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不飽和砂質地盤の地震時沈下特性に関する研究 利用統計を見る

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A method is presented for assessing the amount of settlements at the surface of the unsaturated backfill, by using the relationships between shear stresses, shear strains and volumetric strains, obtained from stress-controlled torsional cyclic shear tests under drained conditions. The method is based on the cumulative damage theory in which shear stress time histories based on one-dimensional dynamic analyses of the ground are took into consideration. Backfill settlements due to the Niigata-ken Chuetsu-oki Earthquake in Japan (2007) are calculated by using the proposed method. The calculated amounts of the settlements were estimated to have good agreement with the observed data.

VOLUMETRIC COMPRESSION CHARACTERISTICS OF

UNSATURATED SANDY SOILS UNDER CYCLIC SHEAR

FOR ESTIMATION OF SETTLEMENT

不飽和砂質地盤の地震時沈下特性

に関する研究

爪 貴 史

2016 年9月

山梨大学大学院

医学工学総合教育部

博士課程学位論文

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Volumetric Compression Characteristics of Unsaturated Sandy Soils Under Cyclic Shear for Estimation of Settlement

KITAZUME, Takashi 2016

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近年頻発する巨大地震により不飽和地盤の沈下による被害が顕在化してきている.従来 あまり顧みられてこなかった不飽和地盤の地震時沈下現象のメカニズムを解明すること, そしてその推定手法を提案し実務設計に適用することを目的として本研究を実施した.主 な検討項目は次の3 点である. ① 不飽和砂質地盤が地震時に生じる沈下の主要因である繰返しせん断による体積収 縮量の定量化とメカニズムの考察 ② 沈下量推定手法の提案とその適用性の確認 ③ 沈下量推定手法の性能設計への応用事例の提示 上記の検討に先立ち,既往の研究を概観した.地震時の地盤沈下については従来,液状 化を起因とした場合が注目されてきたことから,既往研究の大部分は地下水位以下の飽和 地盤を対象としている.一方,本研究のテーマである不飽和地盤の地震時沈下という現象 については,これまであまり注目されてきていない. 飽和地盤の地震時挙動(動的挙動)に関する既往研究では,液状化現象を対象としてきた ことから,繰返しせん断試験を行う場合の試験条件は非排水条件で行われてきた.不飽和 地盤を対象とした場合においても,既往研究では非排水条件下での繰返しせん断試験が行 われている.その理由としては,不飽和地盤に対しても地震時の液状化が懸念されてきた こと,また,液状化に対する抵抗を上昇させるための方策としての地盤の不飽和化を目的 とする研究が主に行われていることによる. こうした既往研究に対し,本研究では,液状化に起因しない不飽和地盤の沈下現象を対 象としている.したがって,繰返しせん断試験を実施する際は,地盤中の間隙水が移動す るものと仮定した排水条件のもとで行っている. ①飽和砂質地盤の繰返しせん断による体積収縮量の定量化と地震時沈下メカニズムの考察 不飽和砂質地盤の地震時沈下特性あるいは体積収縮特性について,中空円筒供試体を用 いた室内の繰返しせん断試験と土槽内の試料を振動台上で加振した実験を実施し,それら の結果・データから,不飽和砂質地盤が地震時に生じる沈下の主要因である繰返しせん断 による体積収縮量の定量化とメカニズムに関する考察を行った.得られた主な知見を以下 に示す.  不飽和砂質土試料に対する中空ねじり排水繰返しせん断試験結果より,繰返し回数が 増加するに従ってせん断剛性が大きくなり,せん断ひずみの発生量は徐々に小さくな ること,体積ひずみはせん断ひずみの変化に対応して載荷初期に急増し,繰返し回数 が大きくなってからは単調増加すること,といった不飽和砂質土の繰返しせん断過程 における体積収縮特性を定量的に把握した.

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性硬化(密実化)を生じて体積収縮する,という相違が明確になった.  振動台実験における加速度と加振後の沈下量,飽和度および破壊形態の関係を考察し た結果からは,不飽和地盤の破壊形態を分岐させる飽和度の閾値が存在すること,不 飽和地盤は空気をトラップした状態で液状化に至ること,不飽和地盤の平均的な初期 飽和度と初期乾燥密度を事前に把握しておくことで,地震後の破壊形態がおおよそ判 断可能であること,などが判明した. ②沈下量推定手法の提案とその適用性の確認 不飽和砂質土試料に対する中空ねじり排水繰返しせん断試験で得られた体積収縮特性と 地震応答解析および累積損傷度解析を用いて不飽和地盤の地震時沈下量を推定する手法を 提案した.提案手法を用いて得られた地盤沈下量の推定結果が,実際の地震で生じた実測 沈下量と整合すること,さらに,観測地震動波形を模擬した不規則せん断荷重を直接供試 体に入力した中空ねじり排水試験で試料に生じた体積ひずみともほぼ一致することを示し, 提案手法の妥当性を確認した. 12 種類の異なる特性を有する人工地震動を入力して算出した推定沈下量などを分析し た結果から,提案する推定手法は,最大加速度のような地震動の諸量を示す点の情報だけ でなく,継続時間や加速度振幅の時間変動といった時間軸上の情報を加味した推定が行え ること,推定沈下量と相関の高い地震動指標はSI 値であること,などがわかった. また,本提案手法の適用限界を明示した.構造物が近接する地点の沈下量については本 提案手法では評価できない.構造物際で生じる主働すべり破壊も加味した地盤の沈下量評 価を行うためには,構造物と地盤との地震時相互作用を考慮した推定手法が必要である. ③沈下量推定手法の性能設計への応用事例の提示 提案した不飽和砂質地盤の地震時沈下量推定手法が設計に用いられることを鑑み,地盤 の物理特性のばらつき(偶然的不確実さ)を加味した信頼性解析を実施し,任意に規定した 限界状態ごとのフラジリティ曲線を算定した.沈下量推定に重要な地震応答解析手法の相 違によるモデル化誤差(認識論的不確実さ)をも含めたフラジリティ曲線を算定し,地震動 の大きさに応じて生じる不飽和砂質地盤の地震時沈下量の確率論的な評価事例を示すとと もに,地震外力の規模に応じた沈下量の推定精度について考察した. これらのフラジリティ曲線からは,地震力が大きくなるほど沈下量推定結果のばらつき が大きくなることが明らかとなった.これは,各種構造物の検討・評価・照査などにおい ては,地震力が大きくなるほど安全率や変位・変形量などの各種指標の推定精度が低下す ることを示唆している.このように,フラジリティ曲線による確率論的な地震時沈下量評 価手法は,施設や地盤構造物などの性能を定量的に明示するとともに,その推定結果に関 する精度を示すことが可能である.本研究で示した地盤性能の確率論的評価方法は,施設 管理や安全設計,安全規制などの広い分野における意思決定を支援するツールとして活用 できるものと考えられる. 以 上

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要 旨 第1章 序論 1.1 研究の背景と目的 ··· 1 1.1.1 研究の背景 ··· 1 1.1.2 研究の目的 ··· 4 1.2 本論文の構成 ··· 5 第1章の参考文献 ··· 7 第2章 既往の研究と本研究の位置づけ 2.1 概要 ··· 9 2.2 液状化に起因する沈下 ··· 11 2.2.1 液状化被害,液状化試験法および液状化解析の歴史 ··· 11 2.2.2 既往研究における液状化起因の地盤沈下評価手法の概要 ··· 13 2.2.3 体積収縮に影響する要因について ··· 21 2.2.4 まとめ ··· 25 2.3 不飽和地盤の地震時沈下の事例 ··· 26 2.3.1 2007 年新潟県中越沖地震による柏崎刈羽原子力発電所の地盤沈下 ··· 26 2.3.2 2011 年東北地方太平洋沖地震による宅地造成地の地盤沈下 ··· 30 2.4 不飽和地盤の地震時沈下量評価手法 ··· 34 2.4.1 不飽和地盤の動力学特性に関する既往の研究 ··· 34 2.4.2 鉄道盛土の地震時沈下量算定方法 ··· 40 2.4.3 2008 年岩手・宮城内陸地震によるフィルダムの沈下予測計算例 ··· 41 2.5 既往研究のまとめと本研究の位置づけ ··· 44 第2章の参考文献 ··· 46 第3章 不飽和砂質地盤の地震時沈下メカニズム 3.1 概要 ··· 49 3.2 室内試験による検討 ··· 50 3.2.1 不飽和砂質地盤の繰返しせん断試験による体積収縮特性 ··· 50 3.2.2 異なる地点における不飽和砂質地盤の体積ひずみの比較 ··· 63 3.2.3 繰返しせん断時の不飽和砂質土の体積ひずみにおける含水比の影響 ··· 72 3.2.4 繰返しせん断時の不飽和砂質土の体積ひずみにおける周波数の影響 ··· 76 3.2.5 不飽和砂質土のせん断剛性および減衰定数のせん断ひずみ依存特性 ··· 80

