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本研究で対象とする要因

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第 2 章 第二言語習得に影響を与える諸要因

2.5 本研究で対象とする要因

本節では、2.4において概観した先行研究の結果をまとめ、本研究で対象とする要因につ いて述べる。日本語の発音習得に関わる要因に関する先行研究の結果は、以下のようにまと めることができる。

(1) 日本語の発音習得は学習開始年齢と相関関係があり、早期に学習を始めた方が発音習 得には有利であるが、臨界期を過ぎて学習を開始した場合でも母語話者レベルの発音 習得は可能である。(戸田, 2006)

(2) 日本語学習者は、記憶ストラテジー・認知ストラテジー・メタ認知ストラテジー・社会 的ストラテジーを使用して発音学習を行っている。(小河原, 1997)

(3) 発音能力が高い学習者は、メタ認知ストラテジー・社会的ストラテジーを使用している。

(小河原, 1997; 戸田, 2006; スィリポンパイブーン, 2008)

(4) 発音能力が高い学習者は、高い目標を持っており、発音を向上させようという積極的な 意欲がある。(小河原, 1997; 戸田, 2006; スィリポンパイブーン, 2008)

(5) 発音能力が高い学習者は、発音学習・教育は重要だというビリーフを持っている。(ス ィリポンパイブーン, 2008; 羅, 2017)

(6) 日本語学習者の発音に対するビリーフは、6ヶ月以上の留学経験の有無や性別によって 異なり、発音指導を受けることによって変化する。(李, 2016, 2017, 2020ab)

(7) 発音学習ストラテジーの使用は、学習環境(授業のカリキュラムや方針)に影響を受け る可能性がある。(呉ほか, 2016)

2.4において概観した先行研究は、調査対象者の学習環境や社会文化背景、学習者要因が 異なっており、必ずしも結果が一致しているわけではないが、日本語の発音習得に関わる要 因の一端が明らかになったと言える。内的学習者要因である年齢については、日本語の発音 習得に影響するが、臨界期を過ぎても母語話者レベルの発音を習得できる可能性があるこ とが分かった。外的学習者要因である発音学習ビリーフについては、発音能力が高い学習者

が持つビリーフやビリーフがそのほかの要因の影響を受けることが明らかになった。外的 学習者要因である発音学習ストラテジーについては、発音能力が高い学習者が使用する発 音学習ストラテジーや、学習環境が発音学習ストラテジーの選択に影響を与える可能性が あることが明らかになった。

本研究では外的学習者要因や学習環境要因に焦点を当て、日本語の発音習得との関係お よび各要因間の関係を明らかにする。本節で概観した先行研究の調査対象者について、ここ で一度整理しながら、本研究で対象とする要因について述べる。先行研究の調査対象者の属 性を表1にまとめた。

表 1 日本語の発音習得に関わる要因研究の対象者属性 日本語を

学習した国 教育機関 母語/

出身国・地域

学習年数/

学年

日本語 レベル 小河原

(1997) 日本 外国語専門学校 台湾•韓国•タ

イ•中国等 1 年以内 初級 小河原

(1998)

オーストラ リア

国立大学

日本センター 1・2 年生 初・中級 戸田

(2006) 不明 不明

韓国語•英語•

中国語•ポル トガル語等

不明 不明 スィリポン

パイブーン

(2008)

タイ 大学(日本語専攻) 日本語学校

バンコクおよ び首都圏 80%

大学:

3•4 年生

日本語能力試 験 2 級〜3 級

程度 呉ほか

(2016) 中国 大学(日本語専攻) 中国 1 年〜

4 年生

初級後半〜N1 合格レベル 羅(2017) 台湾 大学 台湾 1 年生

終了時 不明 李

(2016,2017, 2020ab)

韓国 大学

(非専攻/専攻) 韓国 1 年〜

4 年生 不明

教育機関を見ると、大学、日本語学校のどちらでも研究が行われている。小河原(1997, 1998)

は「発音学習ストラテジー」の調査において、同じ質問紙を使用して国内外の学習者を対象 としているが、学習者の母語や出身地が異なるため、結果がそれらの要因に影響を受けた可 能性がある。スィリポンパイブーン(2008)の対象者は大学、日本語学校で日本語を学習し ているが、教育機関による比較はされておらず、日本以外の場所で日本語学習を行った学習 者の教育機関による違いは明らかになっていない。そこで本研究では、中国の大学で学習し た学習者と中国の日本語学校で学習した学習者を比較し、外的学習者要因として「発音学習 ストラテジー」、学習環境要因として「学習機関」の影響について検討する。学習年数や学 年から発音習得度を比較したものは呉ほか(2016)以外にはなく、呉ほか(2016)の結果で

