3 米国各州における電力・ガス小売市場の競争評価
3.3 ニューヨーク州
3.3.1 電力・ガス小売市場の自由化動向
3.3.1.1 電力小売市場200ニューヨーク州(以下、NY 州)における小売自由化については、1996 年 5 月に電気事業 制度改革の方針を示し、それに基づき個別にユーティリティ各社と交渉を行い、小売自由 化プログラムを決定する、という方式で改革が進められた。NY州では特別な立法が無くと も制度改革が可能と解釈されていたため、このように州法の設置・改正をせずに、NY州公 益委員会(NYPSC: New York Public Service Commission)が都度行政令を発することで進める、
という方法がとられた。1998 年 5 月から電力会社ごとに小売自由化が適用され、2007 年 7 月までに全電力会社の小売全面自由化が完了した。
3.3.1.2 ガス小売市場201
NY 州では州規模のアンバンドリングが進んでいる。NYPSC によると、ガスをマーケタ ーから購入している家庭は、1999年12月には2%にすぎなかったが、2007年11月には1%、
2008年11月には14%、2010年1月には16%まで増加した。
2004年8月、競争的小売市場への参加を増進し、消費者の選択肢を増やすために、NYPSC は政策ステートメントを発行した。そこでは、ユーティリティが保有する小売機能(配送業 務を除く)を競争環境に置くこと、消費者教育プログラムを拡大すること、エネルギーサー ビス会社(ESCO: Energy Services Company)側がユーティリティを通じて請求する際の方法を 選択できる状態を維持すること、そして消費者のスイッチングを促進するようなアグリゲ ーションプログラムとユーティリティ独自のプログラムを強化することが掲げられた。
200 資源エネルギー庁「平成24年度電源立地推進調整等事業(諸外国における電力自由化等による電気料金 への影響調査)」
201 EIA website “Natural Gas Residential Choice Programs > NewYork”より。
<http://www.eia.gov/oil_gas/natural_gas/restructure/state/ny.html>
3.3.2 料金規制の存廃状況
小売料金は、完全に自由化されている。規制料金は存在しないものの、需要家は従来通 り、ユーティリティから供給を受けることも選択できる。このラストリゾート供給につい て、NYPSCは、全ESCOに義務付けることは競争市場の発展を阻害するという考え方に基 づき、ユーティリティにのみ義務付けることとした202。またこの際、大規模産業需要家に ついて既にラストリゾート供給の必要性がなくなっている事実を挙げ、十分に小売自由化 が進展した場合、ラストリゾート供給は不要となる、という考え方を示している。ラスト リゾート価格は、NYPSCの認可の下で決定されている。
なおユーティリティ各社による配電・ガス配給サービスの料金には、規制価格が適用さ れる。ユーティリティは総括原価方式に基づき 3 年単位で費用回収のための料金計画(Rate
Plan)を策定し、NYPSCに承認される必要がある。
3.3.3 競争状況レビューの評価指標及び評価軸
3.3.3.1 競争状況レビューの考え方NYPSCは、“競争的な小売市場の導入メリットは需要家に迅速に行き渡るべきであり、か
つ家庭需要家の権利と保護について定めた家庭エネルギー公正取引法(Home Energy Fair
Practices Act)の主旨に沿ったものでなければならない”という原則に則り、市場監視につい
て検討した。そして本来は競争法に則る監視が適切だが、手続きの整備に時間が必要とな ることを問題視し、従来と同様の公的監視が可能な、ユーティリティを対象とした監視を 進めることとした202。
3.3.3.2 評価指標の実績数値及び評価結果～電力・ガス小売市場
1999年2月、ユーティリティに「電力・ガス小売アクセス月次報告(Electric & Natural Gas Retail Access Monthly Reports)」の提出が義務付けられた。この報告制度は電力とガスで同時 に始まり、ガスについては途中 2 回、需要家部門を変更しているが、電力は当初から変更 していない。
(1) 電力小売市場
各社は家庭用、非家庭用(大規模TOU)、非家庭用(中小規模、街灯)の3つの需要家部門に ついて、管轄エリア内の全ESCOの契約者数と負荷(kWh)を報告することになっている。2016
202 FURTHER STEPS TOWARD COMPETITION IN RETAIL ENERGY MARKETS
<http://documents.dps.ny.gov/public/Common/ViewDoc.aspx?DocRefId={2D3CEE54-2436-4B88-980E-D3112DDF 2F29} >
年12月現在の最新報告書は2015年12月分となっている203。
表 3-13 ユーティリティの電力供給状況(2015年12月)
(出所)NYPSC「New York Electric Retail Access Migration Data for:Dec-15」
なおEIAは、各州の小売価格の情報を集計している。NY州の電力小売価格の推移は以下 の通りであり、家庭部門において垂直統合事業者が強い価格競争力を発揮する状況が続い ていることがわかる。