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3.3.1 実験方法および実験試料 ··· 85 3.3.2 実験結果 ··· 87 3.3.3 飽和度に着目した不飽和地盤の破壊形態に関する考察 ··· 93 3.3.4 まとめ ··· 94 3.4 まとめ ··· 95 第3章の参考文献 ··· 97 第4章 不飽和砂質地盤の地震時沈下量推定手法の提案 4.1 概要 ··· 99 4.2 不飽和砂質地盤の地震時沈下量推定手法の提案 ··· 101 4.2.1 等体積ひずみ曲線の設定 ··· 101 4.2.2 沈下量の推定 ··· 105 4.2.3 沈下量推定手法の適用性確認 ··· 110 4.2.4 まとめ ··· 114 4.3 提案手法の特徴と適用限界 ··· 115 4.3.1 提案手法の特徴 ··· 115 4.3.2 提案手法の適用限界 ··· 128 4.4 まとめ ··· 131 第4章の参考文献 ··· 132 第5章 性能設計への応用 5.1 概要 ··· 133 5.2 地震応答解析手法の相違が地震時地盤沈下量推定に及ぼす影響 ··· 135 5.2.1 沈下量推定に用いる地震応答解析手法 ··· 135 5.2.2 地震応答解析結果の比較 ··· 138 5.2.3 沈下量推定におけるモデル化誤差の検討 ··· 140 5.2.4 「鉄道標準」に基づいた沈下量推定結果 ··· 141 5.3 地盤の物理特性のばらつきが地震時地盤沈下量推定に及ぼす影響 ··· 143 5.3.1 乾燥密度および含水比と体積収縮特性の関係 ··· 143 5.3.2 物性値のばらつきを考慮した沈下量の評価 ··· 148 5.3.3 コンポジット・フラジリティ曲線 ··· 152 5.4 累加せん断ひずみによる地震時地盤沈下量推定 ··· 154 5.4.1 累加せん断ひずみと体積ひずみの関係 ··· 154 5.4.2 累加せん断ひずみと体積ひずみの関係を用いた沈下量推定結果 ··· 158 5.5 まとめ ··· 161 第5章の参考文献 ··· 162

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6.2 課題と今後の展望 ··· 167 あとがき ··· 169 謝 辞 ··· 173 関係文献(自著,共著)一覧

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第1章 序論

1.1 研究の背景と目的

1.1.1 研究の背景 2007年7月16日の新潟県中越沖地震により東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所の広い範 囲の埋戻し地盤で数10cm~1m以上に及ぶ沈下が生じた.特に原子炉建屋,タービン建屋, 熱交換器建屋などの周辺では1mを超える大きな沈下が生じ,建屋と周辺機器基礎との不等 沈下が機器の損傷の原因となった(図1-1,図1-2).また,海側や山側の地下水位の高い地 点では液状化によるものと推測される噴砂が認められ,これにともなう沈下や海側への側 方変位等の地盤変状が見られた1), 2), 3) 原子力発電所の被災直後から東京電力(株)は様々な対応を図ることになった.その中の 一つとして,発電所構内の様々な地盤変状の原因解明や発電所復旧に向けた対策計画を立 案するため,東京電力(株)とその関連コンサルティング会社であり筆者が所属する東電設 計(株)の土木技術者たちを主な構成メンバーとするプロジェクトチームが発足された.筆 者は,各種の地盤調査・試験計画の立案,現地での地盤調査監理,膨大な地盤調査・試験 データの取りまとめ,各種解析・評価およびそれらの報告などに携わることとなった. 図1-1 2007年新潟県中越沖地震による柏崎刈羽原子力発電所の埋戻し地盤の沈下の様子 (右:1号機軽油タンク近傍地盤の沈下,左:2号機原子炉建屋近傍地盤の沈下) (Sakai et al (2009)1) 柏崎刈羽原子力発電所の埋戻し地盤は大部分が砂質土であったことから,噴砂がともな う箇所や護岸付近の地下水位の高い地点での沈下は液状化を要因とするものと推察された.

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こうした液状化を要因とする沈下はよく知られている例えば4), 5).一方,重要建屋周辺や建屋 から離れた地点における地下水位の低い箇所での地盤沈下については,発電所の重要建屋 の周辺には建屋に作用する揚圧力(浮力)を軽減するためにサブドレン(重要建屋の下に設 置した井戸.地下水をポンプアップして排出する)を設置して地下水位を低下させている こと,護岸側を除くほとんどの地点で噴砂などが認められなかったことから,地下水位以 浅の不飽和埋戻し地盤に生じた沈下が主体的であると考えられた. 図1-2 2007年新潟県中越沖地震による柏崎刈羽原子力発電所3号機所内変圧器の 火災原因(埋戻し地盤の不等沈下)に関する概念図(Sakai et al (2009)1)

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柏崎刈羽原子力発電所における埋戻し土の大部分は不飽和状態であり,また,埋戻し工 事においては締め固め度90~95%の管理基準のもとで充分な転圧が行われていたにもかか わらず埋戻し土層厚の数%に及ぶ沈下が生じたことになるが,こうした事例は従来あまり 報告されておらず,そのメカニズムも十分に解明されていない. 不飽和砂質地盤のうち,建屋や構造物等には接しておらず,これらとの地震時相互作用 の影響が小さい地点における沈下の主要因は,繰返しせん断を受けて生じたダイレイタン シーにともなう体積収縮が考えられた.また,建屋等に接する地点では,剛構造物である 建屋と比較的軟質な地盤の地震時せん断応答の差により,建屋に接する地盤が建屋から離 れ,その際に主働楔が形成され,一種のすべり破壊が生じることが1G場振動台実験および 遠心場模型振動実験等により判明した6), 7).建屋際の大きな沈下は,こうしたすべり破壊に よるものとせん断変形時の負のダイレイタンシー,すなわち体積収縮によるものとが合算 された結果であると推察された(図1-3). 上述のように,柏崎刈羽原子力発電所の埋戻し地盤に生じた地震時沈下メカニズムとし て3タイプの要因が推察されたが,このうち不飽和地盤の地震時沈下メカニズムの解明に資 する情報や知見はあまり存在しない. 図 1-3 柏崎刈羽原子力発電所の埋戻し地盤 沈下要因の推定(概念図) 地震による地盤沈下の主な要因として3 タイプが推定された.①地下水位以深の飽和地盤 が液状化し,その後の過剰間隙水圧の消散にともなう沈下が生じた.②地下水位以浅の不 飽和地盤ではせん断変形時の負のダイレイタンシーによる体積収縮が生じたと推察され た.③建屋直近地盤では建屋と地盤の地震時挙動の違いにより壁際に隙間が生じてそこに 地盤がすべり破壊を生じた.建屋壁際では②+③による沈下,一般部(1)では②による沈下, 一般部(2)では①+②による沈下が生じた. 建屋 壁際 ②不飽和地盤:せん断変形時の負のダイレイタンシーによる沈下 建屋 ① 飽和地盤:液状化後の過剰間隙水 圧消散に伴う沈下 一般部(1) 不飽和地盤 一般部(2) 不飽和地盤+飽和地盤 ③建屋直近地盤:地盤のすべり破壊による沈下

