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国家独占資本主義のグローバルな矛盾のグロ ーバルな解決方法

第 9 章 グローバル資本蓄積の構造的矛盾

第 3 節 国家独占資本主義のグローバルな矛盾のグロ ーバルな解決方法

前章の第2節で考察したようにマルクスの「資本蓄積の一般法則」は、グローバルな世界では貫 徹している。すなわち、国際的な格差と貧困の拡大として富と貧困の両極的蓄積は世界的に進行し ているし(古典的貧困)、現代ではグローバルな環境危機を生みだしている(現代的貧困)563。こう したグローバル資本蓄積が生みだしている古典的貧困と現代的貧困を解決するためには、マルクス 経済学が本来的に持っている世界革命の視点こそ堅持する必要がある。こうした世界体制視点こそ、

資本主義の独占資本主義化・帝国主義化を目撃した「マルクス後継者」たちの『金融資本論』とか

『帝国主義論』において貫かれている方法である。しかし世界資本主義なるものが現実に存在する のではない。国民国家と国民経済を基礎とした覇権国家を基軸とした世界システムとして存在する 現実の国際体制の実態にそくしてその解決法法を考えなければならない。

第1項 古典的貧困の克服

Ⅰ 富と貧困の両極的蓄積

グローバルにみれば、飢餓線上をさまよっている貧民層と一握りの億万長者として富と貧困の両 極的蓄積は貫徹している。

1 栄養不足人口と億万長者

2018年には飢餓人口が推計8億2,160万人で、中程度と深刻な 食料不安人口は20億人、と報告されている564。他方で、富と所得の億万長者への集中は中心資本 主義諸国で進んできたが、世界的にも集中化してきた。『フォーブス』2020年版によると、資産額 のトップはAmazon.com創業者の1,247億ドル、2位はビル・ゲイツ1,034億ドルとなり、日本人 ではファーストリテイリング会長兼社長の柳井正が世界の39位(222億ドル)、ソフトバンクの会 長兼社長の孫正義が47位(205億ドル)であった。資本の価値増殖運動が支配している限りその一 般法則たる「富と貧困の両極的蓄積」は貫徹する。中心資本主義世界では社会福祉政策やさまざま な所得再分配政策が実施されてきたが、この傾向は新自由主義の席巻とともに激しく進行している。

さらに発展途上国には古典的貧困とともに現代的貧困たる環境破壊が集中的に進んできた。この解 決のためには多国籍企業という「グローバル資本蓄積」を規制し、最終的にはその根源となってい る資本主義体制にとってかわる新しいグローバルな社会経済システムを建設しなければならない。

2 難民

1990年代に地域紛争においてクルド難民・ルワンダ難民・コソボ難民・東チモール難民 などが発生したが、2018年には難民数は推計7,080万人となり、シリア・アフガニスタン・南スー ダン・ミャンマー・ソマリアの5か国に67%が集中し、難民の86%が低・中所得国で生活してい る565。受け入れ国はトルコ379万人・パキスタン140万人・ウガンダ120万人・スーダン110万 人・ドイツ110万人となっている566。ヨーロッパに到着した難民は2016年に101万1,700人以上 であったが、「外国人排斥の空気」があり、移民・難民の受け入れには閉鎖的である。難民問題の根 底には南の世界の貧困と政治的自治能力の欠如などがあるが、内戦がおこるさまざまな対立を解決 して発展途上国の経済的政治的建設が進むことが先決問題である。同時に、中心国における「外国 人排斥運動」などが起こらない民主的手続きの確立と運動の主体となっている「没落白人の貧困層」

を中心資本主義そのものが解決しなければならない。

562 同上書、76〜8頁。

563 その実態については、拙著『国家独占資本主義の国内体制―現代資本主義の経済理論』(「現代 資本主義シリーズ」第2部・リポジトリ)の第13章、参照。

564 国連「世界の食糧安全保障と栄養の現状」報告書。

565 http://www.bbc.com/japanese/36573394

566 国連高等弁務官事務所UNHCR「グローバル・トレンズ・レポート」2019.

