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個別企業の経営分析

ドキュメント内 立教大学博士学位申請論文 (ページ 92-100)

第 6 章 経営指標から見る昨今の清酒製造業と経営革新

第 6 節 個別企業の経営分析

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務や借入金の返済が年度内に終了し、次年度に改めてそれらを活用するとなれば、決算情 報を用いて計算される自己資本比率は高くなるのである。

第3項 小括

本節では、清酒製造業の収益性と安定性の確認をより頑健なものとするため、製造業お よび食品製造業の経営指標との比較分析を行った。その結果、以下のことが明らかになっ た。

収益性については、緑川・桜井(1965)や桜井(1982)の頃から相対的に低く、利益率 や資産の活用効率(総資産回転率)はともに良好ではないことが確認された。昨今ではさ らに悪化しており、特に専業比率が 90%以上の清酒製造業は厳しい状況にある。安定性に ついては、逆に製造業や食品製造業より良好な値を示していた。ただ、それは本来的な意 味での安定であるのか、財務諸表制度と構造に基づく安定であるのかについては、入手で きる情報の限界から確認されていない。収益性との関連で考察すると、清酒製造業の安定 性は後者、つまり見せかけの安定性であることも否定できないのである。特に小規模の企 業では固定比率の結果から積極的な事業展開(設備更新などの投資行動)に対する意欲が 薄いのではないかと推察される。

清酒製造業における財務改善について、政府は零細清酒製造業の経営革新に処するため、

軽減措置を講じている。平成元年、消費税が新設され酒税法も改正されたことに伴い、清 酒等の税負担が大幅に上昇することから、中小零細事業者の多い清酒製造業に与える影響 を緩和する目的で、租税特別措置法第87条「清酒等に係わる酒税の税率の特例」が施行さ れた。同条は蔵出量が1,300kl以下の清酒等の製造業者に対し、200klまでの酒税を3割

(現在は 2 割)軽減するものであり、軽減措置によって存続が許容されている製造業者も 多い。ただ、軽減措置が講じられている間に、本来は財務体質の改善を図らなければなら ないのであるが、本節の経営指標の分析を概観する限り、そのような方向に進んでいると は考え難い。特に収益力の低下に歯止めをかけ、収益体質を構築しない限り、経営が一層 厳しい状況に追い込まれてしまうのは自明の理である。これらが喫緊の課題であろうこと が、改めて確認された。

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分の経営指標が類似しているからといって、解釈までもが同様とはならないことは論を待 たない。企業規模による何らかの作用が働いているものと考えられる。いかに集計データ をつぶさに観察しても、平均値であることに変わりなく、データ(あるいは区分内のデー タ)に、外れ値に相当するものが含まれている場合、当該平均値は歪みを内包することに なる。したがって、集計データを用いた分析には一定の限界がある。

個票データを用いた分析は当該企業の財務構造を的確に表現する。それを時系列で観察 すれば、企業の財務構造がどのような変化を見せているかを確認することができるし、ク ロスセクションで観察すれば、業界内における当該企業のポジションや、財務構造の同質 性あるいは異質性を確認することができる。

しかし、個票データにも問題がある。1つ目は信頼性である。企業の業績を表す財務諸表 は、企業が自らの手で作成する。そのため、業績を少しでもよく見せようとして、故意に 数値に手を加えている可能性がある。株式公開企業は外部監査人による監査が義務づけら れているため、意図的に財務数値を修正する行為は限りなくゼロに近いと思われるが、外 部監査が簡略化あるいは省略されている中小企業の場合、第三者による財務諸表数値の保 証がなく、信頼性に欠けるといわれている。2つ目は資料の入手困難性である。株式公開企 業の財務諸表数値は決算短信や有価証券報告書に記載され、各企業のウェブページや金融 庁が管理するEDINETを通じて容易に入手できる。しかし、中小企業では自主的に財務諸 表を公開する企業は僅少である。東京商工リサーチや帝国データバンクなど、民間のシン クタンクはアンケートやヒアリングを通じて中小企業の財務データの収集を行っており、

特定の中小企業の財務諸表数値を入手するには、それらのデータベースを利用するしかな い。清酒製造業では中小規模の企業が大半を占める。したがって、清酒製造業の個票デー タを用いた分析を行うには、民間シンクタンクよりデータを入手することになる。ただし、