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1.1.2 研究の目的 本研究の第一の目的は,地震によって繰返しせん断を受けた際の不飽和砂質地盤が排気 排水条件下にあるとの仮定のもと,室内の土質試験や振動台実験,そして沈下量推定手法 の提案とその算定例をとおして,実際の地震で生じた不飽和地盤の沈下現象の説明を試み, そのメカニズムに関する考察を行うものである. 従来,地震を被った際の地盤沈下は,液状化を起因とした場合に注目されていたことか ら,設計や評価においては地下水で飽和した状態を仮定して行われることが多かった.一 般に,不飽和地盤の地震時沈下自体が認識されていなかったか,認識されていても非常に 小さいものであるとし,各種施設や構造物に支障や問題が生じるとは考えられていなかっ たのではないだろうか.評価対象地盤に地下水位以浅の不飽和状態の領域が認められた場 合でも,全領域を飽和状態とみなすことにより安全側の(保守的な)評価を行っていること になる,と考えられているのではないだろうか.しかし,こうした安全側の(保守的な)仮 定は,場合によっては設計・評価における死角を生じさせる.評価対象地盤内に地下水位が 認められない場合,全領域にわたって不飽和状態にあると認識し,沈下量予測を行わなく ても良いと考えることが生じかねない. 本研究では,飽和砂質地盤が地震を受けて液状化を起因とした沈下を生じる場合と,不 飽和砂質地盤が地震時に繰返しせん断を受けて沈下する場合とでは,その変形の過程やメ カニズムが異なることを示すとともに,繰返しせん断を受けた際の沈下量(体積収縮量)を 定量化することにより,不飽和砂質地盤の地震時沈下に対する問題意識の醸成に役立てた いと考えている. 本研究の第二の目的は,不飽和砂質地盤の地震時沈下量推定手法の提案とその適用性の 確認を行った上で,提案推定手法を用いたいくつかの算定事例をとおして,実務設計や地 盤の性能評価を行う際の一資料として役立つことである. 飽和地盤に対しては,現状,いくつかの設計基準や指針類において液状化後の地盤沈下 量推定手法が示されている.しかし,不飽和地盤を特定した地震時沈下量の推定手法が示 された設計基準や指針類は見当たらない.地震時における飽和地盤の沈下量と不飽和地盤 の沈下量とを分離して評価することが可能となれば,より合理的な沈下対策の立案,施設 の管理や安全規制などの意志決定に資することができる. 本研究において提案する不飽和地盤の地震時沈下量推定手法が,地盤性能を評価する際 の一つのツールとして用いられることを期待したい.

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1.2 本論文の構成

本論文で検討した主な項目は,不飽和砂質地盤が地震時に生じる沈下の主要因である繰 返しせん断による体積収縮量の定量化とメカニズムの考察(第3章),沈下量推定手法の提 案とその適用性の確認(第4章),沈下量推定手法の性能設計への応用事例の提示(第5章), という 3 点である. このような検討に先立ち,第2章で既往の研究を概観する. 地震時の地盤沈下については従来,液状化を起因とした場合が注目されてきたことから, 既往研究の大部分は地下水位以下の飽和地盤を対象としている.一方,本研究のテーマで ある不飽和地盤の地震時沈下という現象については,これまであまり注目されてこなかっ たため,ほとんど研究対象とされてきていない.不飽和地盤の地震時沈下メカニズムを議 論する際に,飽和地盤の液状化起因の地盤沈下に関する知見は大いに参考となることから, これらに関する既往研究について概観する. 不飽和地盤の地震時沈下という現象が最も大きく社会的に顕在化したのは,2007 年新潟 県中越沖地震の際に原子力発電所内の不飽和埋戻し地盤が沈下して機器や配管系の損傷が 生じ,原子力発電所の安全機能に対する信頼性を損ねたことによるものであろう.震災後 に実施された土木学会,地盤工学会,日本地震工学会,日本建築学会および日本地震学会 の 5 学会による共同調査の報告会8) において,埋戻し地盤の「揺すり込み沈下」と称され て問題提起された.その後,いくつかの巨大地震による各種地盤構造物の被害においても 不飽和地盤の沈下が報告されている.これらの不飽和地盤の地震時沈下事例の紹介ととも に,一部の既往研究で行われている不飽和地盤の動力学的挙動に関する知見や,現状の設 計基準・指針類に採用されている地盤沈下評価方法について採り上げ,議論する. 第2章の最終節では,既往研究に対する本研究の位置づけについて述べ,本論文におけ る主な検討項目(第3章,第4章,第5章)との関係性を示している. 第3章では,不飽和砂質地盤の地震時沈下特性あるいは体積収縮特性について,中空円 筒供試体を用いた繰返しせん断試験結果と土槽内の試料を振動台上で加振した実験結果か ら考察する. はじめに 2007 年新潟県中越沖地震で東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所内の不飽和埋 戻し地盤に生じた沈下と埋戻し土の基本特性について述べる.その後,柏崎刈羽原子力発 電所で採取した不飽和砂質土試料に対して行った中空ねじり排水繰返しせん断試験から得 られた体積収縮特性について定量的に評価する.また,異なる地点の不飽和土試料や,同 一地点でも含水比や密度などの状態が異なる試料を用いた体積ひずみも計測し,これらを 相互比較することにより,不飽和地盤の地震時沈下特性に関する一般論への展開を試みる. 次に,次章で提案する不飽和砂質地盤の地震時沈下量推定手法において必要となる地震 応答解析の入力パラメータである地盤の動的変形特性(せん断剛性および減衰定数のせん 断ひずみ依存特性)について,不飽和状態(含水比)を数種類変化させた室内試験を実施し, 不飽和砂のせん断ひずみ依存特性およびダイレイタンシー発生後の体積ひずみ関係を把握 し,不飽和地盤の地震応答解析パラメータとしての適用性について議論する.

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第3章では,不飽和模型地盤の 1G 場振動台実験を実施した結果から,地震時に生じる 沈下や破壊形態に関する分析も行っている.室内試験結果から得られたデータと併せて考 察することにより,不飽和地盤が地震時に生じる沈下および破壊のメカニズムに関する一 般論への展開が可能な材料を提示している. 第4章では,第3章で得られた体積収縮特性と地震応答解析および累積損傷度解析を用 いて不飽和地盤の地震時沈下量を推定する手法を提案する.提案手法を用いて得られた地 盤沈下量の推定結果が,柏崎刈羽原子力発電所で計測された実測沈下量と整合すること, さらに,観測地震動波形を模擬した不規則せん断荷重を直接供試体に入力した中空ねじり 排水試験で試料に生じた体積ひずみともほぼ一致することを示し,提案手法の妥当性を確 認する. また,提案する不飽和砂質地盤の地震時沈下量推定手法の特徴について,12 種類の人工 地震動による沈下量算定結果などから述べる.提案する推定手法は,最大加速度のような 地震動の諸量を示す点の情報だけでなく,継続時間や加速度振幅の時間変動といった時間 軸上の情報を加味した推定が行える利点を示す.推定沈下量と相関の高い地震動指標に関 する分析も行っている. 最後に,提案する沈下量推定手法の適用限界や課題について述べるとともに,課題解決 に向けた方策について言及する. 第5章では,提案した不飽和砂質地盤の地震時沈下量推定手法が設計や各種評価に用い られることを鑑み,いくつかの応用例を提示する. 不飽和砂質地盤の地震時沈下量評価にあたっては,不飽和地盤が本来的に有する含水率 や密度などの状態の相違,いわゆる「地盤物性のばらつき」を加味した推定を行うべきで あると考えている.そこで,信頼性解析を実施して算出したフラジリティ曲線による地盤 沈下性能の確率論的評価事例を示す.異なる地震応答解析手法を用いた場合における沈下 量推定結果への影響を定量化した「モデル化誤差」に関しても議論する. これらの検討によって,設計などに用いられる安全率や変位・変形量などの各種指標の 推定精度が地震力の増大に伴って低下する,という興味深い結果が得られたことを報告す る. 第6章は,第2章から第5章で得られた成果をまとめるとともに,本研究によって新た に表出した課題,積み残した課題を挙げ,それらの課題への対応に関して今後の展望を述 べる.

