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第9章 保健科の「学力」概念における「考える力」の位置

3 保健科の「学力」概念の中の「考える力」への評価論的接近

4.2 保健科教育研究の今後の課題及び展望

保 健科 では ,目 標や 教材の 検討 に比 べ評 価に ついて の検 討が 不十 分, という こと がよ く言 わ れる .確 かに そう である .そ うで ある のだ が, た だ, 目標 と指 導と 評価の 一体 化と いう 立 場 に立 つの であ るの なら,「 思 考・判断・表現 力 」の よう な「考 える 力 」を育 てる よう な授 業 実 践が され るこ とな しに, 学習 の結 果と して 「考え る力 」を 評価 する という のは おか しな 話 と なる .も し,「考 える力 」の 評価 を指 向す るのな らば ,「考え る力 」をど う評 価す るか とい う 話よ り前 に,考 えた くな る授 業,考 えざ るを 得な い教 材 を いか に創 り出す かと いう 課題 を,

本 研究 の結 果は 元に 戻って 再度 問う てい るの である .そ のよ うな 授業 実践が され てい る前 提 で こそ ,児童 生徒 の「考え る力 」を評 価す る意味が 出て くる .そし て,「考 える 力 」を 評価 す る 際に は, 評価 の技 術まで 見据 えた 上で の日 本の保 健科 の「 学力 モデ ル」の 構築 が必 要 と い う こと も, 本研 究で は問う てい るの であ る.

こ こ数 年, フィ ンラ ンドを 訪問 して ,高 校の いくつ かの 保健 の授 業を 参観す るこ とが でき た .ま た少 ない 参観 経験な ので 断定 的な こと は言え ない が, 子ど もた ちが「 考え る」 よう な 深 い(Deep)思 考へと導 く努 力を ,教 師た ちは指 向し てい るよ うに 見えた .授業 では ,学 習 す る意 味を 社会 的な 文脈で 問い ,学 習し てい る テー マが 共同 体の 課題 のどこ に位 置づ くの か を 確認 しな がら の保 健の授 業が 行わ れて いた .授業 にお ける 「考 える 力」を 目標 とし た指 導 と 「考 える 力」 を評 価する こと の正 当性 は, このよ うな 授業 実践 の事 実が存 在す るこ とか ら 生 み出 され てく る.

ま た, 考え たく なる 授業, 考え ざる を得 ない 教材の 特徴 を明 らか にす る必要 もあ る. その 道 筋は ,補 章2 で論じ た「 生活 的概 念」と「科 学的 概念 」の 複雑 な相互 作用 を生 じさ せる「発

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達 の最 近接 領域 」に 存在す る「 素朴 概念 」へ の着目 が, 認識 主義 的目 標観か らの 授業 論的 接 近 研究 の視 点の 一つ と考え られ る.な ぜな ら ,「素 朴概 念」の 研究 には,子 ども が考 えた くな る よう な「 問い 」の 真正性 が存 在す る か らで ある. その よう な「 問い 」によ って ,そ れま で 子 ども が自 明と 思っ ていた こと が揺 さぶ られ ,疑問 が芽 生え るこ とに よって 思考 が始 動さ れ る と考 える から であ る.「 考え る力」を育 てるとは ,授 業論的 に考 える と教 師が「問い を仕 掛 け る 」こ とによ って ,子ど もの 中に「問 い 」を育て るこ とを 意味 して いる.他 方,「考 える 力」

と いう 観点 から 物事 を捉え たと きに ,「 問い」は「答 え」のある もの だけ に限 った もの でも な い こと も考 えて おく 必要が ある .保 健科 教育 の領域 では ,出 生前 診断 ,臓器 移植 ,尊 厳死 , 自 然災 害と 対策 ,社会 保障 と負 担,労働 者の権 利と 雇用 ,環 境と エネル ギー 問題 など ,「 答え 」 が 一つ に定 まら ない 「開か れた 問い 」を 生む 可能性 を持 った 健康 課題 が多数 含ま れた 教科 内 容 であ る. 保健 科は 「考え る力 」を 育て るに は, ま さに 最適 な教 科な のであ る. 回答 には , 思 考を はた らか せ,推論を 導く ため の「 根拠 」や「 理 由づけ 」,さ らに は「裏 づけ 」や「 証拠 」,

ま たそ の根 拠の「 条件の限 定性 」や「反 証 」までを 要求 して いる .「発 達の 最近 接領 域 」の 研 究 課題 は, 教師 と子 ども相 互の 「メ タ認 知」「学習 方略 」「学習 観( 学習に 対す る信 念体 系)」

へ と, 研究 の関 心が 広がっ てい く.

最 後に ,こ のよ うな 授業を 構想 する には ,教 師の「 考え る力 」も 問わ れてく る. 子ど もの

「 考え る力」を育 てる ため の教 師の「 考え る力」の 養成 と条 件の 整備 の研究 の必 要性 であ る.

