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保健科の「学力」概念の中の「考える力」に関する実証的研究 -フィンランドの保健科教育と大学入学資格試験からの評価論的接近-

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全文

(1)

保健科の「学力」概念の中の「考える力」に関する

実証的研究 −フィンランドの保健科教育と大学入

学資格試験からの評価論的接近−

著者

小浜 明

学位授与機関

Tohoku University

学位授与番号

11301甲第17252号

URL

http://hdl.handle.net/10097/00096926

(2)

博士学位論文

保健科の「学力」概念の中の「考える力」に関する実証的研究

―フィンランドの保健科教育と大学入学資格試験からの評価論的接近―

東北大学大学院

教育情報学教育部 B3FD1002

小浜 明

(3)
(4)

i

保健科の「学力」概念の中の「考える力」に関する実証的研究

―フィンランドの保健科教育と大学入学資格試験からの評価論的接近―

目次

序章 諸論 ... 1

1 問題の所在 ... 1 1.1 問題意識と研究の意義 ... 1 1.2 保健科教育研究における学力論の系譜と本研究の独自性 ... 7 2 研究の目的,方法,用語等の整理... 16 2.1 研究の目的 ... 16 2.2 研究の方法 ... 17 2.3 用語等の整理 ... 18 3 論文の構成 ... 21

第1章

フィンランドにおける保健科の教育課程 ... 29

1.1 本章の研究課題 ... 29 1.2 高校における保健科の教育内容と学年配当 ... 31 1.3 保健科の担当教師 ... 34 1.4 2000 年以降の保健科の教育課程改革の動向 ... 35

第2章

フィンランドにおける保健教育の歴史 ... 37

2.1 本章の研究課題 ... 37 2.2 学校における健康教育のはじまり(1860~1930 年代) ... 38 2.3 体育科教師が担当した保健教育(1950~60 年代) ... 39 2.4 公民科の中の保健教育(70 年代) ... 40 2.5 公民科の衰退,そして体育科へ(80~90 年代前半) ... 41 2.6 保健科誕生前の子どもの健康実態(90 年代後半) ... 41 2.7 保健科誕生の強力な支援者とその背景にあった理念 ... 42 2.8 保健科誕生を支えた「仲間」 ... 43 2.9 「教育法」の改正と保健科の誕生 ... 44

(5)

ii

第3章

“Research-based”を特徴とする保健科の教員養成 ... 49

3.1 本章の研究課題 ... 49 3.2 ユヴァスキュラ大学における保健科の教員養成 ... 50 3.3 保健科教師のための専門科目 ... 52 3.4 “Research-based”とは何か ... 58

第4章

“Research-based”の中核をなす「保健科の教育実習」 ... 61

4.1 本章の研究課題 ... 61 4.2 「保健科の教育実習」の主要構成員 ... 62 4.3 教育実習の一般目標 ... 62 4.4 教育実習の構造 ... 64 4.5 指導案の構造とリフレクションの様子 ... 69

第5章

フィンランドの大学入学資格試験における保健科のテスト問題 ... 73

5.1 本章の研究課題 ... 73 5.2 研究方法 ... 74 5.3 結果 ... 75 5.3.1 大学入学資格試験における保健科の試験 ... 75 5.3.2 保健科の試験問題の実際 ... 76

第6章

フィンランドの大学入学資格試験の採点組織と方法 ... 83

6.1 本章の研究課題 ... 83 6.2 研究方法 ... 84 6.3 結果 ... 84 6.3.1 大学入学資格試験評議会と保健科専門委員会 ... 84 6.3.2 採点体制 ... 85 6.3.3 保健科目で高得点を獲得する困難さ ... 86 6.3.4 保健科目の受験者の推移 ... 88 6.3.5 保健科目の受験者が多い理由 ... 89 6.4 追加調査(保健の授業での教科書の使用について) ... 91

第7章

フィンランドの大学入学資格試験問題からの翻案 ... 95

7.1 本章の研究課題 ... 95 7.2 回答形式による質問項目の分類 ... 96 7.3 記述式問題で計測する「学力」の構成要素の検討 ... 97

(6)

iii 7.4.2 日本型項目 ... 101 7.4.3 基礎学力の指標項目 ... 103 7.5 調査の手続き ... 105 7.5.1 調査対象者,および,調査の実施 ... 105 7.5.2 調査協力者への配慮と倫理的配慮 ... 105 7.5.3 調査票の作成者と分析の担当者 ... 105

第8章

「フィンランド型項目」の採点基準の作成 ... 107

8.1 本章の研究課題 ... 107 採点基準の指針 ... 108 8.2 8.3 採点基準の作成 ... 109 8.3.1 健康に関する「理論的な知識問題」 ... 109 8.3.2 健康に関する「情報分析能力+批判的思考」問題... 113 8.3.3 健康に関する「理論的な知識+技能的な知識」問題 ... 117 8.4 採点基準による採点方針 ... 121

第9章

保健科の「学力」概念における「考える力」の位置

―「考える力」計測のための「学力モデル(試案)

」―... 123

9.1 本章の研究課題 ... 123 9.2 「日本型項目」と「フィンランド型項目」の分析結果の検討 ... 124 9.2.1 「日本型項目」に関する考察の検討 ... 124 9.2.2 「フィンランド型項目」に関する考察の検討 ... 125 9.2.3 「日本型項目」と「フィンランド型項目」に関する考察のまとめ ... 126 9.3 保健科の「学力モデル(試案)」 ... 126

終章

教科としての保健科に向けて―本研究のまとめに代えて― ... 131

1 研究の成果の要旨 ... 131 2 フィンランドの保健科教育の全体像 ... 135 2.1 フィンランドの保健科教育のまとめ ... 135 2.2 フィンランドの保健科教育を研究していくうえでの今後の課題 ... 137 3 保健科の「学力」概念の中の「考える力」への評価論的接近 ... 138 3.1 評価論的接近研究のまとめ ... 139 3.2 評価論的接近研究から見えてくる保健科の「学力」研究における今後の課題 ... 141

(7)

iv 4 日本の保健科教育研究への示唆と今後の課題と展望 ... 142 4.1 日本の保健科教育研究への示唆 ... 142 4.2 保健科教育研究の今後の課題及び展望 ... 144

補章1 保健科の「学力」に関する調査研究 ... 149

1 保健科の学力に関する調査研究(1)―日芬における教育課程と学力像の比較―― ... 149 2 保健科の学力に関する調査研究(2)―我が国の「保健の学力」概念に関する実証的研究― ... 152 3 保健科の学力に関する調査研究(3)―フィンランド型問題の分析― ... 157

補章2 保健科における「素朴概念」の検討 ... 161

1 はじめに ... 161 2 「教科内容」と「教材」の区別 ... 162 3 「素朴概念」の存在 ... 162 4 保健領域における「素朴概念」の研究 ... 163 5 「素朴概念」が示す構成主義の学習論 ... 165

付録 我が国の教育課程における保健学習の位置づけ ... 169

1 戦後の保健学習の変遷(1945~1999 年まで) ... 169 2 平成 10(1999)年の改訂(現在の原型) ... 170 3 現在の位置づけ(「考える力」の重視) ... 170

付記 保健科教育学の構築を求めて ... 173

日本体育学会第 66 回大会(自由集会) ... 173

謝辞

... 181

文献

... 183

巻末資料 ... 195

Abstract ... 245

(8)

1

序章 諸論

1 問題の所在

本 節で は, 保健 科の 「学力 」概 念の 中の 「考 える力 」に 着目 する 問題 意識, フィ ンラ ンド の保 健 科教 育と 大学 入学 資格試 験に おけ る保 健科 のテス ト問 題に 着目 して 研究す る意 義, 及び 先行 研 究 の動 向と その 分析 を通し て明 らか とな る本 研究の 独自 性に つい て述 べる.

