第 9 章 グローバル資本蓄積の構造的矛盾
第 6 節 産軍複合体制と戦争志向
現代世界の中心資本主義諸国も同時に軍事大国化している。国家独占資本主義の歴史は、この軍 事的側面とヘゲモニー国アメリカ合衆国の軍事的・政治的・経済的世界戦略を抜きにしては語れな い。もとより現代の国家は金融寡頭制支配の国家であり、軍事的制度産が産軍複合体制である。経 済的には軍事支出は再生産外消費であり潜在的成長力を削減するが、同時に、増大するサープラス を吸収する効果を持つ(「ムダの制度化」)。冷戦崩壊によってアメリカが唯一の「超軍事大国」とな りアメリカの単独行動主義が世界を席巻したが、旧ソ連は市場経済化したロシアとして復活し、「社 会主義市場経済」化した中国は世界の覇権競争に乗りだしてきた21 世紀初頭の現在時点での世界 の軍事体制は、アメリカを盟主とする中心資本主義諸国と覇権主義路線を突き進む中国やリシアと の軍事対抗関係が形成され、「新冷戦」体制の様相を呈してきた。
本節では、第1項で二度の世界戦争は帝国主義戦争であり、その「必然性」は独占資本主義その ものにあることを確認し、第2項では国家独占資本主義も帝国主義としての戦争志向性を持ちつづ け米ソ対立を基軸とした冷戦体制であったことを確認する。そして第3 項で、「金融寡頭制と産軍 複合」体制が米欧日の国家独占資本主義諸国だけでなく、覇権主義国中国やロシアにおいても「産 軍複合体」が経済構造にビルト・インされていることを明らかにする。第4項では、旧ソ連の崩壊 によって終結した戦後の冷戦体制がロシアの復興と中国の台頭によって、米中対抗を基軸とした「新 冷戦」体制が形成されてきたことを論じたい486。
第 1 項 帝国主義戦争の必然性
487
484 Ibid.,pp.196-7.
485 Ibid.,p.197.
486 世界の軍事費・大量破壊兵器の実態、アメリカ・日本・ソ連・中国における産軍複合体制、につ いては、拙著『国家独占資本主義の国内体制―現代資本主義の経済理論』(リポジトリ)の第2章、
参照。
487 本項は、拙著『資本主義発展の段階理論』(電子書籍・リポジトリ)の第1章第4節を加筆・
修正した。
国家独占資本主義は独占資本主義段階の小段階であるから、独占資本主義固有の軍国主義志向の 体質を持っている。すでに、19世紀末から20世紀初頭にかけての自由競争資本主義の独占資本主 義・帝国主義への段階的変化を目撃した「マルクス後継者」たちは、資本主義の最新の変化の一つ としての軍国主義傾向と帝国主義戦争の「必然性」を解明していた。ヒルファディングは『金融資 本論』において、経済力を掌握し国家を支配した金融資本は、労働者階級を抑え込みその帝国主義 政策を遂行するために、土地所有者階級と同盟を結びその配下にあった軍部と結びつき、金融寡頭 制支配を実現する歴史過程を分析した488。ヒルファディングの分析を継承しながらレーニンは、独 占資本主義・帝国主義を最新のかつ最後の資本主義発展段階と規定し、帝国主義戦争の「必然性」
を解明した489。資本主義世界はその後二度にわたる世界戦争(世界大戦)を引き起こしたことによ って、彼らの解明が正しかったことを証明されている。
二度にわたる帝国主義世界戦争と1929年世界大恐慌は、独占資本主義体制そのものの「体制危 機」をもたらした。第2次大戦後に国家が全面的に経済・社会・イデオロギーに介入し、独占資本 主義を補強しようとする国家独占資本主義へと移行した490。したがって独占資本主義の帝国主義的 対外膨張と戦争体質は、国家介入が全面的に強化された戦後資本主義においても基底において作用 している。しかし世界の人民は、帝国主義と戦争に反対して闘争し世界の平和を守ろうとしてきた。
