第 4 章 清酒製造業における産業体質の特徴とその影響
第 5 節 現在の清酒製造業における消費者への対応能力
本節では、清酒製造業に対する産業政策が特にマーケティングを中心とした企業活動に どのような影響を与えたのかを検証するため、中小企業診断協会東京支部(2005)「清酒 製造業マーケティング力調査研究報告書」5や国税庁(2007)「清酒製造業の健全な発展に 向けた調査研究に関する報告書」を手掛かりに、企業規模別の重要認識度および実際の取 組度について検証する。
はじめに、消費者に対する清酒の商品価値の発信について、ラベル表示のあり方を取り 上げる。図表4-3には、消費者が清酒購入の際にどのような情報を頼りに購買を決定して いるかについての結果が示されている。清酒のラベルを選択の参考にしたという回答(「清
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酒に貼付されたラベルの表示内容」)は、「友人知人からの口コミ」とほぼ同等であり、高 いことが窺える。
一方、須藤ら(2005)6が行った調査によると、「清酒を購入する時に清酒ラベルをよく 見るか」という質問に対して、「すみずみまでよく見る」が 15.0%、「部分的によく見る」
が 69.3%、「あまり見ない」が 15.7%であった。消費者は清酒のラベルを見ているが、自
身が興味のある箇所しか見ていないことがわかる。また、ラベルに記載されている情報の 満足度については、「ほぼ満足している」が 47.5%、「あまり満足していない」が 27.5%、
「どちらともいえない」が 25.4%であった。「あまり満足していない」と「どちらともい えない」がそれぞれ4分の1程度となっているのは、消費者自身が必要としている情報内 容を見つけることが困難であったことが推察される。ラベルの表示事項の難易度について、
「わかりやすい」17.0%、「専門的でわかりにくい」45.8%、「どちらともいえない」32.4%
であり、さらにラベルの見方の平易な解説書の希望の有無を尋ねる質問には、「思う」が
77.4%、「思わない」が 9.1%、「どちらともいえない」が 13.5%であったことからも、清酒
のラベルには消費者が必要としている情報が探しやすく、平易な形で記載されていないこ とが窺える。企業側が清酒の商品価値を消費者に的確に認識させるための取り組みが必要 であることが確認された。
図表 4-3 清酒を選ぶ際に役立つ情報に関するアンケート調査
[出典]国税庁(2007)『「清酒製造業の健全な発展に向けた調査研究 」に関する報告書 』より 筆者作成
中小企業診断協会東京支 部(2005)「清酒製造業マーケティング力調査研究報告書(平成 17年 1月)」は、企業規模別にマーケティングに対する重要認識度と実際の取組度につい
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て調査したものである。マーケティング活動の能力をマーケティング力と位置づけ、それ ぞれの要素を製品力、営業力、生産力、価格力、ネットワーク力、ブランド力、情報力の 7つに区分し、それぞれについて重要度と取り組み度を 5 段階で尋ねている。なお、認識 の配点は数字が少ないほど重要度と取組度が高い7。マーケティング力に対する重要度認識 と取組度認識について黒字企業と赤字企業を比較してみると、重要度認識では黒字企業が すべての要素で赤字企業を上回っており、黒字企業の方がよりマーケティング力全般を重 視しているといえる。特に、生産力に関しては重要度認識の差が大きいことがわか る(図 表4-4)。
図表 4-4 重要度認識 (業績別)
[出典]一般社団法人中小企業診断協会「清酒製造業マーケティング力調査研究報告書(平 成 17 年 1 月)」より筆者作成
取組度認識も同様の傾向がでており、マーケティング力全般において黒字企業の方が赤 字企業より取組みが進んでいることが確認できる。黒字企業と赤字企業の別でみてみると、
黒字企業は製品力やブランド力、営業力の強化に取り組んでいることが窺える。一方、赤 字企業は製品力、ブランド力、価格力の強化に取り組んでいることが窺える。特に赤字企 業は黒字企業よりも価格面で劣位であることを認識しているものと推察できる(図 4-5参 照)。
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図表 4-5 取組度認識 (業績別)
[出典]図表 4-4 と同じ
