第5章 検証による米国型 CIO コア・コンピタンスの特徴
5.5. 民間 CIO と行政 CIO のコア・コンピタンスの共通項
前述の通り,米国では官民CIOの人事交流が盛んである.「第3回CIOコア・コンピ
タンスの普遍性と質的変化の諸要因に関するアンケート」の結果では, CIO コア・コ ンピタンスは国家間,企業間,行政間,自治体間において普遍的である とする回答が 38名(全サンプル数の81%)にも及んだ(図 19).普遍性を可能にするには,CIO コ ア・コンピタンスや学習目標などで,CIOの役割の標準化に伴うベストプラクティスの 交換をより簡単にすることも条件の一つである.
普遍的である 81%
普遍的ではない 19%
図 19 米国官民CIOの役割の普遍性6 Fig. 19 Universality of the role of U.S. CIO 出典:筆者作成
また,官民 CIO の役割を普遍化させることで,CIO はシステマティックに,何が重 要なのか,どういった手順が求められるのか,を理解することが簡易にもなる.具体的 に,連邦政府や州政府に民間から登用された実力者の例として,コーニング社から国土 安全保障省の CIO に就任したスティーブン・クーパー氏,アクセンチュアから司法省 CIO に就任したヴァンス・ヒッチ氏,ロッキード・マーティン社から運輸省 CIO に就 任したダニエル・マシュー氏他,州レベルでも石油会社アマコ社からケンタッキー州 CIO のアルドナ・ヴァリセンティ氏,ミシガン・ナショナル銀行からミシガン州 CIO のジョージ・バースマ氏等の名前を列挙することができる.
次に,今回の調査結果で官民人事交流を可能にさせる要因について検証した.検証方 法は,7つのフェース(役職,業種,IT投資決定権限の有無,報告,雇用者数,企業規 模,IT投資額の増減傾向)の中で,どのフェースの影響を受けるか,いわゆる相関が高 いか否かという相関関係を明らかにした(表13).
表 13 官民人事交流との相関関係(独立性の検定)
Table 13 Correlation with Intergovernmental Personnel exchange 官民人事交流との
相関関係
役職 業種 権限 報告 雇用者数 企業規模 IT投資額
X2乗値 34.179 53.444 35.552 39.12 46.334 33.373 14.841
自由度 12 52 8 20 32 40 12
P値 0.4185 0.0006 0.0000 0.0064 0.049 0.761 0.25
− 1%有意 1%有意 1%有意 5%有意 − −
資料;筆者作成
注1;独立性の検定により 有意確立(p値)<有意水準であれば帰無仮説を棄却する.独立
性の検定により有意確立(p値)>有意水準であれば帰無仮説を棄却できない.
注2;独立性の検定は,エクセル統計2006を使用した.数式は巻末資料に掲載している.
本検証結果から,業種,権限,報告に関してはp値が1%有意,雇用者数に関しては 5%有意で帰無仮説を棄却する.このことから,官民人事交流との相関関係が高いフェ ースは,業種,権限,報告になる.つまり,業種,権限(この場合は IT 投資などの権 限),レポートライン(だれに報告をするか)などの点が,官民の役割分担を明確に区分 させることに重要性を見出しており,またその可能性について理解していることを意味 する.
米国においてCIOのコア・コンピタンスは,組織や業界を超えて普遍的とみなされて いる.米国では民間活動における経験を有し,企業のベストプラクティスや,IT導入の 必要性についての判断能力を持つCIOは,行政改革において貴重な人材とされている.
そのために,頻繁に人事交流が行われているのである.
また,米国のCIO大学では官民CIO に共通のカリキュラムで人材育成が行われてい る.つまり,米国におけるCIOコア・コンピタンスは,官民CIOに対する評価が可能 となる.また,図20の通り,「第3 回CIO コア・コンピタンスの普遍性と質的変化の 諸要因に関するアンケート」の結果,官民CIOの融合はe-ガバナンスの向上に寄与する と思うか,の質問に対し, ガバナンスに寄与する と回答したものが 85%いたことか らも官民CIOの人事交流への期待の高さが理解できる.
官民CIOの融合はガバ ナンスに寄与する
85%
官民CIOの融合はガバ ナンスに寄与しない
10%
無回答 5%
図 20 官民CIOの融合はe-ガバナンスの向上に寄与するか7
Fig.20 Does integration of CIOs in public and private sectors contribute to the improvement of e-governance?
出典:筆者作成
つまり官民融合やそれに伴うe-ガバナンスへの寄与に関する論及は,米国では特異と されない.日本ではこの概念はまだ成熟していない.しかし,基本的にはCIOの役割や 機能は同一のものであって,企業や行政に特化した役割を除くことで,その普遍性を見 出し,双方の人事交流は可能である.普遍化の議論は,いわゆる双方の組織においてマ イナスの側面が考えられる場合にのみ有効であり,米国の既存事例のように,企業のベ ストプラクティスの利活用を前提にした官民人事交流の源泉となるCIOコア・コンピタ ンスの普遍化は当然可能であるし,可能とさせるためのコア・コンピタンスの見直しが 求められる.