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桜井(1982)のレビュー

ドキュメント内 立教大学博士学位申請論文 (ページ 59-62)

第 4 章 清酒製造業における産業体質の特徴とその影響

第 3 節 桜井(1982)のレビュー

桜井(1982)は、明治時代から昭和 50 年代はじめまでの清酒製造業をとりあげ、その 構造的な特徴と変化について研究している。特に、清酒製造業の構造の決定期ともいうべ き昭和28年~昭和32年にかけての状況分析を重要視しており、全国の清酒製造業者 500 者に対して行った経営財務の実態調査の回答資料(320 者)を用いて、年間製成数量に基 づいて階層を5つに区分して分析している。本節では、第二次世界大戦後から昭和 30 年 代初期を対象とした研究と、昭和50年前後を対象とした研究に焦点を当てる。

はじめに、戦後から昭和30年代初期について見てみよう。昭和24年以降、清酒の需要 は急激に増加し、製品(供給)が不足した。そのため、清酒製造業者は経営努力を行うこ となく一定の利益を享受することができた。しかし、この時期の財務比率はそれほど優れ た結果ではなかった。清酒製造業では増産のために設備投資がはじまり、設備の更新投資 や拡大投資が活発化した。しかし、生産規制によって設備投資に適応した操業度が抑制さ れたため、結果的に非効率な経営を行わざるを得なかったのである 。昭和 29 年頃からは 経営動向が上向きであったことと需給関係の好転から、中小清酒製造業の財務比率、収益 率、回転率は製造業の比率よりも良くなった2。桜井は、生産数量の増加で市場が売り手か ら買い手に転換しはじめた状況を表していると分析している。

昭和30年~昭和31年を契機として、酒類産業の構造、消費構造は大きく変化した。清 酒製造業の財務の健全性、収益性、経営能率が下降 しはじめたのである。清酒製造業の売 上債権回転率が低下している理由は、清酒製造業の市場が買手市場となり売上債権の回収 が長期化していることを示しており、経営の合理化と企業の体質改善を図らねばな らない 時代となったと指摘している。桜井は、伝統産業として、また特殊な生産統制業種として 堅実なる経営を行ってきた清酒製造業も客観情勢の推移により企業としての経済性を凝視 しなければならない転機にあることを認識すべきである ことを述べている。

以上の研究から、分析対象年度を通して各種経営比率の動向をとらえてみると、財務構 成、収益性、経営能率は悪化または低下の一途をたどっていること、昭和 28年~昭和32 年の5年間において経営活動の実態が変動していることが明らかになった。これは、わが 国の経済成長を背景として、酒類原料および生産材の供給の緩和や酒類の生産状況の変化、

消費水準の向上、市場の変化に伴い、酒類の産業構造も変化したため、酒類業界の中で優 位を誇っていた清酒製造業が経済性、社会性に大きな打撃を受けることとなったことによ る。清酒製造業は自己の企業の体質と従来の営業活動について反省を行い、わが国の産業 構造、雇用構造、消費構造等の客観的経済情勢の変容に対応した企業体制を採るべく努力 すべきであるとの見解が述べられている。

続いて、昭和 48 年以降を見てみよう。毎年にわたる酒造労務費の大幅な上昇などで清 酒製造業の経営環境は大きな変化を見せる。桜井は昭和48年~昭和52年度の国税庁によ る「清酒製造業の概況」のデータを用いて、第一次オイルショック以降における清酒製造 業の経営概況について、産業的経済規模と構造の把握、売上高規模とそれ に対応する費用

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および収益の発生の把握、それらを踏まえ た上で財務比率、収益性、生産性、業績内容に ついて分析している。

分析の結果、昭和 52 年の清酒製造業全体の売上高総利益率は 23.2%、総資本回転率は 約 1.4 回であり、経済効率が高い業種とはいえない こと、流動資産回転率、固定資産回転 率からも決して投資効率が高い業種とはいえないことが明らかにされた。売上高営業利益

率は4.6%で、清酒製造業の収益性の低さを表している。資産および資本の回転率が低い原

因として、清酒製造業では、中小規模業者は陳腐化資産あるいは償却の進んだ資産を活用 しているものの、季節的集中生産体制をとっているために稼働率が低く、大規模業者の場 合は、装置工業的な生産体制をとっているためであるという見解を述べている。

安定性については、当座比率は製成数量規模が大きくなるほど比率が高い傾向を示して いる一方、流動比率は製成数量規模に関連して著しい相違がみられない。固 定比率は製成 数量規模の区分や営業形態により相違が表れている。自己資本比率は製成数量規模や営業 形態の相違によって明確な違いが出るのではなく、業者の歴史、経営方針、設備投資行動 などによって大きく左右されるとの見解を述べている。さらに、営業 形態別で見ると、お け売型の企業の安定性が直売型や卸売型よりも悪いという結果を明記している3。また、自 己資本借入金比率と総資本借入金比率については、他の比率と同じく製成数量規模の区分 で明確な相違が見受けられないものの、営業形態ではそれぞれの特徴が顕著になっており、