こ のこ とは ,保 健科 教師養 成教 育, 及び 採用 と研修 も含 め, 教師 教育 全体を 巻き 込む 大き な 検 討課 題と なり,本研 究の テー マを 超え てい るので ,ここ では 指摘 だけ にと どめ てお きたい.

保 健科 は, 体育 や音 楽,美 術な どの 表現 や技 能を重 視す る機 能特 性を 持った 教科 より も,

理 科や 社会 科な どの 実学や 生活 を重 視す る機 能特性 を持 った 教科 との 親和性 が高 いと 考え る . し かし ,現 実に は「 保健」 と「 体育 」は 一緒 になっ てい る. この 機能 特性が 全く 異な る教 科 が 一緒 にな って いる ことが ,保 健科の「学 力」構 造を 不明 瞭に して いる 最大の 原因 と考 える . 倉 元も ,「合科・科 目型 」「 総合 型」は「 結果的 に知 識依 存型 」に なる ,と いう .ま だ,仮

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終章 教科としての保健科に向けて―本研究のまとめに代えて―

説 の範 囲を 超え ない のでは ある が, 本研 究で 検討し た「 日本 型項 目」 の分析 で保 健科 の「 学 力 」が 抽出 でき なか った原 因の 一つ には ,体 育と保 健の 合科 教科 とい う形態 にそ の根 源が あ っ たの では ない かと 想像さ れる ので ある .ま た,こ の教 科の 機能 特性 の違う 教科 が合 科さ れ て いる こと が, 体育 科との 機能 特性 が同 質の 行動変 容の 学力 観を 保健 科にも 生じ させ てい る と も考 えら れる .行 動変容 の学 力観 は, 中・ 高の保 健科 担当 者で ある 保健「 体育 科」 教師 に 受 容さ れや すく ,行 動変容 を目 的と した 保健 の授業 実践 が実 施さ れる ことに もな る.

さ て,2016年 4月 , 日本 保健 科教 育学 会が 設立さ れた .そ の前 年 の 8月に は『 体育 科教 育 』紙 上で 「保 健科 教育学 の構 築を 目指 して 」が特 集さ れ, 筆者 はそ こでの 各研 究者 の提 言 か ら抽 出さ れる 「問 い」や 「課 題」 をま とめ ,日本 体育 学会 第 66回大 会( 国士 舘大 学) の 保 健専 門領 域終 了後 の自由 集会 で報 告し た. その主 張の 核心 は, 保健 科教育 学の 研究 領域 は

「 保健 の授 業を 中心 とする 保健 の授 業実 践の 改善を 目的 とす るも の」 であり ,そ うい う 「 保 健 科教 育を 研究 する 専門家 集団(学会 )」が保 健科 だけ に存 在し ない ので「 学会 が必要 」と い う もの であ った (配 布資料 の詳 細は 「付 記」).しか し, 今振 り返 って 各研究 者の 提言 を斟 酌 す ると ,保 健科 教育 が脆弱 な理 由は ,こ れま で教科 とし ての 保健 科の 成立に 正面 から 向き 合 っ てこ なか った こと が主因 では ない かと 思え てくる ので ある .新 たに 設立さ れた 日本 保健 科 教 育学 会は ,こ の状 態をそ のま まに して おく のでは なく ,目 の前 にあ る現実 に正 面か ら向 き 合 って ,教 科と して の保健 科を どう する かを 議論す る場 とな るべ きで ある. 教科 とし ての 保 健 科を 議論 する こと が,日 本保 健科 教育 学会 が成熟 して いく 過程 の一 部にな ると 考え るの で あ る.

注 及 び 文 献

2015年11月 の イ ン タ ビ ュ ー 記 録.

こ の 先 行 的 検 討 と し て , 韓 太 哲 ・ 李 師 瑤 ・ 倉 元 直 樹 ・ 小 浜 明(2016)保 健 認 識 に 関 す る 日 中 高 校 生 の 比 較 調 査(1).保 健 科 教 育 研 究,1:14-23.が 行 わ れ て い る .

小 浜 明(2015)フ ィ ン ラ ン ド に お け る 保 健 教 育 の 歴 史(2).体 育 科 教 育,63(1):51-53.

小 浜 明(2014)フ ィ ン ラ ン ド の 大 学 入 学 資 格 試 験 に お け る 保 健 科 の 試 験.体 育 学 研 究,59(2):829-839.

日 本 体 育 学 会 第64回 大 会 の 保 健 専 門 領 域 シ ン ポ ジ ュ ウ ム 「 保 健 担 当 教 員 の 養 成 と 課 題 」 で の 中 園 伸 二 氏(び わ こ 成 蹊 ス ポ ー ツ 大 学)か ら の 報 告 .