第1次世界戦争(大戦)はロシア革命を成功させ、第2次世界戦争は中国と周辺国での人民民主主 義革命を成功させた。その間、ソヴィエト連邦はスターリン型の「中央指令型計画経済」へと変質 し、スターリン指導下のソ連は露骨に覇権主義路線を進め世界の革命を裏切った。第2次世界大戦 は、米・英・仏の帝国主義とスターリン・ソ連の覇権主義とが同盟した連合国側が、ヒトラーの独 ファシズム・日本の軍国主義・ムソリーニの伊ファシズムの枢軸同盟に勝利した戦争であり、その 本質は帝国主義戦争にほかならなかった。
第 2 項 冷戦体制と新帝国主義政策
第2次大戦終了直前から、アメリカ帝国主義とソ連覇権主義とは戦後の勢力圏を拡大するために 暗闘していた。連合国の勝利による終戦とともに米ソの冷戦が開始され、アメリカ・ブロック(西 側の国家独占資本主義体制)とソ連・ブロック(東側の「国家指令型計画経済」)とが全面的に対峙 する冷戦体制が成立した。冷戦はイデオロギー的に誇張されて宣伝された側面もあるが、冷戦対決 そのものが両陣営に軍備拡張路線と核兵器拡張路線を強制し、帝国主義的世界戦略を固持するアメ リカには強固な産軍複合体制が形成された。この産軍複合体制はアメリカだけの特異な体制ではな くソ連ブロックにも形成され、戦後の世界史的な体制となった491。日本では平和憲法の制約によっ て軍事化は制限されてきたが、「産軍複合体制」はやはり形成されてきた。しかも安倍政権のもとで 成立した一連の「安保法制」によって自衛隊の集団的自衛権が容認され、平和憲法そのものを改憲
(改悪)しようとしてきた。
戦後の資本主義の世界体制(世界システム)のヘゲモニーはアメリカが握ったが、世界は資本主 義世界とは異なる社会経済システムのソ連ブロックが誕生したことに加えて、旧植民地は政治的に 独立し、アジア・アフリカ・ラテンアメリカの国々は米ソ冷戦体制の中での「第3勢力」を形成す るようになった。この「植民地体制」の崩壊は、オランダ・ヘゲモニー下の環大西洋世界経済以来 のヨーロッパの中心資本主義諸国による世界の植民地体制そのものを崩壊させる世界史的大変動で あった。
しかし、こうした世界の政治状況の変化によって帝国主義と戦争は消滅したのではない。アメリ カの巨大な軍事力は、「世界の憲兵」としてアメリカの経済的覇権から離脱しようとする南米の民族 解放運動や社会主義的政権に対しては露骨に軍事力を行使してきたし、アジアでの「社会主義の拡
488 ルドルフ・ヒルファディング著、岡崎次郎訳『金融資本論上・中・下』岩波文庫、1955〜6 年、第23章。
489 ヴェ・イ・レーニン著、宇高基輔訳『帝国主義』岩波文庫、1956年、第7・9章。
490 拙著『資本主義発展の段階理論』(東京経済大学学術リポジトリ)、2019年、第7章第2節第 1項および拙著『国家独占資本主義の国内体制―現代資本主義の経済理論』(東京経済大学学術リ ポジトリ)第1・2章、参照。
491 冷戦体制としての戦後世界の歴史(ワールド・ヒストリー)を包括的に考察した歴史書とし て、O.A.ウェスタッド著、益田実監訳・山本健・小川浩之訳『冷戦』上・下、岩波書店、2020年 7月、がある。
大」を阻止しようとして朝鮮戦争・べトナム戦争・アフガン戦争・湾岸戦争・イラク戦争を引き起 こしてきた。まさに、経済的覇権を守るために軍事力を行使するという古典的帝国主義の再現にほ かならなかった。
旧植民地は政治的な独立を勝ち取ったが、自立した経済を建設することには成功していなかった。