203 Electric & Natural Gas Retail Access Monthly Reports
<http://www3.dps.ny.gov/W/PSCWeb.nsf/All/4759ECEE7586F24B85257687006F396E?OpenDocument>
顧客数 負荷(MWh) 顧客数 負荷(MWh) 顧客数 負荷(MWh) 顧客数 負荷(MWh)
顧客・負荷の移動 1,612,478 4,725,308 3,926 1,570,641 323,954 2,432,710 1,284,598 721,958 全適格需要家合計 6,806,316 246,362,862 5,260 1,875,782 922,961 3,564,835 5,878,095 240,922,245
移動の割合 23.7% 1.9% 74.6% 83.7% 35.1% 68.2% 21.9% 0.3%
2014年12月の顧客・負荷の移動 1,721,481 4,974,259 3,990 1,577,620 312,261 2,478,005 1,405,230 918,634
2014年12月に対する変化率 -6.3% -5.0% -1.6% -0.4% 3.7% -1.8% -8.6% -21.4%
Central Hudson 52,789 193,427 34 86,521 12,425 81,759 40,330 25,147
Con Edison 827,127 2,027,820 510 494,598 156,558 1,266,558 670,059 266,664
New York State Electric & Gas 208,747 660,143 2,466 332,186 47,600 190,141 158,681 137,816 Niagara Mohawk (National Grid) 346,359 1,289,991 205 412,605 73,002 690,929 273,152 186,457 Orange & Rockland Utilities 90,285 188,830 48 35,124 15,097 102,260 75,140 51,447 Rochester Gas & Electric 87,171 365,097 663 209,607 19,272 101,063 67,236 54,427
顧客・負荷の移動 52,789 193,427 34 86,521 12,425 81,759 40,330 25,147
全適格需要家合計 303,406 375,926 43 91,325 46,922 140,240 256,441 144,361
移動の割合 17.4% 51.5% 79.1% 94.7% 26.5% 58.3% 15.7% 17.4%
2014年12月の顧客・負荷の移動 55,167 203,475 32 86,732 12,556 85,613 42,579 31,130
2014年12月に対する変化率 -4.3% -4.9% 6.3% -0.2% -1.0% -4.5% -5.3% -19.2%
顧客・負荷の移動 827,127 2,027,820 510 494,598 156,558 1,266,558 670,059 266,664
全適格需要家合計 3,342,803 3,524,838 559 529,307 497,621 1,944,574 2,844,623 1,050,957
移動の割合 24.7% 57.5% 91.2% 93.4% 31.5% 65.1% 23.6% 25.4%
2014年12月の顧客・負荷の移動 851,713 2,094,564 492 500,549 157,818 1,300,883 693,403 293,132
2014年12月に対する変化率 -2.9% -3.2% 3.7% -1.2% -0.8% -2.6% -3.4% -9.0%
顧客・負荷の移動 346,359 1,289,991 205 412,605 73,002 690,929 273,152 186,457
全適格需要家合計 1,670,446 2,433,562 258 583,931 179,083 935,490 1,491,105 914,141
移動の割合 20.7% 53.0% 79.5% 70.7% 40.8% 73.9% 18.3% 20.4%
2014年12月の顧客・負荷の移動 331,318 1,347,926 197 402,851 69,875 709,799 261,246 235,276
2014年12月に対する変化率 4.5% -4.3% 4.1% 2.4% 4.5% -2.7% 4.6% -20.7%
顧客・負荷の移動 208,747 660,143 2,466 332,186 47,600 190,141 158,681 137,816
全適格需要家合計 886,806 1,282,273 3,528 368,344 125,917 287,909 757,361 626,020
移動の割合 23.5% 51.5% 69.9% 90.2% 37.8% 66.0% 21.0% 22.0%
2014年12月の顧客・負荷の移動 225,377 720,429 2,552 347,762 48,544 201,794 174,281 170,873
2014年12月に対する変化率 -7.4% -8.4% -3.4% -4.5% -1.9% -5.8% -9.0% -19.3%
顧客・負荷の移動 90,285 188,830 48 35,124 15,097 102,260 75,140 51,447
