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第9章 保健科の「学力」概念における「考える力」の位置

9.1 本章の研究課題

本 章の 目的 は, 倉元 が分析 した 結果 1 2を 検討 するこ とを 通じ て, 我が 国の保 健科 にお け る「学 力モ デル(試 案)」を作 成す るこ とに ある.序論 の中 内敏 夫の 引用文 を再 度示 すと ,中 内 は ,「学力 テス トは ,あ りう る学 力に つい ての像( これ を『モ デル として の学 力 』と か『学 力 モデ ル』と よぼ う)をつ くる ,つま り学 力の 定義 をな んら かの かた ちでお こな わな けれ ば,

そ の質 問文 ひと つも つくる こと がで きな いと いう, やっ かい な性 質を もって いる 」と いう . つ まり ,テ スト など の設問 項目 を作 成す る際 には, 測定 しよ うと する 教科の 「学 力モ デル 」 の 作成 が前 提に あり ,それ がな い調 査項 目で は教科 の「 学力 」を 計測 できな いと いう こと に な る.

そ こで ,倉 元が 分析 した「 日本 型項 目」 と「 フィン ラン ド型 項目 」の 結果を もと に, 保健 科 の「 学力 モデ ル( 試案)」作成 を目指 した .これ まで 我が 国の 保健 科教育 研究 では ,保 健科 の 「学 力」 への 評価 論的側 面か らの 実証 的な 研究は ,小 倉ら の研 究以 外には ,こ こ半 世紀 ほ

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第9章 保健科の「学力」概念における「考える力」の位置 ―「考える力」計測のための「学力モデル(試案)」―

ど 実施 され てい なか ったの で, 実証 的調 査分 析を 実 施し ,さ らに そこ から保 健科 の「 学力 モ デ ル( 試案 )」する こと自体 が全 く新 しい もの である .な お,「日 本型 項目」の 分析 結果 は「 補 章 1」 の第 2節 に,「フィ ンラ ンド 型項 目」 の分析 結果 は「 補章 1」 の第3 節に 掲載 した .

9 . 2 「日本型項目」と「フィンランド型項目」の分析結果の検討

9 . 2 . 1

「日本型項目」に関する考察の検討

倉 元が ,「日本 型項 目」の「テ スト を用 いた データ から 我が 国に おけ る『保 健の 学力 』概 念 を 抽出 する こと を試 み」た とこ ろ ,「我 が国 におい ては『保健 の学 力』とい う概 念そ のも のが テ スト で測 定可 能な 形で存 在し ない 」と 考察 してい る. つま り, 測定 論の側 面か ら考 察し た 結 果 ,「日 本型 項目」から は ,「『保健 科に 学力 とい う概 念そ のも のが 成立す るの か?』とい う 疑 問が 払拭 でき なか った」 とい うき わめ て厳 しい指 摘を して いる ので ある.

そ の一 方で ,そ の原 因を探 り, 解消 する ため の建設 的な 作業 仮説 を二 つ提案 して いる . 一 つ目 は,保健 の「 学力」が測 定 で きな かっ たのは ,「高 校入試 ,大 学入試 とい った ハイ ス テ ーク スな 選抜 制度 のツー ルと して 用い られ ないこ と起 因す る履 修事 項の定 着度 の低 さに 由 来 する 」かも しれ ない とい うも ので ある.そし て,「こ の作 業仮 説を 検証す るに は,保 健科 が ハ イス テー クス な選 抜試験 とし て課 され てい るフィ ンラ ンド 社会 が格 好の『 対照群』とな る」

と の提 案で ある .我 が国で は, 高校 の第 一学 年と第 二学 年に 保健 の授 業が一 単位 ずつ 配当 さ れ てい るこ とも あり ,高校 では 2 学年 にわ たり週1回の 保健 の授 業が ほぼ 完全 に実 施さ れる よ うに なっ てき ている .一方,これ まで述 べたよ うに,フィ ンラ ンド では 世界 で唯 一,保 健 科を 大学 入試 の試 験科目 とし て実 施し ている .大学入 試に 保健 科が ある フィ ンラ ンド と 保 健科 がな い日 本, 両国の 比較 はこ の仮 説を 検証す るた めの 有効 な提 案であ る

保 健の「学 力」が測 定でき なか った 二つ 目の 理由と して 挙げ られ たの は,「 日本 型項 目の テ ス ト項 目と して の質 的水準 」,具体 的に は「問題 文や 選択 枝の 表現 の一 部が複 雑で 難解 であ り,

正 解に 達す るに は保 健科的 な知 識に 加え て相 対的に 高度 な読 解力 が要 求され る設 問と なっ て

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い た」 とい うも ので ある. 我が 国で は, 全国 的な保 健学 習内 容定 着調 査が始 まっ たば かり で あ り, 設問 項目 の作 成に不 慣れ であ った こと は十分 に考 えら れる .そ の結果 ,保 健科 の「 学 力 」以 外の 能力 の要 素が紛 れ込 み, 保健 の「 学力」 が抽 出で きな かっ たと 考 えら れる ので あ る .し かし,これ は,「 問題 文や 選択 枝の 表現 の改善 を重 ねて いく こと によっ て」修正可 能で あ り,そのう えで「『 保健 の学 力』が 測定 可能 とな れば ,フィ ンラ ンド 型問 題に 関す る分 析 と 合 わせ て, 様々 な角 度から のア プロ ーチ が可 能とな るで あろ う」 と考 察して いる .