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第1章の参考文献

1) Sakai,T., Suehiro,T., Tani,T., & Sato,H.: Geotechnical performance of the Kashiwazaki-Kariwa Nuclear Power Station caused by the 2007 Niigataken Chuetsu-oki earthquake, Case History Volume for Performance-Based Design in Earthquake Geotechnical

Engineering, Technical Committee No.4, ISSMGE, pp.1-29, 2009.

2) 土木学会原子力土木委員会:『2007 年新潟県中越沖地震後の柏崎刈羽原子力発電所土

木構造物の被害・復旧状況』の報告,平成22 年 4 月 7 日.

3) Sato,H., Momose,K., Suehiro,T., Tani,T., Sato,M., Ozeki,K., & Kitazume,T.: Characteristics of subsidence of unsaturated ground and subsidence mechanism in the Niigataken Chuetsu-oki Earthquake in 2007, Proc.of the Inter. Conf. on Performance-Based Design in Earthquake

Geotechnical Engineering (IS-Tokyo2009), pp.1387-1394, 2009.

4) Hideo Nagase and Kenji Ishihara: Liquefaction-induced compaction and settlement of sand during earthquakes, Soils and Foundations, Vol.28, No.1, pp.65-76, 1988.

5) Ishihara, K. and Yoshimine, M.: Evaluation of settlement in sand deposits following liquefaction during earthquakes, Soils and Foundations, Vol.32, No.1, pp.173-188, 1992. 6) 石丸真, 河井正:重力場模型振動台実験による底面が固定された剛な構造物近傍地盤 の地震時沈下メカニズムの把握, 地盤工学ジャーナル, Vol. 4, No. 4, pp.369-380, 2009. 7) 河井正, 石丸真, 野田利弘, 浅岡顕:剛な構造物近傍の埋戻し地盤の地震時沈下挙動に 関する遠心力模型実験とその数値シミュレーション, 地盤工学ジャーナル, Vol. 5, No. 1, pp.45-59, 2010. 8) 土木学会・地盤工学会・日本地震工学会・日本建築学会・日本地震学会:2007 年新潟 県中越沖地震災害調査報告書資料集,2007 年 8 月 22 日.

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第2章 既往の研究と本研究の位置づけ

2.1 概要

2008 年 4 月~9 月に地盤工学会誌に掲載された「講座:不飽和土・不飽和地盤」は,近 年の不飽和土・不飽和地盤に対する研究概要を把握するのに良い.しかし,この講座の内 容は表 2-1 に示すように,浸透・透水問題に大部が割かれている.第2 章から第 7 章まで のうち,不飽和土の力学特性については,「第6 章 不飽和土の圧縮・せん断特性に関す る室内試験方法」に記載されているのみである.記載内容は,中空ねじり試験と一面せん 断試験による静的載荷条件下における圧縮・せん断挙動に対するものが主であり,本論で 扱う不飽和土・不飽和地盤の地震時挙動(あるいは動的挙動,繰返しせん断挙動)につい ては,非排水条件で行われた繰返し三軸試験によるデータが1 ページ弱程度記されている に過ぎない.「講座」およそ全50 ページに対して,地震時挙動関連の記載が占める割合は わずか 2%程度であり,地盤工学分野における不飽和土・不飽和地盤の地震時挙動に関す る研究がそう多くはない現状にあることが窺える. 表 2-1 地盤工学会誌(2008 年)に掲載された 「講座:不飽和土・不飽和地盤」の内容 掲載号 タイトル 第1 回 4 月号 第 1 章 講座を始めるにあたって 第 2 章 不飽和土の保水特性 第2 回 5 月号 第 3 章 不飽和土の透水・透気特性 第3 回 6 月号 第 4 章 不飽和地盤の調査と浸透特性値の計測 第4 回 7 月号 第 5 章 不飽和地盤の調査事例 第5 回 8 月号 第 6 章 不飽和土の圧縮・せん断特性に関する室内試験方法 第6 回 9 月号 第 7 章 不飽和土・不飽和地盤の数値シミュレーション 第 8 章 講座を終えるにあたって 不飽和土・不飽和地盤の地震時挙動に関する研究事例が少ない理由として,一つ目に挙 げられるのは,不飽和土が土粒子と液相(水)と気相(空気)の3 相から成り,これらが相互 依存して複雑な状態・挙動を呈する媒体であること,二つ目として動的挙動を扱うこと, にある.ただそこにあるだけでも複雑な性質を呈する3 相媒体に対して,地震のような時々 刻々と変化する外力が加わった際の挙動についてまで調べて理解しようとするには困難が ともなう.

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また,サクション(間隙空気圧と間隙水圧の差)が大きいほど粘着力が大きいこと 1) 飽和度が小さいほど液状化強度が大きいこと2) などから,一般に,不飽和土・不飽和地盤 は飽和土・飽和地盤に比べて強度特性が大きく支持性能が高いと考えられている.そのた め,社会的には,飽和土・飽和地盤の地震時における液状化現象の解明や,液状化に起因 する地盤変状対策への取り組みへの必要性が大きく,それらに関する研究が優先されてき たものと考えられる. 地盤工学会誌「講座:不飽和土・不飽和地盤」にもあったように,不飽和土・不飽和地 盤の問題に対するアプローチとしては,まずは保水性,透水・浸透性などに関する認識や 把握に注力し,それらに関連する問題解決を目指し,次に力学的問題,その中でも基本と なる単調圧縮や単調せん断に関する挙動の把握へと目が向けられてきたものと推察される. 動的挙動,繰返しせん断挙動へのアプローチは端緒についたばかり,といった現状にある ものと考えられる.

なお,不飽和土の代表的な弾塑性構成モデルはAlonso and Josa (1990) 3) ,軽部ら(1989) 4)

kohgo et al (1993) 5) などによって提案されている.これらの構成モデルは,土の飽和から 不飽和へ,あるいはその逆の状態変化,いわゆるサクション変動にともなう力学的挙動を 扱うものであり,本研究で対象とする地震などによる繰返しせん断挙動(動的挙動)を扱う ものではない. 以上のような現状認識のもと,2.2 節では 2 相媒体である飽和土・飽和地盤が地震を被 った際にしばしば生じる液状化とそれに起因する地盤沈下に関する既往研究を概観する. 飽和土・飽和地盤の液状化起因の地盤沈下に関する知見は,不飽和土・不飽和地盤の沈下 メカニズムを考える際の基本になる. 2.3 節および 2.4 節では,不飽和地盤の地震時沈下事例として,2007 年新潟県中越沖地 震の際に東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所構内の埋戻し地盤に生じた事例を中心に, 2008 年岩手・宮城内陸地震における建設途中のフィルダムに対する沈下予測計算事例, 2011 年東北地方太平洋沖地震における仙台市の盛土宅地地盤に生じた被害事例などを取 り上げる. 2007 年新潟県中越沖地震で柏崎刈羽原子力発電所構内の埋戻し地盤に生じた沈 下は,本研究に取り組む発端となった事案であることから詳述する. また,不飽和地盤の動力学特性に関する既往の研究や,現状の設計基準・指針類で扱わ れている地盤の地震時沈下量評価方法について概観する. 2.5 節では,既往の研究や現行の設計基準・指針類で扱っている地震時の地盤沈下に関 する知見に対し,本研究における現象へのアプローチ方法や観点の相違を述べる.