1.1 問題意識と研究の意義

近 年の 我が 国の 教育 行政に おけ る「 考える 力」の必 要性 は ,「知 識基 盤社会 の到 来や ,グロ ー バル 化の 進展 など 急速に 社会 が変 化す る中 ,次代 を担 う子 ども たち には, 幅広 い知 識と 柔 軟 な思 考力 に基 づい て判断 する こと や, 他者 と切磋 琢磨 しつ つ異 なる 文化や 歴史 に立 脚す る 人 々と の共 存を 図る ことな ど, 変化 に対 応す る能力 や資 質が 一層 求め られて いる .一 方, 近 年 の国 内外 の学 力調 査の結 果な どか ら, 我が 国の子 ども たち には 思考 力・判 断力 ・表 現力.. ... .. .. ..等 に 課題 がみ られ る( 傍点筆 者 )」 との諮 問を 受けて ,中 央教 育審 議会 (2005)が教育課程の 基 準全 体で の「 学力 」の見 直し を開 始し たこ とに端 を発 する .こ の背 景には ,経 済協 力開 発

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2 序章 諸論

機 構(OECD)の DeSeCo(Definition and Selection of Competencies:コンピテンシーの 定 義と 選択)プロ ジェ クト が,1997 年から 2003 年にかけて「知識基盤社会」時代を担う子 ど もた ちに 必要 な能 力の概 念枠 組み を「 主要 能力( キー・コ ンピ テン シー)」と定 義 づけ ,そ の うち の一 部を 国際 比較調 査と して 実施 した第 2 回 PISA(2003 年)の結果において,日本 の 成績 が国 際的 に見 て芳し くな かっ たこ とに あった . 中 央教 育審 議会 が教 育課程 の基 準全 体の 見直 しを実 施す る一 方で ,2007 年には学校教育法 が ,「 生涯に わた り学 習す る基 盤が 培わ れる よう,基 礎的 な知 識及 び技能を 習得 させ ると とも に ,こ れら を活 用し て課題 を解 決す るた めに 必要な 思考 力, 判断 力, 表現力 その 他の 能力 を は ぐく み,主体 的に 学習に 取り 組む 態度 を養 うこと に,特に 意を 用い なけれ ばな らな い」(第 30 条 2 項,第 49 条,第 62 条)と改正され,この結果,初等中等教育では,「知識・理解」 及 び「技 能 」,「 思考・ 判断 ・表現 」,「関 心・意 欲・ 態度」を もっ て「学 力の 3 要素」と規定 さ れた ので ある . こ の改 正さ れた 学校 教育法 の「 学力 規定」を踏 まえ ,2008 年 1 月,中央教育審議会は,「幼 稚 園, 小学 校, 中学 ,高校 及び 特別 支援 学校 の学習 指導 要領 等の 改善 につい て」 を答 申し , 学 習指 導要 領の 改訂の 7 点の基本的な考え方を示した.その 4 番目に挙げられたのが,「思 考 力・ 判断 力・ 表現 力等の 育成 」で あっ た. その後 ,学 習指 導要 領( 小・中 が 2008,高が 2009)が改訂され,「高校学習指導要領解説(保健体育編)」「第1章総説第1節改訂の趣旨」 に は ,「OECD(経済協力開発機構)の PISA 調査など各種の調査からは,我が国の児童生徒 に つい ては ,例 えば ,①思 考力 ・判 断力 ・表 現力等 を問 う読 解力 や記 述式問 題, 知識 ・技 能. .. .. .. .. ... .. .. .. .. ... .. .. .. . を 活用 する 問題 に課 題. .. .. .. .. .…( 中略 )… が見 られ るとこ ろで ある (傍 点筆 者)」 と ,「 考える 力」 が 必要 にな った 経緯 と形成 の必 要性 が示 され ること にな る. そ の後 ,2010 年 3 月に,中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会の「児童生徒の 学 習評 価の 在り 方に ついて( 報告 )」で の「思 考・判 断・表 現の 観点 を評価す る際 には ,基礎 的 ・基 本的 な知 識を 活用し つつ ,各 教科 の内 容等に 即し て思 考・ 判断 したこ とを 多様 な. .. .. ... .. .. .. .. ... .. .. .表 現. .

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3 方 法を 通し て評 価す る必要 があ る. .. .. .. .. ... .. .( 傍点 筆者 )」と の例 示を 受け ,2010 年 5 月,文部科学省 は ,「小 学校,中学 ,高 校及 び特 別支 援学 校等 におけ る児 童生 徒の 学習 評価及 び指 導要 録の 改 善 等に つい て( 通知 )」を出 し,新し い学 習指 導要領 の趣 旨等 を踏 まえ た学習 評価 の具 体的 な 手 立て を示 した .そ こでは ,「思 考,判 断, 表現」 の評 価と は,「基 礎的・ 基本 的な 知識 ・技 能 を活 用し つつ ,各 教科の 内容 等に 即し て思 考・判 断し たこ とを ,説 明,論 述, 討論 等と い. ... .. .. .. . っ た言 語化 する こと を通じ て表 現さ れた もの を評価 する こと. .. .. .. .. ... .. .. .. .. ... .. ..(傍 点筆 者)」 とし た 1の であ る . こ のよ うに ,「考 える 力」の 育成 に必 要性 と評 価方法 に関 する 教育 行政 レベル での 改革 が進 む 一方 で, 教育 現場 には大 きな 不安 が広 がっ ている .そ れは ,中 央教 育審議 会初 等中 等教 育 分 科会 教育 課程 部会 小学校 部会 委員 であ る加 藤明か らも ,「『 思考 ・判 断・表 現』 の観 点か ら 明 確化 ,具 体化 され た目標 につ いて は, 高次 の認知 的な 領域 の目 標で あり, 単一 の要 素か ら 成 り立 って いる もの でない ため ,その 実現の ための 指導 及び 評価 は容 易では ない 2」との 指 摘 に象 徴さ れる よう に,ど うや って 「思 考・ 判断・ 表現 」を 指導 評価 可能な のか が, まっ た く もっ てブ ラッ クボ ックス 化し てい るか らで ある. ただ し, そん な中 でも教 育現 場レ ベル で は ,記 述さ れた 回答 によっ て子 ども たち の「 考える 力」 を把 握し 評価 する試 みが ,教 師た ち の 努力 で実 施さ れる ように なっ てき ている 3.しか し,全 国的 レベ ルで は, ほとん ど手 が付 け られ てい ない 状況 である .た とえ ば, 評価 論的接 近に 限っ てで ある が,日 本学 校保 健会 が 実 施し た全 国的 な保 健学習 内容 定着 調査 4 5に は,「知 識・ 理解 」「 関心 ・意欲 ・態 度」 に関 連 する 調査 項目 はあ るもの の ,「思考・判断・表現 」とい った「 考え る力」に 関連 する 調査 項 目 を見 つけ るこ とは できな い. と ころ が,本 論文 が研 究対 象と して いる フィ ンラン ドで は,特 別な 方法 を用 いる こと なく , 全 国的 レベ ルの 大学 入学資 格試 験(Matriculation Examination)で,この保健科の「考え る 力」 を評 価し てい るので ある .筆 者は ,フ ィンラ ンド の大 学入 学資 格試験 にお ける 保健 科 の 試験 問題 を収 集し て,予 備的 検討 を試 みた 6.保 健 科の 試験 が開 始さ れた 2007 年から 2013

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4 序章 諸論 年 まで の試 験問 題を 分析し たと ころ ,我 が国 の保健 科で 実施 され てい る正誤 法や 多肢 選択 法 に よる「客 観式 問題 」(以 下,選択 式問 題)とは違 い,記述 によ る「 回答構 築式 問題 」( 以下 , 記 述式 問題 )で 出題 されて いた .し かも そこ では,「 知識 ・理解 」「関 心・意 欲・ 態度 」だ け に とど まら ず ,高 次知的能 力で ある「 考え る力(思 考し ,判断 し ,表 現する 力 )」を計 測す る こ とを 中核 的要 素に 位置づ けて いた 7 8 9 1 0の である .つ まり ,フ ィン ラン ドでは ,高 校 卒 業 段階 まで に身 に着 けさせ てお きた い保 健科 の「考 える 力 」を ,大 学入 学資 格試 験の「問 題」 と いう 形式 で測 定す ること で具 現化 させ てい たので ある . こ の大 学入 学資 格試 験は,フィ ンラン ドの 保健 科教 育研 究者 にと って は一般 的な「こと ば」 で あっ ても ,我 が国 の保健 科教 育研 究者 の間 ではほ とん ど馴 染み のな い「こ とば 」で ある . そ れは ,我 が国 を含 め,世 界的 に見 ても 大学 入試の 試験 科目 に保 健科 が入っ てい る例 がな い か らで ある .欧米 では ,ア メリ カの SAT(Scholastic Aptitude Test)や ACT(American College Testing),イギリスの GCSE(General Certificate of Secondary Education),ドイツのアビ ト ゥー ア,フ ラン スの バカ ロレ アの よう な,大 学入 学資 格試 験が 実施 されて いる .とこ ろが , 日 本を 含め て世 界中 を見回 して も, この よう なハイ ステ ーク スな 選抜 試験に 保健 科目 を設 定 し てい る国 は, フィ ンラン ドの ほか には 存在 しない ので ある . 本 研究 は, 上記 の問 題意識 にも とづ き, 我が 国の保 健科 にお ける 「学 力」概 念の 中の 「考 え る力 」に 関す る実 証的研 究を する にあ たり ,フィ ンラ ンド の保 健科 教育と この 国の 大学 入 学 資格 試験 の保 健科 のテス ト問 題に 注目 した のであ る. では ,こ れら を研究 する 意義 はど こ に ある だろ うか .こ こでは それ らの 意義 を, 以下に 7つ 挙げ るこ と と する. ( 研 究 の 意 義1 )一つ 目は ,これ まで 我が国 では誰 もそ の存 在さ え知 らなか った ,フィ ン ラ ンド の保 健科 教育 の実態 を明 らか にす る, という 意義 であ る. 我が 国では ,筆 者 が この 国 の 保健 科教 育に つい てのい くつ かの 報告 をす るまで ,フ ィン ラン ドで 「保健 の授 業」 が実 施 さ れて いる こと は知 られて いな かっ た.「保 健科 のカ リキ ュラ ムの 改善 に関す る研 究― 諸外 国 の 動向 ―1 1( 国立 教育 政策 研究 所 2004)でも,フィンランドに関する報告は空白となって