当該データベースにはすべての企業のデータが収録されているわけではなく、一定以上の 規模のものしか存在しないのが通例である。

そこで本節では、日本経済新聞デジタルメディアのデータベース、日経テレコンに収録 されている未上場の清酒製造業を対象にして、個票データによる分析を試みる。未上場企 業を対象とした経営指標の分析は前例もあろうが、清酒製造業を対象としたものは類を見 ない。それ故、本研究の結果は前節の分析結果と合わせて、当該業界の財務特性を示すこ とで、今後の研究にも1つの貢献を示すことになる。

個別企業の財務データは、上述の通り、日経テレコンから取得した。ただし、当該財務 データは各項目の集計値(たとえば、流動資産や固定資産など)での表示である。そのた め、個票データといえども詳細な分析には至らない。全国の清酒製造業の中から、売上高 が1億円超の13社を選択した。取得した財務データをもとに、緑川・桜井(1965)、桜井

(1982)に倣って経営指標を計算し、一覧にした結果が図表6-17に示されている。

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図表 6-17 清酒製造業個別 13 社の経営指標

[出典]日本経済新聞デジタルメディア「日経テレコン」データベースより筆者作成7

図表6-17では、サンプルの13社を規模別に並べるため、売上高を基準に製成数量を推 計している。これにより、久米櫻酒造、丸一酒造は100~200kl、窓乃梅酒造は200~300kl、

秋鹿酒造は300~500kl、北の誉酒造は500~1,000kl、青木酒造と白瀧酒造1,000~2,000kl、

旭酒造、ヤエガキ酒造、立山酒造は2,000~5,000kl、菊水酒造、朝日酒造、白鶴酒造は5,000kl 超の各区分に属すると推定された。前述の集計データでの分析によると、久米櫻酒造から 秋鹿酒造までが小規模、北の誉酒造から白瀧酒造までが中規模、旭酒造から白鶴酒造まで が大規模の事業者と考えられる。また、久米櫻酒造と丸一酒造は、収益性、安定性とも業 界内で最も良好ではない区分に属していることになる。

はじめに収益性の検討を行う。総資産営業利益率を観察すると、集計データの分析のよ うにきれいに分類されないが、総じて規模が大きいほど良好な値とみることができそうで ある。ただし、総資産回転率については企業ごとでばらばらであり、中小規模に比べて回 転率が低い大規模企業も散見される。しかし、総じて売上高営業利益率は総資産営業利益 率と同様、大規模企業の方か高い傾向を示している。

個別企業に着目すると、北の誉酒造とヤエガキ酒造は営業損失を計上しており、収益性 については経過観察を要する。ヤエガキ酒造は、規模の割には総資産回転率も0.60と低く、

経営効率の改善が必要であろう。

逆に、良好さで目を引くのは旭酒造(山口県)と朝日酒造(新潟県)である。売上高営 業利益率が高く、取引収益性は一般の上場企業に比してもかなり良好といえる。また旭酒 造は総資産回転率も高いため、総資産営業利益率が突出している。逆に朝日酒造の総資産 回転率は13社の中で群を抜いて低いため、総資産営業利益率は他社並みの値となっている。

同社の総資産回転率が低い原因を追及すると、清酒製造業の資産効率を改善するヒントを 導き出せるかもしれない。

続いて安定性の検討を行う。集計データによると、近年は固定比率が好転し、自己資本 比率の向上もみられることが確認されている。中でも、大規模企業は小規模企業よりも相 対的に優れている。固定比率および自己資本比率について13社の値を見てみると、収益性

売上高

(単位:千円)

製成数量 (単位:kl)