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2.2 液状化に起因する沈下

地震時の地盤沈下に関する研究は従来,飽和地盤の液状化後の沈下を対象として行われ てきた経緯・歴史がある.そこで,本節では,既往研究における液状化起因の地盤沈下に 関する知見を概観する.飽和地盤における液状化後の地盤沈下に関する知見は,不飽和地 盤の地震時沈下メカニズムを理解するにも有益となるはずである. 2.2.1 液状化被害,液状化試験法および液状化解析の歴史6) (1) 液状化被害 1964 年の新潟地震で地盤の液状化による甚大な被害が発生し,大きな問題として社会に 認識されて以来,本邦においては,液状化を再現する試験法の開発と進展,液状化メカニ ズムの解明,液状化を考慮した各種施設の設計手法の構築,液状化にともなう沈下や側方 流動などの地盤変状に起因する住宅や各種施設への被害軽減方策の開発,などが行われて きている.1964 年新潟地震以降,本邦において発生した地震による主な液状化関連被害と 顕在化した課題・問題を整理して表 2-2 に示す. 表 2-2 本邦で生じた地震において液状化に関連した主な被害と顕在化した課題 年 地震名 液状化に関連した主な被害,顕在化した問題 1964 新潟 液状化による種々の構造物被害 緩い砂の液状化に関する研究の開始 1968 十勝沖 丘陵地の造成宅地の被害,など 1978 伊豆大島近海 鉱さい堆積場の崩壊,など シルトが液状化対象土と認識されはじめる 1978 宮城県沖 河川堤防の被害,など 1983 日本海中部 港湾施設の被害,タンクの不同沈下,など 側方流動に関する注目 1987 千葉県東方沖 細粒分を含む砂の液状化に関する注目 1993 釧路沖 港湾施設の被害,対策工の効果確認 下水道管渠,マンホールの浮き上がり 1995 兵庫県南部 岸壁・護岸の変形・傾斜,背後地盤の側方流動 レベル 2 地震動の導入,性能設計への移行促進 2007 新潟県中越沖 埋設管の被害,再液状化に関する注目 2011 東北地方太平洋沖 造成盛土の被害,湾岸宅地の大規模被害,など 長継続地震動または余震による低せん断応力比 条件における液状化発生

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1964 年新潟地震を除き,表 2-2 に示した液状化関連被害を生じさせた地震のうち,その 後に与えた影響が最も大きかったのは1995 年兵庫県南部地震であろう.この地震の際には, 大規模な液状化発生はもとより,岸壁や護岸が液状化によって海側に変形・傾斜し,その 背後地盤の流動(側方流動)によって湾岸の各種施設に重大な被害を与えたことが注目され た.1995 年兵庫県南部地震後は,単なる液状化だけでなく,それにともなう地盤の側方流 動への対策を施すことが行われるようになってきた.さらに,レベル1 とレベル 2 地震動 の考慮にはじまる2 段階設計が行われるようになってきたこと,性能設計への移行を図る 気運が高まってきたことがある. 近年の 2007 年新潟県中越沖地震や 2011 年東北地方太平洋沖地震においては,かつて液 状化したことのある地盤が再び液状化する事例が注目された.2011 年東北地方太平洋沖地 震では,継続時間の長い地震動あるいは余震によって,比較的小さいせん断応力比条件で も液状化が生じる問題も顕在化した.これらの現象に対する評価および対策工の検討など が,今後の各種設計基準や指針などに取り入れられることも考えられる. (2) 液状化試験法 地震による地盤の液状化が社会インフラに及ぼす被害の重大性が認識されるのととも に,試験装置・試験方法の開発,改良,進展も図られてきた.液状化を再現する試験・実 験は,主に三軸試験機を用いて行われてきた.試験機や試験方法の開発,改良の変遷に関 しては三上(2013) 6)に詳しい記述があり本論では省略する. 本論との関連性が高い試験の仕様のなかに,繰返しせん断過程における排水条件が挙げ られる.水で飽和した砂質土に関する繰返しせん断試験は,施設の供用期間と比較してご く短時間に作用する地震荷重を考慮することから,この短時間の間隙水の移動は無視でき るものとして非排水条件で行われるのが一般的である.既往の研究や設計における砂質土 の繰返しせん断試験は,そのほとんどが地下水位以下の飽和した試料に対してであり,ま た,繰返しせん断荷重を作用させる際は非排水条件のもとで実施されてきている. 一方,本論で対象とする不飽和砂質土の場合,繰返しせん断過程は排水条件とした試験 を実施することになる(後述:2.4 節). (3) 液状化解析 1995 年兵庫県南部地震以前の液状化に関する考え方は,主に液状化発生の有無を判定す るものであった.液状化発生と判定された場合は,何らかの対策を図るというものであっ た. 液状化判定方法としては,表 2-3 に示すとおり,概略,簡易,詳細という判定精度によ る区分に基づき,構造物の重要度や設計の各段階に応じて行われていた.例えば,概略判 定で検討対象地点をスクリーニングし,液状化が生じやすいと判定された場合,該当地点 のボーリング調査を行い,次に簡易判定で液状化の可能性を判定した.判断が困難な場合 には詳細判定を実施する,といった流れで行われていた.

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表2-3 液状化判定方法の種類7) 種類 判定方法の概要 必要な土質調査 概略の判定 微地形区分において埋立地や旧河道といった過去に 液状化がよく発生してきた地形や,過去に液状化した 履歴を持つ地点で液状化が生じやすいと判定する. 微地形区分, 過去の地震による液状化履歴 調査 簡易な判定 限界N値法 測定 され たN値が定められた限界のN 値より小さく,しかも液状化しやすい 粒度分布の場合,液状化の可能性があ ると判定する. ボーリング, 標準貫入試験, 粒度試験 FL法 N値,平均粒径などから液状化強度を推 定し,一方,地表最大加速度などから 地 盤 中 に 生 じ る 繰 返 し せ ん 断 力 を 求 め,その比が1より小さいと液状化する 可能性があると判定する. 詳細な判定 不攪乱試料で繰返し三軸試験などを行って液状化強 度を求め,一方,地震応答解析を行って地盤中に生じ る繰返しせん断力を求めて,その比が1より小さいと 液状化する可能性があると判定する. ボーリング,標準貫入試験,粒 度試験,不攪乱試料採取,液状 化強度や変形特性を求める繰 返しせん断試験,物理試験 1995年兵庫県南部地震以降は,液状化が生じるか生じないかの判定だけではなく,液状 化時や地震終了後の地盤内応力やひずみ,過剰間隙水圧などを定量的に評価する必要のあ る段階へと移行した.各種設計基準や指針におけるレベル2地震動(構造物の供用期間中に 当該地点において考えられる最大級の強さを有する地震動)の導入により,構造物の機能 保持を確保した上で多少の損傷は受け入れるという考え方へと変わったためである.その ために,地震による地盤性能の明確化,すなわち変形量の評価が必要となった. 現在,地盤の液状化による変形量を評価する最も有効な方法は,有限要素法(FEM)に基 づく有効応力地震応答解析であると考えられる.一般に,有限要素法(FEM)に基づく有効 応力地震応答解析のことを液状化解析と称している. 2.2.2 既往研究における液状化起因の地盤沈下評価手法の概要 (1) 最大せん断ひずみを指標とした体積収縮ひずみの推定方法 地震時に飽和砂質土地盤が繰返しせん断を受けると,負のダイレイタンシーにより正 の過剰間隙水圧が発生する.この発生した過剰間隙水圧が地震後に消散する過程で,地盤 は収縮し沈下が生じる. 沈下量(体積収縮量)を求める方法として,地震時に地盤内に生じる最大せん断ひずみを

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Seed (1987) 9),田中ら (1991) 10) ,Ishihara and Yoshimine (1992) 11)によって提案されている. また,最大せん断応力と体積収縮量を関連付けて沈下量を推定する方法も西・金谷(1986) 12) によって提案されている. 最大せん断ひずみから沈下量を推定するために提案されている両者の関係の例を図 2-1 ~図 2-4 に示す.これらの方法では,最大せん断応力や最大せん断ひずみの評価は地震応 答解析によっている.また,これらの方法の多くは,沈下量と直接関係する地盤の締まり 具合を表すパラメータとして相対密度を用いている.

図 2-4 に示す最大せん断ひずみと体積ひずみの関係(Ishihara and Yoshimine (1992) 11)

では,中程度の密度の地盤(Dr=60%)では,体積ひずみは最大せん断ひずみの 1/3 程度とな

っている.最大せん断ひずみが 8%程度以上では体積ひずみは最大せん断ひずみによらず

3%程度の一定となる.相対密度 Dr=90%程度では体積ひずみは大きい場合でも 1.5%程度未

満である.

なお,Ishihara and Yoshimine (1992) 11)が示した液状化安全率F

Lおよび相対密度Drと体積

ひずみεvの関係は「高圧ガス設備等耐震設計指針」13) に取り入れられ,実務の設計にお

いては最も一般的に用いられている.

