第 4 章 日本語の発音習得度と発音習得度に影響を与える要因の関係
4.3 質問紙調査の結果
4.3.2 発音学習ストラテジー
発音学習ストラテジーに関する項目の回答結果を、以下の表10に示す。発音学習ストラ テジーに関する質問の回答は、頻度を5段階評価で表すもので、"1"は「しない」、"5"は「よ くする」である。回答入力欄には数値のみ提示し、"1"の横に「しない」"5"の横に「よくす る」と併記している。表内において、回答の人数は上段、その割合(%)は下段に示し、中 央値、四分位数を示した。
4・5 を選択した対象者はそのストラテジーを「使用する」と考え、以下に使用する対象
者が多いストラテジーを示す。
(1) アクセントに気をつけて発音する。(72%)
(2) イントネーションに気をつけて発音する。(69%)
(3) 日本語母語話者に発音についてのアドバイスや説明を聞いた後、それを意識する。(89%)
(4) 自分で自分の発音に納得するまで、変化させながら発音を修正する。(69%)
(5) 下手だと思ったり、間違えたと思ったりしたら言い直して発音する。(87%)
(6) アクセントが分からなかったら、辞書などで調べる。(69%)
上記の6つのストラテジーのうち、最も使用する人数が多いストラテジーは「日本語母語 話者に発音についてのアドバイスや説明を聞いた後、それを意識する」、次いで「下手だと 思ったり、間違えたと思ったりしたら言い直して発音する」である。発話の際、アクセント やイントネーションに気をつけて話す対象者が半数を超えていた。
1・2 を選択した対象者が多かったストラテジーは「使用されない」と考え、以下に使用 する対象者が少ないストラテジーを示す。
(1) 自分の発音を録音し、それを聞いて練習する。(8%)
(2) 一音一音注意して発音を練習する。(14%)
(3) 日本人の口元を見て発音を真似する。(19%)
(4) 発音する時、舌や唇など口の中を意識して発音する。(15%)
「一音一音注意して発音を練習する」「発音する時、舌や唇など口の中を意識して発音す る」というストラテジーは、どちらも発話の際に気をつける行動である。この2つのストラ テジーは、上述したアクセントやイントネーションを意識しながら話すよりも、さらに発音 に細かい注意を払いながら発話しなければならない。発話速度が遅くなる可能性もあり、使 用する対象者が少ないと推測される。
表 10 発音学習ストラテジーのアンケート結果(N=46)
質問項目/頻度 5 4 3 2 1 中央値 四分位数 自分の発音の弱点を意識しながら話
す。
11 24%
11 24%
15 33%
5 11%
4
9% 3 3~4.25
アクセントに気をつけて発音する。 16 35%
17 37%
5 11%
6 13%
2
4% 4 3~5
イントネーションに気をつけて発音 する。
19 41%
13 28%
4 9%
7 15%
3
7% 4 3~5
日本語母語話者に発音についてのア ドバイスや説明を聞いた後、それを意 識する。
22 48%
19 41%
3 7%
2 4%
0
0% 4 4~5
自分で自分の発音に納得するまで、変 化させながら発音を修正する。
12 26%
20 43%
7 15%
4 9%
3
7% 4 3~5
どうやって発音するのか誰かに教え てもらう。
7 15%
11 24%
10 22%
10 22%
8
17% 3 2~4
普段気がついた時に一人で発音の練 習をする。
9 20%
7 15%
8 17%
12 26%
10
22% 3 2~4
日本語で独り言を言ったり、自問自答 したりする。
9 20%
8 17%
7 15%
4 9%
18
39% 3 1~4
自分の発音が正しいかどうか、誰かに 聞く。
5 11%
9 20%
11 24%
13 28%
8
17% 3 2~4
自分の発音を録音し、それを聞いて練 習する。
2 4%
2 4%
5 11%
7 15%
30
65% 1 1~2
一音一音注意して発音を練習する。 3 7%
3 7%
11 24%
12 26%
17
37% 2 1~3
日本人の口元を見て発音を真似す る。
2 4%
7 15%
6 13%
4 9%
27
59% 1 1~3
発音する時、舌や唇など口の中を意識 して発音する。
5 11%
2 4%
9 20%
10 22%
20
43% 2 1~3
下手だと思ったり、間違えたと思った りしたら言い直して発音する。
19 41%
21 46%
2 4%
3 7%
1
2% 4 4~5
母語と日本語の発音の類似点・相違点 を比較する。
10 22%
7 15%
8 17%
13 28%
8
17% 3 2~4
アクセントが分からなかったら、辞書 などで調べる。
20 43%
12 26%
8 17%
4 9%
2
4% 4 3~5
4.3.2.1 リソースの活用方法 4.3.2.1.1 物的リソース
どのようなリソースを使ってどのように発音の練習や学習をするかという質問に関して、
活用するリソースの選択肢として 1) 教科書、2) 発音の教科書、3) アニメ、4) ニュース、
5) ドラマ・映画、6) バラエティ番組、7) 歌 の7つの項目を設け、それぞれについてどの ように活用するか質問した。活用方法の選択肢は、「聞く」、「声に出して読む(音読)」、