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5 い る. 本研 究は その 空白を 埋め るも のと なる . ( 研 究 の 意 義2 )二つ 目は ,教科と して 独立 してい るフ ィン ラン ドの 保健科 誕生 の経 緯を , そ の背 景を 含め て歴 史的に 明ら かに する とい う意義 であ る. 我が 国で は未だ 保健 科は 独立 し た 教科 では ない .フ ィンラ ンド の保 健科 が, 教科と して 独立 でき た歴 史的背 景を 解明 でき れ ば ,日本 の教 育課 程に おけ る保 健科 の位 置づ けや在 り方 を考 える 上で も,大 きな 示唆 となる. ( 研 究 の 意 義3 )三つ目は ,フ ィン ラン ドの 保健科 教員 養成 教育 と教 育実習 を解 明す る意 義 であ る. 我が 国の 保健科 担当 教員 養成 教育 では, 保健 科教 育法 の実 施率の 低調 さ, 教育 実 習 (主 に中 学) での 「保健 の研 究授 業」 の未 実施な ど多 くの 課題 を抱 えてい る. 一方 でフ ィ ン ラン ドで は, 教員 になっ た後 も, 教科 担当 者とし て保 健科 を探 究 し 続けて いく 教員 を養 成 し よう とす る特 徴を 持つ. フィ ンラ ンド の保 健科教 員養 成教 育の 具体 的なカ リキ ュラ ムや 教 育 実習 の在 り方 等が 解明で きれ ば, 我が 国の 保健科 担当 教員 養成 教育 にとっ ても 大き な意 義 が ある . ( 研 究 の 意 義4 )四つ目は ,フ ィン ラン ドの 大学入 学資 格試 験に おけ る保健 科の 記述 式問 題 と, その 「学 力」 の構成 要素 ,及 び評 価体 制を解 明す ると いう 意義 である .一 般的 に 記 述 式 問題 は「 考え る力 」を計 測可 能な 長所 があ ると言 われ てい る一 方で ,採点 に手 間が かか り 客 観性 に乏 しい など といっ た短 所も 指摘 され ている .客 観性 が問 われ る大学 入試 で記 述式 問 題 を実 施し てい るフ ィンラ ンド が, この 短所 をどの よう に克 服し てい るのか を知 るこ とは , 2019 年度以降に実施予定の高校生の基礎学力の定着度合いをみる「高校基礎学力テスト(仮 称 )」に,当 然の よう に入 って くる はず なの に入っ てい ない「 保健 科目」の 今後 の導 入準 備と い う意 味で も, 本研 究は重 要な 基礎 的資 料と なる. ( 研 究 の 意 義5 )五つ 目は ,わが 国の 学習指 導要領 の内 容に 即し た記 述式問 題を ,フィ ン ラ ンド の大 学入 学資 格試験 にお ける 保健 科の 試験問 題か ら翻 案し,問題 ごと に計 測可 能な「 考 え る力 」を 到達 目標 とした 採点 基準 を作 成す るとい う意 義で ある .こ れまで の保 健科 の記 述 式 問題 の採 点基 準は ,他教 科等 との 共通 な一 般的な 点数 指針 が述 べら れてい た 1 2に 過 ぎす ,

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6 序章 諸論 設 問項 目ご との 採点 基準は 作成 され てい なか った.また,こ れを 克服 しよ うと した 研究 でも , 事 後的 に子 ども たち の回答 を見 なが ら採 点基 準を作 成 し てい るた めに ,結果 的に 相対 評価 に 陥 って しま い, ある 教室で は適 応可 能で あっ ても他 の教 室で は適 応不 能とい う課 題が ある こ と が指 摘さ れて いた 1 3. 保 健科 の「 考え る力 」の育 成を 「到 達目 標」 とする 「採 点基 準」 の 作成 は,保健 科の「学力 」へ の評 価論 的接 近研究 を ,「 到達目 標と 到達度 評価 」に 関す る理 念 的な 研究 から ,実 証的な 研究 へと 一歩 進め るもの とな る. ( 研 究 の 意 義 6 ) 六 つ 目 は , 研 究 の 意 義 5 で 作 成 さ れ た 記 述 式 問 題 と 採 点 基 準 を 使 っ て , 我 が国 でも 保健 科の 「学力 」が 抽出 可能 なの かを検 証す る意 義で ある . これ まで 保健 科教 育 研 究の 分野 では ,方 法論を 伴っ ての 記述 式問 題によ る全 国的 な測 定評 価 は実 施さ れて いな か っ たの で, 本研 究が 初めて の試 みと なる .検 証した 結果 は, 研究 の意 義7で 作成 され る「 学 力 モデ ル(試案 )」に 活用す る .な お,この 検証にあ たっ ては ,調 査項 目作成 から 調査 の実 施・ 回 収を 筆者 が行 い, 分析に つい ては ,客 観性 と専門 性を 担保 する 目的 で第三 者に 委託 する . ( 研 究 の 意 義7 )七つ 目は ,研究 の意 義6で 実施し た実 証的 研究 の 結 果をも とに ,保健 科 の 考え る力 を計 測す るため の「 学力 モデル(試 案)」を提 案す る意義 であ る.中内 敏夫 は,「学 力 テス トは ,あり うる 学力 につ いて の像( これ を『 モデ ルと しての 学力 』と か『 学力 モデル 』 と よぼ う) をつ くる ,つま り学 力の 定義 をな んらか のか たち でお こな わなけ れば ,そ の質 問 文 ひと つも つく るこ とがで きな いと いう ,や っかい な性 質を もっ ている 1 4」 と指 摘し てい る .と ころが これ まで,日 本の 保健 科教 育研 究の分 野で は ,「学 力モ デル」を示 しての 学力 調 査 の例 を, 筆者 が知 る限り であ るが ,確 認で きてい ない .こ のこ とは ,子ど もに 形成 させ る 保 健科 の「 学力」を定 義し ない まま ,つま りど んな「学 力」を 計測 する かを 不問 にし たま ま, 学 力調 査が 実施 され ている こと を意 味す る.「学力 モデ ル( 試案 )」 の提案 は, 今後 ,我 が国 の 保健 科教 育研 究の 分野に 「学 力」 論争 を生 じさせ る可 能性 を内 包し , 保健 科教 育研 究を 活 性 化さ せる 契機 とも なる. 以 上, 保健 科に おけ る「考 える 力」 の必 要性 を自覚 し, その 測定 評価 方法を 実現 させ てい

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7 る フィ ンラ ンド は, 日本の 保健 科の 「考 える 力」を 研究 する うえ でも ,避け ては 通れ ない 国 な ので ある . 筆 者は,2010 年後半からフィンランドの保健科教育に関わる研究資料の収集を開始し,そ れ らの 結果 をも とに,2013 年に 2 回(3 月と 10 月),2015 年に 1 回(11 月)と,フィンラ ン ドに 出向 き,フ ィン ラン ド国 家教 育委 員会 の教育 顧問(Counsellor of Education)であり, 保 健科 担当 責任 者で あるヘ イデ ・ペ ルト ネン (Ms. Heidi Peltonen)氏,保健科教育で中心 的 な役 割を 果た して いるユ ヴァ スキ ュラ 大学 スポー ツ健 康科 学部 長ラ ッセ・カンナ ス氏(Mr. Lasse Kannas)氏(専門:保健科教育学,大学入学資格試験評議会保健科専門評議員(’05 ~ ’11)),及び同学部保健学科講師オッリ・パッカーリ(Mr. Olli Paakkari)氏(専門:保 健 科教 育学 ,評 議会 同専門 評議 員(’12~現在))と同学部保健学科講師リーナ・パッカーリ (Ms. Leena Paakkari)氏(専門:保健科教育学)に対して,形式的半構造化インタビュー を 実施 し, 併せ てユ ヴァス キュ ラ市 近郊 の小 学校か ら高 校 ま での 複数 の学校 で, 保健 の授 業 や 教育 実習 を参 与観 察して きた .そ の結 果に ついて は, これ まで も本 研究を 進め る過 程で 公 表 して きて いる .具 体的に は, 単独 では ,フ ィンラ ンド の大 学入 学資 格試験 にお ける 保健 科 の 試験 に関 する 研究 ,保健 科の 教育 課程 と担 当者に 関す る研 究, 大学 入学資 格試 験に おけ る 保 健科 目の 採点 と方 法に関 する 研究 ,保 健科 教員養 成教 育 と 教育 実習 に関す る研 究, フィ ン ラ ンド の保 健教 育の 歴史的 研究 ,フ ィン ラン ドの保 健科 の学 習状 況調 査に関 する 研究 ,さ ら に 共同 では ,論述 式と 多肢 選択 式の 保健 科の「 学力 」概 念に 関す る実証 的研 究等 1 5で ある. 以 上, 本論 文は ,上 記に挙 げた 研究 論文 ,学 会発表 ,専 門誌 への 投稿 などを 含め ,今 回新 た に明 らか とな った 成果を 加筆 修正 し, 再構 成した もの であ る. さて ,次項 では 日本 の保 健 科 教育 学研 究に おけ る「学 力」 に関 する 研究 の歴史 をレ ビュ ーし なが ら,本 研究 の独 自性 に つ いて 論じ るこ とと する. 1.2 保健科教育研究における学力論の系譜と本研究の独自性 わ が国 の保 健科 教育 研究に おけ る「 学力 」へ の接近 は, 長い 間( 現在 でも),「わ かる 」と

