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3 米国各州における電力・ガス小売市場の競争評価

3.1 米国連邦政府

3.1.2 ガス小売市場における自由化動向

3.1.2 ガス小売市場における自由化動向

3.1.2.2 小売市場の概要178 (1) 大口市場

連邦レベルでガス事業を規定する1938年天然ガス法(15 US Code 15B Natural Gas)179にお いて、天然ガスの卸取引は①州際パイプラインを通じて行う天然ガスの輸送、②再販売を 目的として行う州際取引、と定義され、これ以外の取引は小売と定義される。つまり最終 需要家自身による消費目的の取引という意味での小売取引のうち、州際パイプラインを通 じた取引は、米国では卸取引に分類されている。

連邦レベルのガス市場自由化は、1985年に開始された。それまでの基本的な商流は①生 産者、②輸送パイプライン会社、③LDCあるいは公営事業者、④需要家という順であった が、州際パイプライン会社に自主的な輸送機能と販売機能の分離を促し託送サービスを可 能にするOrder 436をFERCが1985年に公布したこと180、更に1992年、Order 636181によって輸 送機能と販売機能の法的分離が規定されたことを機に、州際パイプラインから直接ガスを 購入する大口産業・発電用需要家は、上記③(LDCあるいは公営事業者)を中抜き可能となっ た。このように最終需要家自身による消費目的の取引としての小売大口市場の自由化は、

連邦における卸取引関連規制の一環として進められた。

(2) 小口市場

小口市場の小売自由化は、一般に供給者選択プログラム(Choice Program)と呼ばれる取り 組みが相当する。これは低圧の配給導管を所有・運営し、規制料金によるガス小売を行っ てきたLDCの供給区域内に、家庭用ガス販売サービスを提供する小売事業者の新規参入を 認め、家庭用顧客に対し供給者選択を可能にする措置を指す182

州政府が供給者選択プログラムを導入し、LDCが自社供給区域内へ新規小売事業者を受 入れると、当該LDCの顧客は、供給者選択の権利を有する“適格需要家”となる。LDCは、供 給区域内の全顧客が新規事業者を選択した場合、規制料金でのガス販売小売事業から撤退 できる。しかしほぼ全地域で、LDCは依然新規小売事業者への供給者変更を選択しなかっ た顧客向けに規制料金による都市ガス供給を継続している。

自由化州では、LDCも子会社の設立を通じて、自社の供給区域外において自由に料金や サービス内容を決定できる自由化サービスへの参入が認められている。この、LDCによる 既存供給区域における規制サービスと供給区域外における自由化サービスの分離が、州レ ベルのアンバンドリングである183

178 資源エネルギー庁「平成26年度天然ガス高度利用基盤調査(諸外国におけるガス事業の実態調査)」

179<http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid%3AUSC-prelim-title15-chapter15B&saved=%7CMTUgVS5 TLiBDb2RlIENoYXB0ZXIgMTVC%7CdHJlZXNvcnQ%3D%7CdHJ1ZQ%3D%3D%7C6%7Ctrue%7Cprelim&edi tion=prelim>

180 FERC Order 4361987年に無効化された。

<http://www.eia.gov/oil_gas/natural_gas/analysis_publications/ngmajorleg/ferc436.html>

181 <https://www.ferc.gov/legal/maj-ord-reg/land-docs/restruct.asp>

182 公営事業者の供給区域内の家庭需要家は供給者選択プログラム対象外であり、まだ自由化されていない。

183 既存供給区域におけるLDCの垂直統合構造は残っているにもかかわらず、アンバンドリングという用 語が用いられている点は欧州の場合と異なることに留意が必要である。

(3) 各州における小売自由化の状況

小売自由化に関する権限は州政府に与えられ、取り組み状況は州毎に異なる。自由化を 実施していない州は27州に及ぶ。適格需要家率は、全米で58.3%である。ほぼ100%となっ ているのは10州で、カリフォルニア州、コロンビア特別区、メリーランド州、マサチュー セッツ州、ミシガン州、ニュージャージー州、ニューヨーク州、オハイオ州、ペンシルバ ニア州そしてロードアイランド州である。

参加率は、全米で18.1%である。上位5州はネブラスカ州(100%)、ジョージア州(99%)、フ ロリダ州(93%)、オハイオ州(78%)そしてワイオミング州(59%)である。また参加者数は、全 米で707万人である。上位5州はオハイオ州(242万件)、ジョージア州(144万件)、ニューヨー ク州(89万件)、カリフォルニア州(45万件)そしてミシガン州(42万件)である。

表 3-4 米国ガス家庭需要家供給者選択プログラム参加統計(2014年)

(出所)EIA「Natural Gas Annual(2014)」184

184 < http://www.eia.gov/naturalgas/annual/csv/t2014_26.csv>

全需要家数 適格需要家数 供給者選択プログラム参加者数 適格需要家率 参加率

(A) (B) (C) =(B)/(A) =(C)/(B)

カリフォルニア 10,781,720 10,431,088 448,384 96.7% 4.3%

コロラド 1,690,581 1,240,674 0 73.4% 0.0%

コネチカット 522,658 1,110 404 0.2% 36.4%

ワシントンDC 147,877 146,625 18,302 99.2% 12.5%

フロリダ 703,535 17,162 15,922 2.4% 92.8%

ジョージア 1,755,847 1,452,706 1,440,285 82.7% 99.1%

イリノイ 3,868,501 2,932,266 317,191 75.8% 10.8%

インディアナ 1,693,267 739,922 71,740 43.7% 9.7%

ケンタッキー 760,131 120,734 24,635 15.9% 20.4%

ルイジアナ 899,378 556 210 0.1% 37.8%

メリーランド 1,101,292 1,069,066 248,783 97.1% 23.3%

マサチューセッツ 1,461,350 1,444,695 4,234 98.9% 0.3%

ミシガン 3,192,807 3,169,488 422,448 99.3% 13.3%

ミネソタ 1,472,663 762,736 0 51.8% 0.0%

モンタナ 265,849 189,748 522 71.4% 0.3%

ネブラスカ 522,408 68,215 68,215 13.1% 100.0%

ニュージャージー 2,705,274 2,708,315 218,947 100.1% 8.1%

ニューメキシコ 614,313 474,528 80 77.2% 0.0%

ニューヨーク 4,406,039 4,402,251 892,506 99.9% 20.3%

オハイオ 3,283,869 3,099,127 2,417,602 94.4% 78.0%

ペンシルベニア 2,709,812 2,603,482 350,561 96.1% 13.5%

ロードアイランド 233,786 235,957 0 100.9% 0.0%

ヴァージニア 1,183,894 714,537 70,819 60.4% 9.9%

ウィスコンシン 1,705,907 1,087,163 0 63.7% 0.0%

ワイオミング 160,896 72,209 42,755 44.9% 59.2%

合計 67,227,722 39,184,360 7,074,545 58.3% 18.1%

(4) 規制料金の考え方

小売ガス料金は、各州の規制機関である公益事業委員会の規制を受けるが、自由化分野 では基本的にLDC或いはマーケターが自由に料金設定できる。

非自由化分野は総括原価方式でLDC が料金を申請し、公益事業委員会が審査・認可する。

需要家のガス料金は、天然ガス価格、輸送費用(輸送パイプライン、配給パイプライン、地 下貯蔵施設)、需要家費用(検針や料金徴収等)で構成される。