第 6 章 経営指標から見る昨今の清酒製造業と経営革新
第 2 節 欠損企業の推移と現状の分析
緑川・桜井(1965)によると、清酒製造業の多くは零細規模の企業であり、職能分化や 管理組織による合理的管理が行われている企業は少ないことが明らかにされている。昭和
34年では3,731者のうち200者(5.4%)が欠損企業であり、数量規模別で見ると製成数量
規模が50kl以下および50~100klの区分に多く分布している。昭和36年になると、欠損
企業は3,747者中555者(14.8%)となり、1,000kl以上を除いた各区分でみられるように
なった。その大半は100~150klの区分に集中しており、150~200klの区分においても増 加が見られる(図表6-1、図表6-2)1。
この頃の清酒製造業者は一般の小規模事業者と異なり、免許制度、原料米統制による基 準指数制度、酒税法による級別課税制度、酒類団体法による組合組織等によって企業の存 立が守られていたが、小規模清酒製造業者は生産性や価値実現性が低く、大規模清酒製造 業者の市場占拠率は次第に上昇していった。先行研究では、地方市場の不完全競争条件に よって存続が許されていた小規模企業の経営は次第に圧迫されていったことが指摘されて いる2。
図表 6-1 清酒製造業における収益企業数と欠損企業数(昭和 34 年)
[出典]緑川・桜井(1965)『清酒業の経営と経済』より筆者作成
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図表 6-2 清酒製造業における収益企業数と欠損企業数(昭和 36 年)
[出典]図表 6-1 と同じ
緑川・桜井(1965)は、小規模清酒製造業は一般の小規模事業者と異なる産業特質を有 することを指摘している。それは、不完全競争市場であるため、本来であれば赤字経営で 存続できないような清酒製造業者が存続していることである。ところで、昨今では赤字経 営となっている清酒製造業がどの程度存立しているだろうか。図表6-3は平成12年から平 成22年までの欠損企業数、低収益企業数および収益企業数3の推移を示したものである。ま た、図表 6-4 は清酒製造業を製成数量規模別に分類したグラフである。これらの図表から 確認できるように、平成12年には1,500者弱であった企業数が11年後の平成22年には約
1,300者弱へと減少している。これは、第1章でも述べたように、アルコール飲料市場の縮
小とともに清酒の消費量が低下していることに関係しているだろう。減少した 200 者の転 廃業の理由の多くは業績不振であると思われる。企業数が 13%(=200 者/1,500 者)減 少しているにも関わらず、収益企業、低収益企業、欠損企業の割合は、企業数に関係なく4:
1:4 で推移している。つまり、業績不振企業(主として欠損企業)が事業を取りやめただ けではなく、収益企業の一部が低収益企業に、低収益企業の一部が欠損企業へと移行して いるものと推測される。しかも、欠損企業数は漸減の傾向にあるものの、割合では漸増の 傾向にある。平成22年では1,240者中616者(49.7%)が欠損企業である。規模の小さい 企業ほど欠損企業の割合が高くなっており、100kl以下の事業者が欠損企業全体の8割(616 者中494者)を占めている(図表6-5)。このことからも、清酒製造業は経営面で苦境に立 たされている様子が見てとれる。
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図表 6-3 清酒製造業者数の推移
[出典]国税庁ウェブページ「清酒製造業の概況(平成 13 年度調査分)」~同(平成 23 年 度調査分)より筆者作成
続いて規模別による企業数の推移を見てみよう。図表 6-4を参照すると100kl 規模の企 業数は毎年850~880者で推移している。また、図表6-5により同規模の欠損企業の比率は
50~55%で大きな変化はない。これは、100kl より規模の大きい酒蔵が売上を確保できな
くなると清酒製造量を減じて製造規模を縮小しているものと考えられる。すなわち、設備 の稼働率を下げる要因であると考えられる。これに対して100~200kl規模の企業数は平成 12年の263者から平成22年には156者となり、100者の減少となっている。この規模の 欠損企業は60~90者であり、年によってばらついている。特に酒類販売の自由化が行われ た平成15 年度から平成 17 年度までは、当該規模における欠損企業の比率は高い。200~
300kl規模の企業数は平成12年の110者が平成22年には74者へと減少し、300~500kl
規模では105 者から39者へと半減以上となっている。欠損企業は毎年20~35者であり、
この規模の25~40%が欠損を出していることになる。500~1,000klでは、平成12年の68 者が平成22年には41者となっている。欠損企業数は概ね10者台である。1,000kl以上の 規模であっても欠損企業は存在する。
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図表 6-4 規模別企業数の推移
[出典]図表 6-3 と同じ
図表 6-5 清酒製造業における欠損企業の推移
[出典]図表 6-3 と同じ
以上をまとめると、清酒製造業では規模が小さい企業は欠損に陥る傾向が強い。これは、
小規模の清酒製造業者は主に手作業で清酒の製造を行っており、機械化率が低く、労働装 備率をレバレッジとした付加価値の創出が行われていないことを示している。1,000~
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2,000kl規模の欠損企業の割合が相対的に低いのは、手作業による部分と機械化された部分
のバランスがとれているものと推察される。また、同程度の規模になると、清酒の販路が 多岐にわたる企業が多く、地元以外の地域でも消費されており、ある程度の収益が確保さ れているのだろう。2,000~5,000klおよび5,000kl超の比較的規模の大きい企業では機械 化が進んでいるものと思われる。
緑川・桜井(1965)によると、昭和30年代には15%程度が欠損企業(例えば昭和36年
度では3,747者中555者が欠損企業)であったことが示されている4。今日ではその割合が
上昇している。本来であれば事業の継続が懸念されるような清酒製造業者が、未だ事業を 継続しているのである。清酒の需要量が落ち込んでいるにも関わらず、事業者数の減少が 比較的緩やかであるのは、データには清酒専業ではない事業者が含まれているからであろ う。すなわち、清酒製造業としては欠損が生じているが、その他の事業が清酒製造にかか る欠損を帳消しにしている可能性が高い。これは、清酒製造業特有の製造免許制による新 規参入障壁と自己資本比率の高さによるところが大きいと考えられる。
また、清酒製造業の資本を考察する際に考慮すべき特質について、緑川・桜井(1965)
は「清酒業の創業は古く、徳川時代あるいは、明治初期に地主の農村副工業、またはその 形態で発生したが、後に商業資本、金融資本に支配されたもののいずれかで、近代におい て投資の対象として新たな清酒業の企画によって設立された企業は少ない。したがって、
全国の清酒業の資本投下の形態は、法的には近代企業の形態を備えているとはいうものの、
その経営は所得的経営者によって行われ、経営と資本は未分離の状態にある」5と述べてい る。このような状況も、欠損企業の占める割合が高い要因と考えられ、それが現在も継続 しているものと推測される。