3 「所得・資産の格差」拡大

中心資本主義諸国では生理的に最低限の生活をしている「絶対 的貧困」は皆無ではないが少ないが、アメリカや日本でも所得や資産の格差は拡大してきたし567し、

非正規雇用者の増大や2020の世界的な「新型コロナ伝染病」のパンデミックによって、シングル・

マザーを中心として生活そのものが困難な層が増大してきている。さらに情報通信革命と金融化に よって「格差と貧困」は一層拡大し568、所得と資産の集中が一層進んだ。アメリカの家計の債(借 金)の家計収入に占める比率は上昇し、フリンジ・バンキングと呼ばれる高コストの金融商品やサ ービスしか受けられない層が簇生してきた569

中心資本主義国における「格差と貧困」の拡大を阻止するためには、反社会福祉政策・労働運動 への反動的攻勢にかわる社会福祉と雇用増大を目指す政策への転換と「政権交代」の実現していく ことである。「格差と貧困」の改善のためには、新自由主義のとってかわり「グリーン・リカバリー」

や「ベーシック・インカム」などを含めた「社会民主主義的な資本主義の改革」を進めなければな らない。最終的に貧困問題を解決するためには、労働する者たちが主体となる社会システムへの転 換が必要不可欠である。

Ⅱ 労働者の主体性喪失(労働苦)

(1)労働疎外 現代の労働者は一方で激しいリストラ(自発的退職)の嵐にさらされながら、労働

時間の延長やサービス残業を強制されている570。その帰結はマルクスが喝破したように、生活時間 の労働時間への転化であり、自由時間や余暇の喪失であり、家族(妻子)までが労働者の労働時間 に合わせた生活スタイルが強制されている。この労働疎外は現代では、経営側によるさまざまなレ ベルでの労働者分断化攻勢(独占的労働市場と非独占的労働市場、企業内部の正規社員と非正規社 員、管理者と被管理者など)や、現代的な企業内官僚制の管理機構によって一層進行している。も ちろん労働者はさまざまな抵抗や闘争によって悪化を防ごうとしてきた。しかし、資本の専制支配 に委ねておくかぎり「働き甲斐」を喪失し精神的ストレスと病気に悩まされ、過労死と過労自殺に 追い込まれてきた571

(2)「働き甲斐」・精神疾患・過労死 日本は世界的にみても「働きすぎ」なのに「働き甲斐」が低 いし、国民の40人に1人は精神疾患の治療のために医療機関を利用している(厚生労働省の精神 疾患患者調査による推定)572。過労死は1980年代から増加し、その原因はグローバル化による本 国の雇用の不安定化・賃金押し下げ圧力・労働時間の延長圧力、情報化による仕事のスピード・ア ップと仕事量の増大と個人時間の仕事化、情報化外部の労働の単純化、大衆消費社会化による競争 的消費環境による宅配便・コンビニ労働者の権利抑圧、派遣切り、金融化にともなう機関投資家の

「支配」、などである573。自殺者の数は日本では最近までは年3万人を超えるほど多く、国際比較 すると(2009年頃)日本の自殺率は10万人当たり24.4人であり欧米諸国よりかなり高かった574。 こうした労働疎外の深化を防ぐためには、労働者の抵抗運動や労働現場での労働条件改善の闘争 が必要不可欠である。労働疎外の最終的な克服は、労働の内容・家庭・成果の配分をどう同社自ら が決定するシステムに転換し、「賃金奴隷」制度や「労働力商品化の廃棄」によって達成されるだろ う。

Ⅲ 奴隷状態

21世紀初頭において世界には2,700万人の奴隷が存在し、毎年少なくとも60〜80万人もの人々

567 佐々木隆雄「1970年代以降のアメリカの所得格差の拡大」、および、宇仁宏幸「日本における 賃金格差拡大とその要因」、参照。

568 小林由美『超一極集中社会アメリカの暴走』2頁、23頁、27頁。

569 谷口明丈・須藤功『現代アメリカ経済史』258頁(執筆者、大橋陽)。

570 森岡孝二編『格差社会―グローバル資本主義の断層』、参照。

571 詳しくは、拙著『国家独占資本主義の国内体制―現代資本主義の経済理論』(リポジトリ)の 第6章第2・3・5節、参照。

572 詳しくは、同上書の173〜4頁、参照。

573 森岡孝二『過労死は何を告発するか』岩波現代文庫、230頁、終章2。

574 川人博『過労自殺』100〜11頁。同書には過労自殺の事例が豊富に報告されている。

が人身売買され、その半数以上は「性的搾取」の被害者になっている。2010年代になると奴隷状態 の人びとは増加し、日本にも存在しているのにその対策がない点を世界から批判されている575。 2015年において、世界の「現代の奴隷」状態にある人の数は成人と子どもを合計すると4,580万人 にもなる。世界的な移民・難民の増加などによって「現代の奴隷」問題を取り巻く状況は悪化して おり、あらゆる形態の奴隷リスクの高まりが懸念されている。全世界の奴隷状態に置かれている