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図 2-2 最大せん断ひずみ,液状化安全率と体積ひずみの関係,Tokimatsu and Seed (1987) 9)

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図 2-4 最大せん断ひずみ,液状化全率と体積ひずみの関係,Ishihara & Yoshimine (1992) 11) (2) 累加せん断ひずみを指標とした体積収縮ひずみの推定方法 仙頭ら(2004)14) は,きれいな砂の液状化後の再圧密時の体積収縮特性と非排水繰返しせ ん断履歴の関係を,体積ひずみ速度を制御した再圧密試験により評価した.繰返しせん断 履歴は中空ねじりせん断試験機を用いたハイブリッドオンライン実験手法に基づく不規則 波としている.繰返しせん断中の履歴指標として次の3 種類を挙げている(図 2-5). ① 最大せん断ひずみ:γmax ② 正規化累積損失エネルギー: 1 ∙ ∙ ③ 累加せん断ひずみ: | | ①は液状化後の体積ひずみと相関の高い指標として,沈下予測手法に最も頻繁に用いら れている.②は仙頭の共同研究者である風間ら(1999)15) により液状化後の靱性評価を目標 に提案された指標である.③は仙頭ら(2004)14) により提案された指標であり,地震動の継 続時間を考慮することができるという特徴を持つ. 仙頭ら(2004) 14) は,最大せん断ひずみが発生した後もさらなる繰返し履歴が与えられる 場合,最大せん断ひずみ~体積ひずみ関係は一義的にはならないという実験結果を示し, 従来高い相関があるといわれている最大せん断ひずみよりむしろ累加せん断ひずみが再圧 密時の体積ひずみと相関が高いことがわかったとしている.さらに,再圧密体積ひずみは, 相対密度が小さいほど,累加せん断ひずみが大きくなるほど大きくなることがわかったと している(図 2-6).また,これらの実験結果をもとに履歴指標および相対密度の影響を考 慮することが可能な再圧密時の体積収縮特性を表現するモデルを提案している.

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図 2-5 繰返しせん断履歴指標の時刻歴(Drc=86.89%,ランダム波原波入力),仙頭ら(2004)14)

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海野ら(2006)16)は,繰返しせん断による砂質土の体積収縮挙動に関連し,同一の繰返し せん断ひずみ履歴下での乾燥砂の排水繰返しせん断中に生じる体積ひずみと,飽和砂の非 排水繰返しせん断による液状化後の再圧密体積ひずみ量の比較検討を行っている.ひずみ 制御の繰返しせん断試験においては,同一の載荷履歴では,乾燥砂の繰返しせん断中に生 じる体積ひずみは,飽和砂の繰返し載荷の再圧密の際に生じる体積ひずみと等しいことを 示した(表 2-4,図 2-7,図 2-8).このことから,液状化後の再圧密における体積収縮量 は乾燥砂を用いた試験を行うことで代用することが可能であるとしている. 表 2-4 海野らによるひずみ振幅一定試験の条件,海野ら(2006)16) 図 2-7 ひずみ一定振幅,正弦波の繰返し載荷履歴,海野ら(2006)16) 図 2-8 間隙比の時刻歴(左),累加せん断ひずみによる体積変化(右) ,海野ら(2006)16)

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(3) 有効応力解析による方法 井合ら(2008, 2010)17),18)は,多次元有限要素法における解析により,過剰間隙水圧の上昇, 非線形地震応答,過剰間隙水圧消散による沈下の一連の挙動をシミュレートするために, ひずみ空間多重せん断モデルを用いて新たな構成則(カクテルグラスモデル)を考案した. この構成則では,ひずみ空間多重せん断モデルのダイレイタンシーは,膨張的ならびに収 縮的成分の和として定式化している.この中で,過剰間隙水圧消散による沈下に係わる収 縮的成分の増分は,単純に塑性仮想単純ひずみ増分に比例するとしている. 溜ら(2010) 19)は,上記の構成則を検証するために,既往の不規則荷重を与えた単純せん 断試験を対象に,図2-9に示すようなFEMモデルを用いたシミュレーションを行った.そ の結果,図2-10に示すように解析による体積収縮量は,密詰砂においては既往の試験結果 と概ね同程度となったが,緩詰砂の場合は室内試験結果に比べやや大き目の体積収縮量が 算定されることが示された. また,Tamari et al (2009) 20) は,既往の小型振動台実験を対象に,液状化後の水圧消散お よび沈下挙動について解析検討を行った.その結果,過剰間隙水圧消散にともなう沈下の 現象を再現可能であること,加振継続時間の違いによる最終沈下量の違いを定性的に表現 できることが確認されている. 図 2-9 不規則荷重を与えた単純せん断試験のシミュレーション,溜ら(2010) 19)

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図 2-10 カクテルグラスモデルによる最大せん断ひずみと体積ひずみの関係,溜ら(2010) 19)

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2.2.3 体積収縮に影響する要因について (1) 三上ら(2002)による体積ひずみと繰返し回数,細粒分含有率との関係 三上ら(2002) 21) は,不撹乱試料を用いた繰返し非排水三軸試験(液状化試験)を数多く 実施している.これらの結果から得られた繰返し載荷後の体積変化量を繰返し回数や粒度 特性との関係にとりまとめている. ■試験方法 各試料とも繰返し三軸試験装置を用い,液状化強度RL20(繰返し回数20 回で軸ひずみ両 振幅εDA=5%に達する応力比σd/2σ'c)を求めることを目的として試験を実施している.原 位置の有効上載圧で等方圧密したのち,非排水状態で所定の繰返し軸荷重振幅を与え, εDA=10%に達するまで載荷を行っている.最大繰返し回数は200 回である.その後,排水 状態で30~120 分放置して過剰間隙水圧を消散させ,その時の体積変化量を測定している. ■試験材料 試験材料の諸元は表2-5のとおりである.検討に用いたデータは,細粒分含有率Fc=5~ 73%と粒度特性が多岐にわたっている.Fc=50%を超える材料がいくつかあるが,いずれも シルト分を主体とするものである.また,試料Bの塑性指数IPは9.2 であることから,液状 化判定対象土である.表中の相対密度Dr は,N値より次式に示すMeyerhof (1957) 22) の式 を用いて推定したものである. 21 / . . (σ'c:kN/m2) ■試験結果と考察 図2-12(a)に繰返し載荷後の体積ひずみεv と最大せん断ひずみγmax の関係を相対密度 Dr 別に示す.体積ひずみεv は繰返し載荷後の体積変化量ΔVを繰返し載荷前の体積Vc で除したものである.また,最大せん断ひずみγmaxは繰返し載荷中に発生した軸ひずみ両

振幅の最大値εDAmax からγmax =1.5・εDAmax/2 として求めている.図中には,石原・吉嶺

(1991) 23)によるきれいな砂の実験結果も併せて示されている.石原・吉嶺(1991) 23) の実験 結果に比べて若干大きな体積ひずみを示すが,相対密度Drが大きくなると体積ひずみεv は小さくなり,ほぼ同様の結果である.図2-12(b)は最大せん断ひずみγmax =7.5%のデータ の体積ひずみεv~繰返し回数Nc 関係を相対密度Dr 別に示したものである.繰返し回数20 回よりも少ない場合において体積ひずみは小さく,この傾向は相対密度Dr が小さい ほど顕著である,としている.