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倉 元 直 樹(2004)ペ ー パ ー テ ス ト に よ る 学 力 評 価 の 可 能 性 と 限 界:大 学 入 試 の 方 法 論 的 研 究,博 士 学 位 論 文.

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補章1 保健科の「学力」に関する調査研究

「 補章 1」 は, 共著 者全員 の許 可を 得て 掲載 してい る.

こ の章 では ,第 1節 では「 日芬 にお ける 教育 課程と 学力 像の 概要 の比 較」を ,第 2節 では

「『 日本 型項目 の分 析」を ,第 3節で は「フ ィンラ ンド 型項 目の 分析」を掲 載す る .い ずれ も,

特 に第 2節 と第 3節 は,「 日本 型項 目」と「 フィン ラン ド型 項目 」の 両群で ,ど ちら が測 定尺 度 を構 成す るの かを 実証的 に検 討し たも ので ある. この 分析 の考 察は ,第9 章で の「 学力 モ デ ル( 試案 )」の 作成 の根 拠と なっ たも ので ある.分析 は,専 門性 と客観性 を担 保す るた めに 倉 元直 樹( 東北 大学 )が担 当し た.

1 保健科の学力に関する調査研究(1)―日芬における教育課程と学力像の比較

――

本 論文 は, 日本 テス ト学会 第12回大 会( 帝京 大学 )発 表論 文抄 録集 に掲載 され たも ので あ る.

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補章1 保健科の「学力」に関する調査研究

保健科の学力に関する調査研究(1)

―― 日芬における教育課程と学力像の比較――

〇小浜明i(仙台大学),倉元直樹(東北大学)

はじめに:PISA で好成績のフィンランドでは,

Matriculation Examinationがあり,その試験科 目(選択)の一つに保健科の試験がある。保健科 目は,一般科目12 科目中,受験生が最も多い人 気の科目となっている(図1)。一方,わが国では 保健科は大学入試センター試験科目ではないが,

2005・10 年と日本学校保健会によって保健学習 内容定着調査が実施され,すぐれた問題作成の要 求が高まっている。本研究では,日芬における保 健科の教育課程,授業担当者,保健科目試験の運 営組織と採点体制,保健の問題比較から推測され る学力像,及び今回の調査計画の概要等について 報告する。

日芬における保健科の教育課程:日本の学習指導 要領(2008,2009)及びフィンランドのNational

Core Curriculum(2003,2004)年では,保健学習は,表1及び表2のように位置づけられている。

表2 Health education in the National Core Curriculum. FINLAND

Grades Upper secondary School Vocational School

10-12 HE is an independent subject 1 compulsory course (TE1) 2 optional courses (TE2 TE3) 36 lessons of each once a week

1 compulsory HE course (TE1) 36 lessons once a week

7-9 HE is an independent subject 3 courses 38 lessons of each All together 114 lessons 5-6 HE integrated into biology and geography and into physics and chemistry

1-4 HE integrated into environmental and natural studies

Kannas氏の説明及び資料(2013.3)より作成(Health education as a new compulsory school subject in Finnish schools)

授業担当者:両国とも小学校は学級担任,中学・高校は日本が保健体育教師,フィンランドは保健科教師。

しかし,フィンランドの保健科教師の養成は2002年にユヴァスキュラ大学を中心にして始まったばかり で,保健科の免許を取得している教師の数が圧倒的に少ない(2013年3月現在,必要な保健科教師全体 の約6~7%)。そのため,現実的には中学・高校では,体育科教師の多くが保健科も担当している(一部,

生物,物理,社会科等の他教科教諭が有料講習で保健科教師の資格を取得して担当)。

大学入学資格試験の運営組織:大学入学資格試験の作成や採点の責任を負うのが,160年近い歴史を持つ 大学入学資格試験評議会(Matriculation Examination Board)である。評議員は,教育省から3年間の任期

区分 位置づけ 指導の時間

第1学年

第1学年

・心身の機能の発達と心の 健康

1,2学年 第3学年 第4学年 第5学年 第6学年

なし ・毎日の生活 と健康

・育ちゆく体と わたし

・心の健康

・けがの防止 ・病気の予防

表1 日本の小学校,中学校,高等学校の保健学習の位置づけ

指導の学年と学習項目

小学校 体育科・保健 領域

第3・4学年「8単 位時間程度」,第 5・6学年「16単位 時間程度」

※表は小浜作成(2009年)

第2学年 第3学年

・現代社会と健康

・生涯を通じる健康

・社会生活と健康 高等学校 保健体育科・ 原則なし

保健科目

2単位(原則として 入学年次及びその 次の年次の2か 年)

中学校 保健体育科・

保健分野

3年間を通じて48 時間程度

第2学年 第3学年

・健康と環境

・傷害の防止 ・健康な生活と疾病の予防