第 4 章 日本語の発音習得度と発音習得度に影響を与える要因の関係
4.9 まとめ
本章では、5つの課題に沿って順に分析を行った。各課題に対する本章の分析結果を整理 する。課題(1)は、外的学習者要因(日本語学習年数、発音に対する考え方、発音学習ストラ テジー)および学習環境要因(日本滞在年数、学習機関、発音に関する授業の受講経験)と 発音習得度の関係を、相関分析により明らかにするものである。課題(2)は、各要因が発音習 得度に与える影響を、回帰分析により明らかにするものである。まず、この2つの課題の分
析結果を以下にまとめる。
課題(1)
単語の発音習得度と有意な相関関係が見られた要因 (1) 外的学習者要因:学習年数(r = .420, p < .01)
(2) 外的学習者要因:発音学習ストラテジー
「アクセントに気をつけて発音する」(r = .487, p < .01)
「イントネーションに気をつけて発音する」(r = .417, p < .01)
「日本語で独り言を言ったり、自問自答したりする」(r = .338, p < .05)
:物的リソース「発音の教科書を聞く」(r = -.312, p < .05)
:人的リソース(r = .377, p < .05)
(3) 学習環境要因:中国における学習機関(r = .324, p < .05)
(4) 学習環境要因:滞在年数(r = .451, p < .01)
文の発音習得度と有意な相関関係が見られた要因 (1) 外的学習者要因:学習年数(r = .506, p < .01)
(2) 外的学習者要因:発音に対する考え方
「日本語を話す時、上手に発音できている」(r = .305, p < .05)
(3) 外的学習者要因:発音学習ストラテジー
「アクセントに気をつけて発音する」(r = .580, p < .01)
「イントネーションに気をつけて発音する」(r = .456, p < .01)
:人的リソース(r = .298, p < .05)
(4) 学習環境要因:中国における学習機関(r = .456, p < .01)
(5) 学習環境要因:滞在年数(r = .385, p < .01)
文章の発音習得度と有意な相関関係が見られた要因 (1) 外的学習者要因:学習年数(r = .499, p < .01)
(2) 外的学習者要因:発音学習ストラテジー
「アクセントに気をつけて発音する」(r = .499, p < .01)
「イントネーションに気をつけて発音する」(r = .327, p < .05)
「日本語で独り言を言ったり、自問自答したりする」(r = .324, p < .05)
:物的リソース「教科書のモデル発音と自分の発音を比べる」(r = .296, p < .05)
:物的リソース「発音の教科書のモデル発音と自分の発音を比べる」(r = .297, p < .05)
:人的リソース(r = .349, p < .05)
(3) 学習環境要因:中国における学習機関(r = .502, p < .01)
(4) 学習環境要因:滞在年数(r = .420, p < .01)
課題(2)
単語の発音習得度に影響を与えている要因
(1) 外的学習者要因:学習年数(β = .487, p < .01, R2 = .219)
(2) 外的学習者要因:発音学習ストラテジー
「意識・修正」ストラテジー(β = .383, p < .05, R2 =.069)
:人的リソース(β = .377, p < .05, R2 =.091)
(3) 学習環境要因:中国における学習機関(β = .355, p < .05, R2 =.104)
(4) 学習環境要因:滞在年数(β = .407, p < .01, R2 = .146)
単回帰分析の結果では、外的学習者要因である学習年数と発音学習ストラテジー、学習環 境要因である学習機関と滞在年数の 4 つの要因において有意な値が得られた。発音に対す る考え方と発音に関する授業の受講経験は、単語の発音習得度に影響を与えていなかった。
文の発音習得度に影響を与えている要因
(1) 外的学習者要因:学習年数(β = .502, p < .01, R2 = .234)
(2) 外的学習者要因:発音学習ストラテジー :人的リソース(β = .298, p < .05, R2 =.068)
(3) 学習環境要因:中国における学習機関(β = .439, p < .01, R2 =.173)
(4) 学習環境要因:滞在年数(β = .353, p < .05, R2 = .104)