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8 序章 諸論 「 でき る」の 間で ,その目 標と され る学 力観 が揺れ 動い てき た.端 的な 言い 方を すれ ば,「知 識 ばか りで 実践 的( 行動化 )さ れな けれ ば意 味がな い」 とい う主 張に 代表さ れる 行動 主義 的 目 標観 と, それ に対 して批 判的 な視 点か ら主に 1960 年代の中ごろから主張されてきた「保 健 の科 学的 認識 の育 成」を 主目 標に する 認識 主義的 目標 観と の拮 抗・ 混在と いう 形を とっ て き た 1 6と い ってよ い. 本研 究の 主テ ーマ であ る保健 科の 「学 力」 概念 の中の 「考 える 力」 に 関す る実 証的 研究 は,後 者の 目標 観と 共振 し,そ の延 長線 上に 立脚 するも ので ある .よ っ て 以下 では ,保 健科 教育研 究に おけ る認 識主 義的目 標観 の先 行研 究に ついて 概観 する . さ て,わが 国の認 識主 義的 目標 観に おけ る保 健科教 育研 究で は,何 のた めに(目 標論 ),何 を (内 容論 ), どう 教え( 教授 論 ),ど う学 び(学 習論 ),何が 身に つき( 学習 者論 ), どう 測 る か( 評価 論) とい う側面 から の「 学力 」研 究が実 施さ れて きた 1 7 1 8 1 9. こ れら 各論 は 単 独に 研究 され たり ,ある いは ほと んど 研究 されな いま ま放 置さ れて いるこ とが ,先 行研 究 か ら言 及さ れて いる 2 0. こ の項 では ,保 健科 の「学 力」 論を 概観 する にあた って ,日 本学 校 保健 学会 で共 同研 究され た保 健教 育 A 班「保健科の学力を考える 2 1」 の 分類 (内 容論 , 授 業論 ,評 価論 の三 つ)に 依拠 しな がら ,本 研究の 主テ ーマ と深 い関 わりを 持つ 認識 主義 的 目 標観 の「 学力 」研 究の系 譜を 概観 して いく . 1.2.1「学力」への内容論的接近とその課題 「 学力 論の 内実 は,何より も内 容的 な接 近に よって 埋め なけ れば なら ない 2 2」.保健 科教 育 研究 にお ける「 学力 」へ の内 容論 的接 近は,1958 年に小倉学が「生命尊重に関する歴史的 認 識 」「集 団の 健康に 対する 社会 科学 的認 識」「 国民保 健の 課題 に沿 った 内容を 盛り 込む こと 」 の 必要 性を 提起 し,1960 年に5領域試案(のちに6領域試案,1974)を提起したことに始ま る .5 領域 試案 とは ,①人 体の 構造 と機 能, ②環境 と健 康, ③疾 病・ 傷害の 予防 (6 領域 試 案 の提 案の 際「疾 病予 防」「安 全(災 害防止 )」に分 割 ),④ 労働と 健康,⑤ 集団 の健 康(公 衆 衛 生) を, 保健 科の 教育内 容構 成に する とい う提案 であ った . 小 倉の この 5領 域試 案の構 成原 理は ,主 体・ 病因・ 環境 とい う「 疫学 の3要 因」 にそ の発

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9 想 の源 があ る.その 中身は ,「自 然科学 的認 識と社 会科 学的 認識 の統 一」に よっ て結 ばれ る科 学 的保 健観 の全 体像 を解明 して いく 作業 であ り,保 健の 諸科 学と して の「疫 学」 の成 果を 国 民 的共 通教 養と して ,科学 的・ 体系 的に 再整 理しよ うと した もの であ った. その 後, 小倉 の 5 領域 試案 の内 容構 成は, 学習 指導 要領 の内 容構成 の検 討や 現実 社会 に生起 して いる 健康 問 題 ,及 び新し い知 識や 情報 への 対応 とい った 必要性 とと もに 批判 的に 検討さ れな がら,森( 典 型 教材 によ る内 容構 成), 内海 (三 部六 領域 による 内容 構成 ), 数見 (から だ教 育に よる 内容 構 成 ),藤 田(改 訂三 部六 領域 によ る内 容構 成)等 らに よっ て再 提案 されて いく .そし てそ れ ら は, 各々 が独 自に あるい は融 合し なが ら, 次の段 階と して ,一 つは 内容論 を各 発達 段階 に ど のよ うに 配列 しな がら学 力を 保証 して いく かとい う「 評価 論」 から の接近 に引 き継 がれ , も う一 つは 子ど もが「わか る 」こ とを保 証す る授業 論的 接近 研究(教 材づく り・授 業づく り) へ と引 き継 がれ てい く.特 に, 後者 の必 要性 は近々 の現 実的 課題 に直 面して いた .そ れは , 内 容論 から の「学 力」への 深化 だけ では,雨で 体育 実技 がで きな い日 に実施 され るこ とか ら, 俗 に「 雨降 り保 健」 と揶揄 され てい た当 時の 保健の 授業 の実 態 が ほと んど改 善さ れな いと い う 現実 的課 題で あっ た.「 雨降 り保 健」の現 実的課 題を 打開 しよ うと ,教授 学の 影響 を受 けな が ら, 次第 に保 健の 「学力 」へ の授 業論 的接 近研究 へと その 軸足 を移 して行 くこ とに なる . 1.2.2「学力」への授業論的接近とその課題 「 これ は学 力論 の課 題とい うよ り, 厳密 ない いかた をす れば 学力 形成 の課題 とい うべ きで あ ろう 2 3」.一 方で これ は,「 知識 ・理解 」及 び「技 能 」,「思 考・ 判断 ・表現 」,「 関心 ・意 欲 ・態 度」 のど こに 力点を 置き ,ど こを 焦点 化する のか とい う課 題で もある .他 方で また , 現 実で 引き 起っ てい る健康 問題 を解 決す るた め ,「 人格 形成 」ま でも 範疇に 入れ た「 わか り方 の 質」 を問 おう とし た授業 実践 も, 保健 科の 「学力 」へ の授 業論 的接 近研究 には あっ たの で あ る. 1 .2 .2 .1「 学力 」へ の授 業論 的接近 保 健科 教育 研究 にお ける授 業論 から の「 学力 」への 接近 は, 大き く分 けて三 つの 研究 成果

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10 序章 諸論 が ある .一 つは ,小 倉学が 山梨 県の 小・ 中学 の教師 らと 試み た教 育内 容の教 材化 研究 から の 潮 流で あり ,も う一 つは, 宮城 保健 体育 研究 会によ る授 業実 践研 究か らの潮 流で あり ,最 後 が 保健 教材 研究 会( 以下, 教材 研) によ る教 材づく り・ 授業 づく り研 究から の接 近の 潮流 で あ る. 一 つ目 は, 先に 仮説 的内容 構成 を提 出し た小 倉が, フィ ール ドを 用い て「実 験授 業に よる 系 統化 」の 研究 を開 始した こと に始 まる .「 この研 究は ,基 本的 には 教育課 程研 究と して 位置 づ けら れる もの であ り,そ の点 から の厳 密な 成果確 認が され なけ れば ならな いが ,む しろ こ こ で注 目す べき は, そこで の授 業の プロ セス を授業 案ふ うに 再現 する と共に ,授 業後 の子 ど も の認 識の 変化 を認 識テス トに よっ てと らえ ている こと であ る 2 4」 とい う, 教育 内容 の系 統 性を 科学 的に 明ら かにす る試 みで あっ た. 小倉が 意識 化し てい たわ けでは ない が, 授業 論 に おけ る「 教材 」「 授業プ ロセ ス 」「子 ども の認識 の変 化」 とい う分 析単位 の素 地が 提出 され た こと は, 保健 科の 「学力 」概 念の 枠組 を考 えるべ き際 に, 対象 とし て何を 自覚 すべ きか と い う範 囲を 示し た点 では画 期的 な研 究で あっ た.こ れら 一連 の研 究成 果は,「 小 学校保 健教 育 の 計画 と実 践」(1968),「中学保健教育の計画と実践」(1972)として出版されている. 二 つ目 は, 斉藤 喜博 らの教 授学 グル ープ の影 響を受 けた 数見 隆生 を中 心とす る宮 城保 健体 育 研究 会が 「生 活課 題の科 学的 追究 」を 掲げ ,1973 年に授業実践「鼻と健康」(小学校 4 年 生 )を 発表 した こと に始ま る潮 流で ある .の ちに数 見が 「具 体的 な授 業を現 場実 践の レベ ル で 一つ 一つ 積み 上げ ながら ,保 健の 授業 像や 教材づ くり のあ り方 を下 から上 向的 に明 らか に し てい こう とい うも のであ った .何 を教 える のかと いう こと と, その ことに よっ て目 の前 の 子 ども にど んな 力が 育って いく のか ,と いう ことを 統一 的に とら えな がら, 授業 の創 出を 志 し た 2 5」 と いうよ うに ,教 師自 身が 子ど もの 生活現 実の 中か ら教 える べき課 題を 見出 し, 教 材に 問い かけ,子ど もの 既成 概念 を打 ち砕 き,揺 さぶ って いく とい う手法 ,つ まり ,「生 活 的 概念 」と 「科 学的 概念」 の矛 盾に 対し て科 学的認 識を 通し てそ の意 味を深 めさ せて いく と い う教 授学 的授 業研 究の方 法が 取ら れた .こ の研究 会の すぐ れて いる 点は, ①「 分析 単位 」

