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アクセント・イントネーション

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 55-59)

第 3 章 研究課題・研究方法

3.3 発音タスク調査

3.3.1 中国語母語話者の日本語音声習得に関する先行研究

3.3.1.4 アクセント・イントネーション

日本語も中国語も、アクセントを形成する要素はどちらも高低(ピッチ)である。日本語 のアクセントは一つひとつの語につき、相対的に高さや強さの配置が決まる(松崎ほか, 2018)。一方、中国語は音節内のパターンの違いによるもので、高低の抑揚のパターンが固 定されており、声調言語と呼ばれる。中国語の声調は方言によっても差があるが、中国標準 語では声調は4つである。共通日本語(東京方言)では、アクセント核(声の下がり目)が あるか、ある場合どこにあるか、ということが意味の弁別に役立っている。アクセントの表 記方法は、各拍の高さをすべて指定してパターンを表すもの、核の有無と位置を指定するも のがあるが、ここでは先行研究でそれぞれ使用されている表記をそのまま用いて考察を行 う。イントネーションについて、イントネーションは文全体の高さの変化を表すが、イント ネーションにはいろいろな働きがある。このイントネーションの機能を、鹿島(2002)は以 下のように分類して紹介している。

(1) 文法的機能:文の意味をはっきりさせる、話し手の表したい意味を表す (2) 情報的機能:話し手の注意が向けられた点(フォーカス)をはっきりさせる (3) 談話的機能:談話の流れをスムーズにコントロールしたり、談話の区切りを示す (4) 感情的機能:感情と心的態度を表す

(5) 心理的機能:特別なイントネーションを用いることで記憶の助けになるような場合 (6) 指標的機能:イントネーションによって、年代や出身地など個人的な情報が分かる

(鹿島, 2003: 128-140)

このように、イントネーションにはさまざまな働きがあり、イントネーションを誤ること で聞き手に上手く意図が伝わらない場合もある。平野ほか(2006)は、CLの日本語朗読音 声に対する母語話者評価には、イントネーションが最も関与したと述べており、イントネー ションは日本語母語話者が発話の自然さを判断する基準にもなっている。上述したように、

中国語は声調言語であるため、「日本語のように徐々にピッチを下げ韻律をまとめるといっ た制御は、中国語話者にとって困難(平野ほか, 2006: 3)」であり、アクセントやイントネ ーションが上手く生成できないことにより意味が上手く伝達できない可能性がある。陶

(2017)は、日本語能力がある程度高いCL13名を対象に、アクセント・イントネーション についての知識、聴解能力と、発音運用能力の相互関連性について調査を行った。その結果、

アクセントについては、アクセントの知識が増えると聴取能力も良くなることが分かった。

また、長音を含む単語のアクセントの誤答が多く、中高型の単語アクセントを平板型または 尾高型に、平板型または尾高型のアクセントを中高型にする誤答が目立った。陶(2017)も 中国語の声調による影響に触れ、その他に「学習期間」と「滞在期間」の影響もある程度確 認できたと述べている。王・林・磯村・新井(2017)は、CLの日本語名詞アクセントの習 得について、知識、生成、知覚の関係を調べた。対象者は中国語の大学で日本語を専攻する 1年生と3年生(計34名)で、調査語は1拍〜3拍の語(既習、アクセントゆれなし、特殊 拍含まない)である。調査は、アクセント知識調査、アクセント産出実験、アクセント知覚 実験の順に行われた。CLの名詞アクセントの知識調査では、「頭高型」が覚えやすく、「平 板型」と「尾高型」の混同が顕著であることが分かり、陶(2017)の結果とも一致している。

この現象について王ほか(2017)は、「尾高型は助詞が後続しない場合、平板型と区別がつ かない(王ほか, 2017: 67)」特性のためだと考察している。産出実験においても「頭高型」

が最も産出しやすく、1拍語の平板型、2拍語と3拍語の尾高型が産出しにくいことが示唆 された。知覚実験においては、正答率がどちらの学年においても95.4%と高く、知覚の習得 は比較的やさしいということが分かった。また、王ほか(2017)においても、「学習歴」が 知識と産出の習得にある程度正の影響を与えているという結果になった。しかし、知識が産 出に影響を与えることは分かったが、知覚が産出に影響を与えるかどうかは確かな結果を 得ることができなかったとしている。玉岡・黄・斉藤(2016)においても類似の結果が出て いて、アクセントの知覚と産出には直接的な因果関係は見られなかった。加えて、正しいア クセントで発音できる産出能力があったとしても、聴解力には貢献しないことを支持する 結果が出ており、玉岡ほか(2016)は「日本のピッチ・アクセントの習得は、聴解の向上と いうより、発話の流暢性の獲得として位置付けられるべきものであると思われる(玉岡ほか, 2016: 49)」と述べている。

中国語は声調言語であり、音節ごとに声調が付与されることが日本語のアクセント・イン トネーション習得に影響を与えることが明らかになったが、中国語の多くの方言の中には 異なる特徴を持つ方言もある。上海方言は音節ごとに声調が付与されるのではなく、語レベ ルで一つのパターンが実現される語声調の特徴を持っており、この特徴は東京方言の語ア クセントの単位に類似していると言われている(岩田, 2001)。劉(2010)は、北京方言話 者(18名)・上海方言話者(21名)を対象に複合動詞の東京語アクセントの生成調査を行 った。その結果、各音節にアクセントを付与し、ピッチの上げ下げが顕著に聞こえ、一つの まとまりとしてのピッチ実現が困難な北京方言話者に対して、上海方言話者は複合動詞を

