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世界金融危機後の展望― 社会経済システムの変 革へ

第 8 章 「グローバル資本主義」の帰結としての 世界金融危機

第7節 世界金融危機後の展望― 社会経済システムの変 革へ

ポスト資本主義後の新しいシャカ経済システムの選択については、現代資本主義シリーズの第5 部とにおいて本格的に論じたいが、本節では SSA 理論が世界金融危機との関連で提起している変 革論を紹介しておきたい406

Ⅰ 新自由主義は新 SSA ではない

フィリップ・オハラは、新自由主義は新しいSSAであるか否かと問題提起して、新SSAではな いと答えている。

1 新自由主義の攻勢

ケインジアンの福祉国家政策は、生産とイノベーションを軽視しまた企 業体制に対する批判が高ってきたので、失敗した。それに代わって登場した新自由主義の政策は、

①均衡財政主義、②公共活動の民営化、③インフレ抑制策、④グローバルな資本移動の自由化、に 要約される。均衡財政は自由市場哲学の主張にバック・アップされ、アメリカ企業研究所のような 新自由主義を推進するシンクタンクの提言を重視し、ケインズ政策とは反対に供給サイドを重視す る経済学を受け入れた。政府支出は高利子率をもたらし投資を減少させるとする「クラウディング・

アウト」仮説論が出現した。減税によって人々はより働き、GDPが上昇して課税可能所得が増加す るとする「ラッファー曲線」によって減税政策が採用された。政府支出は軍事的防衛と法治活動

(legality)のみに限定し、「外部経済」への支出は最小限にすべきだとするリバタリアン哲学が再

現しはじめた407。しかし軍事支出は増大し、社会福祉削減は政治的抵抗にぶつかり、財政赤字解消 政策は成功せずむしろ失敗した。公的企業の民営化がはじまったが、しかし規制改革は「失敗」し た。反インフレ戦略と労働攻勢が保守主義政権によって推進され、労働攻勢に成功しインフレが抑 制されたが、賃金と労働条件は悪化し、不平等が拡大し、労働者の生活状態は悪化した。財政政策 よりも金融政策が重視され、金利を弾力化することが目標とされた408

2 国際的変化

国際通貨制度は変動相場制に移行したが、「IMF」路線が実施された。GATT体 制はWTO体制に強化され地域経済協力も進んだが、変動相場制と自由貿易は世界経済の質的変化 を生みだした。新自由主義は、旧IMF 体制の規制主義レジームを新自由主義的自由化レジームに 変えたが、その結果金融システムも規制が撤廃された。その結果、金融危機が多発し、1980年初頭 と90年初頭には深い不況に陥り、1980・82・90年に金融危機が勃発し、1980年代にはラテン・

アメリカの国際的債務危機がおこり、1987年には証券市場が危機に陥り、継続的金融危機と投機的 バブルが繰り返される世界が出現した409

3 新自由主義は新 SSA ではない

こうした新自由主義が進めたもろもろの変化にもかかわ らず、新しいSSA が形成されたのではなかったとオハラは結論づけている410。オハラは新自由主

404 Duncan K.Foley,“The Political Economy of Postcrisis Global Capitalism”, pp.928-31.

405 Ibid.,pp.931-3.

406 本節は、拙著『資本主義発展の段階理論』(リポジトリ)の補論Ⅰの第4節第8項加筆・訂正 した。

407 Phillip Anthrony O’Hara,“A new social structure of accumulation or the emerging global crises of capitalism?”, pp.968-9.

408 Ibid.,pp.970-3.

409 Ibid., pp.974-6.

410 Ibid.,p.976.

義は新SSA かそれとも大不況や金融不安定性に向かう危機システムか、という問題を提起してい る。現実には、①新リベラル国家政策は成功していないし、幾つかの変化はSSAには不必要なもの であり、②金融化は安定性や高い収益性や階級間の合意をもたらしていない、③フレキシブル生産 は日本以外では普及していない、としている411。しかも新自由主義は多くの矛盾を抱えており、「グ ローバル資本主義」自体に矛盾が存在し、長波上の不安定性と危機傾向を深めている。インフレ抑 制政策と成長促進のための低利子率政策は本来矛盾し、デフレと不況リスクを増大させてしまって いる。投機的金融取引の飛躍的な拡大はホット・マネーが世界中を駆け巡る世界を作りだし、アジ ア通貨危機や階級対立の激化をもたらした412。「グローバル資本主義」では輸出と国際競争に経済成 長は依存しているのに、国際的多角的な協調努力をしないアメリカの新自由主義戦略は新SSA を 形成していない。そればかりではなく、グローバル新自由主義の弊害こそ重視すべきであり、市民 社会の原理を破壊し連帯とコミュニティに敵対している、と批判する413。オハラは新しいSSA 出 現の可能性には期待しているが、新SSA形成のための制度のイノベーションが必要であり、①世界 的緊縮政策の停止、②恐慌防止のための貨幣救済をする世界銀行の設立、③文化・社会資本の充実、