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11 が しっ かり して いた こと,②「 検討 会 」が もたれて いた こと にあ る.「 分析 単位 」とは ,①教 材 観や 教材 への 願い の表明 ,② 子ど もの 生活 課題の 把握 ,③ 指導 計画 ・授業 案の 提示 ,④ 実 践 の記 録,⑤ 子ど もの 感想 文や 自己 評価 であ る.「 検討 会」で は,共 同討議 によ って 実践 が省 察 され ,再 構成 され ながら ,次 の再 実践 への 下敷き とな って いった 2 6 三 つめ は,1979 年に,森昭三が「『授業書』を使っての保健授業の試み」を発表したこと に 始ま る潮 流で ある .教材 研は ,板 倉聖 宣の 仮説実 験授 業に 学び なが ら「授 業書 」方 式に よ る 教材 づく りを 通じ て授業 研究 を開 始す る.「授業 書( 教案 +教 科書 +ノー ト+ 兼読 物)」と い う目 に見 える 具体 物は, 保健 の授 業へ のイ メージ を一 気に 現実 のも のとし た. 教材 研の メ ン バー によ る授 業書 の作成 が一 気に 進み 始め たので ある.1982 年には「授業書による保健授 業 の試 み」 の連 載が ,雑誌 『体 育科 教育 』の 紙上で はじ まる .保 健の 授業へ の「 授業 書」 の 導 入は ,教 材の 量, 質を飛 躍的 に高 めた .そ れ以前 にお いて は, 公表 された 授業 を検 討す る 方 法が ほと んど なか ったか らで ある .そ の理 由は, ①教 材や 授業 過程 がイメ ージ しや すい こ と (伝 達可 能性 )と ,②授 業運 営法 を提 示し ている こと から 容易 に追 試がで きる こと (再 現 可 能性 )に あっ た. このこ とが ,具 体的 な展 開形式 まで 想定 した 授業 書を, 教材 研究 を進 め る 上で の「標 準( スタンダ ード )」にし,教材 の数 を飛 躍的 に増 やす ことに 貢献 した ので あっ た 2 7 1 .2 .2 .2「 学力 」へ の学 習者 論的接 近( 定型 化し た「 学び」 への 批判 ) 1980 年代の前半から,波多野誼余夫や佐伯胖らによって,本格的に紹介される心理学のパ ラ ダイ ム転 換( 行動 主義か ら認 知主 義へ )と ,そこ から 提起 され る新 たな( 構成 主義 的な ) 「 学習 」観 の提 唱は ,1990 年代に入ると「学び」論と呼称され,佐藤学による「学びの共同 体 」の 理論 的基 礎と なった .佐 藤は ,従 来の 「技術 的実 践の 授業 分析 」に対 して 「反 省的 実 践 の 授 業 研 究 」 の 仕 方 が こ れ か ら の 授 業 研 究 の 方 向 で あ る と し て 述 べ , 次 の 5 点をあげた. ① 文脈 を超 えた 普遍 的な認 識を 求め る代 わり に,文 脈に 繊細 な個 別的 な認識 を求 める ② 多く の授 業に よる 追試の 代わ りに ,特 定の 一つの 授業 を対 象に する

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12 序章 諸論 ③ 教授 学・ 心理 学・ 行動科 学の 代わ りに ,人 文社会 科学 と実 践的 認識 論を使 う ④ 数量 的研 究を 使っ て一般 化を 求め る代 わり に,質 的研 究を 使っ て個 性を記 述す る ⑤ 原因 と結 果を 解明 する代 わり に, 経験 の意 味と関 係を 解明 する 佐 藤の 批判 は, 保健 の「学 力」 への 授業 論的 接近を 試み よう とす る研 究方法 に大 きな 影響 を 与え た. 佐藤 が紹 介した ドナ ルド ・シ ョー ン(Schön,1983)2 8の 「技 術的 熟達 者か ら反 省 的実 践家 へ」 とい う教師 像の テー ゼは ,授 業を「 合理 的技 術の 適用 過程で はな く, 教師 に お いて は, 複雑 な文 脈で展 開さ れる 実践 的な 問題解 決の 過程 であ り, 高次の 省察 と判 断と 選 択 を要 求さ れる 意思 決定の 過程 」と し, 授業 研究と は「 教師 の実 践的 研究と して 成立 する 対 象 」で ある とし て述 べる主 張は ,授 業研 究者 に全く 新た な授 業研 究の イメー ジを 与え るこ と と なっ た. 佐藤 の批 判は, 教師 や子 ども のお かれた 状況 や文 脈を 捨象 して, 研究 者が 授業 を 技 術や モデ ルの 適用 の一般 化へ と解 消し よう とする こと や, 授業 を外 から観 察さ れる 単な る 研 究対 象と する こと に向け られ てい た. 佐藤 の授業 研究 への 批判 は, 保健科 の授 業研 究に も 影 響を 及ぼ し始 め, 保健科 の「 学力 」を どう 考える べき なの かの 再定 義をも 含め ,授 業の 具 体 的な 展開 形式 まで 想定し た保 健科 の「 学力 」への 授業 論的 接近 研究 が岐路 に立 って しま っ た ので ある . し かし ,授 業に はあ まりに も個 別的 な要 素が 多い. 子ど もの 個性 ,教 師の個 性, 教師 の信 念 や授 業観 ,教 材観 ,多く の教 授理 論, 教材 研究, 時代 的な もの ,地 域的な もの があ り, お そ らく それ らど れ一 つとっ ても この 世に 二つ とない 存在 とし て授 業は 成立し てい る. これ を 何 とか 研究 の対 象に しよう とし て, 保健 科の 「学力 」へ の授 業論 的接 近研究 もお こな われ て き た. そこ では ,個 別的な もの は一 応カ ッコ に括り ,背 後に 追い やっ て,そ の中 に共 通し た 典 型的 な原 理・ 原則 を見つ け出 そう とす る努 力がお こな われ てき たの である .教 材研 の保 健 の 「授 業書 」方 式は ,まさ にそ の点 で画 期的 な成果 をも たら した ので あった .し かし ,授 業 の 核心 に迫 ろう とす るので あれ ば, 徹底 的に 「個別 的な もの 」を 突き 詰めて いく のも 一つ の 道 かも しれ ない .逆 に ,徹底 的に「 典型的 なも の 」にこ だわ るこ とも 一つ の道な ので ある 2 9

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13 さ て, 佐藤 のい う「 個別的 なも の」 と, 教材 研の「 典型 的な もの 」と の接点 の一 つに 「学 習 者の 素朴 概念 」へ の着目 があ る. ただ し, 保健科 教育 研究 にお ける 「学習 者の 素朴 概念 」 の 着目 は ,「学 力」への 授業 論的 接近 研究 では 重要な 視点 にな ると 考え るので ある が,本研 究 の 主題 では ない ので ,その 内容 は「 補章 2」 に取り 上げ るこ とに 留め ること とす る. 1 .2 .2 .3新 しい 「学 力( 能力 )」観 の登 場 2002 年,保健科教育研究でも和唐正勝が,「保健科教育は…(中略)…「共通教養」とし て の『健 康リ テラ シー(健 康に つい ての 識字 能力)』の 形成 を保証 する 役割 3 0」が ある と述 べ るよ うに なっ た.と ころ が,我が国 の保 健科 教育 研究 では ,「 健康 リテラ シー 」を議 論す る 際 に必 要な 「リ テラ シー」 とは 何か ,と いう 概念の 規定 がほ とん ど研 究され てい ない .そ の た め ,「 健康に つい ての識 字能 力」 以上 には ,議論 が進 んで いな い状 況であ る. と ころ が, 周り の研 究領域 を見 渡す と, たと えば, 教育 学で は「 リテ ラシー 」の 概念 規定 の 試み がな され てい る.佐 藤学 は ,「リ テラ シー」 を ,「3R’s (読み書き算)」の基礎技能 (basic skills)を意味する「文化的教養(cultural literacy)」,社会的自立に必要な基礎教 養 を意 味す る「 機能 的リテ ラシ ー」 と, 再解 釈・再 活用 ・再 構築 など を意味 する 「批 判的 リ テ ラシ ー」の三つ に分 類し てい る 3 1.また ,松下 佳代 は ,「リ テラ シー」を,OECD の DeSeCo

