第 5 章 終章
5.3 今後の課題
本研究では、発音習得と個人差に影響を与える要因の関係を分析し、どの要因が最も発音 習得に与える影響が大きいか、発音に対する考え方や発音学習ストラテジーにどのような 要因が影響を与えるかを明らかにした。本研究を通して明らかにできなかったこと、今後の 研究における発展のために取り組むべき課題について以下に述べる。
(1) 学習環境の詳細な比較
本研究の対象者は、教育を受けた大学や日本語学校が対象者により異なるため、学習環境 の違いを厳密に比較することはできなかった。学習環境の違いが発音習得度に与える影響 を明らかにするためには、日本語教育を受けた教育機関を統制した調査が求められる。中国 の大学において 4年間日本語を専攻した学習者と、中国において4年間大学以外の教育機 関で学習した学習者の比較など、学習年数を同程度に統一し、学習機関のみの影響を明らか にする必要がある。
(2) リソースの活用に関するインタビュー
本研究では、物的リソースと人的リソースの活用についても考察を行ったが、活用方法の 詳細な調査を行うことができなかった。質問紙調査だけでは明らかにできないリソースの 活用方法や内容、意識などについてより詳しい情報を収集する必要がある。
(3) 発音学習動機、ビリーフ
本研究では「発音に対する考え方」は発音習得度にあまり影響を及ぼさないという結果が 確認されたが、質問項目数が少なく、対象者の考えを詳しく調査できたとは言えない。発音 学習動機やビリーフなど、学習者の心理面を傾向によって分類し、どのようなタイプの学習 者が発音習得度が高い傾向にあるのか、またそのほかの要因との関連を明らかにしたい。
(4) 学習段階からの考察
本研究では、「意識・修正」ストラテジーが発音習得度に与える影響が最も大きいという 結果になったが、このストラテジーさえ使えば発音能力が向上するわけではない。ストラテ ジー以外の要因も発音能力の構成に影響を及ぼしており、段階的に発音能力が向上すると 考えられる。日本語学習を進める中で、学習初期に音声に意識を向ける機会があった学習者 もいるが、その機会は必ずしも学習初期であるとは限らない。大学の短期プログラムで音声 に注意を向ける機会を持った対象者や、ある程度の日本語能力を有した状態で就職を見据 えて発音矯正の授業を受講し始めた対象者もいた。このように、如何なる時期に音声に意識 を向け始めたのか、時系列に目を向けることで日本語の発音能力構成の過程を知ることが できる。学習環境や学習動機などの学習者要因などについても上述したが、時間の流れや学 習段階からみた発音能力構成過程を明らかにすることで、より深く学習者について知るこ とができると考える。
参考文献
阿久津智(1989)「台湾語話者とその日本語の発音」『筑波大学留学生教育センター日本語 教育論集』4, 53-64.
李
玧
兒(2016)「韓国人日本語学習者の発音および発音指導に対するビリーフ」『일어일문학』(대한일어일문학회)70, 119-137.
___(2017)「発音に関するビリーフの変化-一人の韓国人日本語学習者の事例を通して -」『일어일문학』(대한일어일문학회)76, 145-159.
___(2020a)「発音指導の授業における韓国人日本語学習者のビリーフの変化-発音の
重要さと意識を中心に-」『일어일문학』(대한일어일문학회)86, 63-81.
___(2020b)「韓国人日本語学習者の発音に関するビリーフ-因子分析を中心に-」
『일어일문학』(대한일어일문학회)88, 61-76.
磯村一弘(2000)「海外のノンネイティブ教師からみた日本語音声教育-語アクセントの教 育を中心に-」第2回日本語音声教育方法研究会資料<http://www.isomura.org/myself/
resume/2000.html>2021年1月9日最終閲覧
板井美佐(1997)「言語学習についての中国人学習者のBELIEFS-上海復旦大学のアンケ ート調査より-」『筑波大学留学生センター日本語論集』12, 63-88.
____(1999)「日本語学習者についての中国人学習者のBELIEFS-香港城市大学のア ンケート調査から分かったこと」『筑波大学留学生センター日本語教育論集』14, 163-179.
____(2001)「香港における中国人学習者の日本語学習に対する動機(BF)、学習ST 及び学習活動城の好みに関する調査-香港 4大学機関の調査から-」『筑波大学留学生セ ンター日本語教育論集』16, 83-104.
伊東拓郎(1994)「日本語指導法-個性とストラテジーからの一考察」『東京外国語大学留 学生日本語教育センター論集』20, 95-111.
岩田礼(2001)「中国語の声調とアクセント」『音声研究』(日本音声学会)5, 1, 18-27.
ヴァンパテン, ビル・ベナティ, アレッサンドロ G(著)白畑知彦・鈴木孝明(監訳), 川 崎貴子・近藤隆子・須田孝司・藤森敦之(訳)(2017)『第二言語習得キーターム事典』
開拓社
内田照久(1993)「中国人日本語学習者における長音と促音の聴覚的認知の特徴」『教育心 理学研究』(日本教育心理学会)41, 4, 48-57.
(1995)「中国人日本語学習者における撥音/N/の聴覚的認知」『教育心理学研究』
(日本教育心理学会)43, 2, 82-91.
臼杵美由紀(2005)「上級中国人学習者の日本語学習に対する意識と成功への鍵-インタビ ュー調査からの考察」『上越教育大学研究紀要』24, 2, 531-543.
