第 7 章 本研究のインプリケーション
第 1 節 本研究の要約
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において次第にその実態として寄生地主の副業的産業になっていったのである。
清酒製造業は明治中期以降、第二次世界大戦終戦以前においては、完全に自立した企業でも 産業でもなかった。企業経営は免許制度と酒税法等によって守られ、不完全な競争状況にあり、
また、受託徴税物製造業の運営管理のみ行っていた下請的体質であったと考えられ、他産業と 比較してもその経営の能力は決して高くなかったと推測される。
一方、清酒は、本来は伝統食品である。明治以降、醸造試験所の研究により、清酒は徴税用 の工業製品として認識され、より品質の安定した大量生産品となった。ただ、市場も常に不完 全な競争状態に置かれたままで、消費者の視点に立ったマーケティングや商品開発はほとんど 行われてこなかった。よって、現在の清酒製造業は伝統的食品産業ではなく、政府から受託さ れた徴税用工業製品産業といえる。税金を国家の売上と考えると、国家と清酒製造業において フランチャイズ契約が存在し、国家がフランチャイザー、清酒製造業がフランチャイジーとな り、営業権を取得することによって、OEMで国家の商品を生産および委託販売し一定の収益 をあげているのと同義である。しかし、独立して完全な競争市場の中での経営は困難な業界や 企業と考えられることが第2章では確認された。
第3章では、外部環境の変化を概観し、清酒製造業界が現在も抱えている問題点を考察した。
第2章で述べたとおり、清酒製造業は国の徴税政策による規制や保護を受けてきた業界であっ たが、環境が変化し、規制が緩和されつつある現在でもその規制や保護による影響が残存して いることが明らかとなった。多くの清酒製造業者は旧態依然とした体質を変えようとせず、先 祖より受け継いできた特権を享受しているにすぎない企業も存在していよう。一方、高品質に 特化するしたり、地元産の米だけを使ったりして、独自路線で個性の発揮を目指すような企業 が現れている。清酒製造業界の問題点を個々の企業レベルで改善して、売上を伸ばす努力も見 られるようになった。しかし、一部の企業が努力しても業界は未だ変わろうする姿勢を見せな い。消費者の嗜好や売上が変化しているにもかかわらず、価格の横並び、マーケティングの欠 如、研究開発への低い意識、市場を拡大できないことなどの問題が残されている。これらはい ずれも規制産業として保護されてきたことに起因する産業特質である。規制緩和によって、清 酒製造業者はこれまで経験したことのない環境下において、民間企業として経営を行わなけれ ばならなくなったが、今もなお従前の経営を継続しているのである。
第4章では、清酒製造業に対する産業規制や保護が産業構造や企業経営にどのような影響を 与えているのかについて、特に政策やマーケティングの側面から検証した。清酒製造業の産業 構造や企業経営に影響のある要因を自由な経済活動を阻害する観点から、規制を生産規制、参 入規制、需給規制、原料規制に分類し、具体的に検討した。また、清酒製造業との類似性を有 する醤油産業およびワイン産業との比較を行った。清酒製造業のナショナルカンパニーは、醤 油産業のリーディングカンパニーのように産業全体を変革できるような存在ではないこと、大 半の中小清酒製造業ではマーケティング力が欠如しており、商品の差別化を進めることができ ず、また、産業全体でもワイン業界のようにブランド化への取組意欲が希薄であるということ などが、清酒製造業が抱える問題点として浮上した。
次に、清酒製造業に対する産業政策が特にマーケティングを中心とした企業活動にどのよう な影響を与えたのかを検証するため、一般社団法人中小企業診断協会および国税庁の報告書を
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手掛かりに、企業の売上規模別に重要認識度や実際の取組度について考察を加えた。清酒製造 業のマーケティング力に関しては、企業の売上規模によって重要認識度と実際の取組認識度に 差異がみられた。この結果を踏まえて、国税庁の報告書では、個々の企業が自社の現状を抽出 し、独自に努力すべきだとの提言がなされている。企業の経済活動の自由が認められることは、