全適格需要家合計 228,420 308,882 168 77,697 31,900 113,099 196,352 118,086
移動の割合 39.5% 61.1% 28.6% 45.2% 47.3% 90.4% 38.3% 43.6%
2014年12月の顧客・負荷の移動 92,620 199,506 46 38,646 14,388 100,864 78,186 59,996
2014年12月に対する変化率 -2.5% -5.4% 4.3% -9.1% 4.9% 1.4% -3.9% -14.2%
顧客・負荷の移動 87,171 365,097 663 209,607 19,272 101,063 67,236 54,427
全適格需要家合計 374,435 238,437,381 704 225,178 41,518 143,523 332,213 238,068,680
移動の割合 23.3% 0.2% 94.2% 93.1% 46.4% 70.4% 20.2% 0.0%
2014年12月の顧客・負荷の移動 95,335 385,302 658 215,710 19,266 105,184 75,411 64,408
2014年12月に対する変化率 -8.6% -5.2% 0.8% -2.8% 0.0% -3.9% -10.8% -15.5%
全体 非家庭用(大規模TOU)
New York State Electric & Gas
Orange & Rockland Utilities
Rochester Gas &
Electric
家庭用
ニューヨーク州
ユーティリティ概要
Central Hudson
Con Edison
Niagara Mohawk (National Grid)
非家庭用(中小規模、街灯)
図 3-2 ニューヨーク州平均電力小売価格の推移(供給事業者別)
(出所)EIAホームページよりMURC作成
(2) ガス小売市場
各社は規定の需要家部門毎に管轄エリア内の全 ESCO の契約者数と負荷(デカサーマル) を報告することになっている。2006年1月以降、需要家部門は家庭用、非家庭用(小規模業 務・産業)、非家庭用(大規模及びガス輸送契約)204と定められている。
表 3-14 ガス小売市場の需要家部門の変化
時期 Residential Non-Residential
2000 年 7 月
～2005 年 12 月
Heating
Small Aggregation/Transportation Firm/Distribution company Non-heating
Small Aggregation/Transportation Firm/Distribution company
Large Volume/Transportation Small Aggregation/Transportation Firm205/Distribution company Interruptible/Distribution company
2006 年 1 月 以降
Total Large Volume/Transportation Smaller commercial and industry (出典)NYPSC 「Gas Retail Access Migration Data」よりMURC作成
2008年、NYPSCは競争的なエネルギー小売市場への移行を促進するために、現状及び関
204 Transportation customerとは、LDCのパイプラインや配送システムを利用するものの、ガスそのものは
他の供給事業者から購入している顧客を指す。
205 Firmは継続的にガスを配送するサービスのことで、通常residential customerやsmaller commercial
customerはこのサービスを選択している。Interruptibleは、LDC側の設備容量の都合により、配送が停止さ
れることのあるサービスを意味している。
3.00 5.00 7.00 9.00 11.00 13.00 15.00 17.00 19.00 21.00
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
￠/kWh
垂直統合事業者:家庭 垂直統合事業者:業務 垂直統合事業者:産業 垂直統合事業者:交通 垂直統合事業者:その他 垂直統合事業者:合計 新規参入事業者:家庭 新規参入事業者:業務 新規参入事業者:産業 新規参入事業者:交通 新規参入事業者:その他 新規参入事業者:合計
連政策を総点検した。その結果、促進プログラムの費用負担が、既に料金支払者(消費者) 側ではなくマーケター側により大きくなっていることが判明した。NYPSCはこれを持って、
市場は十分に競争的環境になっていると判断している。2016年 12月現在、2012年4月分 が最新の報告書となっている。
またEIAは、各州の小売価格の情報を集計している。NY州のガス小売価格の推移を見る と、家庭部門において、従来から供給しているユーティリティが強い価格競争力を発揮す る状況が続いていることがわかる。
図 3-3 供給事業者別 ニューヨーク州平均ガス小売価格の推移
(出所)EIAホームページよりMURC作成
0 2 4 6 8 10 12 14 16
2010 2011 2012 2013 2014 2015
US$/MCF
Year
ユーティリティ：家庭 新規参入事業者：家庭 ユーティリティ：業務 新規参入事業者：業務