各要因の単回帰分析の結果では、単語と同様、外的学習者要因である学習年数と発音学習 ストラテジー、学習環境要因である学習機関と滞在年数の 4 つの要因において有意な値が 得られた。発音に対する考え方と発音に関する受講経験は、文の発音習得度に影響を与えて いなかった。
文章の発音習得度に影響を与えている要因
(1) 外的学習者要因:学習年数(β = .536, p < .01, R2 = .271)
(2) 外的学習者要因:発音学習ストラテジー
「意識・修正」ストラテジー(β = .394, p < .05, R2 =.068)
:人的リソース(β = .349, p < .05, R2 =.102)
(3) 学習環境要因:中国における学習機関(β = .473, p < .01, R2 =.204)
(4) 学習環境要因:滞在年数(β = .484, p < .01, R2 = .216)
文章においても、単語・文と同様の結果だった。発音に対する考え方と発音授業の受講経 験は発音習得度に与える影響が大きくないと言える。課題(2)において有意な値が得られた 4 つの要因の 5 つの項目のうち、課題(3)である「最も評価点に影響を与えている要因は何 か」を調べるために、従属変数を単語・文・文章、独立変数を上記要因としてそれぞれ重回 帰分析を行った。対象者人数が揃っていない項目、すなわち滞在歴の分析において外れ値と みなした対象者、学習年数の分析において外れ値とみなした対象者、学習機関の分析におい て分析の対象としなかった対象者を除き、データは合計39名分である。課題(3)を解明する ために行った重回帰分析の結果を以下にまとめる。
課題(3)
単語の発音習得度に最も影響を与えている要因 外的学習者要因:発音学習ストラテジー
「意識・修正ストラテジー」(β = .359, p < .05, R2 =.362)
文の発音習得度に最も影響を与えている要因 外的学習者要因:発音学習ストラテジー
「意識・修正ストラテジー」(β = .313, p < .05, R2 =.367)
文章の発音習得度に最も影響を与えている要因 学習環境要因:滞在年数(β = .302, p < .05, R2 =.478)
単語・文の発音習得には「意識・修正ストラテジー」の影響が最も大きいが、文章の発音 習得には滞在年数が与える影響が最も大きく、「意識・修正ストラテジー」は2番目に大き な値だった。次に、課題(4)、課題(5)の結果を順にまとめる。この2つの課題は、各要因が 発音に対する考え方と発音学習ストラテジーに与える影響を見るものである。課題(4)は、
「発音に対する考え方に影響を与えている要因は何か」、課題(5)は、「発音学習ストラテジ ーに影響を与えている要因は何か」である。
課題(4)
発音に対する考え方に影響を与えている要因 (1) 「先生がいなくても発音は上達する(反転)」
発音授業の受講経験(β = .493, p < .01, R2 = .135)
(2) 「良い発音で話せないと恥ずかしい」
発音授業の受講経験(β = .384, p < .05, R2 = .083)
発音授業の受講経験は、発音に対する考え方に影響を与え、教師による発音授業を重視す るようになったり、良い発音で話せないことに対して恥ずかしいと思うようになったりす ることが分かった。
課題(5)
発音学習ストラテジーに影響を与えている要因 (1) 意識・修正ストラテジー
発音授業受講経験(β = -.478, p < .05, R2 = .169)
発音授業受講経験にのみ有意な負の値が得られ、発音授業の受講経験がある対象者は、意 識・修正ストラテジーを使用しないということが分かった。本章の結果をまとめると、発音 に対する考え方と発音授業の受講経験は発音習得度にあまり影響がなく、最も発音習得度 に影響を与えるのは意識・修正ストラテジーである。このストラテジーの選択に最も影響を 与えるのが発音授業の受講経験であり、マイナスの影響であることから、発音授業を受けた ことがない対象者の方がこのストラテジーを使用する傾向があると解釈できる。しかし、発 音授業の受講経験は発音に対する考え方に与える影響が最も大きく、発音授業を受講した 経験により音声教育において教師を重視したり、良い発音で話せないと恥ずかしいと考え ている。つまり、発音に関する授業を受けた経験は発音や音声教育を重要視することに繋が るが、発音学習ストラテジーの使用には繋がっていないということになる。しかし、本研究 では、発音に関する授業の頻度や、受講内容の詳細なデータを収集した訳ではないため、こ の解釈は必ずしも一般化できるものではない。