図表4-6および同 4-7は、年間売上高別に企業を分類し、重要度認識と取組度認識 をそ れぞれ表したグラフである。その特徴を整理すると、重要度認識では、全項目のなかで規 模を問わずに最も重要度が高かったのは製品力であり、営業力とブランド力は比較的重要 度が高い。また、売上高が5億円以上の企業では、特に生産力とネットワーク力において 中小規模の企業に比べて重要度が高い傾向にある。各項目において重要度の差が少ないこ とも総合的なマーケティング力を発揮しようとする大規模企業の特徴といえる。特に興味 深いことは、製品力と営業力は売上規模が最も低い 5 千万円未満と最も高い 10 億円以上 の両方において特に重要視されていることである。小規模企業は従来からの贔屓客のニー ズに依存しがちであり、新たな顧客を製品力と営業力を強化で開拓しようと模索している ことが推察される。大規模企業は製品力、営業力において規模の拡大を目指し、より多く の顧客を囲い込もうとしていることが推察される。
図表 4-6 重要度認識 (売上高別)
[出典]図表 4-4 と同じ
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取組度認識について、全体的に取組認識度が高いのは製品力であり、続いて ブランド力 が比較的重視されている。どの企業も他社との商品の差別化を図るために製品 やブランド 力の強化に向けたマーケティング活動に取り組んでいることが窺える。 ただし、重視され ている項目が同じでも5千万円未満と10億円以上の企業では、認識度の値が異なること に留意しなければならない。換言すれば、企業の売上規模が大きくなるほどすべての取組 度に対する認識が高くなっているのである。
図表 4-7 取組度認識 (売上高別)
[出典]図表 4-4 と同じ
図表4-8は、重要度認識と取組度認識のギャップ8について考察するために用意されたグ ラフである。すべての項目において重要度認識と取組度認識の間にギャップが生じており、
清酒製造業の多くは、マーケティング力に関して重要度と認識しつつも、実際の取組は遅 れているといえる。具体的には営業力、情報力およびネットワーク 力においてその傾向が 顕著である。新たに顧客を開拓していくために必要な項目が多く、清酒製造業における業 界全体の課題として指摘できる。
図表 4-8 重要度認識と取組度認識のギャップ (全体平均 )
[出典]図表 4-4 と同じ
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重要度認識と取組度認識のギャップを売上高の規模別にみると、ギャップは総じて規模 の小さい企業の方が大きい。特に業界の中で多くの割合を占める売上高が5千万円未満の 企業で、この傾向が顕著である。一方、売上高が 10 億円以上はすべての項目で最もギャ ップが小さい。特に経営資源、資本力が豊富で営業力やネットワークが強固な大規模企業 になるほど、実際の取組に移行しやすいことから、ある意味では論を待たないことである
(図表4-9)。
図表 4-9 売上規模別に見た重要度認識と取組度認識のギャップ
[出典]図表 4-4 と同じ
第 6 節 小括
本章では、清酒製造業に対する産業規制や保護政策が産業構造や企業経営にどのような 影響を与えているかについて、特に政策やマーケティングの側面から検証した。
清酒製造業は、その監督官庁である国税庁や事業者団体である中央会が主体 となってさ まざまな産業政策を展開してきたことは既述のとおりである。そこで、清酒製造業の産業 構造や企業経営に影響のある要因を、自由な経済活動を阻害する規制の観点から生産規制、
参入規制、需給規制、原料規制に分けて、具体的に検討を行った。
生産規制について、戦時中は米不足に陥ったため、米の生産数量に応じて清酒の原料を 割り当てる基準指数制度によって、清酒の生産数量は統制された。この政策はおけ物取引 を増加させたが、その後、清酒製造が完全自由化されたことから、中小事業者と大規模事 業者との格差が拡がった。この点については 、次章で詳述する桜井(1982)でも指摘され ている9。また、醸造試験所で開発された生産技術を使用することで個々の企業は積極的な 投資を行わなくても生産技術の開発が進み、低コストで大量生産が 可能となった。これが 清酒の標準化や均質化につながる要因になったといえる。
参入規制については、免許制度を現在まで持続させることによって新規事業者の参入を 阻害してきた。清酒製造業では創業から100年を超える長寿企業が多い。しかし、約半数 が欠損企業であるのも事実である。本章ではこのような業界の特殊性についても指摘した。
需要規制については、清酒産業全体で生産や価格を統制し、不況カルテルや合理化カル