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第9章 保健科の「学力」概念における「考える力」の位置

9.3 保健科の「学力モデル(試案) 」

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第9章 保健科の「学力」概念における「考える力」の位置 ―「考える力」計測のための「学力モデル(試案)」―

日 常役 立っ てい る」と して ,特 に課外 活動 での 活用 を挙 げ,ま た ,「も っと 勉強 した かっ た分 野 」で ある と回 答して おり ,興 味深 い学 習内容 の一 つと 言わ れて きた と の 調査 があ る.倉 元 の指 摘は この よう な保健 の授 業の 実態 や先 行研究 を踏 まえ ずに 分析 されて おり ,こ の調 査 の 信頼 性を 高め てい る.

以 上, 倉元 の「 フィ ンラン ド型 項目 」分 析の 考察か ら, 保健 科の 「学 力モデ ル」 を検 討す る うえ で, 次の 二つ の可能 性が 導き 出さ れた .

① フ ィン ラン ドの 保健 科の能 力を 体現 して いる か否か は別 にし て, 保健 の能力 を捉 えう る 可能 性

② 日 本語 力に は還 元し きれな い保 健科 特有 の学 力特性 が存 在す る可 能性 以 上を ①② を, 前項 の①と ③と とも に, 次項 で検討 する .

9.2 .3

「日本型項目」と「フィンランド型項目」に関する考察のまとめ

倉 元の 考察 に関 する 検討結 果か ら ,「学 力モ デル 」に 関連 する 部分 をま とめる と,以下 のよ う にな る.

① 「 日本 型項 目」 では ,測定 しよ うと する 「学 力モデ ル」 不在 の可 能性 がある

② 「 フィ ンラ ンド 型項 目」で は, 日本 語力 では ない, 保健 科特 有の 「学 力」が 存在 する 可 能性 があ る

そ こで ,次 節で はフ ィンラ ンド の大 学入 学資 格試験 にお ける 保健 科の 問題か ら帰 納 的 に抽 出 した 学力 の構 成要 素(第 6章 第3 節の 六類 型)を 使っ て, 保健 科の 「学力 モデ ル」 の作 成 を 試み る.

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こ れま で述 べて きた ように ,フ ィン ラン ドの 大学入 学資 格試 験に おけ る保健 科の テス ト問 題 では ,「認知 的能 力」で ある 「考 える 力( 思考し ,判 断し ,表 現す る力)」 を測 定する こと が 中核 に位 置付 けら れてい る 7 8 9 1 0.本 節で は,記 述式 問題 で保 健科 の「考 える 力」を形 成 しよ うと する 際の 「学力 モデ ル」 を作 成す る.な お, 序章 で操 作概 念 化し た保 健科 の「 学 力 」概念 中の「 考え る力」の 対象 領域 をも う一度確 認す ると ,それ は,「学 力 」の 分類 の中 の

「 認知 的能 力」 に限 定し, 保健 科教 育研 究に おける 「考 える 力」 では ,小倉 の「 知的 能力

(intellectual abilities)」 や森 の「 認識 能力 (cognitive ability)」 と いう定 義の 延長 線上 に あ り ,「現代 社会 の中 で直 面す る健 康課 題を 対象と して ,保健 の科 学的認識 を根 拠に して 論理 的 な結 論を 構成 する 能力」 とい うこ とで あっ た.ま た, 分析 の素 材に は,記 述や 口述 ,作 品 や 実技・演技な ど多 様な形 式が 考え られ るが ,本研 究で は「記述 」形式 に限 定し て使 用す る,

と いう もの であ った .

以 上を もと に,「共 同体 」,「 対象 」,「主 体」 の三者 の関 係か ら作 成し た,「 考え る力 」の 計 測 のた めの 保健 科の 「学力 モデ ル( 試案 )」 が図9.1 である .

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第9章 保健科の「学力」概念における「考える力」の位置 ―「考える力」計測のための「学力モデル(試案)」―

こ のモ デル は ,先の 保健科 の「学 力 」の構 成要 素を ,「共 同体 」での「市民 性 」,「 主体 」で の「科 学的 な知 識」と「技 能的 な知 識」,及 び「情 報分 析力 」と「批 判的思 考」に分 類し ,そ れ らを 計測 する ため に「対 象( 媒介 手段 )」 でつな ぐ構 造と なっ てい る.「 共同 体」 の「 市民 性 」は ,「道具 」「分 業・共 生 」「 権利・ ルー ル」で 構成 され る.「主 体」の 「科 学的 な知 識」

と 「技 能的 な知 識」 は「習 得的 な学 力」 であ り「理 解・ 説明 ・記 述」 といっ た「 機能 的な 学 力」とし てあ らわ され,も う一 方の「 情報 分析 力」「批 判的 思考」は「活用 的な 学力」であ り

「 抽出 ,批 評, 再解 釈,再 活用 ,再 構築 」と いった 「創 造的 な学 力」 として あら わさ れる . 計 測の ため にこ の間 を橋渡 しす るの が「対 象( 媒介 手段 )」であ り,「健 康に 関す る真 正な『 問 い 』」と して の「文 章・説 明文・Web」「 写真・動 画 」「 図・表・グラフ」とい った 手段 で示 さ れ たも のに ,記 述形 式で回 答す るこ とに よっ て 測定 され ,「結果 」と して「 共同 体」に還 元さ れ ると いう もの であ る.