いわゆる「南北問題」として、先進国と後進国との経済的格差は拡大してきた。しかし後進国(発 展途上国)の貧困を放置することは、世界経済的には構造的インバランスを抱えることになる。中 心国資本主義国はアメリカを先頭として露骨な植民地的搾取を放棄して、後進国の経済開発を積極 的に援助しようとする「開発主義」政策に転換した。ソ連・ブロックも後進諸国を自陣営に巻きこ むために後進国を経済援助した。米ソの経済援助競争がはじまり、「開発主義」に拍車がかかった。
しかし「開発主義」は成功したとはとてもいえなかった。
東アジアでは1980年代以降、中国を筆頭にして目覚ましい経済的発展を遂げ(アジアの奇跡)、 従来の「帝国主義―植民地」論では説明できないような新興経済諸国の発展があった。旧ソ連は解 体し冷戦体制は崩壊したが、超大国として台頭してきた中国の世界政策は伝統的な中華思想に固執 した新たな覇権主義(大国主義)であり、新たな冷戦体制を復活するような世界の政治状況が生み だされている。米ソの冷戦体制・旧植民地の政治的独立・経済的「開発主義」のもとでも、アメリ カは経済的覇権を貫徹させるために軍事力を行使してきた。「米中の新冷戦」においてもアメリカの 帝国主義的な軍事力行使の欲求は変わらないであろう。ブッシュ政権時代には米ソの冷戦体制の崩 壊によって露骨な「アメリカ単独行動主義」に走り、対テロ戦争という名目で中東諸国に軍事的侵 攻を繰り返した。しかし同時に、アメリカの経済的覇権が弱まってきていることも歴史上の事実で ある。そのために、1980年代はじめのレーガン政権以来アメリカは、「世界の憲兵」役としての軍 事費負担を軽減しようとして日欧の「同盟国」に軍事負担を強要し、平和憲法の日本に「集団的自 衛権」を迫り「日米軍事同盟」化がひたすら進んできている。最近のトランプ政権のような「アメ リカ第一主義」は、その意味では従来の帝国主義政策の21 世紀初頭における世界的環境への新た な対応である側面もある。
大西広は、レーニン時代と同じく現代資本主義は、国際的な不均等発展とによる「世界の再分割」
闘争による「戦争の時代」にあることを強調している(同『グローバリゼーションから軍事的帝国 主義へ』大月書店、2003 年)。レーニン命題が現代にも貫徹しているとする基本的認識には筆者も 同意見であるが、大西の議論のかぎりではレーニン命題の現代的な確認に終始していて、その現代 的に変化している側面の分析が不十分である。レーニン命題を確認するだけなら本質還元論であり、
現代資本主義論とはならない。アメリカの覇権は衰退期にあるからこそ残された唯一の圧力手段と して軍事力への傾斜を深めている、と大西は主張している。対テロ戦争の大義のもとで軍事力に傾 斜していることは事実であるが、アメリカの覇権は後退しながらも復活しおり衰退したとは即断で きない。世界戦争がもし起これば「人類滅亡の危機」が生じている世界史的な重大な選択に全人類 は直面している、と筆者は痛感している。
第3項 産軍複合体制の定着
第2次世界戦争中に交戦諸国は一斉に戦時経済に移行したが、戦争中に開発された軍事技術は戦 後の技術革新を規定し、国家と軍事が深く経済過程に定着していった。とくにアメリカ合衆国では、
強大な軍事組織(国防総省)と軍事産業との間に強固な融合・癒着体制が定着し、国内はもとより 世界の経済・政治・軍事に大きな影響を及ぼす存在となった。国家独占資本主義の軍事的規定(産 軍複合体)全般については現代資本主義シリーズ第2部『国家独占資本主義の国内体制―現代資本 主義の経済理論』の第2章で論じたので、本項では米・露・中国・日本における産軍複合体の実態 を簡単に要約し、その戦争志向性が経済構造にビルト・インされていることに焦点をしぼる。