第4章 不飽和砂質地盤の地震時沈下量推定手法の提案
4.3 提案手法の特徴と適用限界
4.3.1 提案手法の特徴
本論で提案する不飽和砂質地盤の地震時沈下量推定手法は,地震応答解析による時刻歴 データを用いることにより地震動の特性が反映される.例えば,大振幅パルスを有する地 震動(2007年新潟県中越沖地震におけるKK発電所の観測波)が作用する場合や,継続時 間の長い地震動(2011年東北地方太平洋沖地震,今後その発生が予想されている南海トラ フ地震,など)が作用する場合など,振幅の大きさだけでなく継続時間も反映された結果 を推定することが可能である.
ここでは,提案手法の特徴を具体的にみるために,以下に示す2種の検討を行う.
① KK 発電所観測波の特徴である大振幅パルスの周波数特性が推定沈下量に及ぼす 影響に関する検討
② マグニチュードと等価震源距離を変化させてランダムに作成した人工地震動 12 種類による推定沈下量の相違に関する検討
(1) 大振幅パルスの周波数特性が推定沈下量に及ぼす影響
2007年新潟県中越沖地震の際にKK発電所で観測された地震動(加速度時刻歴)は,大 きな振幅のパルス(キラーパルス)を有する特徴が認められたが,仮にこのパルスの周期が 異なっていたら推定沈下量はどのように変化するのかについて検討する.具体的には,KK 発電所 1号炉基礎マットで観測されたキラーパルスを有する地震動,そのキラーパルス部 分だけを短周期あるいは長周期に改変して応答解析を行い,沈下量を算定する.
KK発電所1号炉基礎マットでの観測地震動のキラーパルスがゼロクロスするのは13.51
~13.93秒である.これより周期は,0.42☓2=0.84秒である.これに対し,キラーパルスの ゼロクロスする間隔を0.5倍および2.0倍,すなわち周期0.42秒および周期 1.68秒とした 加速度時刻歴波を作成した.KK 発電所 1 号炉基礎マットでの観測地震動の加速度時刻歴 とキラーパルス部分の周期を改変した波を図 4-16に示す.
これら 3種類の波による地震応答解析から算出した最大加速度,最大せん断応力および 最大せん断ひずみの深度分布と,累積損傷度解析から算出した最大(残留)体積ひずみの深 度分布を図 4-17に示す.深度ごとの体積ひずみの総和が地表面沈下量である.それぞれの 地震動を入力した場合の地表面沈下量は次のとおりである.
・0.5pals波入力の場合:地表面沈下量約33cm
・1.0pals波入力の場合:地表面沈下量約50cm
・2.0pals波入力の場合:地表面沈下量約83cm
図 4-17より,キラーパルス部分の周期が大きい地震動を入力した場合ほど,地盤の応答 せん断応力および応答せん断ひずみが大きくなる傾向にある.提案手法の特徴として,せ ん断応力が増大すると体積ひずみも大きくなる傾向にあることが示された.
(a) KK発電所1号炉基礎マットでの観測地震動の加速度時刻歴,1.0pals波(Original)
(b) キラーパルス部分を0.5倍周期とした加速度時刻歴,0.5pals波
(c) キラーパルス部分を2.0倍周期とした加速度時刻歴,2.0pals波 図 4-16 KK発電所1号炉基礎マットでの観測地震動の加速度時刻歴(a)
とキラーパルス部分の周期を改変した波(b)(c) -600-400
-2002004006008000
0 5 10 15 20 25 30 35 40
加速度(Gal)
時 間 (sec)
-600-400 -2002004006008000
0 5 10 15 20 25 30 35 40
加速度(Gal)
時 間 (sec)
-600-400 -2002004006008000
0 5 10 15 20 25 30 35 40
加速度(Gal)
時 間 (sec)
←キラーパルス
図 4-17 キラーパルスの周期を変化させた3種類の地震動による 最大応答値と最大(残留)体積ひずみの深度分布
(2) 特性の異なる人工地震動による推定沈下量の相違 (a) 人工地震動の設定
人工地震動はさまざまな特性を有するようにマグニチュード(M)および等価震源距離 (Xeq)をばらつかせて作成した.具体的には,マグニチュード M=8.0,7.0,6.0の 3種類,
等価震源距離(Xeq)は設定したマグニチュードごとに極近距離,近距離,中距離,遠距離 に対応した4種類とし,表 4-4 に示す12の組合せとした.