試 案作 成の 際に 参考 にした のが ,ヘ ルシ ンキ 大学の ユー リア ・エ ンゲ ストロ ーム の活 動理 論 にも とづ く学 習論 である .こ の学 習論 は, フィン ラン ドの 教育 実践 との相 互作 用の 中で 生 み 出さ れて おり ,フ ィンラ ンド の保 健科 教育 実践も この 理論 との 関係 の中に 存在 して いる と 考 えら れる から である 1 1.福田 も,「フィ ンラ ンド の教 育関 係者 は,学 習理 論を イギ リス や ア メリ カか ら学 んだ .さら に, 隣国 ロシ アの 発達心 理学 者ヴ ィゴ ツキ ーやレ オン チェ フの 学 習 理論 を『 内化 理論 』とし て退 けな がら ,ヘ ルシン キ大 学の 学習 理論 研究者 エン ゲス トロ ー ム の『 活動 シス テム 』論や 『拡 張し ゆく 学習 (expanding learning)』 論 を 受け 入れ てい る . あ る意 味で は, エン ゲスト ロー ムの 理論 がフ ィンラ ンド の教 育実 践を 土台に して でき あが っ た とい える かも しれ ない 1 2」 と述 べて いる.

彼 の理 論で は, 社会 におけ る人 間発 達の 分析 単位を ,抽 象化 され た個 人では なく ,共 同的 な 活動 シス テム だと 考えて いる .「考え る力 」は 閉じ られ た学 校文 化の 中でな く.共同 体と の 関 係の 中で 形成 され ていく こと によ って ,教 育内容 や教 材は 「生 きる 」ので ある .例 えば こ の 程,フィ ンラ ンド の小学 校の 保健 学習 を研 究する にあ たっ て,National Core Curriculum

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に おけ る小 学校 の教 科書( 保健 領域 )を 分析 したと ころ ,た とえ 低学 年であ って も, 常に 学 習 者, 教育 内容 ,共 同体と 3者 間の 関係 で学 ぶ構成 にな って いる 1 3こと が明 らか にな って い る. 一方 ,我 が国 におけ る教 科書 の内 容構 成は, 低学 年は 身の 回り ,学年 が進 むに つれ て 社 会へ と同 心円 状に 進んで ゆく 構造 にな って いる.フィン ラン ドで は,保 健科 の教 育内 容を , 文 化的 ・歴 史的 に発 達し続 ける 共同 体や ,そ れを成 立さ せて いる ルー ルや分 業シ ステ ムを 視 野 に入 れて 活動 して いる人 間( 共同 体で 伴に 環境を 維持 ・保 全す る人 間)に 対す るも のと 捉 え てい る.

今 回提 示し た「 学力 モデル(試 案 )」は,単 に学習 者の 評価 に関 する ものに とど まら ず,保 健 科の 目標 論や 内容 論,授 業論 にも 議論 が波 及する .た だし ,そ の 検 討は本 論文 のテ ーマ を 超 えて いる ので ,今 後,他 の構 成要 素か らな るテス トで の測 定評 価の 実施や 実験 的な 教育 実 践 によ って モデ ル自 体が検 討さ れ, さら には ,教育 内容 ,方 法及 び制 度でこ れを どう 保証 す る かと いっ た議 論を 通じて 検証 がな され る必 要があ る.

注 及 び 文 献

倉 元 直 樹 ・ 小 浜 明(2014)保 健 科 の 学 力 に 関 す る 調 査 研 究(2)-我 が 国 の 「 保 健 の 学 力 」 概 念 に 関 す る 実 証 的 検 討-.日 本 テ ス ト 学 会 抄 録 集,12:46-49.

倉 元 直 樹 ・ 小 浜 明(2015)保 健 科 の 学 力 に 関 す る 調 査 研 究(3)-フ ィ ン ラ ン ド 型 問 題 の 分 析.日 本 テ ス ト 学 会 抄 録 集,13:36-37.

高 校 の 「 保 健 学 習 の 計 画 的 な 実 施 」 を 調 査 し た 結 果 , 平 成16年97.6% , 平 成 22年98.9% で あ っ た . 保 健 学 習 授 業 推 進 委 員 会 平 成 25年 度 報 告 書(2013).中 学 の 保 健 学 習 を 着 実 に 推 進 す る た め に,p24.http://www.gakkohoken.jp/book/ebook/ebook_H250010/H250010.pdf,(accessed 2016 -06-6).