おけ売型が最も高いという結果が示されている。これは、昭和 42 年の国税庁の資料にお いて数値にそれほど大きな差がなかったことから、おけ売型はその後の設備投資や経営内 容の悪化で借入金への依存度が高くなり、比率を高めている4ことが原因であると分析して いる。

収益性については、清酒製造業は製造規模が大きいほど収益率が高いとしている。また、

規模別の利益率の差異は、製成数量規模よりむしろ営業 形態に密接な関係があるというこ とを明らかにしている。具体的には、総資本営業利益率が、おけ売型では4.8%、直売型で

は 3.8%、卸売型では 7.9%となっている。直売型の比率がおけ売型に比べて低い理由とし

て、直売型の大多数を占める中小規模業者の販売する商品の主体が付加価値の低い清酒 2 級であることと、市場活動がおけ売りに比べて煩雑であり、販売経費や市場対策費の負担 が大きいことが原因であると述べている。さらに、卸売型業者は主産地大規模業者が大多 数で、販売の主体を付加価値の高い清酒特級や一級が占めているほか、買手市場でのおけ 買酒に依存していることと、流通面で特約店制度による配送の有利性のため比率が高くな っている5と述べている。売上高営業利益率についても同様の理由 から、直売型の比率が他 の営業形態より劣っている一方、売上高総利益率については、おけ売型が19.3%、直売型

が 29.8%、卸売型が 23.3%と、直売型の比率が他の営業形態よりも勝っていることから、

桜井はこのような比率の違いについて、おけ売りの場合は販売が同業者への未納税酒であ るために、売上高中に占める売上原価の比率が高く、それによって相対的に比率が低くな っている6のに対し、直売型は販売価格が基本的に卸売価格で直接販売されているために粗

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利益が高い7こと、さらに、卸売型は生産者価格で卸売業者に出荷しているために粗 利益の 段階では卸売価格で販売している直売型に劣っている8と分析している。

回転率については、固定資産回転率が市場競争や需要動向に左右されるとともに売上高 の伸び悩みにもよって低下したとする一方、受上債権回転率は昭和 36 年(平均)の方が 昭和52 年(平均)よりも高いと述べている。このことは、昭和 36 年に比べて昭和52 年 は市場競争の激化を要因に取引条件が厳しくなり、流通業者の代金決済が長引いている こ とを示していると考えられる。また、総資本回転率および商品回転率は、製成数量規模よ りも営業形態の相違に関係があることが明 らかにされている。なお、昭和 36 年に比べて 回転率の低下がみられたことは、販売市場における取引条件の悪化を表しているとした上 で、清酒産業における中小規模業者は陳腐化資産あるいは償却の進んだ資産を使用した季 節的集中生産体制をとっているために稼働率が低く、他方、大規模業者は装置工業的な生 産体制を採用しているために、資産および資本の回転率が低い9のが清酒産業の特徴である と分析している。

さらに費用比率について、販売費及び一般管理費の比率(売上高販管費率)は、製成数 量規模別でみると数量が多くなるにつれて比率が低下の傾向を示しており、規模の経済性 が確認できること、さらに売上高販管費率は製成数量規模よりも営業形態に関係あるとい うことが明らかにされている。桜井はその理由として売上高販管費率が最も低いおけ売型 は販売が業者間の仲間取引であり、一般酒類市場への販売は行っていないために取引関係 が単純であり、役員給与をはじめ管理職手当、販売業務の諸経費が他の営業形態に比べて 少ないためである10と分析している。他方、直売型の売上高販管費率が高いのは、販売が 煩雑のため市場関係諸経費がかさむ営業形態であること、卸売型は流通関係が直売型より 簡素化されているので、広告宣伝活動費を除いては直売型より効率の高い営業活動が可能 である11と考えている。そして、 売上高人件費率は規模が大きくな るにしたがって低下し ており、営業形態別にかなり開きがあることが確認されている。おけ売型と直売型に比べ て卸売型の比率が極めて低い理由は、前者よりも流通経路が簡略であることや取引単位が 大きく 1 人当たりの売上高の高いことに起因している12と述べている。また、金融費用比 率は規模や営業形態よりも個別企業における経営方針、設備投資の動向、銘柄力の強弱に 関連して比率の相違がみられること、支払利息比率については製成数量規模が大きいもの や未納税移入酒が多いものほど利子圧迫度合いは低ので、営業形態よりも製成数量規模に 応じた結果となっていることが述べられている。

付加価値生産性については、製成数量の区分間の格差が著しく、規模の経済性を裏付け ていると述べており、労働装備額は営業形 態よりも製成数量規模に収斂されており、その 区分別の比較を行うと 10 年前に比べ大幅な増加がみられるとしている。このことは、清 酒製造業における設備の近代化を裏付けている。

桜井は清酒製造業が市場競争条件や資本構造および資本行動が異 なる極めて多元多質の 産業であると指摘し、この特異性を認識した上で、中小企業近代化促進法の業種指定を受

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