活動

PUCTは、顧客教育活動として 2001年2月以降、“Texas Electric Choice”キャンペーンを 実施しており、2012年からは供給事業者の比較サイトとしてWebサイト“Power To Choose”

を構築した。2015年競争評価書では、当該サイトの閲覧数等についても集計している。

・ Webサイト閲覧件数、ダウンロード数

・ 節電に係るキャンペーン実施状況

・ コールセンターの活動状況 等

(3) 主要評価指標の長期的推移

1) 供給事業者数及び競争的オファーの数

先述の通り、PUCTは、電力小売市場における重要指標として、供給事業者の数及び多様 性を掲げており、TDUによるサービスエリア(Oncor社、CenterPoint社、AEP Central社、TNMP 社、AEP North社、Syaryland社)における供給事業者数及び競争的オファーの数について分 析している。2015年競争評価報告書によると、2014年9月時点におけるREPsは114事業 者となっており、提供オファー数は300を超過している。

表 3-15 供給事業者数及び競争的オファー数の推移(TDUによるサービスエリア別)

(出所)PUCT「Scope of Competition in Electric Markets in Texas 2015」よりMURC作成

2) 事業者変更率

PUCTは、競争的REPsから供給を受ける需要家割合の推移についても重要指標としてお り、長期的な推移について分析している。当該割合は、小売全面自由化から10年以上経過 した2013年においても増加の一途を辿っている。

図 3-7 競争的REPsから供給を受ける需要家割合の推移 (出所)PUCT「Scope of Competition in Electric Markets in Texas 2013」

2002年 2004年 2006年 2008年 2010年 2012年 2014年 供給事業者数

Oncor 10 12 17 27 38 45 46

CenterPoint 10 11 17 26 36 47 44

AEP Central 7 10 17 27 37 44 45

TNMP 5 8 17 25 35 40 41

AEP North 3 7 17 27 37 40 40

Sharyland - - - - - 10 27

提供オファー数

Oncor 11 14 41 96 233 258 255

CenterPoint 11 12 41 85 233 275 257

AEP Central 8 13 37 91 225 251 234

TNMP 6 11 35 84 222 237 211

AEP North 3 9 36 90 226 234 225

Sharyland - - - - - 41 114