第7章 検証結果に基づく CIO コア・コンピタンスの日米比較
7.1. 優先的 CIO コア・コンピタンス/学習目標の日米比較
CIOコア・コンピタンス/学習目標の歴史的進化については文献研究を主とした分析 に基づき第2,3章で,日本と米国における現行コア・コンピタンス/学習目標の重要・
非重要カテゴリーの分類,現場のCIOなどが求めるニーズとの差異と要因分析は,日米 で実施したアンケート・インタビュー調査,ケーススタディ分析のデータを利用したク ロス集計,並びに多変量解析に基づき第 5,6 章で論述した.本章では,日本と米国で 調査・分析した上記の検証結果から,日米における現行コア・コンピタンス学習目標と 現場のニーズの差異との要因比較分析を行った.そして,とりわけ日本版コア・コンピ タンス/学習目標の普及の足かせとなる諸要因を明示した.
日米CIOの優先的コア・コンピタンスを比較した結果は,表23の通りである.
表 23 優先的コア・コンピタンスの日米比較
Table 23 Comparative study on Core Competencies of CIOs between Japan and USA
優先順位 米 国 日 本
1 情報資源戦略・計画 情報資源戦略・計画
2 政策と組織 情報セキュリティと情報保護 3 情報セキュリティと情報保護 リーダーシップと管理能力 4 プロセス・変革の管理 プロジェクト・マネジメント 5 プロジェクト・マネジメント 資本計画と投資評価
6 業務評価モデル・手法 予測
7 リーダーシップと管理能力 プロセス・変革の管理 8 技術とユーザー 政策と組織
9 予測 業績評価のモデル・手法
10 EA EA
11 電子政府と電子商取引 電子政府と電子商取引
12 調達 技術
13 資本計画と投資評価 調達
出典:「IT付加価値向上を目指すコア・コンピタンス調査」小尾・岩崎(2006年)
本節では,13のコア・コンピタンスを一項目ずつ分析する.
(1) 政策と組織(米国2位,日本8位)
米国の場合「政策と組織」とは,ビジネス戦略を成功させるためのフレームワーク構 築や政策立案を意味する.米国のCIO関係者にインタビューした結果,政策と組織に関 わるスキルの重要性を認識しているものは多い.CIOには組織を横断的にまとめる能力 が求められるため,一部の部署間,あるいは部門間を超えた,全社的,あるいは全組織 的規模での経営幹部としてのコミュニケーション能力が問われる.またCIOは経営層の 他の役職(CTO,CFO,COO など)と相互連携を行わなければならない.さらに,法 規制や政策への理解も必要となる.そのためにはCIOの地位と権限が明確にされなけれ ばならない.米国で政策と組織がCIOの役割として重視される傾向にあることは,CIO の機能が高く評価されていることの証明である.
(2) リーダーシップと管理能力(米国7位,日本3位)
CIO は IT を利用して,ビジネス戦略やイノベーションを推進するためには高度なリ ーダーシップ能力が問われる.米国では1999年から学習目標数が減少している一方で,
日本における優先順位は依然高い.日本の現状を鑑みると,米国でコア・コンピタンス が発表された頃の状況に類似している.米国でコア・コンピタンスが発表された当時,
リーダーシップ関連の学習目標に重点が置かれていた.ITと経営の融合を果たすために はこれまで別々に存在していた両者を統率する力や,古いものを打破し新しいものを創 造するための絶対的なリーダーシップが不可欠であった.
また,日本のCIOやCIO関係者などにインタビューした結果,日本ではCIOの機能 性よりもCIOである 人物 がフォーカスされる傾向にあることが理解できた.たとえ ば,トヨタ CIO,大成建設 CIO,パナソニック CIO の強烈なカリスマ性が圧倒的な存 在感を放っている.イメージ先行型の日本ではリーダーシップの優先順位の高さに影響 を及ぼしているともいえよう.CIOが必須とすべき個々の能力よりも,彼らのリーダー シップや組織を牽引する管理能力が殊のほか注目されるのである.
また,本学習目標は主として人材育成や要員の能力査定,協力関係やチームの構築と いった従来の日本型組織が得意とする分野であり,CIOのみならず役職者が担うべき役 割として普遍的且つ必要不可欠なスキルと理解されているためである.
(3) プロセス・変革の管理(米国4位,日本7位)
米国では 1999 年から項目数を縮小している.主として組織目標までの業務内容やフ ロー,組織構造の分析や最適化を目的とする学習目標である.合理化を図る BPR も含 まれる.そのほか,組織の発展や変革を推進するための手法やモデル,品質改善に関す
現の成功を左右する.CIOはCEOを筆頭にトップ集団との意思疎通を図る必要がある.
たとえばトヨタ天野CIOがグローバル化に対応するため,全社的な合理化のための世界 標準を採用したが,徹底的なプロセス・マネジメントやデータ分析の必要性を訴えてい た.トヨタなど日本のみならず世界を代表するグローバルカンパニーであるゆえに,CIO 活動でも先進的な米国企業の取り組みや認識に近い.多くの日本の組織はそこまで到達 しておらず,結果的に本コア・コンピタンスの重要性が低いのである.