4,580万人のうち約3分の2はアジア太平洋地域が抱えており、約15%はサハラ以南アフリカの

国々である576

「現代の奴隷」は、生まれながらにして奴隷状態(インドのカースト制など)にある人や強制労働 者また性的労働の為に人身売買された人などであり、彼らは暴力や脅迫などによって自由を阻害さ れている。アジア太平洋地域は最も多く(中国やインド)、途上国の多くが「グローバル・サプライ チェーン」に最も組み込まれた地域では、レンガ工場や衣料産業での強制労働や子どもによる物乞 いなどさまざまな形態の「奴隷」が確認されている。Global Slavery Indexによると日本には7.4

万人の“奴隷”がいる。米国務省の人身売買報告書 2016 は、日本は人身取引の被害者が「送られる

国」であり被害者の「供給・通過国」であると発表している。日本での外国人労働者に対する不当 な強制労働・児童ポルノの供給・JK(女子高生)ビジネスなどが指摘され、日本はG7の中で「唯 一最低基準を満たしていない国」と低い評価を受けている577

現代の女性は賃金で差別されているうえに、「性的虐待」(セクシュアル・ハラスメント、アカデ ミック・ハラスメントなど)の被害を受けている。新自由主義のもとで派遣労働者が増加してきた が、そこでの労働条件や賃金は劣悪であり「奴隷状態」に近いかもしれない。さらに家庭内では児 童虐待やドメステック・バイオレンス(DV)が深刻な社会問題になっている。

資本主義の基本的生産関係は「資本―賃労働」関係であり、人種背別は現存するが奴隷は解放さ れている。しかしこのように「現代の奴隷制」が残存していることは、まさに資本主義の「複合的 搾取」にほかならない。インドのカースト制のようないまだに民主化されない旧制度を廃止するた めの民主化運動が必要であり、強制労働また性的労働の為に人身売買された人々を救済するには人 身売買を生み出す発展途上国の貧困や難民を解決しなければならない。「グローバル・サプライチェ ーン」に組み込まれた発展途上国での「乞食なみの奴隷的労働」の解決のためには、多国籍企業(「グ ローバル資本」)の過度の「複合的搾取を監視し廃止する国際機関が必要である。米国の国務省報告 書で糾弾されている「人員売買通過国日本」は、そもそも受け入れる外国人労働者の受け入れ体制 と待遇の抜本的改善や媒介している暴力団を含めた「悪徳中間搾取業者」を厳しく取り締まらなけ ればならない。強制労働・児童ポルノの供給・JK(女子高生)ビジネスなどは家庭や教育などの「社 会教育」の充実が促進されなければならない。

中心資本主義国の労働者階級は発展途上国から移転される国民所得の分け前を受け取ろうとする

「労働貴族的労働組合」から脱却して、発展途上国の労働運動と国際的に連帯し「賃金奴隷制」の 廃止を最終的な目標としつつ、さまざまな最下層の人びとの「奴隷状態」からの開放を運動方針と しなければ自らを解放することはできない。少しでも「現代の奴隷」を救済するためにも人権団体 を注としたさまざまな市民運動と国連などの国際協力機関が一層必要とされる。

Ⅳ 無知

グローバルにみれば無知状態は文盲人口として存在している。

(ⅰ)文盲率

21世紀初頭の文盲率の高い78ヵ国の文盲人口は12億人5,400万人であった。

文盲率は教育の普及状態を反映しているが、世界最大の人口を抱える中国の文盲率は18.5%と高く

(文盲人口2億2800万人)、第2位の人口大国であるインドは48%とさらに高い(文盲人口4億 4900万人)578。文盲な人々は、「読み・書き」ができないために必要な情報が手に入らず不利益を 被ったり、意思や要求を書面で伝えられず社会的権利が大幅に制限されている。その3分の2は女 性であるが、2015年時点で世界の成人の非識字人口は約7億8,100万も存在している。

(ⅱ)情報社会における「無知状態」

識字率が高くても、情報が公開され国民が正しい情報 を得ているとはかぎらない。情報通信技術の発達のよって情報の交換が飛躍的に増大したが、情報

575 ケビン・ベイルズ著、大和田英子訳『グローバル経済と現代奴隷制』参照。

576 オーストラリアの人権団体Walk Free Foundationの報告書『2016 Global Slavery Index』

(http://www.huffingtonpost.jp/kanta-hara/modern-slavery-worldwid)より。

577 http://yuuma7.com/%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%8B%E3%82%

578 拙著『現代マルクス経済学』370〜1頁。