産業の健全な活性化につながるが、清酒製造業界では、経済活動の自由が認められても、即応 できるだけの経営資源は持ち合わせていないのではないかと懸念される。なぜならば、国が長 年実施してきた企業の規模や収益性を問わない画一的な産業政策が企業間格差を助長し、清酒 製造業界の大半を占める中小規模の事業者が欠損企業という低収益体質を醸成し、さらにはマ ーケティングに対する取組の認識が低いという清酒製造業の産業特質が、この研究からも明ら かになったからである。比較的体力のある大規模の清酒製造業とて、清酒の消費が低下してい る中では同業者の買収や提携に乗り出すことには躊躇するだろう。転廃等を含めた業界再編も 将来的には期待できない。このことは、まさに清酒製造業の産業特質を活かした経営革新の必 要性を示唆しているのである。
第5章では、清酒製造業を題材にし、経営学の視点から研究を行った緑川・桜井(1965)お よび桜井(1982)を取り上げた。緑川・桜井(1965)および桜井(1982)のどちらの論文も、
清酒製造業のもつ特質がその経営形態の特異性に起因していることを指摘している。つまり、
経営の問題点の解明のためには、清酒製造業の構造的特質を形成している与件の分析と検証が 必須なのである。
また、緑川・桜井(1965)、桜井(1982)は経営指標の提示を行っている。本章では製成数 量規模別に示された2つの研究の経営指標を比較して、収益性と安定性の視点から、昭和中期 の清酒製造業の経営実態の比較を行った。その結果、収益性分析では、昭和36 年は製成数量 規模別で差が見られないのに対し、昭和52年には差が出現して、製成数量規模が小さいほど 収益力が劣っていることが明らかになった。安定性の指標の比較では、短期的支払能力は昭和 52 年に改善の傾向が見られる一方、長期的支払能力(固定比率、自己資本比率)は総じて悪 化の傾向にあることが確認された。
第6章では、上述の問題点が今日の清酒製造業の経営にどのような影響を及ぼしているのか を実証するために、国税庁の資料と中小企業実態基本調査報告書を基に分析を行った。
まず、清酒製造業の経営分析を通して産業特性について考察し、現在でも規模の経済性が認 められるか否かを検討したところ、一定の規模の経済が働いていることが確認できたが、現在 の清酒製造業界は規模の大小が必ずしも経営効率に即影響するとは限らないことも示された。
さらに、小規模企業においては、積極的な事業展開に対する意欲が薄いという傾向が読み取れ た。しかし、租税特別措置法第87条による酒税の軽減により、経営状態が悪くても企業を存 続させている企業が多く、この状態のままでは数年後には、100kl、200kl といった零細事業 者を中心にさらなる業績悪化が予想された。やはり、経営意識や事業内容に抜本的な改革が必 要である事が明らかになった。
次に個別サンプル企業の数値から、企業の経営数値と製造している商品構成との相関を考察 すると、製造する商品中の特定名称酒の比率が高い企業ほど、収益性が高いことが見られた。
市場のデータからみても清酒全体の消費量が減少しているにも関わらず、市場の消費傾向は、
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アルコール添加酒よりも付加価値が高いとされる純米酒に移りつつあるということがいえる。
個別企業の分析においては、清酒製造業は零細企業が多いため、個別の企業データの収集は 困難であり、サンプル数は少なかった。しかし、今回のデータから、規模による経営数値の明 らかな特徴はでなかったが、製品による特徴は導きだすことができた。このことからも、清酒 製造業の大規模工業化が、今後の選択すべき産業政策とはいい切れないとの見解をもった。さ らにメディア戦略の重要性を認識し、独自の自立した経営戦略を採用し、積極的な投資政策を 選択した企業を分析することで、積極策をとらなかった企業との間に、二極化が進んでいるこ とが推察された。