「発音を真似する」、「シャドーイングする」、「見る(読む)」、「歌う」、「聞いて書 きとる(ディクテーション)」、「自分の発音と比べる」の7つである。7つのリソースの うち、最も活用する対象者が多かったのは教科書とドラマ・映画で、46名のうち43名がこ の2つのリソースを活用すると答えた。リソースとその活用方法について、以下の表11に 示す。表中の網掛け部分は、各リソースの活用方法のうち活用する対象者が最も多かったこ
とを表す。
表 11 リソースおよびその活用方法
聞く 音読 真似する シャドーイング 見る(読む) 歌う 書きとる 比べる 教科書 8 27 25 27 4 0 3 7 発音教科書 7 23 25 22 3 0 1 6 アニメ 15 5 14 13 12 1 1 1 ニュース 12 8 12 10 3 0 3 0 ドラマ・映画 19 11 19 13 13 1 0 3 バラエティ 15 8 11 10 6 0 0 5
歌 9 7 15 8 0 12 0 1
最も利用する対象者が多かった教科書の活用方法として、「音読」と「シャドーイング」
を行っている対象者が最も多く、「真似する」も比較的多かった。2番目に活用している人 が多かった、36 名が活用している発音の教科書の活用方法は、「真似する」が最も多く、
次いで「音読」、「シャドーイング」となっている。発音の教科書と同様36名の対象者が 活用していた「アニメ」は、「聞く」が最も多かった。全体的に見ると、「真似する」活用 方法を用いている対象者が多い傾向にあった。アニメ、ニュース、ドラマ・映画、バラエテ ィ番組は映像であるためか、「聞く」と答えた対象者が多かった。7つのリソースのうち最 も活用する対象者が少なかったのはニュースで、選択した対象者は28名だった。他のリソ ースに比べ身近なものではなく、用いられている単語や言い回しなども難解なものが多い ため、活用しにくいものと考えられる。
4.3.2.1.2 人的リソース
「普段日本人と話す機会がありますか」という質問をしたところ、対象者46名全員が「あ る」と回答した。「場面」「相手」「頻度」について尋ねたところ、頻度などにばらつきは あったがほとんどの対象者に当てはまったのは、大学や日本語学校だった。しかし、大学や 日本語学校での接触があると答えた対象者のうち3名は「相手」について「先生」と回答し ており、それ以外の母語話者とは交流がなかった。本調査では、教師以外の日本語母語話者 を学習者が人的リソースとしてどの程度活用しているかを知るため、接触相手のうち「先 生」と回答した回答を除外して集計を行った。人数行の上段は実際の人数、下段はその割合 である。集計した結果を表12に示す。
表 12 日本語母語話者との接触頻度(N=46)
接触頻度 6-7 日/週 3-5 日/週 1-2 日/週 それ以下 人数(%) 13
28%
18 39%
12 26%
3 7%
対象者は全員日本に居住しているため、母語話者と日本語で話す機会はあるが、その頻度 にはばらつきがあった。1週間に 6〜7日母語話者との日本語での接触があると回答した対 象者は、アルバイト先の同僚や同じ学校の学生・ゼミ生などと会話していた。次に、接触場 面、接触相手についての回答結果を表13に示す。接触場面・相手については、複数の回答 があり必ずしも一人の回答者につき一つの場面・相手ではないので、合計は100%にはなら ない。
表 13 日本語母語話者との接触場面・相手 場面 大学 アルバイト先
勤務先 家 日本語
教室 近所 その他 人数
(%) 65% 59% 7% 9% 4%
交流会・街コン アプリ
ダンスサークル 友達と会う・話す 相手 学生
ゼミ生 同僚
客
勤務先の 学生
配偶者 恋人 ルームメイト
知り合い 友達 知らない 人 人数
(%) 70% 59% 13% 7% 15% 26% 2%
大学で日本語母語話者との接触があると回答した対象者が 65%と最も多かった。日本語 で話す相手は、大学で同じゼミの学生や、同じ学校の学生である。アルバイトや仕事をして いる対象者は、その勤務先の同僚や上司、客、学生と日本語で会話していた。アルバイトで コールセンターの通訳をしているという対象者もおり、その対象者はアルバイト先の同僚 だけでなく、電話対応でも日本語を使用しているという回答があった。勤務先の大学や語学 学校で中国語を教えている対象者は、授業や学生との会話は日本語で行っている。日本語教 室で日本語母語話者(知り合いに含める)と会話すると答えた回答者は、大学内で開催され ているボランティアの日本語教室に参加している。近所で、と答えた対象者は、アパートの 大家さんや近所の人と立ち話をすることがあるということだった。家と答えた対象者は、配 偶者あるいは恋人、ルームメイトが日本人で、日本語で会話をしている。その他については、
うち 1名は交流会や街コンで知らない人と話す、またある 1名は語学学習のアプリを通じ て知り合った日本人と会話したり実際に会ったりすると答えた。また、友達と会ったり話し
たりする場面でも日本語母語話者との接触があり、これらは具体的な場面が設定されてい るわけではないのでその他に「友達と会う・話す」と示した。