を指摘している414

Ⅱ 社会民主主義的代替案

ボールズ・ゴードン・ワイスコップたちは、代替案として社会民主主義システムを提案している。

資本主義は「階級間のコンフリクト関係」(power relations)の矛盾したシステムであり、その「資 本蓄積の社会構造」は歴史的に不確実性に満ちた固有の矛盾を内包している。アメリカ合衆国の資 本階級の弱体化による利潤率低下が1970年代の危機の根源であり、80年代には資本の反撃がはじ まっている。資本に対する挑戦を後退させることは危機脱出策ではないから、アメリカの左派の戦 略は社会民主的な代替案の道である。国家と経済を人民が管理するシステクを目標にすべきである、

と提案している415

Ⅲ 21 世紀初頭の新ニューディールを

フレッド・ブロックは、1930年代のニューディール改革に匹敵する21世紀初頭の新しいニュー ディール改革を提起している。新自由主義がもたらした所得不平等の拡大は、バブルと過少消費を もたらした。大衆的な消費拡大をもたらすには、石油にかわる代替エネルギーを開発し、海外軍事 活動を縮小して海外支出を削減し、国内生産へ回帰する必要があると主張している。

1 グリーン消費経済への課題

ブロックは、従来の大量消費による環境破壊を克服し、環境 と調和したグリーン消費経済への移行を提案している。①環境や健康に配慮した商品・サービスの 質を高め、そのための「高技能労働」の育成と雇用を促進し、②インフラを拡充し、③再生可能な 新エネルギー・運輸システム・都市インフラ・熟練労働力への投資を支える金融の流れを作りだし、

④経常収支赤字の解消と資本輸入(海外借入)を終結することなどを提案している416。さらにサー ビス経済化を促進するためには、質の向上、サ−ビス価格にウェイトをつけた消費者物価指数の作 成、健康・子供ケアの質の向上と「教育と職場訓練のバリア」の排除、医療制度改革、ファンドの 設立が必要となる。グリーン・コミュニティの建設のためには、非炭素エネルギーの開発し、新し い運輸の形態を作り、石油依存からの脱却するとともに、グリーン技術を輸出し、グリーン・イノ ベーションを起こすことが必要である417

2 所得再分配政策

所得格差の克服のために、①社会プログラミングや所得維持政策によって

「学歴ギャップ」を解消し、②付加価値税を導入し、③低賃金労働者の交渉力を改善し、最低賃金 制を確立し、賃金と時間のルールを強制し、④失業率改善のための需要構造を作りだすことを提案

411 Ibid.,pp.979-80.

412 Ibid., pp.980-2.

413 Ibid.,pp.983-5.

414 Ibid.,pp.985-6.

415 Samuel Bowles, David Gordon and Thomas E. Weisskopf,“Power and Profits:The Social Structure of Accumulation and the Profitability of the Postwar U.S.

Economy ”, pp.706-7.

416 Fred Block,“Crisis and renewal:the outlines of a twenty-first century new deal”,pp.947-8.

417 Ibid.,pp.951-2.

している418

3 金融化経済から新生産レジームの建設へ

金融主導型経済はバブル循環を生みだし、生 産を削減して潜在的成長力を弱化させた419。これからは生産的投資を増大し、税制を改革して富裕 層の所得やキャピタル・ゲインへの増税をしなければならない。そして全金融セクターを規制して、

借り入れや貸付の規制、資産運用役員の報酬削減、ローン債権販売金融機関のポートホリオにロー ン借り手の利子負担を明示させることを提案している。さらに、金融・為替市場に取引税を導入し、

金融トレーダーを規制しなければならない、とする。インフラ投資を促進するためのグリーン銀行 を設立し、公民連繋してグリーン投資促進する政策を提案している。

4 新レジームの可能性

ブロックは、自由市場信仰と財政赤字がオバマ政権のスペンディング 政策を縛り、これが続けば景気回復は難しくアメリカのヘゲモニーは消滅するだろうと警告してい る。新しい蓄積レジームの可能性については、強固な利益集団が存在し、保守層の草の根運動が強 力であり、現在までのところ国際的協調が欠如しているから、悲観的である。しかしルーズベルト 政権時代のニューディールには前半と後半があり、本格的な改革は後半にあったことを想起すれば、

21世紀初頭の新たなニューディールの可能性を否定はできないとしている。最後にブロックは、市 場原理主義者たちとの活発な論争を巻き起こすことを提唱している420

418 Ibid.,p.950.

419 Ibid.,p.953.

420 Ibid., pp.956−8.