SLA研究会(編), 小池生夫(監修)(1994)『第二言語習得研究に基づく最新の英語教育』
大修館書店
NHK放送文化研究所(2016)『NHK日本語発音アクセント新辞典』NHK出版
王俊(2015)「優れた中国人日本語学習者の学習ストラテジー-日本語専攻学習者2名の質 的調査から」『東北大学高度教養教育・学生支援機構紀要』1, 49-62.
王占華・一木達彦・苞山武義編著(2006)『中国語学概論』改訂版, 駿河台出版社
王伸子(1999)「中国語母語話者の日本語音声習得を助ける中国語方言」『音声研究』(日 本音声学会)3, 3, 36-42.
(2011)「中国語母語話者の日本語外来語彙習得に関する諸問題」『専修人文論集』
88, 1-15.
王睿来・林良子・磯村一弘・新井潤(2017)「中国語母語話者による日本語名詞アクセント の習得-知識・産出・知覚の関係から-」『中国語話者のための日本語教育研究』(中国
語話者のための日本語教育研究会)創刊号, 61-75.
大久保雅子(2012)「台湾人日本語学習者におけるナ行音・ラ行音・ダ行音の聴取混同」『日
本語/日本語教育研究』web版<https://www.cocopb.com/download/2012_11_okubo.pdf>
2021.1.7最終閲覧
(2013)「日本語学習者における音韻習得に関する研究-中国語方言話者のナ行 音・ラ行音聴取を事例として-」早稲田大学大学院日本語教育研究科博士学位論文概要 太田栄次・スナイダー, スティーブン・苅安誠(2009)「日本語学習者における特殊拍生成 時の音響的特性-英語・中国語母語話者の時間的調整を中心として-」『九州保健福祉大 学研究紀要』10, 181-186.
大塚淳子(1998)「日本語学習者の音調から表現意図を判断する能力の習得について-中国 語・韓国語母語話者の聴取実験より」『言語文化と日本語教育』, 16, 34-45.
<http://hdl.handle.net/10083/50262>2021.1.7最終閲覧
岡本佐智子(1997)「外国語の習得ストラテジー-中国で学ぶ中国人研究者に見る外来語の 中間言語-」『東京外国語大学留学生日本語教育センター論集』23, 97-109.
岡葉子(2017)「日本語教育学における『学習動機』の概念について-motivationの訳語を めぐる問題-」『東京外国語大学留学生日本語教育センター論集』43, 19-32.
小河原義朗(1997a)「発音矯正場面における学習者の発音と聴き取りの関係について」『日 本語教育』92, 83-94.
_____(1997b)「外国人日本語学習者の発音学習における自己評価」『教育心理学研 究』(日本教育心理学会)45, 4, 438-448.
(1998)「日本語学習における発音学習ストラテジーの有効性の検討」『言語科
学論集』(東北大学文学部言語科学専攻)2, 1-12.
小熊利江(2000a)「音声指導がおよぼす日本語の長音と短音の習得への影響-英語を母語 とする初級学習者の場合-」『言語文化と日本語教育』(お茶の水女子大学日本言語文
化学研究会)19, 115-125.
オックスフォード, レベッカ L.(著)宍戸通庸・伴紀子(訳)(1994)『言語学習ストラテ ジー-外国語教師が知っておかなければならないこと』凡人社
賈海平・森大毅・粕谷英樹(2006)「話速の変化に対する日本語の促音・長音の時間構造の 分析に基づく日本語学習者の習熟度評価-中国語母語話者を例として-」『日本音響学会 誌』62, 422-433.
郭俊海・大北葉子(2001)「シンガポール華人大学生の日本語学習の動機づけについて」『日 本語教育』110, 130-139.
鹿毛雅治(2013)『学習意欲の理論-動機づけの教育心理学』金子書房
鹿島央(2002)『日本語教育をめざす人のための基礎から学ぶ音声学』スリーエーネットワ ーク
佳雯(2018)「中国語母語話者の促音語生成についての一考察-北方方言母語話者と広東語 母語話者の比較を通して」『実験音声学・言語学研究』(日本実験言語学会)10, 1-15.
カッケンブッシュ寛子・大曽美恵子(1990)『外来語の形成とその教育』(日本語教育指導 参考書16)国立国語研究所
河合靖(1999)「外国語自律学習研究の3要素-動機づけ・学習スタイル・学習ストラテジ ー」『言語文化部紀要』(北海道大学言語文化部)37, 68-85.
仇暁芸(2017)「中国人留学生の日本語ディクテーションにおける誤答分析」『十文字学園 女子大学紀要』48, 287-297.
金佳(2015)「第二言語音声・音韻習得理論の動向と課題-類似性を中心に-」『言語学論
叢』(筑波大学)オンライン版第8号(通巻34号), 37-50.<http://www.lingua.tsukuba.ac.jp
/ippan/TWPL0/TWPL08_34/4_jin2015.pdf>2021.1.7最終閲覧
(2017)「中国人日本語学習者における単母音習得の実態」『言語学論叢』(筑波大学)
オンライン版第10号(通巻36号), 16-27.<http://www.lingua.tsukuba.ac.jp/ippan/
TWPL0/TWPL10_36/2_Jin2017.pdf>2020.1.7最終閲覧
倉八順子(1991)「外国語学習における情意要因についての考察」『慶應義塾大学大学院社 会学研究科紀要-社会学心理学教育学』33, 17-25.
____(1994)「第二言語習得における個人差」『教育心理学研究』(日本教育心理 学会)42, 2, 227-239.
栗原通世(2005)「中国語北方方言話者の日本語長音と短音の産出について」『言語科学