第5章 検証による米国型 CIO コア・コンピタンスの特徴
5.3. 優先的学習目標を決定付ける要因
本章5.1. ならびに5.2.で,第1回目の優先的コア・コンピタンス調査の結果,コア・
コンピタンスと学習目標を,重要度,非重要度に大別することができた.本節では,平 均値と標本標準偏差を利用して米国での被験者が日本版学習目標に対してどのように認 識しているかを検証した.まず,調査結果を次のように4つに分類した;①平均値は高 く,標本標準偏差が低い学習目標(被験者のほぼ全員が重要であると認識している),② 平均値が低く,標本標準偏差が低い学習目標(被験者のほぼ全員が非重要と認識してい る),③平均値が高く,標本標準偏差が高い学習目標(被験者のほぼ全員が重要と認識し ているが,回答にばらつきあり),④平均値が低く,標本標準偏差が高い学習目標(被験 者の多くは非重要と認識しているが,回答にばらつきあり)(表10).
表 10 検証結果に基づくCIOコア・コンピタンス/学習目標の機能性
Table 10 The functionality of CIO core competencies and learning Objectives based on the questionnaires
平均値(高) 平均値(低)
標本標準偏差
(低)
①(理想的CC=重要CC)
被験者のほぼ全員が重要と認識
②(必要性低)
被験者のほぼ全員が非重要と認 識
標本標準偏差
(高)
③(機能性に問題)
被験者のほぼ全員が重要と認識 しているが,回答にばらつきあり
④(機能性に問題)
被験者の多くは非重要と認識し ているが,回答にばらつきあり
注1;CCはコア・コンピタンスの略 出典;筆者作成
これらの4分類の中で,④平均値が低く,標本標準偏差が高い学習目標(被験者の多 くは非重要と認識しているが,回答にばらつきあり)について検討したい.これらの学 習目標は,被験者の多くは非重要と認識しているが,必ずしも全員が非重要であると認 識しているわけではない.この学習目標は表 11 の通りである.この学習目標のほとん どは優先順位の下位20位付近にランクする項目である.
表 11 被験者の意見が分かれる学習目標
Table 11 The Learning objective which has response variance 優先
順位 学習目標 平均値 標本標
準偏差 80 *官民の役割分担の明確化 2.80 1.11
81 *供給計画と評価 2.75 1.06
82 *アクセシビリティやユーザビリティの基本原則 2.75 1.06
83 代替機能の選別方法論 2.74 0.92
84 顧客・市民向け情報提供サービス 2.7 0.99 88 モデリング・シュミレーション用のツール・手法 2.66 0.98 86 ユーザー調査の作成・管理・分析方法 2.68 1.08 90 連邦政府・州・地方の横断プロジェクト連携 2.65 1.07
92 **情報公開 2.64 1.41
93 *ユーザーの状況の把握 2.64 1.03
94 サプライ・チェーンの問題 2.64 0.9
95 社会的課題 2.63 0.99
96 *社会環境の把握 2.55 0.94
97 **SOX法に基づく組織内コンプライアンス調整 2.53 1.58 98 **同業他社との情報化成果のベンチマーク評価 2.49 1.38 100 **組織内外における幅広い人脈の構築 2.3 1.68 101 **IT投資におけるPDCAサイクルの実施 2.28 1.41 102 **ユーザー部門にIT投資対効果の定期的な報告評価義務 2.16 1.33 103 **組織内部門間での情報化成果のベンチマーク評価 2.13 1.6
104 **撤退ルールの策定 2.09 1.35
105 **説明責任並びに組織への周知徹底 1.56 1.81 資料;筆者作成
注1;*は経済産業省作成の学習目標である.
注2;**は筆者が独自に作成した学習目標である.
注3;優先順位は前傾の105項目の優先順位に該当する.
1.政策と組織
0.92 1.18 1.18
1.07 1.10 1.02 0.98 1.06 1.11 1.04
1.11 1.68
3.50 3.45
2.65 2.80
3.33 3.10
2.30
2.93 3.24 3.00 3.10 3.38
0.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00 3.50
任務・組織・機能・政策・手順(情報部門のトップとし てのCIOの役割と組織全体の経営幹部としてのCIO
の役割)
法・規制管理(ITマネジメント改革法、政府業績成果 法=GPRA=などの行政改革関連法規の習熟
連邦政府の意思決定・政策立案プロセス、予算編 成・執行プロセス
経営トップ、COO(最高執行責任者)、CIO、CFO(最 高財務責任者)の間の相互連携
政府機関相互にわたるプログラム、政策、プロセス
プライバシーとセキュリティ (技術、法規類、その他各種要因の動向に関する)
情報の管理 政府・自治体の仕組み
官民の役割分担の明確化 予算策定と執行
コミュニケーション 組織内外における幅広い人脈の構築
平均値 標本標準偏差
図 15 機能性に問題がある学習目標(1)
Fig. 15 Ineffective Learning Objective 1
図 15 によると,コア・コンピタンス「1.政策と組織」の学習目標 組織内外にお ける幅広い人脈の構築 は,平均値 2.30,標本標準偏差値が 1.68 であり,他の学習目 標に比べて機能面で劣る.つまり,被験者の多くは重要ではないと判断しているが,一 部重要であると回答する被験者もおり,ばらつきが見られる.