は学年が上がるほどアクセントと拍の長さの正解率が上がっていた。陶(2017)による調査 においても、学習年数と学習者の聴解能力および再現・運用能力の間に「強い相関は見られ なかったが、ある程度影響を与えている可能性がある(陶, 2017: 54)」という報告があるた め、本研究でも「学習年数」が発音習得に与える影響を調べ、先行研究の結果を補強したい。

外的学習者要因として「発音学習ビリーフ」についても対象とするが、ここで問題となるの は、外的学習者要因である「発音学習ビリーフ」の定義や含まれる項目が研究者によって一 致していないことである。スィリポンパイブーン(2008)は、磯村(2000)が行った国外の 非日本語母語話者教師が、日本語のアクセント教育に対してどのような考えを持っている のかを調査する目的で作成した質問項目を参考にしている。羅(2017)は、BALLIをもとに 台湾人学習者や学習環境に合わせて作成したものである。李(2017)において用いられたビ リーフ調査の質問項目には、小河原(1997)では発音学習動機となっている項目が含まれて いる。Horwitz(1987)のBALLIには動機づけに関する項目も含まれているため、学習動機 づけと学習ビリーフにはっきりした線引きは難しい。しかし、本研究では可変的で時間の流 れの影響を受けやすい動機づけには焦点を当てないため、戸田(2006)の言語学習に関する アンケートの一部である、「発音学習」に関するアンケートを用い、学習者の「発音に対す る考え方」を明らかにする。戸田(2006)のアンケートは、学習者が発音に対してどのよう な考えを持っているかを訊ねるもので、「母語話者のように話すことはどの程度重要か」

「発音が悪くても通じれば良いか」などの質問項目からなっており、学習者の考えを質問す るのに適しているためである。発音に対する考え方は発音指導により変化し、留学経験によ って異なる可能性がある(李, 2017, 2020a)ため、学習環境要因として「発音に関する授業 の受講経験」、「日本滞在年数16」についても影響の有無を検討する。

したがって、本研究で対象とする外的学習者要因には「日本語学習年数」、「発音に対す る考え方」、「発音学習ストラテジー」の3つが含まれ、学習環境要因には「発音に関する 授業の受講経験」、「日本滞在年数」が含まれる。学習ストラテジーの節で述べたように、

本研究では学習者とリソースのインターアクションも学習ストラテジーであると捉えるた め、「発音学習ストラテジー」には学習者の「リソースの活用方法」も含まれる。

小河原(1997, 1998)やスィリポンパイブーン(2008)、李(2017)、呉ほか(2016)な どにおいては、発音学習動機や発音学習ビリーフ、学習機関が発音学習ストラテジーの選択 に与える影響、留学経験の有無が発音学習ビリーフに与える影響についても検討されてい る。したがって、本研究では、以下の6つの要因と発音習得度との関係を明らかにするとと もに、発音学習に対する考え方・発音学習ストラテジーとそのほかの要因との関係について

16 本研究の対象者は全員日本滞在経験がある。

も明らかにする。

学習環境要因 (1) 学習機関

(2) 発音に関する授業の受講経験 (3) 日本滞在年数

外的学習者要因 (4) 学習年数

(5) 発音に対する考え方

(6) 発音学習ストラテジー/学習リソースの活用方法

以上の要因については質問紙などを用いてデータを集め、発音習得度は日本語母語話者 による発音タスクの評価により測る。学習ストラテジーに関する調査を行うにあたっては、

王(2015)が行ったインタビューによる調査は、時間の流れに沿うことができるため、学習

者がどのように自分に合う学習ストラテジーを見つけ、実践してきたのかを知ることがで きる。しかし本研究では、日本語学習者が自分に合う学習ストラテジーを見つける過程に焦 点を当てるのではなく、これまでの学習過程で行ってきた学習ストラテジーが発音習得度 に与える影響に焦点を当てるため、質問紙を用いた調査を行う。第3章では、本研究の研究 課題を設定し、その研究方法である質問紙調査および発音タスクについて述べる。特に、発 音習得度を測る発音タスクの作成のために、中国語母語話者の日本語音声習得に関する研 究を整理する。

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