(Definition and Selection of Competencies)の三つのキー・コンピテンシーである,①道 具 (言 語, シン ボル ・テク スト ・知 識・ 情報 )を相 互作 用的 に用 いる 能力, ②異 質な 人々 か ら なる 集団 で相 互に かかわ りあ う能 力, ③自 律的に 行動 する 能力 から ,①の 一部 を測 定可 能 な よう に具 現化 した ものが PISA の「リテラシー」と述べている 3 2 い ずれ にし ても ,「 リテラ シー 」に は,識字 能力以 上の 意味 が含 意さ れてい ると 考え るの が 通 用の よう であ る. 現在, 保健 科教 育研 究の 分野で は, この 「健 康リ テラシ ー」 の概 念規 定 や 具体 的な 中身 の検 討がほ とん ど検 討さ れな いまま ,単 なる 識字 能力 の測定 とい う側 面か ら だ けの 調査 が進 行し ようと して いる ので ある . 本 研究 は, フィ ンラ ンドの 保健 科教 育と 大学 入学資 格試 験の 分析 の結 果から 評価 論的 接近

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14 序章 諸論 を 試み ,保 健科 の「 学力モ デル(試 案)」を 作成す るで ある が,この モデル の提 案は 保健 科の リ テラ シー とコ ンピ テンシ ーに 関す る「 枠組 み」に 関し ての 仮説 的 提 案とも なっ てい る. 1.2.3「学力」への評価論的接近と課題 保 健科 教育 研究 にお ける評 価論 的接 近は ,「この 面で の蓄 積が ほと んど ないと いう 貧弱 な状 況 3 3」 であ る.た だし ,評 価論 的接 近の 必要 性が, これ まで 主張 され てこな かっ たわ けで は ない .内 山源 は,「保 健科 の現 状か らみ れば ,これ ほど まで 低調 な保 健授業 現状 の中 で何 で 保 健科 教育 の評 価な ど必要 なの か, 今, 必要 なのは 『低 調な 保健 授業 』を盛 り立 てる こと で あ って ,授 業の 結果 の測定 ・評 価な どの 追求 ではな いと いう こと かも しれな い 3 4」 と ,当 時 の保 健科 の評 価論 に禁欲 的な 認識 状況 に言 及して いる .ま た, 近年 でも植 田誠 治が 「こ れ ま で保 健の 授業 では ,どち らか とい うと 目標 や教材 の検 討な どに 比べ ,評価 につ いて の検 討 が 十分 にな され てき たとは いい がた い. また ,学力 や能 力を 点数 化し たり序 列化 する こと の み が評 価と して 注目 された り, 保健 のテ スト が教科 書を 暗記 すれ ば解 けてし まう よう なも の に 限ら れて いた とい ったこ とも 否定 でき ない 3 5」 と ,保 健科 教育 研究 者の評 価論 への 関心 の 低さ と序 列化 と暗 記学力 への 偏り を指 摘し ている . こ のよ うに ,こ れま でも「 学力 」へ の評 価論 的接近 の意 義や 必要 性は 強調さ れて きた もの の ,藤 田和 也が 問題 提起し た「 保健 科に おけ る評価 の対 象と 方法 の確 立を第 一の 課題 とし な け れば なら ない .そ の際に ,学 力論 との かか わりで は計 測可 能性 とい う問題 にか かわ って , 保 健科 の目 標の 全て を評価 (厳 密に は評 定) の対象 とす るの か, 一部 に限定 する のか (あ る い は目 標を 計測 可能 な範囲 にと どめ るの か) という 問題 を問 わな けれ ばなら ない だろ う. そ の うえ で評 価方 法( 用具) の開 発を はか る必 要があ る. 二つ 目に は, 先にふ れた よう に「 到 達 目標 と到 達度 評価 」の実 験的 研究 がぜ ひ必 要であ る 3 6」 と いう, 評価 論的 接近 研究 の課 題 は放 置さ れた まま であっ た. と ころ が, 先行 研究 を検討 した とこ ろ, すで に半世 紀近 く前 に, 保健 科にお ける 「学 力」 概 念の 「考 える 力」 に,評 価論 的接 近を 試み た研究 者が いた .そ の研 究者の 名前 は小 倉学 で

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15 あ る. 小倉 の「 学力 」概念 に関 する 一連 の研 究は, 保健 科教 育の 目標 を考え る際 にア メリ カ の 研究 手法 を紹 介し ,その 手法 で日 本の 保健 教育目 標の 歴史 的変 遷を たどっ た結 果か ら発 生 し てい る.そ れは ,当時の 健康 問題 の急 激な 変遷( 公害)が目 標の 再検討を 迫っ てい ると し, 「『 適応 能力 』,『批 判的思 考力 』,ある いは 『前に 獲得 した 知識 を適 応した り, 子ど もに とっ て 新し い知 識を 獲得 する自 主的 思考 力』 さら に『将 来も 自ら 学習 する 能力と いう よう な高 次 の 知的 能力 』3 7」を,保健科 の目 標に すべ きと 提言し たこ とに 始ま る.こ の提 言を 実証 すべ く 試み られ たの が「 高次知 的能 力の 評価 の試み 3 8」 であ る. しか し, この研 究か ら半 世紀 近 く経 過し てい るに も関わ らず ,こ の研 究を 批判的 に検 討し て発 展さ せよう とし てい る研 究 は 皆無 なの であ る. 皆 無な のに はい くつ か理由 があ る. 例え ばそ れは, 採点 に時 間が かか る上に ,記 述式 の評 定 の客 観性 が低 いと 認識さ れて いる から であ る.植 田は 「1 )採 点が 主観的 にな りや すい こ と ,2 )何 をテ スト しよう とし てい るの か対 象が明 確で ない こと ,3 )出題 の範 囲が せま い こ と 3 9」 を ,記述 式の 短所 にあ げて いる .し かし, これ まで の筆 者 が 予備的 に検 討し てき た フィ ンラ ンド の保 健科の 出題 形式 は, この 「記述 式テ スト 」を 客観 性が強 く求 めら れる 大 学 入試 に導 入し てい る.こ のこ とは ,出 題形 式だけ では 客観 性の 高低 は判断 でき ない とい う こ とで あり ,記 述式 問題を 実施 する 条件 を検 討する こと を通 じて ,上 記の短 所は 解消 され る か ,あ るい は縮 小し てしま うこ とを 意味 して いる. これ に関 して は, 本論文 の第 6章 の「 フ ィ ンラ ンド 大学 入学 資格試 験の 採点 組織 と方 法」で 詳し く検 討す るこ とにし たい . 1.2.4本研究の独自性 こ の項 では ,こ の節 のまと めと して ,本 研究 の独自 性に つい て述 べる .これ まで 見て きた よ うに ,我 が国 の保 健科教 育研 究の 分野 では ,「考 える 力」の必 要性 の意義 や理 念は 語ら れて い るも のの ,そ れら をどの よう に測 定評 価す るため の具 体的 な方 法論 がほと んど 検討 され て こ なか った .先 行研 究を概 観し ても ,半 世紀 ほど前 に小 倉学 が先 駆的 な実験 とし て一 度「 考 え る力 」の 測定 評価 を試み ただ けで あり ,そ の後, 誰も この 方法 論を 伴った 研究 を試 みよ う

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16 序章 諸論 と した 者は いな い. ところ がフ ィン ラン ドの 保健科 では ,ハ イス テー クスな 選抜 試験 に 記 述 式 問題 をを 用い て,「 知識・理解 」,「関 心・意 欲・態 度」だ けに とど まらず,高次 知的 能力 で あ る「 考え る力 」を 計測し てい るの であ る. さ て, 本研 究の 独自 性を五 つ述 べる .一 つ目 は,こ れま で我 が国 では ,その 存在 さえ も 知 ら なか った フィ ンラ ンドの 保健 科教 育の 実態 を明ら かに する こと ,二 つ目は ,教 科と して 独 立 して いる フィ ンラ ンドの 保健 科誕 生の 経緯 を,そ の歴 史的 背景 を含 めて明 らか にす るこ と, 三 つ目 は, フィ ンラ ンドの 保健 科教 員養 成教 育を明 らか にす るこ と, 四つ目 は, フィ ンラ ン ド の大 学入 学資 格試 験にお ける 保健 科の 試験 問題と 「学 力」 の構 成要 素,及 び評 価体 制を 解 明 し, 五つ 目に ,保 健科の 「学 力」 を「 フィ ンラン ド型 項目 」と 「日 本型項 目」 のど ちら で 抽 出で きる のか を比 較した 結果 をも とに,保健 科の「学 力モデ ル( 試案 )」を 作成 する こと で あ る.

