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世界システム(ヘゲモニー)と発展段階と長期 波動

世界システムのヘゲモニー国は、当時の先端的産業(リーディング・インダストリ)をいち早く 確立した基軸資本主義国であった。リーディング・インダストリーは、オランダ覇権の環大西洋経 済圏のもとでの工場制毛織物産業、イギリス覇権のパックス・ブリタニカ世界経済での機械制綿工 業、列強が抗争しあった独占資本主義と帝国主義の世界経済の重化学工業、第2次大戦後のアメリ

カ覇権のIMF=GATT体制のパックス・アメリカーナ時代の産業=科学革命下の原子力・電子産業・

合成物質・航空宇宙産業を中心とする新鋭重化学工業、であった。当時の世界経済の先端的生産力 を基礎として、ヘゲモニー・基軸資本主義を中心とした国際通貨制度や国際金融制度が形成され、

ヘゲモニー国が支配する世界的な軍事体制がこれらの経済的覇権を保証していた。このヘゲモニー が安定している時代には世界システムも安定しており、その局面の資本主義は「高成長期」(長期波 動の上昇局面)でもあるが、後発資本主義国の基軸資本主義国への「キャッチング・アップ」(不均 等発展)が進みヘゲモニーの交代期に入ると、世界システムは不安定になり低成長期(停滞)(長期 波動の下降期)となり、ヘゲモニーが交替していく。このように資本主義の発展段階はヘゲモニー・

基軸資本主義国の交替や長期波動の長期的な動態と密接に関係している。

Ⅰ 景気循環と長期波動

45 同上書、196〜207頁。経済理論学会編『季刊経済理論』第55巻第3号(2018年1月)は<

米中覇権争いのゆくえ>と題する特集をした。世界経済を規定する覇権争いの新局面をとりあげた こと自体は高く評価すべきであり傾聴に値するが、どの論文も経済覇権の実を分析していて「新冷 戦」としての軍事覇権を取り扱っていない。

新田滋は、長期波動は資本主義経済の内生的循環ではないと指摘している46。確かに10年程度の 周期的な恐慌・景気循環な資本主義経済に内在する諸矛盾の展開によって引き起こされるのに対し て、長期波動は「資本蓄積の社会構造」(SSA)を規定する政治的・社会的要因が強く作用している し、国民経済の合成以上の世界経済固有の諸問題にも影響される。さらに長期波動は、基軸資本主 義国の長期波動に主導されながら「国民経済の長期波動」の国際的な同時化と不同時化作用の総結 果として世界的な長期波動となるから、世界システムのヘゲモニーや軍事力によっても影響される。

したがって長期波動は景気循環を単に複数回積み重ねたものではないことに注意しておかなければ ならない。新田が主張するように、循環的見方と発展段階的見方の統一が必要である47

Ⅱ 長期波動と段階と世界システム―「世界システムの中間理論」

横川は「宇野三段階論」を踏襲しながら「世界システムの中間理論」として、長期波動をダイナ ミック産業の交替として論じながらヘゲモニー交替を資本主義世界システムの交替としての超長期 波動と規定している48。まず世界システムの交替としての発展段階を、生成(重商主義)・確立(自 由主義)・多極化(帝国主義)・確立(福祉国家)・多極化(新自由主義)と規定し、ヘゲモニーのイ ギリス中心からアメリカ中心への交替と捉えている。重商主義・自由主義・帝国主義という「宇野 三段階論」を踏襲しながら横川は、ロシア革命後を社会主義への移行期とはせず、第2次大戦後の 資本主義を現代資本主義が福祉国家として確立した時期とし、1970 年以降の現代資本主義の転換

「新自由主義」として多極化した時代と規定している。この段階区分は「宇野三段階論」や「加藤 福祉国家論」と同じく「政策論」基準による段階区分であり、横川「世界システムの中間理論」説 における「世界システム」アプローチとは整合していないように思われる。横川はイギリス中心史 観に立っているからオランダのヘゲモニーが脱落しており、筆者の段階区部とは異なる。第2次大 戦後の現代資本主義を横川は、「市場資本主義」から「管理資本主義」への転換ともいっている49

「市場資本主義」の内容は説明されていないし、資本主の内容が規定されなく「基本的矛盾なり根 本的矛盾」が欠落している。また独占資本主義規定が脱落しており、帝国主義の必然性や大恐慌が 説明されていない。「管理資本主義」とはおそらく国家独占資本主義のことだろうが、なぜ国家独占 資本主義規定を採用しないのかは説明されていないし管理する主体たる国家の規定がない。