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稲童丸ら(1994) 24) は,過剰間隙水圧消散過程の初期における間隙比の低下割合が,初期 液状化後の載荷回数により異なり,初期液状化後の載荷回数が多いほど体積変化が大きい ことを指摘している.図2-12(c)は相対密度Drのほぼ等しいデータについて,同一試料の εv~Nc 関係を細粒分含有率別にプロットした一例である.繰返し回数が多いほど,体積 ひずみは大きくなっており,その傾向は細粒分含有率が多いほど顕著である.このことは, 稲童丸ら(1994) 24) の知見とも一致している.図2-12(c)から試料ごとに繰返し回数20回の ときの体積ひずみを読み取り,その試料の体積ひずみεv_20 とすると,図2-12(d)に示した ように,体積ひずみは細粒分が多いほど大きくなる傾向が求められた.細粒分含有率Fcが 80%の場合の体積ひずみは,細粒分含有率Fcが5%の試料の約1.5倍となっている. 表 2-5 三上らによる非排水繰返しせん断試験 に用いた地盤試料,三上ら(2002) 21)

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図 2-12 体積ひずみと最大せん断ひずみ,繰返し回数,細粒分含有率の関係, 三上ら(2002) 21) (2) 鳥井原ら(2000)による体積ひずみと細粒分含有率との関係 鳥井原ら(2000) 25) は,細粒分を含んだ砂(山砂A)と含まない砂(山砂 B)について(図 2-13(a), (b)),正弦波 20 波の液状化試験を行い,試験終了後に排水させて体積変化量を 測定した.図 2-14(a) に体積ひずみεv と最大せん断ひずみγmax の関係を示す.試験結 果をみると,体積ひずみの増加は最大せん断ひずみに大きく依存しており,細粒分の有無 に依らずその傾向はほぼ同様であるといえる.山砂 A および B の試験結果においてγmax >9%となる体積ひずみと間隙比の関係を図 2-14(b)に示す.図中には既往の試験結果も併 せて示している.図から明らかなように,今回の試験結果である山砂B においても若干の バラツキがあるもののほぼ同様の傾向がみられ,他の試験結果とも良く一致している. 液状化試験における応力比SRと最大せん断ひずみγmaxの関係を図2-14(c)に示す.図中 には,山砂Aの近似曲線も破線で示している.山砂A,B両ケースとも間隙比が小さくなる (a) (b) (c) (d)

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にしたがって,SR~γmax 曲線が応力比の大きい方へスライドしている傾向は同じである. しかし,間隙比がほぼ同じ値となる山砂A-2と山砂B-1では,細粒分を含む山砂A-2の方が 山砂B-1よりγmax=3.5%で約1.6倍程度応力比が大きくなっており,液状化後の体積ひずみ 量は同程度でも,細粒分の影響により液状化強度が増大しているのが分かる.また,山砂 B-3ではγmaxが7%を超える辺りから応力比が急激に増加しているが,間隙比のより小さい 山砂A-3ではその傾向は現れず,細粒分の有無による液状化時の挙動の違いが現れている. 図 2-13 試験に用いた地盤試料,鳥井原ら(2000) 25) 図 2-14 細粒分の有無による体積ひずみ特性の相違,鳥井原ら(2000) 25) (a) (b)平均間隙比と供試体作製方法 (a) (b) (c)

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2.2.4 まとめ 地震時の砂地盤の沈下量推定に関する研究は 1980 年代から本格化しており,これまで 多くの推定方法が提案されている.設計において最も一般的に用いられているのは,非排 水繰返しせん断試験により体積ひずみと最大せん断ひずみとの関係を実験式として定義し, それらの関係に地震応答解析で求めた最大せん断ひずみを適用させる方法(Ishihara and Yoshimine (1992) 11))であろう.これらの方法は現在でも主流と考えられる.しかし,最 近 10 年間では,繰返しせん断履歴を考慮できる方法や,構成則の中で塑性せん断ひずみに 関連付けた方法が提案されている.繰返しせん断履歴指標として,累加せん断ひずみを提 案している仙頭ら(2004) 14),海野ら(2006)16) による報告について考察した. 液状化後の体積ひずみに及ぼす要因については,三上ら(2002) 21) が繰返し回数と細粒分 含有率をパラメーとした比較検討を行っている.それによれば,不撹乱試料の繰返し非排 水三軸試験結果から得られた繰返し載荷後の体積ひずみと繰返し回数および粒度特性との 関係において次のような傾向が認められるとしている. ・ 繰返し回数が多いほど体積ひずみは大きくなり,その傾向は細粒分含有率が多いほど 顕著である. ・ 細粒分含有率が多いほど体積ひずみは大きくなる. 一方,鳥井原ら(2000) 25) によると,液状化後の体積ひずみは,液状化時のせん断ひずみ に大きく依存しているが,細粒分の有無に係わらず間隙比によって一意的に求まることが 明らかになったとしている. なお,海野ら(2006)16) による知見からは,体積収縮の機構は異なるものの飽和砂,乾燥 砂に係わらず累加せん断ひずみを用いて評価すると体積収縮量は同じであるとしている.

(34)

2.3 不飽和地盤の地震時沈下の事例

不飽和地盤の地震時沈下という現象が最も大きく社会的に顕在化したのは,2007 年新潟 県中越沖地震の際に原子力発電所内の不飽和埋戻し地盤が沈下して機器や配管系の損傷や 変圧器の火災が生じ,原子力発電所の安全機能に対する信頼性を損ねたことによるもので あろう.本研究の契機となった事例である. 変圧器火災の原因は地盤の不等沈下であった.岩盤への杭支持形式を採用した変圧器基 礎は沈下しなかったが,タービン建屋と変圧器との間に渡された接続母線を支える架台の 基礎は杭を介して岩盤に支持されたものではなく,埋戻し地盤に直接設置されていたこと から,この部分が沈下した(前出:図 1-2).異なる基礎形式の構造物間に生じた不等沈 下が接続母線にズレを生じさせ,ズレによって漏れた油に火花が引火して変圧器の火災に 至ったといわれている. 地震後の詳細な地盤調査・試験などにより,当該地盤が不飽和状態であったことは明ら かである(後述:3.2.1(1)).このことから,不飽和地盤の地震時沈下によって各種施設 に支障や問題を生じさせ得ることが明確に認められた事例であったと考えられる.この事 例以前にも不飽和地盤の地震時沈下現象は存在したものと推察される.しかし,生じた沈 下量の大きさはもとより,不飽和地盤の沈下が重要構造物のシステムとしての機能に障害 を生じさせたという社会的な影響度合いの大きさを鑑みた場合,当該事例は不飽和地盤の 沈下問題が社会に広く認識されることとなった最初の事例ではないかと考えられる. その後,2008 年岩手・宮城内陸地震や 2011 年東北地方太平洋沖地震においても,飽和 地盤の液状化に起因する沈下とは明瞭に分離された形で,不飽和地盤の地震時沈下による 各種施設の被災事例が報告されている. 2.3.1 2007年新潟県中越沖地震による柏崎刈羽原子力発電所の地盤沈下 (1) 2007 年新潟県中越沖地震の概要 2007 年 7 月 16 日,新潟県上中越沖の深さ 17km を震源とする気象庁マグニチュード 6.8 の地震が発生した.この地震により東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所(以下,KK 発電 所)では当時の設計で考慮されていた基準地震動を大きく上回る地震動を観測した.2007 年新潟県中越沖地震の概要を以下に,KK 発電所の 1~7 号機までの原子炉建屋基礎版上に それぞれ設置された加速度計で感知された地震動(水平動)の最大値を表 2-6 に示す.地震 動(水平動)の大きさは,南北方向に比べ東西方向の方が大きかった. ■2007 年新潟県中越沖地震の概要 ・発震日時:2007 年 7 月 16 日 10 時 13 分頃 ・震源位置:上中越沖 北緯37 度 33.4 分,東経 38 度 36.5 分 ・深さ:17km ・気象庁マグニチュード:M=6.8 ・KK 発電所まで:震央距離:16km,震源距離:23km

(35)