2. リーダーシップと管理能力
1.56 0.94 1.04
1.02
0.93 1.00 0.84 1.02
3.34
3.33
3.31
2.99
3.06 3.03 1.81 3.18
0.0000 0.5000 1.0000 1.5000 2.0000 2.5000 3.0000 3.5000
上級幹部、CIO、職員、その他関係者のそれぞれの 役割・技能・責任の明確化
IT管理体制の構築と技術専門職員の育成方法
要員の能力査定(基準・資格・業績評価)
協力関係やチームの構築能力
人事・業績管理方法 ナレッジマネジメントの理論と実績
優秀なIT要員の確保・維持方法 説明責任並びに組織への周知徹底
平均値 標本標準偏差
図 16 機能性に問題がある学習目標(2)
Fig. 16 Ineffective Learning Objective 2
図16 も同様に機能性の問題がある学習目標の2つ目の事例である.コア・コンピタ ンス「2.リーダーシップと管理能力」における学習目標 説明責任並びに組織への周知 徹底 は,平均値が 1.56,標本標準偏差値が 1.81 であった.この場合は,被験者のほ とんどが重要ではないと回答しているが,一部例外がいることを意味している.
7. 資本計画と投資評価
1.0832 1.0431
1.0366 0.9480 0.9736 0.9999 0.9675 1.0243 1.0685 1.6020 1.3779 1.4050 1.3259
1.3519
3.04 3.23 2.94
2.09
2.16
2.28
2.49
2.13
2.65
3.04
3.23
3.25
3.04
3.01 0.0000
0.5000 1.0000 1.5000 2.0000 2.5000 3.0000 3.5000 ベストプラクティス
費用対効果・経済性・リスク分析
リスク管理のモデル・方法
各種IT投資を選別するための評価方法
投資分析のモデル・方法
ビジネスケース分析
任務目標遂行と予算策定の整合性 投資レビューのプロセス
連邦政府・州・地方をつなぐ横断プロジェクトにおける連携 社内部門間での情報化成果についてのベンチマーク評価
同業他社との情報化成果のベンチマーク評価 IT投資におけるPDCAサイクルの実施 ユーザー部門にIT投資対効果の定期的な報告・評価の義務付
け
撤退ルールの策定
平均値 標本標準偏差
図 17 機能性に問題がある学習目標(3)
Fig. 17 Ineffective Learning Objective 3 出典;図15,16,17は第1回調査結果から筆者作成
コア・コンピタンス「7.本計画と投資評価」(図17)に関して,特に有効性評価が分 かれることが一目瞭然である.つまり,平均値も低く,且つ被験者のばらつきも大きい.
これは,被験者が7.0のコア・コンピタンスに含まれる学習目標のうち, 連邦政府・州・
地方をつなぐ横断プロジェクトにおける連携 , IT 投資における PDCA サイクルの実 施 , ユーザー部門に IT 投資対効果の定期的な報告・評価の義務付け , 社内部門間 での情報化成果についてのベンチマーク評価 , 撤退ルールの策定 , 同業他社との情 報化成果のベンチマーク評価 に関してあまり注力しておらず,被験者によって重要か 否かの賛否が分かれることを意味している.
米国版CIOコア・コンピタンス/学習目標の機能性の検証
米国版のCIO コア・コンピタンスに対して,現場のCIOが期待するコア・コンピタ ンス/学習目標には差異がある.日本版コア・コンピタンスを意味する(*;経済産業
していることから理解できる.つまり,今回の被験者は,米国版は十分な内容であるこ とを認め,日本版コア・コンピタンス/学習目標は米国のCIOなどにとって内容が異質 であったか,あるいは米国版に日本版コア・コンピタンス/学習目標の概念がなかった ためか,のいずれかの理由によって,日本版の評価が相対的に低くなっていると言及で きる.尚,調査の段階で,日本版/米国版のコア・コンピタンス並びに学習目標は被験 者に知らせていないことを付記しておく.
しかし,優先的コア・コンピタンスの上位項目に再度目を転じると,上位 20 項目の うち, IT 予算管理 , 情報システムマネジメント , 情報技術のマネジメント , 予 算策定と執行 , 情報セキュリティの実行計画 が含まれる.これらは,日本版コア・
コンピタンス/学習目標で,いずれも経済産業省あるいは筆者が作成し追加した内容で ある.つまり,今回の被験者は現行の米国版コア・コンピタンス/学習目標は不十分で あり,新たに追加した日本版コア・コンピタンス/学習目標の項目の重要性を認識して いる.そして,かなり高い比率で米国の被験者は重要であると認識していることが理解 できる.