一つのまとまりとしてアクセントを実現しており、語レベルのアクセント特性を持つ上海 方言話者の方が北京方言話者より生成しやすいことが分かった。また、北京・上海に共通し て、連母音を含む音節(重音節)にアクセント核を付与する傾向があり、「母語の干渉とい うよりも、アクセントの普遍的特徴によるものであると解釈した方が妥当(劉, 2010: 23)」

だと述べている。

上海方言話者を対象にしたものには、文末イントネーションの習得に関して行った研究 もある。福岡(2012)は、イントネーションの上昇で「勧誘」を表す文末上昇疑問文「食べ ない?」と同形の否定表現の韻律的違いの知覚習得の中間言語の構築過程について、北京方 言話者 5 名、上海方言話者 3 名、閩南語話者 2 名を対象に調査を行った。調査は3回に渡 り、1回目の調査は来日5ヶ月目、2回目は10ヶ月目、3回目は20ヶ月目に行った。調査 には以下の音声を用いた。

(1) 自然音声:東京方言話者3名の発話による、動詞0型アクセント「買う、洗う、働く」

と動詞-2型アクセント「見る、食べる、覚える」の「ない形」の勧誘と否定

各6回、合計72個をランダムに配置

(2) 合成音声:「食べない」の文末「い」を20Hzずつピッチを変えた計14個 各5回、合計70個をランダムに配置

これらの調査語を聞いて、勧誘か否定かを選択し、音声と選択がどのくらい一致している かを調べる。その結果、自然音声による知覚実験では、韻律と表現意図の一致率が3回の調 査を通して平均 96%と高かった。この結果に関して、福岡は「使用した自然音声が意図的 に勧誘と否定の表現として発話された音声であったことが大きい(福岡, 2012: 23)」と考察 している。全体的に見ると、上海語話者の一致率は3回を通して最も高く、母語話者と同じ 傾向を示したのに対し、北京・閩南方言話者は不一致率が高い傾向にあった。習得プロセス に関して、「ピッチの上昇を過剰に勧誘と判断する『過剰般化』の習得プロセスが優勢化し、

やがて有意差が消失し習得が行われていく過程から、発達プロセスの中でも『過剰般化』が、

学習者の中間言語の構築を進める有力な習得プロセス(福岡, 2012: 24)」であると述べてい る。大塚(1998)の研究では、「同意要求」「非難」「否定」の表現意図を判断する能力の 習得について、CL43名(上級20、中級23)と韓国語母語話者(上級20、中級22)に対し て聴取実験を行った。調査語は、「3拍名詞(頭高・平板型アクセント)+じゃない」の文 で、「同意要求」「非難」「否定」の状況を設定して発話されたものである。調査の際はそ の調査語を聞いて、表現意図を上述の3つから選ぶ。その結果、両言語話者ともにまず「否 定」を習得し、韓国語話者の方が中国語話者よりも早い段階で上昇を「同意要求」、下降を

「非難」と判定するようになることが分かった。CLの「同意要求」「非難」の習得は、中 級から上級にかけて進み、習得の順序は「否定」→「同意要求」→「非難」であるという。

高村(2018)は、機能に相応しいとされる韻律で発話された音声の聴覚印象について、日 本語母語話者とCLの比較研究を行った。調査対象者のCLは、日本の大学に在籍している 学部 1年生(N1合格者)3名である。高村は、「大学場面で必要と感じる機能に関するア ンケート」の結果から、必要性が高い13機能について、教科書の付属CDの中から各機能 に該当すると判別したものを調査語とした。母語話者の機能判別調査の結果、高村が判断し た機能と著しく異なる記述は見られなかったが、CLには評定者2名の印象と明らかに異な る記述が4機能(謝罪、依頼、呼びかけ、同情・心配)に見られた。以下に母語話者とCL の機能判別の結果を引用する(高村, 2018: 33)。

母 語話者 CL

① 謝罪 ①'感謝 「どうもご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」

② 依頼 ②'要求 「もう少し音量上げてもらうことできますか」

③ 呼びかけ ③'謝罪 「すみません」

④ 同情・心配 ④'責め 「あんまり無理しないようにね」

それぞれの音声について音響分析を行ったところ、以下のことが分かった。

(1) 一つの発話の中で基本周波数、音圧の変化が激しい音声は、中国人にとって「謝罪」で はなく「感謝」として認識する可能性がある。

(2) 一つの発話節の中で、基本周波数の変化が少なく調音速度が遅めの音声は、中国人にと って「依頼」ではなく「要求」として認識する可能性がある。

(3) 一つの発話節の中で、基本周波数の変化が乏しく、途中から一定の音圧レベルを保って 発話している音声を、中国人は「呼びかけ」ではなく「謝罪」の機能として認識する可 能性がある。

母語話者と CL は発話意図を表現するためのイントネーションに対する認識が異なるこ とが明らかになったが、そもそも日本語母語話者と CL の物理的な基本周波数の上昇や下 降、長短などの聴覚が異なる可能性もある。谷部・西沼・林(2010)では、母語話者と学習 者では、基本周波数の上昇・下降(ピッチ)の聞き取り方に差があるか、持続時間の長短(リ ズム)の聞き取り方に差があるか、という2点に注目して調査を行った。その結果、声調言 語を母語とする中国人学習者の耳は、言語音の周波数変化を知覚する機能が日本語母語話

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