こうした欠点は「世界システム」論に影響している。世界システムのヘゲモニーを握る基軸国と しての資本主義一般・独占資本主義・国家独占資本主義としての基本規定が欠如しているから、「社 会主義の必然性」は語られていない。筆者の先端的産業(リーディング・インダストリ)を横川は ダイナミック産業と呼び、歴史的に毛織物・綿工業・重化学工業・自動車・情報通信をその代表的 な産業として例示している。しかし、第2次大戦後のダイナミック産業を自動車と情報通信とする のは過度の単純化ではなかろうか。そもそも1970年代以降にダイナミック産業が現れているか、

したがって「新しい段階」と規定できるか否かは、今後の歴史的展望にもかかわる根本的な課題で ある。

横川説は壮大な仮説であり、その歴史的裏付けと理論的根拠づけは今後の課題である。「宇野三段 階論」が各段階のタイプ分析に終わっていて段階移行を説明していないのに対して、横川説はダイ ナミック産業の交替として段階移行を説明しようとしている。景気循環論・長期波動論・超長期波 動論(世界システムの交代論)という次元が明らかに異なる理論を完成し、かつその相互関係を説 明するという課題が残されている。横川自身は「循環的恐慌」・「構造的恐慌」・「システミック恐慌」

を提起しているが50、オランダからイギリスへのヘゲモニー交替は世界商業の覇権の推移によって 生じたと筆者は展開している。イギリス・ヘゲモニーからアメリカ・ヘゲモニーへの移行は連続的 に起こったのではなく、19 世紀末から第2 次世界戦争までの列強の角逐と帝国主義戦争を経てア メリカ・ヘゲモニーに移行した。この期間に起こった19世紀末大恐慌・第1次世界戦争・1929年 代恐慌・1930年代世界大不況・第2次世界戦争こそ歴史的に重視しなければならない。

なお、1980年以降の多極化段階の特徴として横川が、グローバリゼーション下のアジアの台頭を 情報通信技術による雁行発展(東アジア)で説明しようとしている点は傾聴に値する。また、情報

46 新田滋『段階論の研究』御茶の水書房、1998年、155頁。

47 同上書、162頁。

48 横川信治「ダイナミック産業と国際価値論」『宇野理論を現代にどう生かすか Working Paper Series』2-20-2(http://www.unotheory.org/news_Ⅱ_20)、29頁。

49 同上論文、3〜4頁。

50 同上論文、15〜6頁、29頁。

通信技術による先進国のカプセル化されたプラットフォーム・ビジネス、最終消費財に仕上げる生 産過程での発展途上国におけるオープン領域におけるモジュール型生産との組み合わせの指摘51、 などは今後のグローバル資本主義の動向を見るうえで貴重な提起である。

Ⅲ SSA(蓄積の社会構造)理論の長期波動論と段階論

欧米のマルクス経済学では、長期波動(コンドラチェフ循環)論争やフランスのレギュラシオン 理論の戦後資本主義分析の中で、資本主義発展の理論(段階論)は言及されてはきた。アメリカの マルクス経済学(ラディカル派)ではこれらの研究と連動しながら、1980年代からの世界的な現代 資本主義の転換を解明しようとする問題意識から、「蓄積の社会構造」(SSA)理論がマルクス経済 学者によって展開されてきた。日本のマルクス経済学では「宇野三段階論」を中心として資本主義 発展の理論が論じられてきた。「宇野三段階論」の修正なり展開として、欧米の長期波動論や SSA 理論の研究の成果を取り入れた若干の研究者の自説は提起されているが、SSA理論については本格 的に紹介されてこなかった。

「蓄積の社会構造」(SSA)理論は長期波動を次のように説明する。安定したSSAの形成によっ て長期成長期を迎え、SSAの内部矛盾の展開によってSSAが限界にぶつかって不安定化して「構 造的恐慌」が発生し、SSAの解体によって長期停滞期に陥いる。新しい「蓄積の社会構造」の形成 によって新たな長期波動の上昇期を迎えるが、同時にこの新たな蓄積様式は資本主義の新しい段階 となる。こうしたアメリカ・マルクス経済学の新展開であるSSA理論そのものはすでに現代資本主 義シリーズ1『資本主主義発展の段階理論』補論Ⅰにおいて紹介し検討したので、参照してもらい たい。

51 同上論文、30頁。