表 2-6 2007 年新潟県中越沖地震時の KK 発電所における原子炉建屋基礎版

の加速度観測記録,Sakai et al (2009) 26) に加筆・修正

号機 水平動(南北方向) 水平動(東西方向) 上下動

1 311 Gal 680 Gal 408 Gal

2 304 Gal 606 Gal 282 Gal

3 308 Gal 384 Gal 311 Gal

4 310 Gal 492 Gal 337 Gal

5 277 Gal 442 Gal 205 Gal

6 271 Gal 322 Gal 488 Gal

7 267 Gal 356 Gal 355 Gal

(2) 柏崎刈羽原子力発電所における埋戻し地盤の沈下 2007 年新潟県中越沖地震の揺れに対して,KK 発電所の岩盤上に設置した建屋・構築物 には大きな損傷は認められなかったが,排気ダクトのずれ,原子炉建屋天井クレーン軸の 継手破損,所内変圧器の火災などの被害があった.また,埋戻し地盤で沈下などの地盤変 状が数多く観察された(図 2-15). 地震後に柏崎刈羽原子力発電所の1~4号機が設置されているエリア全域において計測 した鉛直方向の地盤変動量分布を図2-16に示す.1~4号機のタービン建屋(#1~#4T/B)の西 面や1号機熱交換機建屋(#1Hx/B)の周辺などで沈下量が大きく,建屋の際では1m以上に及 ぶ箇所もある.建屋や構造物から離れるにしたがって沈下量は小さくなる傾向にあり,建 屋や構造物の影響のない箇所の沈下量は概ね50cm以下である.また,1号機熱交換機建屋 の西方において地表面レベルがT.P.+5.0mからT.P.+3.0mに変化する箇所では擁壁のはらみ だしや液状化が原因と推定される1m以上の沈下が生じた箇所がある. 図 2-15 KK 発電所における地盤沈下,Sakai et al (2009) 26) 地震計

(36)

1 号機原子炉建屋(#1R/B)の南東側の埋戻し地盤において計測した沈下分布の一例を図 2-17 に示す.地震後に建屋から12~20m 離れた地点で計測された沈下量は 30~40cm であ った.建屋近傍では沈下量が急激に大きくなり,建屋から約3m 離れた箇所では 57cm 程度, 壁際では 87cm 程度であった.なお,これらの地点における地下水位観測結果から,地下 水位は埋戻し地盤と原子炉設置地盤の境界部付近(約G.L.-25m)に認められ,埋戻し土は不 飽和状態にあることが確認できた.また,地表面に噴砂などは認められなかった. なお,不飽和地盤であっても液状化を要因とした沈下の可能性もある.風間ら(2006) 2) よれば,不飽和火山灰質砂質土を対象とした非排気非排水条件の繰返し三軸試験において, 初期飽和度Sr0=75%程度以上の試料の場合,振動によってサクションや水分状態が変化し, 液状化に至ることが報告されている.柏崎刈羽原子力発電所の不飽和砂質地盤は,第3章 (3.2.1)で詳述するように,調査範囲の大部分で75%以下の飽和度(平均値66.1%)であるこ とが確認されたが,90%に達する飽和度の箇所もごくわずか認められ,非排気非排水条件 下において液状化が生じる可能性がゼロとはいえない. ■本研究の位置づけ しかし,本論では,不飽和砂質地盤が非排気非排水 ...... 条件 .. において液状化に至る機構とは 図 2-16 KK 発電所 1~4 号機エリアにおける鉛直方向の地盤変動量分布, Sakai et al (2009) 26) に加筆・修正 #1 T/B #3 T/B #4 T/B #2 T/B #1 R/B #3 R/B #4 R/B #2 R/B Hx/B Hx/B Hx/B Hx/B 隆起 (cm) 沈下 (cm) R/B:原子炉建屋, T/B:タービン建屋, Hx/B:熱交換機建屋 #1 #3 #4 #2 地表面レベルT.P.+5.0m エリア 地表面レベルT.P.+3.0m エリア 護 岸

(37)

異なる条件を仮定している.すなわち,不飽和砂質地盤が排気排水 .... 条件 .. 下で繰返しせん断 を受けたとの仮定のもとで,実際に生じた地震時の沈下現象に関する説明を試みるもので ある(第3章). また,本論では,不飽和砂質地盤の飽和度として,おおよそ75%程度未満の状態を想定 している.75%という閾値は,風間ら(2006) 2) による報告で不飽和地盤が非排気非排水条....... 件 . 下で液状化を生じた際の初期飽和度である.KK発電所の埋戻し地盤においても大部分で 飽和度は75%程度以下,平均値は66%程度であり,液状化した痕跡は認められなかった. 飽和度75%程度未満であれば液状化や著しい剛性のひずみ軟化に至らず,第3章で後述す るような,不飽和砂質地盤が排気排水条件 ...... 下において剛性のひずみ硬化をともなう体積収 縮(沈下)メカニズムが発揮されると考えられるからである. 以上のように,液状化を起因とした飽和地盤の沈下とは異なるメカニズムで生じる不飽 和地盤の地震時沈下現象を定量化して示すこと,あわせて,不飽和地盤の地震時沈下量評 価手法を提案すること,の必要性は高まっているものと考えられる.ここに本研究実施の 意義を見いだすものである. 図2-17 1号機原子炉建屋(#1R/B)南東側の埋戻し地盤における実測沈下量, Sato et al (2009)27) に加筆・修正 #1 R/B 岩盤部 地下水位面 不飽和状態の 埋戻し土層 87cm 57cm 3m 30~40cm 12~20m 地震後の地表面 地震前の地表面 25m 原子炉設置岩盤 ( 試料採取位置)

(38)

2.3.2 2011年東北地方太平洋沖地震による宅地造成地の地盤沈下 2011 年 3 月 11 日に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では,東日本の各所 で大規模な地盤災害が生じた.特に,宮城県,福島県では,多数の箇所で丘陵地を切盛り した宅地造成地における被害が目立った.このうち,宮城県内の被害は,1978 年宮城県沖 地震によって被災した箇所が再び被災した事例も認められた.もちろん新たに被災した箇 所もある.新たな箇所が被災した原因の一つとしては,1978 年宮城県沖地震よりも振幅が 大きく継続時間が長い揺れが考えられるとされている28). 宮城県名取市相互台児童センターの建物の基礎周囲が,揺すり込み沈下と推定される最 大 35cm 程度の地盤沈下が報告されている29)(図 2-18,図 2-19). 図 2-18 名取市相互台の切土・盛土厚さと被害箇所29)

(39)

図 2-19 名取市相互台児童センター建物の基礎周囲の地盤沈下29) 図 2-20 宅地造成地の被害パターン分類28), 30) 「東日本大震災に関する技術講演会論文集―巨大地震・巨大津波がもたらした被害と教 訓―」28) には,造成宅地基礎地盤の地震被害のメカニズムを図 2-20 のように分類し,長 い継続時間の地震動の影響によって盛土部が圧縮沈下(揺すり込み沈下)を生じた箇所が非 常に多く,締まりの緩い盛土や切り盛り境界部の宅地建物の不同沈下となって被害が顕在 化していると報告された.

(40)

仙台市松ヶ丘地区の西側エリアにおいても,地震動の継続時間が長かったために,盛土 浅部の締まりの緩い盛土に地震動の繰返し荷重が作用したことによる圧縮沈下(揺すり込 み沈下)を起こし,これらが累積し地表面において沈下として変状が発生した,とされてい

る 31)(図 2-21~23).

(41)

図 2-22 仙台市松ヶ丘地区のA-A’地質断面図31)

図 2-4 に示す最大せん断ひずみと体積ひずみの関係(Ishihara and Yoshimine (1992)  11) ) では,中程度の密度の地盤 (D r =60%) では,体積ひずみは最大せん断ひずみの 1/3 程度とな っている.最大せん断ひずみが 8% 程度以上では体積ひずみは最大せん断ひずみによらず 3%程度の一定となる.相対密度 D r =90%程度では体積ひずみは大きい場合でも 1.5%程度未 満である.
図 2-3  最大軸ひずみと体積ひずみの関係,田中ら  (1991)  10)
図 2-4  最大せん断ひずみ,液状化全率と体積ひずみの関係, Ishihara & Yoshimine (1992)  11) (2)  累加せん断ひずみを指標とした体積収縮ひずみの推定方法  仙頭ら( 2004 ) 14)  は,きれいな砂の液状化後の再圧密時の体積収縮特性と非排水繰返しせ ん断履歴の関係を,体積ひずみ速度を制御した再圧密試験により評価した.繰返しせん断 履歴は中空ねじりせん断試験機を用いたハイブリッドオンライン実験手法に基づく不規則 波としている.繰返しせん断中の履歴指標として
図 2-5 繰返しせん断履歴指標の時刻歴( Drc=86.89%, ランダム波原波入力) , 仙頭ら( 2004 ) 14)
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参照

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