売上高営業利 益率

総資産 回転率

総資産 営業利益率

売上高 総利益率

売上高

販管費率 流動比率 固定比率 自己資本

比率

久米櫻酒造 115,000 138 0.9% 0.72 0.6% 23.5% 22.6% 24.0% -94.2% -75.0%

丸一酒造 127,825 153 5.8% 0.94 5.5% 32.3% 26.5% 151.7% 57.6% 39.6%

窓乃梅酒造 243,738 292 0.6% 0.72 0.4% 30.2% 29.7% 168.2% 169.5% 19.8%

秋鹿酒造 274,485 329 5.1% 0.67 3.4% 38.1% 33.0% 906.1% 213.3% 9.3%

北の誉酒造 802,647 963 -16.6% 0.81 -13.5% 11.6% 28.2% 153.7% -150.5% -23.1%

青木酒造 951,316 1,141 2.0% 1.08 2.2% 25.2% 23.2% 291.6% 77.7% 80.8%

白瀧酒造 1,384,100 1,660 5.8% 0.60 3.5% 32.6% 26.7% 1062.1% 39.3% 94.1%

旭酒造 1,667,779 2,001 17.5% 1.39 24.3% 44.2% 26.8% 192.4% 152.8% 44.7%

ヤエガキ 2,219,444 2,663 -3.8% 0.60 -2.3% 12.9% 16.8% 143.9% 304.8% 19.9%

立山酒造 2,981,000 3,577 5.5% 0.35 1.9% 40.2% 34.6% 113.1% 244.3% 28.3%

菊水酒造 5,106,487 6,127 7.6% 0.70 5.3% 34.9% 27.3% 570.8% 44.0% 78.9%

朝日酒造 8,187,000 9,824 21.1% 0.24 5.1% 39.8% 18.8% 1583.9% 59.7% 96.1%

白鶴酒造 34,047,864 40,857 1.1% 0.92 1.0% 42.4% 41.3% 140.5% 107.8% 55.3%

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指標と同様、規模に比例した値にはなっていない。固定比率は自己資本に対する固定資産 の割合であり、固定資産の多寡に影響される。固定資産の主たる項目である設備の投資時 期は各社各様であり、また、生産物に相違がなければ、市場が要求する商品の変化が原因 となる固定資産の陳腐化は生じない。つまり、再投資の時期が異なるため、この結果は単 年度のクロスセクション分析比較に限界があることを示唆している。自己資本比率は負債 自己資本合計に対する自己資本の割合を示すものであり、資金調達の構造を示す指標であ る。一般に企業規模に応じて負債の活用が容易となるが、13 社の値を見ると、必ずしもそ のような傾向を示していない。ただし、自己資本比率と総資産営業利益率には相関があり そうである。そこで、総資産営業利益率と自己資本比率の値が負の久米櫻酒造、北の誉酒 造、ヤエガキを除外して相関分析を行った。なお、事前にデータを散布図にプロットした ところ、旭酒造の値が大きく外れていたため、同社も外して相関を推定した。その結果、

相関係数は0.40であり、総資産営業利益率と自己資本比率にはある程度の関係性があるこ とが確認された。これらの企業は稼得された利益を事業に再投資しており、内部留保が厚 みを増すため、自己資本比率が高くなるのであろう。

なお、固定比率および自己資本比率が負の値となるのは、財務諸表上では債務超過に陥 っていることを意味する。負の値である久米櫻酒造と北の誉酒造の 2 社は、すでに他社の 傘下に入っているため、個別企業としての安定性を評価するには多くの意味を持たない。

第2項 清酒製造業における経営の革新

前項では、個票データを用いて清酒製造業13社の経営指標を分析した。個別データによ る分析結果は集計値データの結果とは異なる傾向を示したが、それ以上の発見は旭酒造(山 口県)と朝日酒造(新潟県)の収益性の高さである。これまで見てきたとおり、清酒製造 業は多くの規制や保護の下で経営が展開されてきたため、企業自身では積極的な経営活動 が行われず、結果として需要低迷のあおりを受けて低収益の体質となっている。今日では 半数以上が欠損企業であり、経営の革新を行わなければならない状況にある。その中で、

両社の収益性はすばらしい。本項では、両社の収益力が秀でている要因を検討する。

旭酒造は獺祭という銘柄の特定名称酒を製造、販売する企業である。この商品は、なか なか手に入らず、希少性の高いことで有名である。朝日酒造も同じく久保田という銘柄の 特定名称酒が著名である。久保田は低価格の大衆的なものから入手が困難なものまで複数 のラインナップを揃えており、顧客は今よりも高いランクの久保田を消費したいと考える ようになる。いずれもブランド戦略が功を奏していると考えられる。

ただ、いずれも大消費地(首都圏、近畿圏、中京圏)からかけ離れた場所に酒蔵を持つ 酒造業者である。では、消費者はそれぞれの商品をどのようにして認知したのだろうか。

そのキーワードはメディア戦略にあると考えられる。すなわち、メディアへの露出回数が 多くなればなるほど、消費者の認知度が高まり、需要が喚起されると考えられるのである。

そこで、サンプルとして抽出した清酒製造業13社のメディア露出について考察する。各企

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