以 上, 倉元 の「 日本 型項目 」分 析で の「 我が 国にお いて 『保 健の 学力 』とい う概 念そ のも の がテ スト で測 定可 能な形 では 存在 しな いと いう」 考察 から ,保 健科 の「学 力」 概念 の中 の

「 考え る力 」に つい て検討 する うえ で, 次の 三つ の 課題 が導 き出 され た.

① 「 学力 」を 測定 する うえで の「 モデ ル」 不在 に起因 する 課題

② 「 学力 」を 定着 させ る学習 条件 に起 因す る課 題

③ 「 日本 型項 目」 のテ スト項 目と して の質 的水 準に起 因す る課 題

上 記② に関 して は, 今後の 比較 研究 の課 題と するの で今 回は 検討 しな いが, ①と ③は ,次 項 の「 フィ ンラ ンド 型項目 」の 分析 とと もに ,第3 項で 検討 する .

9.2 .2

「フィンランド型項目」に関する考察の検討

さ て倉 元は ,「 フィ ンラン ド型 項目 」の「 テス トを 用い たデ ータ から 我が国 にお ける『保健 の 学力 』概念 を抽 出す るこ とを 試み」た.その結果 ,「 実際 にフ ィン ランド の保 健科 の能 力を 体 現し てい るか 否か は別に して ,保健 の能 力を捉え うる 可能 性が 示さ れた」と 考察 して いる .

「 日本 語得 点の 信頼 性の高 さと フィ ンラ ンド 型保健 学力 得点 との 相関 ,成績 パタ ーン を考 え る と, 日本 語力 には 還元し きれ ない 保健 科特 有の学 力特 性を ある 程度 は捉え るこ とが でき た の では ない かと 推測 できる 」と いう ので ある .倉元 は保 健科 教育 研究 者では ない が, 分析 を 通 じて この 3問 から 「保健 学習 の中 で『 応急 処置』 は高 校生 の印 象に 残りや すく ,そ れが 調 査 の結 果に も反 映さ れたと みら れる 」と の指 摘もし てい る. 実は ,我 が国で の保 健科 の学 習 内 容に 関す る先 行研 究では ,高 校生 と大 学生 のほぼ 半数 が「 応急 処置 の授業 で習 った こと が

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第9章 保健科の「学力」概念における「考える力」の位置 ―「考える力」計測のための「学力モデル(試案)」―

日 常役 立っ てい る」と して ,特 に課外 活動 での 活用 を挙 げ,ま た ,「も っと 勉強 した かっ た分 野 」で ある と回 答して おり ,興 味深 い学 習内容 の一 つと 言わ れて きた と の 調査 があ る.倉 元 の指 摘は この よう な保健 の授 業の 実態 や先 行研究 を踏 まえ ずに 分析 されて おり ,こ の調 査 の 信頼 性を 高め てい る.

以 上, 倉元 の「 フィ ンラン ド型 項目 」分 析の 考察か ら, 保健 科の 「学 力モデ ル」 を検 討す る うえ で, 次の 二つ の可能 性が 導き 出さ れた .

① フ ィン ラン ドの 保健 科の能 力を 体現 して いる か否か は別 にし て, 保健 の能力 を捉 えう る 可能 性

② 日 本語 力に は還 元し きれな い保 健科 特有 の学 力特性 が存 在す る可 能性 以 上を ①② を, 前項 の①と ③と とも に, 次項 で検討 する .

9.2 .3

「日本型項目」と「フィンランド型項目」に関する考察のまとめ

倉 元の 考察 に関 する 検討結 果か ら ,「学 力モ デル 」に 関連 する 部分 をま とめる と,以下 のよ う にな る.

① 「 日本 型項 目」 では ,測定 しよ うと する 「学 力モデ ル」 不在 の可 能性 がある

② 「 フィ ンラ ンド 型項 目」で は, 日本 語力 では ない, 保健 科特 有の 「学 力」が 存在 する 可 能性 があ る

そ こで ,次 節で はフ ィンラ ンド の大 学入 学資 格試験 にお ける 保健 科の 問題か ら帰 納 的 に抽 出 した 学力 の構 成要 素(第 6章 第3 節の 六類 型)を 使っ て, 保健 科の 「学力 モデ ル」 の作 成 を 試み る.