第 9 章 グローバル資本蓄積の構造的矛盾
第 4 節 グローバル社会主義の展望
筆者は資本主義にかわる新しい社会経済システムとして社会主義を志向するが、筆者の理想とす る社会主義は、①自然・環境と共生する社会システムとしての「エコロジカル社会主義」、②労働す る人々が主体となって連帯し助け合う「コ―オペラティブ社会主義」、③完全に解放され自由となっ た個人が担う「フリーダム社会主義」である。本格的には現代資本主義シリーズの第5部において 論じる予定であるが、アウトラインについては拙著『社会経済システムの転換としての復興計画』
のⅧを参照されたい。資本主義は何度かのグローバル化(国際化)をしながら、20世紀後半から世 界体制として「グローバル資本主義」となった。資本主義にとってかわるシステムとして社会主義 を構想する以上、その世界体制としての「グローバル資本主義」は「グローバル社会主義」へと転 換しなければならない。こうした視点から本節では「エコロジカル社会主義」・「コ―オペラティブ 社会主義」・「フリーダム社会主義」がグローバルな観点からも必要とされていることを論じること にしたい。
第 1 項 複合発展と「グローバル労働」
「グローバル資本主義」における複合発展は、中心国の先進的な技術・産業組織・分業と発展途 上国での過度に搾取されている労働との結合である。複合発展は、①土地なき人民や貧しい人民を 地方から都市へまたは発展途上国から中心国へ「移民」させ、②政府が労働組合を抑圧し環境規制 を無視するような国々に資本と技術を輸出する、ことによって進められる。その結果、資本輸入国 の労働条件は悪化し、公害が輸出される。中心国と発展途上国の労働者を資本は意識的に分断させ、
最大限の利潤を獲得しようとする。科学的社会主義の創設者マルクスとエンゲルスは「万国の労働 者よ団結せよ!」と呼びかけたが、21 世紀初頭の万国の労働者はさまざまな「分断」攻勢を受けて
585 Ibid.,pp.193-5.
586 Iibid.,p.195.
587 Ibid.,pp.196-7.
588 Ibid.,p.197.
いる。この厳しい現実を直視しながら、グローバルな労働者階級の連帯と団結の方向性を模索して みよう。
Ⅰ 中心国労働者の分断と新たな連帯
1 中心国労働者階級の分断
機械制大工業のもとで賃労働は単純労働化し589、資本の人格 的な「指揮・監督」によって「資本のもとに労働が実質的の包摂」された。独占資本主義のもとで 株式会社が発展することによって、「指揮・監督労働」は企業組織化し、労働も多様化した。現代の「情報資本主義」のもとでは「企業内官僚制」がより複雑化し、「企業内労働市場」が形成され、労 働のネットワークによって熟練労働と不熟練労働への「両極分解」が進行している590。こうした労 働の多様化と分断化は「情報資本主義」になってさらに展開され、複雑化してきた。オートメーシ ョンのもとでのME技術・情報ネットワーク・オープンネットワーク技術が発展し、多品種生産と スピード経営が最大の課題になっている。そして労働の内容もさらに変化した。
2 科学研究開発労働の増大
第2 次大戦後の技術革新は産軍複合体制のもとで軍事と結びつ き、かつ科学=産業革命として科学研究開発自体が産業に包摂されてきた。そして研究・開発労働 が重要な生産的労働となってきた。現代の「情報資本主義」化のもとで「企業内官僚制」がより複 雑化し、「企業内労働市場」が形成され、労働のネットワークによって熟練労働と不熟練労働への「両極分解」が一層進行している。現代の熟練労働は、「直接的労働」においては、ME化による労 働手段体系の監視労働(間接的な情報処理労働に接近している)、汎用機械熟練労働で標準的なプロ グラムのない複雑な形状の部品加工労働である。「準直接的労働」においては、開発・販売・事務の 管理労働と一体化した情報管理労働、保全・修理労働における機械工学や電子工学の知識が必要と され情報処理労働にぶんるいできる。「間接的労働」においては、生産的労働としての科学的労働・
研究開発労働である。このように研究開発労働は、監視労働や情報処理労働とともに現代の熟練労 働の重要な一環であり、科学=産業革命によってますます増大してきた。
3 労働疎外の深化と労働者の抵抗
産業的官僚制の「管理―被管理のピラミッド体系」のも とでの労働組合のある企業においては団体協約があるから、先任権によるレイオフからの保護や昇 進や付加給付が得られるが、組合のない企業ではハンドブックやマニュアルによって規定されてい る。正規の労働者には発言権や「公正」な処遇の約束や、欠員応募権や選任権などのさまざまな諸 権利が与えられている。近年増加してきた非正規労働者には、こうした「諸権利」は与えられてい ない。しかし正規労働者においても主体的な文化形成能力は衰退し、労働者の行動類型がピラミッ ド体系の中に組み込まれ、「組織人間」なり「会社人間」意識が作りだされる591。統制システム全体 は労働者の生活権まで包括した全体的統制システムとなり、労働者自らの文化が破壊される。労使 同権化と官僚的統制システムが併存する状態といえる592。労働者は当然抵抗するから労働力の価値(賃金)は階級闘争と階級意識に左右される。経営者の ほうは労働時間の延長や労働強化によって剰余価値(利潤)を高めようとするから、剰余価値率は こうした「資本―賃労働」間の階級闘争によって決まってくる。しかし労働者の運動は国家間で分 断されている593。したがって中心資本主義の労働運動は、正規労働者間のさまざまな分断攻勢を退 け、国内的には非正規労働者の「権利獲得」や正規労働者化を支援し、さまざまな市民運動(環境 運動・市民運動・消費者運動・ジェンダー運動・反戦平和運動・反原発運動など)との連帯を追求 しなければならない。国際的には、各国の労働運動間の分断を超えて資本側の「サミット」体制に 対抗する「労働サミット」体制を作り、国連のさまざまな機関を利用しながら中心国労働運動と周 辺国・新興経済国とが「共通の利害関係」を発見し、「共通の敵」との戦いに連帯しあわなければな らない。直接民主主義原則に基づく「世界フォーラム」の一層の発展も必要であるし、さまざまな 世界規模の反戦・平和運動や反原発・環境運動との連帯を追求していくことも必要である。グロー