2015年11月 に 訪 問 し た ユ ヴ ァ ス キ ュ ラ 市 の ル セ オ ・ ハ ル ヤ(Lyseo Harja)高 校 で は ,National Core Curriculumで の TE1(必 修),TE2・TE3(選 択)の 三 単 位 の 配 当 を 超 え ,TE4,TE5,TE6(い ず れ も 選 択)の 三 単 位 が 追 加 さ れ ,合 計 六 単 位 の 保 健 の 授 業 が 実 施 さ れ て い た .カ リ キ ュ ラ ム の 自 由 度 が 高 い フ ィ ン ラ ン ド で は , 生 徒 の ニ ー ズ や 学 校 の 意 思 決 定 に よ っ て , 単 位 数 の 増 加 も 自 由 に 組 立 て る こ と が で き る た め で あ る . 担 当 教 師 へ の イ ン タ ビ ュ ー で は , こ の 背 景 に は , 大 学 入 学 資 格 試 験 へ の 対 応 と と も に , 実 生 活 に 役 立 つ 保 健 科 は 他 教 科 に 比 べ て ニ ー ズ が 高 い と い う こ と で あ っ た .

こ の 提 案 を 検 証 す べ く ,2016年11月 に フ ィ ン ラ ン ド の 高 校 生 を 対 象 に 調 査 を 実 施 す る 予 定 で あ る .

千 葉 眞 佐 春(1996)保 健 の 授 業 に 関 す る 意 識 調 査 に お け る 教 師 と 生 徒 の 期 待 値 分 析.福 島 大 学 研 究 紀 要,26:106-175.

小 浜 明(2014)フ ィ ン ラ ン ド の 大 学 入 学 資 格 試 験 に お け る 保 健 科 の 試 験.体 育 学 研 究,59(2),829-839.

小 浜 明(2013)「 セ ン タ ー 試 験 」 に 保 健 科 目 が あ る 国(1)‐ フ ィ ン ラ ン ド の 大 学 入 学 資 格 試 験.体 育 科 教 育,62(1):44-45.

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第9章 保健科の「学力」概念における「考える力」の位置 ―「考える力」計測のための「学力モデル(試案)」―

小 浜 明(2013)フ ィ ン ラ ン ド が 育 て よ う と し て い る 保 健 科 の 学 力-「 保 健 科 目 」が 大 学 入 学 資 格 試 験 に あ る 国.日 本 体 育 学 会 予 稿 集,64:339-334.

1 0 小 浜 明 ・ 高 橋 悠 ・ 石 垣 信 人(2012)フ ィ ン ラ ン ド に お け る 保 健 科 の 学 力 像-大 学 入 学 資 格 試 験 (Matriculation Examination)の 分 析 か ら.日 本 学 校 保 健 学 会 講 演 集,54:241.

1 1 エ ン ゲ ス ト ロ ー ム の 保 健 科 教 育 へ の 影 響 の 程 度 に 関 し て は , 今 後 フ ィ ン ラ ン ド の 保 健 科 教 育 研 究 を 推 進 し て い く な か で 検 討 さ れ る べ き 内 容 で あ る .

1 2 福 田 誠 治(2006)競 争 や め た ら 学 力 世 界 一-フ ィ ン ラ ン ド 教 育 の 成 功.朝 日 新 聞 出 版 社,p.123.

1 3 小 林 麻 衣 ・ 小 浜 明(2016)フ ィ ン ラ ン ド に お け る 小 学 校 の 保 健 学 習,仙 台 大 学 大 学 院 ス ポ ー ツ 科 学 研 究 科 修 士 論 文 集,17:17-25.

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終章 教科としての保健科に向けて―本研究のまとめに代えて―

本 研究 を終 える にあ たって この 章で は,初 めに ,第 1~ 9章 まで の研 究成果 を整 理し ,フィ ン ラン ドの 保健 科教 育全体 を貫 いて いる「考 える力 」が,日本 の保 健科 の「 学 力」の概 念の 中 核 にも 位置 づけ られ ること につ いて の結 論を 導き出 す.そ して,最後 に日本 の保 健教 育研 究へ の 示唆 と今 後の 課題 と展望 を述 べる .

1 研究の成果の要旨

近年 ,日 本で も「 学校教 育法 」「学習 指導 要領 」「 学習 評価 ・指 導要 録の改 善等 」の 中で ,

「 思考・判断・表現 」(考 える 力)の 指導・評価が 求め らる よう にな ってき てい る.し かし ,

「 考え る力 」を どの ように 計測 する かは につ いての 評価 論的 接近 に関 わる研 究は ,保 健科 教 育 研究 の分 野で はほ どんど 実施 され てこ なか った. なぜ なら ,「 考え る力」 の計 測に 現在 の と ころ 最適 とい われ ている 記述 式テ スト 問題 にはい くつ かの 課題 があ り,中 でも ,① 適切 な 難 易度 の設 問を 如何 に作る か( 到達 目標 と作 問), ②適 切な 評価 基準 を用い ての 採点 が可 能 な のか(到 達度 評価 と採点 方法 )と いう こと に対す る解 決方 法が 見つ からな かっ たか らで あ る .と ころ が, 本研 究が分 析対 象と して いる フィン ラン ドで は,2007年 の 大学 入試 のテ ス