(4) 情報資源戦略・計画(米国1位,日本1位)
日米で最も優先順位が高かった.情報資源戦略に関わるコア・コンピタンスと学習目 標は,コア・コンピタンスが発表された当初から設定されている.内容的には2004年,
2006年に学習目標の入れ替えが行われた(第3章米国CIOコア・コンピタンスと学習 目標とその変遷).2006年の最新版で削除された項目は, IT計画実施におけるIT資源
(ハードウェアや要因能力など)能力評価分析 や, データのバックアップや災害復旧 プランなどの緊急プラン である.そして, 業務復興計画 や 災害復旧プラン は,
コア・コンピタンス「10.情報セキュリティ」に移された.リスク・マネジメントと情 報リソースの戦略性は明確に区分された.
情報資源戦略は,全社的なビジネス戦略との調和や組織間における IT 機能分析や,
モニタリング,評価が重点課題となる.日米で「情報資源戦略・計画」に対する認識が 非常に高く,調査の結果でも他の項目を引き離して最も優先度の高いコア・コンピタン スとして認識されている.ITをツールとして何ができるか,何を行うべきかを理解する CIOが増えつつあり,情報を利用してビジネスや経営戦略にいかに活かすべきかを考慮 しながら業務を遂行するCIOが増加していることを証明している.
(5) 業務評価のモデル・手法(米国6位,日本9位)
米国では,1999年以降,学習目標数を縮小している.「業務評価」とは,ITの利活用 で業務や戦略計画を練り,顧客や住民ニーズをいかに満足させるか,あるいは戦略計画 とビジョンに対してどのように業績評価をしていくか,を意味する.たとえば,バラン ス・スコア・カードやベンチマーキング,ユーザー調査などを用いて分析を行う.日本 に初めてコンビニエンスストアを導入し,普及させることに成功したセブン&アイ・ホ ールディングス会長の鈴木敏文氏は,顧客のニーズを天候や時期祭事などの多面的角度 から綿密なデータ分析を行い,仕入,棚卸商品,あるいはその個数を把握し,品物があ るべきときに必ずあるという徹底したシステムを確立し顧客満足度を向上させた.IT活 用による収益向上をもたらした POS システム導入を含めたベストプラクティスは言う までもなく,評価モデルを独自の手法でもって確立し,ビジョンを構築した成果と言え る.米国では全般的にCIOにとって重要スキルと認識している.
(6) プロジェクト・マネジメント(米国5位,日本4位)
米国では1999年以降,特に力点を置いている.1999年から2006年にかけて学習目 標を細分化し増加した.改正の度に学習目標が増加されたコア・コンピタンスはプロジ ェクト・マネジメントのみである.プロジェクト・マネジメントは,プロジェクト範囲 や要件,時間,費用,成果,品質,リスク,調達などに関するマネジメントを行う.た とえばトヨタ自動車天野 CIO は,プロジェクト・マネジメントが出来ない人材は CIO に不向きである,と主張する.個々のプロジェクト実現へのマネジメントは IT が基幹 業務に浸透するほどCIOの重要な役割となる.東京証券取引所の鈴木CIOのみならず,
インタビューを実施した多くのCIOが本スキルの重要性を唱えていた.プロジェクトは 規模の大きさに関係なく,あらゆる組織において存在するため,優先順位が高い理由が 理解できる.しkし,現実的には日米においてプロジェクト・マネジメントが出来る人 材に限りがあり,民間と教育機関が協力連携しながら人材育成やフレームワークの構築 に力を入れ始めている.優先順位の高さはこうした現状の人材不足を反映した結果とも 読み取れる.
(7) 資本計画と投資評価(米国13位,日本5位)
米国では学習目標数を年々縮小する傾向にある.具体的には,費用対効果や経済性,
リスク分析,IT投資を選別するための評価法の採用や正味現在価値法,ビジネス・ケー スの分析などを行う.したがってCIOがIT経営を担う以上,必要不可欠である.「企業 におけるIT投資の目的は,業務のスピードアップが約9割,営業・販売力の強化が約6 割,組織の効率化など組織改革が約3割であり,IT化の効果は,業務のスピードアップ が約9割,人件費の削減が約5割,営業・販売力強化が約4割である(内閣府経済社会 総合研究所)」とされ,CIO への期待も高いが,なぜ米国において本コア・コンピタン スの重要性は低いのか.このことについて,米国所ジョージ・メースン大学においてCIO に対する IT 投資の役割と期待についてアンケート調査を実施した.理由は次の通りで ある.
一つ目は,IT投資効果の測定手法が難しい点である.あるいはその手法があるにせよ,
独自に利用している指標の一般的有効性や指標の構築方法が不明瞭である.二つ目は,
IT投資効果測定の理解が低い点である.三つ目は,ROIをCIOの業務の一貫と認識し ていない点である.IT 投資効果測定の課題としては,IT ケイパビリティによる業務最 適化モデルが不足している.組織の全体最適を実現するためには,最適な IT 投資のた めの判断や決定,投資前後の整合性や乖離を評価・分析し,効果を創出するサイクルの 実施が CIO にとっての課題となる.しかし,IT 投資のリターンを決定付けることは非 常に難しく,通常リターンは,プロジェクトの成功や監査の結果を測定するが,購入し た資産の損失や,失敗したプロジェクトの労働時間などで評価は可能であっても,経験 則や多くのファクター分析が必要となる.利便性や有効性を高めるためには,なんらか