589 もちろんすべての産業がすべて機械化されたのではなく、マルクスも詳細に分析しているよう に「マニュファクチャ―」は広汎に存在しそこでは依然として熟練労働に依存していた。現代にお いても第3次産業が拡大してきたが、教育・医療・介護にはコミュニケ―ションが必須であるか ら熟練労働が必要である。
590・詳しくは、拙著『国家独占資本主義の国内体制―現代資本主義の経済理論』(リポジトリ)の 第6章、参照。
591 鈴木和雄『労働過程論の展開』学文社、2001年、115〜9頁。
592 同上書、117〜119頁。
593 同上書、164頁。
バルな思想と運動とローカルな思想と運動との「弁証法的に統一」することでもあり、こうしたも ろもろの国際労働運動を統括する国際的組織(現代版の国際労働者評議会)の創造を展望する必要 がある。
Ⅱ グローバル資本(多国籍企業)の発展途上国への影響
1 低賃金労働の搾取
1980 年代からの「グローバル資本主義」化を促進した情報通信革命は 労働過程の熟練労働を単純労働化したので、生産は発展途上国の安い単純労働によっても可能とな った。国際通貨体制の「変動相場制」への移行ともなう資本移動の自由化にも押されて、一挙にグ ローバリゼーションが進展した。情報通信革命は労働過程の単純化をつぎのように進めた。(1)直 接的労働 ME化は労働手段体系の制御・運転労働を不要ないし節約し、汎用機械熟練労働はプロ グラムによって自動化された。体系全体の監視労働は必要であるが、この労働は間接的な情報処理 労働に接近していく。組み立て労働はロボットやモジュール化によって自動化されていく。(2)準 直接的労働 補助的な単純労働は自動化されていく。生産管理労働は情報管理労働に置き換わり、開発・販売・事務の管理労働との一体化が進んでいる。保全・修理労働はますます重要となるが、
機械工学や電子工学の知識が必要とされ、情報処理労働の性格を強めていく。
そして、科学的労働・研究開発労働は中心的な生産的労働になりつつあり、事務労働はフレキシ ブル化と合理化がすすめられている。中心資本主義国で進められた情報通信革命によって直接的労 働の多くが不必要になったことによって、発展途上国の安い低賃金労働でも生産が可能になり、生 産の海外移転が一大ブームとなった。労働は情報管理労働の必要度が増大した。生産的労働の中心 となってきた中心国の高賃金の研究開発労働に発展途上国からの優秀な労働力が移動するようにな ってきた。
2 アグリ企業による農業への影響
多国籍企業の発展途上国への進出は、発展途上国の自給 自足的「共同生活」を崩壊させ商品経済化と資本主義化を加速させてきた。同時に発展途上国の工 業や農業の世界経済の中への組み込みが一層進展した。輸出産業を発展させたアジアの新興経済国 は獲得した外貨で必要とする工業製品を中心国から輸入できる。しかし輸出産業が未発達な発展途 上国は、工業製品を輸入するために第1次産品を輸出しなければならない。しかし輸出用土地はア グリビジネスが握っているから、農業の輸出農業化は現地の住民の生存に必要な農業を限界的な土 地に追いやってしまう。さらに発展途上国の交易条件は悪化しているので、輸入を確保するために 増産しなければならず、化学肥料や農薬が集中的使用され健康な生活を脅かしている。また、輸出 作物の拡張は森林伐採を促し、土地のない農民や貧農を生態系の脆い限界地域に追いやる594。発展途上国政府は民主的な環境規制が未発展であり、労働運動も未発達である。その結果、世界 の貧困と環境破壊が発展上国そしてそこの貧困層に集中的に襲いかかっている。したがって国際労 働運動は発展途上国の民主制度の確立と労働組合や民主的運動を支援し連帯する方向を追求しなけ ればならない。中心資本主義間の連帯だけでなく、資本側のサミットや「IMF開発路線」に対抗し て、発展途上国の民主的な社会と経済を建設することを支援する活動も必要となっている。
第 2 項 互恵平等な諸民族の共存
1 民族問題
特定の人文地理学的な風土の中で幾世代にもわたって共同の生活をすることによ って、そこから共通した認識や組織や行動というものが形成されてきた。すなわち同一の地域で共 同の生活をすることによって、共通の言語や生活様式や経済様式が形成される。こうした共通の生 活様式や経済様式を基礎として民族が誕生してきた。こうした民族の視点から世界の現実を見る必 要がある595。現代においても民族相互の戦争は宗教的闘いの様相を呈しながら多発しているし、同 一民族の中でも部族間の戦争や紛争が起こっているが、民族の社会科学的あるいは経済学的研究は 遅れている。民族感情とかナショナリズムは、歴史において帝国主義とかヒットラーのナチズムな594 James O’Cnnor,Natural Causes, p.195.
595 民族問題は、「マルクス主義のアキレス腱」といわれるくらい、マルクスもエンゲルスもそし てその後のマルクス主義者たちもあまり論じてこなかった。しかし『共産党宣言』において、共産 主義は家族制度や民族を廃止しようとしているという批判に対して、マルクスとエンゲルスは、権 力を獲得したプロレタリアは同時に国民を代表しなければならないと宣言し、国民という概念は否 定しなかった。