表 4-4 設定した人工地震動のマグニチュードと等価震源距離
マグニチュードM 等価震源距離 Xeq (km)
極近距離 近距離 中距離 遠距離
8.0 25 50 100 200
7.0 12 25 50 100
6.0 6 12 25 50
表 4-4に示したマグニチュードと等価震源距離から求められる解放基盤における地震動 の擬似速度応答スペクトルを図 4-18に示す.人工地震動は,一様乱数を発生させて作成し たランダムな位相特性と,図 4-18に示す擬似速度応答スペクトルに適合する振幅を有する 時刻歴データとして作成した.距離減衰式はNoda et al (2002)6) に従った.作成した12の 人工地震動を図 4-19に示す.これらの図には加速度および速度の時刻歴,SI値(Spectrum
-20 -15 -10 -5 0 5
0 1 2 3 4 5
最大体積ひずみ(%)
0.5pals Origin 2.0pals -20
-15 -10 -5 0 5
0 5 10 15 20
最大せん断ひずみ(%)
0.5pals Origin 2.0pals
-20 -15 -10 -5 0 5
0 100 200 300 400 最大せん断応力(kN/m2)
0.5pals Origin 2.0pals
-20 -15 -10 -5 0
5 0 500 1000 1500 2000
標高T.P. (m)
最大加速度(Gal)
0.5pals Origin 2.0pals
Intensity)およびトリパタイトを示した.SI値は構造物などの主要周期が概ね0.1秒から2.5 秒の間にあるものと考え,この間のエネルギーの総量を表す速度応答スペクトル(Sv)と周 期の積分値であり,次式に基づいている.
SI .. (4.3)
設定した人工地震動の最大加速度,最大速度,SI値,継続時間および主要動継続時間を 表 4-5に示す.12種の人工地震動は,最大加速度が21~531cm/s2,最大速度が1.6~59.9cm/s, SI値が1.9~65.3cm/sの範囲でばらついている.なお,主要動継続時間は図 4-20に示すよ うに,Trifunac and Brady(1975) 7)により算出している.
図 4-18 設定した人工地震波の擬似速度応答スペクトル
図 4-19(1) 設定した人工地震動(極近距離)
図 4-19(2) 設定した人工地震動(近距離)
図 4-19(3) 設定した人工地震動(中距離)
図 4-19(4) 設定した人工地震動(遠距離)
図 4-20(1) 人工地震動の主要動継続時間(Trifunac and Brady(1975) 7) により算定)
図 4-20(2) 人工地震動の主要動継続時間(Trifunac and Brady(1975) 7) により算定)
表 4-5 設定した人工地震動の最大加速度,最大速度,SI値,
継続時間および主要動継続時間
地震動 No.
マグニチ ュードM
等価震源距離 Xeq (km)
最大加速度 (Gal)
最大速度
(kine) SI値 継続時間 (sec)
主要動 継続時間
(sec) 1
8.0
25 531.0 59.9 65.3 69.59 37.57
2 50 210.0 23.5 29.3 84.44 46.11
3 100 101.0 12.9 15.7 106.05 57.04
4 200 31.0 4.8 6.3 137.45 80.77
5
7.0
12 440.0 28.3 41.5 31.18 17.85
6 25 182.0 11.5 17.6 38.24 22.33
7 50 72.0 4.9 7.4 48.47 28.37
8 100 21.0 1.8 2.3 63.07 33.65
9
6.0
6 327.0 15.8 21.6 14.40 8.17
10 12 152.0 9.0 10.7 17.54 11.08
11 25 66.0 3.5 4.9 22.44 12.75
12 50 24.0 1.6 1.9 29.23 18.16
(b) 地震動ごとの沈下量の推定
12種の人工地震動による応答解析および沈下量推定を行った結果を表 4-6および図 4-21 に 示 す . 人 工 地 震 動 No.3(Acc_max=101.0Gal, 継 続 時 間 =106.05 秒 ) と 人 工 地 震 動 No.6(Acc_max=182.0Gal,継続時間=38.24秒)それぞれによる沈下量推定結果を比較すると,
No.6 地震動の方が入力最大加速度(PGA)および 地表最大応答加速度が 1.5~1.8 倍程度大 きいが,継続時間の長いNo.3地震動による推定沈下量はNo.6地震動による場合とほとん ど変わらない.このように,地震動の最大加速度(PGA)が大きいからといって単純に推定 沈下量が大きくなるとは限らないことがわかる.
図 4-21(4)に示したように,本提案手法による推定沈下量は,地震動の振幅の大きさと 継続時間の大きさの双方が加味されたSI値との相関が高い.
表 4-6 人工地震動ごとの地表面沈下量 地震動
No.
マグニチュ ードM
等価震源距離 Xeq (km)
地表最大応答 加速度 (Gal)
地表面沈下量 (cm) 1
8.0
25 1248.0 72.9
2 50 784.2 19.2
3 100 448.2 8.1
4 200 218.6 1.0
5
7.0
12 1016.5 28.7
6 25 719.5 8.6
7 50 348.9 2.4
8 100 158.5 0.2
9
6.0
6 815.5 10.1
10 12 565.4 3.7
11 25 321.5 0.7
12 50 187.1 0.1
図4-21(1) 人工地震動の最大加速度(PGA)と推定沈下量の関係
図4-21(2) 人工地震動の継続時間と推定沈下量の関係
図4-21(3) 人工地震動の主要動継続時間と推定沈下量の関係
図4-21(4) 人工地震動のSI値と推定沈下量の関係