2 研究の目的,方法,用語等の整理

本 節で は, はじ めに 研究の 目的 を定 め, 研究 対象を 捉え るた めの 「学 力」を 操作 概念 化す る .次 に, 前述 の「 研究の 意義 」に 沿っ た各 章ごと の研 究の 方法 を述 べ,最 後に ,本 研究 に 登 場し てく る用 語等 を整理 する . 2.1 研究の目的 前 節ま での 問題 意識 と先行 研究 の分 析を 受け て,本 研究 の目 的は ,大 きく二 つあ る . 一 つ目 は, フィ ンラ ンドの 保健 科教 育と 大学 入学資 格試 験を 解明 し, その「 学力 」概 念の 中 核に は「 考え る力 」が位 置づ けら れて いる ことを 明ら かに する こと である .二 つ目 は, フ ィ ンラ ンド の大 学入 学資格 試験 にお ける 保健 科のテ スト 問題 で計 測 し ている 保健 科の「学 力」 の 構成 要素 から ,「 考える 力」 を計 測す る「 学力モ デル (試 案)」を 作成し ,日 本の 高校 生を 対 象に 実証 的に 検討 するこ とに ある .仮 に,「考え る力 」が 日本 の保 健科の「学 力」の中 核に

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17 も 位置 づけ られ るこ との示 唆が 得ら れれ ば,今 後我 が国 の保 健科 教育 研究の 分野 でも「 学力 」 論 争を 生じ させ る可 能性を 内包 し, 保健 科教 育研究 を活 性化 させ る契 機にな る と 考え たの で あ る. 次 に, 本研 究で 扱う ところ の, 保健 科の 「学 力」概 念の 中の 「考 える 力」の 対象 領域 を, 以 下の よう に操 作概 念化す る. そ れは ,「 学力」の 分類の 中の「 認知 的能 力」に限 定し,保健 科教 育研 究に おけ る「考 える 力 」では ,小 倉の「知 的能 力(intellectual abilities)」や森の「認識能力(cognitive ability)」 と いう 定義 の延 長線 上にあ り ,「現代 社会 の中 で直 面す る健 康課 題を 対象に ,保健 の科 学的 認 識 を根 拠に して 論理 的な結 論を 構成 する 能力 」とい うこ とに する .ま た,分 析の 素材 は, 記 述 や口 述, 作品 や実 技・演 技な ど多 様な 形式 が考え られ るが ,本 研究 では「 記述 」形 式に 限 定 して 使用 する .な お,① 「現 代社 会の 中で 直面す る健 康課 題」 とは ,フィ ンラ ンド の大 学 入 学資 格試 験に おけ る保健 科の テス ト問 題か ら翻案 した 素材( 問題 )であり ,「 到達 目標」の 「 対象 」と なる.また ,②「保 健の 科学的 認識 に根 拠に して 論理 的な 結論を 構成 する 」とは , ① の「対 象」ごと に到 達す べき「 能力 」で あり ,「 到 達目 標」とな る .最後 に ,③ 上記 ②の記 述 の達 成程 度を ,評 価基準 によ って 示し ,そ れに基 づい て評 価し たも のが「 到達 度評 価」 と な る. 2.2 研究の方法 第 1~ 6章 では ,筆 者が渡 航し たフ ィン ラン ドで直 接入 手し た報 告書 や研究 論文 など の資 料 とと もに ,現 地の 保健科 教育 研究 者, 行政 担当者 ,教 師ら への 形式 的半構 造化 イン タビ ュ ー での 記録 等を もと に構成 して いる . 第 7~ 9章 では ,第 7章は ,第 5章 で抽 出さ れた保 健科 の「 学力 」の 構成要 素を 参考 に, フ ィン ラン ドの 大学 入学資 格試 験に おけ る保 健科の 問題 から 翻案 し, 我が国 の学 習指 導要 領 に 則し た記 述式 問題 を作成 して いる .ま た第 8章は ,第 6章 の結 果と フィン ラン ドで 関係 者 へ 実施 した 形式 的半 構造化 イン タビ ュー 記録 を参考 に, 第7 章で 作成 した記 述式 問題 ごと に

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18 序章 諸論 採 点基 準を 作っ てい る.そ して ,第9 章は ,「 補章1 」の 第2節 ,第3 節の分 析結 果を もと に, 保 健科 の「 学力 モデ ル(試 案 )」 を作成 して いる. 終 章は ,第 1~ 9章 までを まと めて ,本 研究 の結論 を述 べて いる . な お, 補章 1は ,日 本テス ト学 会に 公表 した もので ある .倉 元直 樹( 東北大 学) が担 当し た 質問 紙調 査の 統計 的手法 によ る分 析は 第2 節と第 3節 に掲 載し た. 補章2 は, 本研 究テ ー マ で残 され た課 題で ある. 保健 科の 「学 力」 への授 業論 的接 近の 一つ の試み とし て「 学習 者 の 素朴 概念 」に つい て扱っ た. 付録 は, 我が 国にお ける 戦後 の保 健科 の教育 課程 上の 位置 づ け の変 遷( 概要 )を 付した . 2.3 用語等の整理 本 項で は, まず は, フィン ラン ドと 日本 にお ける「 保健 科」 と「 学力 」とい う用 語に つい て 整理 し, その 上で 本研究 が明 らか にし よう と して いる 保健 科の 「考 える力 」に つい て ま と め ,最 後に ,「 フィ ンラン ド型 項目 」と 「日 本型項 目」 の意 味に つい て述べ る. 2.3.1「保健科」という用語 フ ィン ラン ド語 で「 保健科 」と いう 教科 名は「terveystieto」である.「terveys」は「健康 や 元気 ,健 やか 」を 意味す る名 詞 ,「tieto」は「知識や情報」を意味する名詞である.フィ ン ラン ドの 保健 科は ,第 1~4 学年では「環境と自然」の教科の中で,第 5~6 学年では「生 物 と地 理」と「物 理と 化学 」の 教科の 中で 実施 され てい る.し かし ,中 等教 育(第 7~12 学 年 )以 上で は独 立し た教科 「terveystieto」として実施されている. 一 方,我が 国の教 科区 分で は ,「保 健科」とい う教 科名 は存 在せ ず,小 学校 では 体育 科の 保 健 領域 ,中 学で は保 健体育 科の 保健 分野 ,高 校では 保健 体育 科の 保健 科目と して 実施 され て い る. 現行 の教 科構 造のも とで は, 小学 校と 中・高 校の 教科 名は 不統 一であ り, 科目 名は す べ ての 校種 で異 なっ ている .

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19 2.3.2「学力」という用語 太 田堯 は ,「学 力と は何か .こ れは ひど く定 義する こと のむ ずか しい しろも ので ある .そ れ は おそ らく 文化(culture)ということばを定義するほどのむずかしさに匹敵する 4 0」い う. そ れは ,「 学力」が極 めて 多義 的で 曖昧 さを 含んだ 概念 であ り,時 代や 文化 ,社 会的背 景と の 相 互作 用の 影響 を強 く受け るも のだ から であ る.し かし ,本研 究で は ,「学 力」を一般 的な 側 面 と限 定的 な側 面の 2側面 から ,下 記の よう に定義 する . 一 般的 な側 面か ら「 学力」 とは ,教 科学 習を 中心と する 学校 教育 を通 じて獲 得さ れた 能力 で あり ,教 育目 標に 対応し た 概 念 で あ る . ブ ル ー ム,B.S は「学力」を3つの領域に分類し, 認 知的 領域 には ,知 識,理 解, 応用 ,分 析, 総合, 評価 が含 まれ ,情 緒的領 域に は, 受容 , 反 応, 価値 づけ ,価 値の組 織化 ,価 値に よる 性格化 を挙 げ, 神経 運動 的領域 には ,模 倣, 操 作 ,精 確, 分節 化, 自動化 を取 り上 げて いる .また ,我 が国 では ,橋 本重治 が分 類を 試み , 認 知的 目標 には ,知 識,理 解, 思考 ,創 造, 評価, 技能 的目 標に は技 能,作 品, 表現 ,情 緒 的 目標 には 関心 ,興 味,態 度, 鑑賞 ,習 慣を 取り上 げて 分類 して いる .この よう な教 育目 標 の 分類 は, 学力 を多 面的・ 分析 的に 捉え るの に役立 ち, 今日 の観 点別 評価の 基礎 とな って い る .現 在の 教育 現場で は,「 関心・意欲・態 度」「思 考・判断・表現 」「知識・理 解」及び「 技 能 」の 評価 の観 点が 広く用 いら れて いる 4 1 4 2 一 方で,限定 的な 側面 から は ,「学 力」を,上記の 認識 能力( 認知 的領 域・認知的 目標)だ け とす る考 え方 もあ る. い ずれ にし ても ,「学 力」の 内容,達成 の程 度は,教 育と 相関 的な もの であ り,社 会的,歴 史 的に 相対 的で あっ て,教 育の 目的 に照 らし て評価 され る. その ため ,社会 を支 配す る一 定 の 尺度 が ,「学 力」の 内容 とレ ベル を規 定す ること にな る.し かし ,その既 定の 仕方 は決 して 単 純で はな い. たと えば大 学は ,上 記で 述べ た社会 的価 値尺 度を 背景 にしな がら も, 自己 の 伝 統的 な教 育内 容水 準を学 習し 得る 能力 を必 要な「 学力」と考 え,そ れを 選抜 の基 準と する . し かし ,そ れを 測定 する方 法が 一定 の知 識量 と精確 さだ けを テス トす る場合 は, それ を「 学

