第 4 章 日本語の発音習得度と発音習得度に影響を与える要因の関係
4.6 上位群・下位群の比較分析
4.6.3 発音学習ストラテジー
4.6における因子分析により分けられた3つの因子「意識・修正」ストラテジー、「比較・
ソロ練習」ストラテジー、「音重視」ストラテジーのうち、意識・修正ストラテジーが発音 習得度に影響を与えていることが明らかになった。16 のストラテジーと発音評価点の相関 分析を行った結果では、「アクセントに気をつけて発音する」「イントネーションに気をつ けて発音する」「日本語で独り言を言ったり、自問自答したりする」の3つのストラテジー と評価点の間に相関関係があることが確認された。本項では、上位群と下位群の発音学習ス トラテジーの使用を比較する。
表27を見ると、「アクセントに気をつけて発音する」(上位群:4.7、下位群:3)、「イ ントネーションに気をつけて発音する」(上位群:4.6、下位群:3)、「日本語で独り言を 言ったり、自問自答したりする」(上位群:3.3、下位群:2)の3つにおいて、上位群の方 が下位群より平均値が高い。「日本人の口元を見て発音を真似する」というストラテジーの 使用頻度は、下位群の平均値が0.8高かった。これらの平均の差が有意であるかどうか、マ ン・ホイットニーの検定を用いて比較し、表内に平均ランク、p値を示した。平均の差が有
意であったのは、「アクセントに気をつけて発音する」(p = .006)、「イントネーションに 気をつけて発音する」(p = .023)の2つの項目のみだった。したがって、この2つのストラ テジーは上位群がよく使用するストラテジーであると言える。
表 27 発音学習ストラテジー使用の比較(N=20)
群 平均値 平均
ランク p値 自分の発音の弱点を意識しながら話す。 下位 3.5 10.25
.843
上位 3.5 10.75
アクセントに気をつけて発音する。 下位 3 7.1
.006
上位 4.7 13.9
イントネーションに気をつけて発音する。 下位 3 7.7
.023
上位 4.6 13.3
日本語母語話者に発音についてのアドバイスや説明を 聞いた後、それを意識する。
下位 4.3 9.2
.259
上位 4.7 11.8
自分で自分の発音に納得するまで、変化させながら発 音を修正する。
下位 3.7 10.45
.968
上位 3.9 10.55
どうやって発音するのか誰かに教えてもらう。 下位 3.6 11.45 .457
上位 3.2 9.55
普段気がついた時に、一人で発音の練習をする。 下位 2.7 9.85
.614
上位 3 11.15
日本語で独り言を言ったり、自問自答したりする。 下位 2 8
.051 上位 3.3 13
自分の発音が正しいかどうか、誰かに聞く。 下位 3 10.75 .844
上位 2.9 10.25
自分の発音を録音し、それを聞いて練習する。 下位 1.9 10.45 .966
上位 1.9 10.55
一音一音注意深く発音する。 下位 2.5 11.05 .661
上位 2.2 9.95
日本人の口元を見て発音を真似する。 下位 2.1 11.8
.225 上位 1.3 9.2
発音する時、舌や唇など口の中を意識して発音する。 下位 2.3 10.05 .725
上位 2.6 10.95
下手だと思ったり、間違えたと思ったりしたら言い直 して発音する。
下位 4.2 10.95
.702
上位 4.1 10.05
母語と日本語の発音の類似点・相違点を比較する。 下位 2.9 11
.698 上位 2.7 10
アクセントがわからなかったら辞書などで調べる。 下位 4 8.55
.109
上位 4.4 12.45
人的リソースの活用に関して、対象者全体を対象として行った分析では、日本人と接触す る頻度が多い対象者の方が発音習得度が高いことが明らかになった。ここでは、接触頻度と
ともに接触する相手に関するデータも比較対象とする。上位群と下位群の日本語母語話者 との接触頻度およびその相手について、以下の表28に示す。接触頻度の列には、1週間に 何日接触するかを示した。
表 28 日本人との接触頻度の比較(N=20)
対象者 接触頻度 相手 対象者 接触頻度 相手
上 位 群
10 3-5日 アルバイト先の人
下 位 群
14 3-5日 同じゼミの学生、
近所の人 39 1-2日 知らない人、友達
アルバイト先の学生 2 3-5日 同じゼミの学生、
友達 33 6-7日 同じゼミの学生、
アルバイト先の人 26 3-5日 同じゼミの学生、
友達 43 6-7日 同じゼミの学生、
友達 15 3-5日 アルバイト先の人 12 3-5日 同じゼミの学生 37 1-2日 同じゼミの学生 35 1-2日 同じゼミの学生、
アルバイト先の人 6 3-5日 アルバイト先の人 22 3-5日 同じゼミの学生、
アルバイト先の学生 5 NA 44 1-2日 同じゼミの学生、
アルバイト先の人 21 NA 23 3-5日 同じゼミの学生、
アルバイト先の人 18 NA 42 1-2日 同じゼミの学生、
アルバイト先の学生 17 1-2日 同じゼミの学生
上位群は接触頻度に差があるものの、対象者10、12を除く8名は複数の場面で日本語母 語話者との日本語での接触がある。対象者33、43はほぼ毎日接触があり、自然な日本語の インプットが多いことが予想できる。対象者43は、同じ学校の学生やゼミの学生などと頻 繁に意見交換をしていた。対象者39は、友人を作るために街コンやイベントなどに参加し ており、積極的に日本語母語話者との接触の機会を持つようにしているということだった。
下位群のうち 3名は日常的な母語話者との日本語での接触がなかった。この 3名は教師と の接触はあるが、本研究の対象とはならないため「NA」としている。対象者15、37、6、17 は母語話者との接触はあるが、場面が少なく上位群よりもインプットや自身の発話の機会 が少ないことが予想される。対象者全体(46 名)を対象に行った回帰分析の結果では、母 語話者との接触頻度は文章の評価点を予測できるという結果が出ている。上位群・下位群の 母語話者との接触頻度の比較においても、両群に違いがあることが確認できた。さらに、上 位群は下位群よりも日本語母語話者と日本語で接する機会が多く、その場面も複数である
ということが分かった。