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20 序章 諸論 力 」の 基準 とみ なす 傾向が 出て くる .一 方で ,実際 の現 代の 社会 生活 の中で 必要 な仕 事を 成 し 遂げ てい くた めの「学力 」は,たと え認 識能 力に 限定 して も,はる かに複 雑に なっ てい る. そ のた め,こ の矛 盾を 中心 とし て ,「学 力」と は 何 か,どうい う測 定方 法が より 包括 的で 客観 的 か, どう いう 教育 内容, 方法 及び 制度 によ ってこ れを どう 保証 する かなど の問 題が ,絶 え ず 提起 され る 4 3こ とに なっ てい るの であ る. 2.3.3保健科教育研究における「考える力」という用語 こ れま で保 健科 教育 研究で は, 直接 的に 「考 える力 」に 関し ての 定義 はされ てな い. しか し ,こ れに 近い 内容 の定義 は試 みら れて きて いる. たと えば ,森 昭三 は「科 学的 保健 認識 の 意 味内 容」とし て,「科学 的保 健認 識の 育成 という『認 識の 教育 』は ,体系 的な 知識 の教 育に つ きる もの では ない .認識 の獲 得の ため の具 体的な 方法 の教 育.. .. .. .. .. ... .. .. ., そし て,知 識と 方法 の教 育. .. ... .. .. .. . 全 体に わた って 達成 される べき 認識 能力 の発 達とい うこ とも ,認 識の 教育の 仕事 に入 る. .. .. .. .. ... .. .. .. .. ... .. .. .. .. ... .. .. ....4 4 ( 傍点 筆者 )」 と述 べる. また ,小 倉学 は, この「 認識 の方 法と 能力 の育成 」の こと を,「高 次 知的 能力 」( 合理 的判断 能力 ,批 判力 )と いう概 念で 呼び ,さ らに 「高次 知的 能力 」を , School Health Education Study(1967)から引用しながら,知的能力(intellectual abilities) と し ,理 解(comprehension),解釈(interpretation),適用(application),分析(analysis), 総 合(synthesis),評価(evaluation)と分類して紹介している.また,森昭三は,「このよ う に知 的能 力や 認識 能力は ,包 括的 にで はな く,さ らに いく つか のレ ベルに 分析 して 捉え る の が一 般的 である 4 5」 と述 べ, ソレ ンダ ー(Sollender, M.K.)がブルームの認識能力 (cognitive ability)の 6 段階を引用して保健科の認識面を評価する問題作成の 6 段階を定 義 して いる こと を紹 介して いる .そ こで は, 知識(knowledge),理解(comprehension), 応 用(application),分析(analysis),総合(synthesis),評価(evaluation)に分けられ る と紹 介し ている 4 6. 本研 究で いう とこ ろの ,保健 科に おけ る「 考え る力」 とは ,上 記の 「 知的 能力 」及 び「 認識能 力」 の分 類を 含み つつ, 包括 的な 「認 知的 能力」 全般 のこ とを 指 す こと にす る.

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21 2.3.4「フィンランド型項目」と「日本型項目」という用語 テ スト 問題 の質 問項 目に,「フ ィン ラン ド型」や「日 本型 」と いう形 式が 存在 する わけ では な い.それぞ れは ,項目の 由来 や起 源を 表す もので ある .すな わち 本研 究で は ,「フ ィン ラン ド 型項 目」 とは フィ ンラン ドの 大学 入学 資格 試験の 中か ら, わが 国の 学習指 導要 領に 含ま れ る 内容 を選 んで 翻案 した記 述式 問題 3問 を,「日本 型項 目」 とは 日本 学校保 健会(2004) によ っ て作 成さ れ実 施さ れた項 目か ら抽 出し た選 択式問 題 14 問を呼んでいる.結果的に形式が, 「 フィ ンラ ンド 型項 目」で は, 回答 構築 式の 中の筆 記式 の方 法の ひと つであ る記 述式 問題 と な り ,「 日本型 項目 」では ,真 偽式 問題 や多 肢選択 式問 題と なっ てい る.

3 論文の構成

本 論文 は, 序章 の諸 論のほ か, 第1 ~9 章ま での本 論, 終章 の結 論を 含め, 全1 1の 構成 と なっ てい る. 序章 を除く 本論 の各 章は ,こ の序章 で前 述 し た研 究課 題に対 応し てい る. な お ,第 4章 と第 5章 は,本 研究 の中 心的 テー マでは ない が, フィ ンラ ンドで は保 健科 教員 養 成 教育 でも 「考 える 力」は 大切 な事 項と して 扱われ てい るの で, 本論 に入れ るこ とに した . 補 章は 2部 構成 にな ってお り, この うち 「補 章1」 の第 2節 と第 3節 は,第 9章 で扱 う「 学 力 モデ ル( 試案 )」 作成の 根拠 とな って いる . 第 1 章 フ ィン ラ ン ド にお け る 保 健 科の 教 育 課 程 第 1章 は, 研究 の意 義1に 対応 して おり ,筆 者 が事 前に 実施 した 予備 的調査 ,及 び現 地で 入 手し た資 料や 実施 した形 式的 半構 造化 イン タビュ ー調 査を もと に, フィン ラン ドの 保健 科 教 育の 現状 を論 じる.第1 節で はフ ィン ラン ドの保 健科 の教 育課 程を 取り上 げる 目的 を述 べ , 第 2節 では 高校 にお ける保 健科 の教 育内 容と 学年配 当等 を紹 介す る. 第3節 では 保健 科担 当 教 師と その 養成 教育 の現状 ,第 4節 では 2000 年以降の急激な保健科の教育課程改革の動向 を 紹介 する . 第 2 章 フ ィン ラ ン ド にお け る 保 健 教育 の 歴 史

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22 序章 諸論 第 2章 は, 研究 の意 義2に 対応 して おり ,学 校健康 教育 の誕 生か ら保 健科が 教科 とし て独 立 する まで を歴 史を ,入手 した 資料 と現 地で 実施し た形 式的 半構 造化 インタ ビュ ー記 録を も と に論 じる .第 1節 ではフ ィン ラン ドの 保健 教育の 歴史 を明 らか にす る 目的 を述 べる .第 2 ~ 6節 では 学校 健康 教育の 成立 から 保健 科が 教科と して 不安 定だ った 時期, 第7 ~1 0節 で は 保健 科が 教科 とし て成立 する 直前 の出 来事 に焦点 を当 て, 保健 科が 誕生に 至る まで の経 緯 を 概観 する . 第 3 章 “Research-based”を特徴とする保健科の教員養成教育 第 3章 は, 研究 の意 義3の 前半 部分 に対 応し ており ,フ ィン ラン ドの ユヴァ スキ ュラ 大学 の 保健 科教 師養 成カ リキュ ラム を, 現地 で収 集した 資料 をも とに 論じ る.第 1節 では 保健 科 の 教員 養成 教育 に着 目する 理由 を述 べる .第 2節で はユ ヴァ スキ ュラ 大学の 保健 科教 員養 成 教 育の 概要 を, 第3 節では 保健 科教 師の ため の専門 科目 を紹 介す る. 第4節 では ,前 節ま で の 内容 を踏 まえ ,“Research-based”とな何かについて検討し,「保健科の教育実習」がその 中 核に 位置 づけ られ ている こと に言 及す る. 第 4 章 “Research-based”の中核をなす「保健科の教育実習」 第 4章 は,研究の 意義 3の 後半 部分 に対 応し ており ,「 保健 科の 教育 実習」につ いて,現地 で 入手 した 資料 と実 施した 形式 的半 構造 化イ ンタビ ュー 記録 をも とに 論じる .第 1節 では ユ ヴ ァス キュ ラ大 学の 「保健 科の 教育 実習 」を 調査対 象と する 目的 を述 べる. 第2 節で は「 保 健 科の 教育 実習 」の 主要構 成員 につ いて ,第 3節で は「 保健 科の 教育 実習」 の一 般目 標と 科 目 概要 につ いて 述べ る.第 4節 では「 保健 科の 教育 実習 」の構 造を 紹介 し,第5 節では 2013 年 10 月 24 日に参観した,教育実習における保健科の研究授業での指導案の構造と終了後の リ フレ クシ ョン の様 子を述 べる . 第 5 章 フ ィン ラ ン ド の大 学 入 学 資 格試 験 に お ける 保 健 科 の テス ト 問 題 第 5章 は, 研究 の意 義4の 前半 部分 に対 応し ており ,大 学入 学資 格試 験 の概 要と 実際 の保 健 科の 試験 問題 につ いて, 現地 で入 手し た資 料と実 施し た 形 式的 半構 造化イ ンタ ビュ ー記 録

表 1 . 2 高 校 にお け る保 健 科 の 目 標と 教 育 内 容
図 5 . 1 一 般 科目 教 科別 受 験 率 ( 2013 秋 )

参照

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