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不飽和地盤の地震時沈下の事例

第2章 既往の研究と本研究の位置づけ

2.3 不飽和地盤の地震時沈下の事例

不飽和地盤の地震時沈下という現象が最も大きく社会的に顕在化したのは,2007年新潟 県中越沖地震の際に原子力発電所内の不飽和埋戻し地盤が沈下して機器や配管系の損傷や 変圧器の火災が生じ,原子力発電所の安全機能に対する信頼性を損ねたことによるもので あろう.本研究の契機となった事例である.

変圧器火災の原因は地盤の不等沈下であった.岩盤への杭支持形式を採用した変圧器基 礎は沈下しなかったが,タービン建屋と変圧器との間に渡された接続母線を支える架台の 基礎は杭を介して岩盤に支持されたものではなく,埋戻し地盤に直接設置されていたこと から,この部分が沈下した(前出:図 1-2).異なる基礎形式の構造物間に生じた不等沈 下が接続母線にズレを生じさせ,ズレによって漏れた油に火花が引火して変圧器の火災に 至ったといわれている.

地震後の詳細な地盤調査・試験などにより,当該地盤が不飽和状態であったことは明ら かである(後述:3.2.1(1)).このことから,不飽和地盤の地震時沈下によって各種施設 に支障や問題を生じさせ得ることが明確に認められた事例であったと考えられる.この事 例以前にも不飽和地盤の地震時沈下現象は存在したものと推察される.しかし,生じた沈 下量の大きさはもとより,不飽和地盤の沈下が重要構造物のシステムとしての機能に障害 を生じさせたという社会的な影響度合いの大きさを鑑みた場合,当該事例は不飽和地盤の 沈下問題が社会に広く認識されることとなった最初の事例ではないかと考えられる.

その後,2008 年岩手・宮城内陸地震や 2011 年東北地方太平洋沖地震においても,飽和 地盤の液状化に起因する沈下とは明瞭に分離された形で,不飽和地盤の地震時沈下による 各種施設の被災事例が報告されている.

2.3.1 2007年新潟県中越沖地震による柏崎刈羽原子力発電所の地盤沈下

(1) 2007 年新潟県中越沖地震の概要

2007年7月16日,新潟県上中越沖の深さ17kmを震源とする気象庁マグニチュード6.8 の地震が発生した.この地震により東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所(以下,KK 発電 所)では当時の設計で考慮されていた基準地震動を大きく上回る地震動を観測した.2007 年新潟県中越沖地震の概要を以下に,KK発電所の1~7号機までの原子炉建屋基礎版上に それぞれ設置された加速度計で感知された地震動(水平動)の最大値を表 2-6に示す.地震 動(水平動)の大きさは,南北方向に比べ東西方向の方が大きかった.

■2007年新潟県中越沖地震の概要

・発震日時:2007年7月16日 10時13分頃

・震源位置:上中越沖 北緯37度33.4分,東経38度36.5分

・深さ:17km

・気象庁マグニチュード:M=6.8

・KK発電所まで:震央距離:16km,震源距離:23km

表 2-6 2007年新潟県中越沖地震時のKK発電所における原子炉建屋基礎版 の加速度観測記録,Sakai et al (2009) 26) に加筆・修正

号機 水平動(南北方向) 水平動(東西方向) 上下動

1 311 Gal 680 Gal 408 Gal

2 304 Gal 606 Gal 282 Gal

3 308 Gal 384 Gal 311 Gal

4 310 Gal 492 Gal 337 Gal

5 277 Gal 442 Gal 205 Gal

6 271 Gal 322 Gal 488 Gal

7 267 Gal 356 Gal 355 Gal

(2) 柏崎刈羽原子力発電所における埋戻し地盤の沈下

2007年新潟県中越沖地震の揺れに対して,KK 発電所の岩盤上に設置した建屋・構築物 には大きな損傷は認められなかったが,排気ダクトのずれ,原子炉建屋天井クレーン軸の 継手破損,所内変圧器の火災などの被害があった.また,埋戻し地盤で沈下などの地盤変 状が数多く観察された(図 2-15).

地震後に柏崎刈羽原子力発電所の1~4号機が設置されているエリア全域において計測 した鉛直方向の地盤変動量分布を図2-16に示す.1~4号機のタービン建屋(#1~#4T/B)の西 面や1号機熱交換機建屋(#1Hx/B)の周辺などで沈下量が大きく,建屋の際では1m以上に及 ぶ箇所もある.建屋や構造物から離れるにしたがって沈下量は小さくなる傾向にあり,建 屋や構造物の影響のない箇所の沈下量は概ね50cm以下である.また,1号機熱交換機建屋 の西方において地表面レベルがT.P.+5.0mからT.P.+3.0mに変化する箇所では擁壁のはらみ だしや液状化が原因と推定される1m以上の沈下が生じた箇所がある.

図 2-15 KK発電所における地盤沈下,Sakai et al (2009) 26)

地震計

1 号機原子炉建屋(#1R/B)の南東側の埋戻し地盤において計測した沈下分布の一例を図 2-17に示す.地震後に建屋から12~20m離れた地点で計測された沈下量は30~40cmであ った.建屋近傍では沈下量が急激に大きくなり,建屋から約3m離れた箇所では57cm程度,

壁際では 87cm 程度であった.なお,これらの地点における地下水位観測結果から,地下 水位は埋戻し地盤と原子炉設置地盤の境界部付近(約G.L.-25m)に認められ,埋戻し土は不 飽和状態にあることが確認できた.また,地表面に噴砂などは認められなかった.

なお,不飽和地盤であっても液状化を要因とした沈下の可能性もある.風間ら(2006) 2) に よれば,不飽和火山灰質砂質土を対象とした非排気非排水条件の繰返し三軸試験において,

初期飽和度Sr0=75%程度以上の試料の場合,振動によってサクションや水分状態が変化し,

液状化に至ることが報告されている.柏崎刈羽原子力発電所の不飽和砂質地盤は,第3章 (3.2.1)で詳述するように,調査範囲の大部分で75%以下の飽和度(平均値66.1%)であるこ とが確認されたが,90%に達する飽和度の箇所もごくわずか認められ,非排気非排水条件 下において液状化が生じる可能性がゼロとはいえない.

■本研究の位置づけ

しかし,本論では,不飽和砂質地盤が非排気非排水

......

条件

..

において液状化に至る機構とは 図 2-16 KK発電所1~4号機エリアにおける鉛直方向の地盤変動量分布,

Sakai et al (2009) 26) に加筆・修正

#1 T/B

#3 T/B #4 T/B

#2 T/B

#1 R/B

#3 R/B #4 R/B

#2 R/B

Hx/B

Hx/B Hx/B

Hx/B

隆起 (cm)

沈下 (cm) R/B:原子炉建屋, T/B:タービン建屋, Hx/B:熱交換機建屋

#1

#3 #4

#2

地表面レベルT.P.+5.0mエリア 地表面レベルT.P.+3.0mエリア

護 岸

異なる条件を仮定している.すなわち,不飽和砂質地盤が排気排水

....

条件

..

下で繰返しせん断 を受けたとの仮定のもとで,実際に生じた地震時の沈下現象に関する説明を試みるもので ある(第3章).

また,本論では,不飽和砂質地盤の飽和度として,おおよそ75%程度未満の状態を想定 している.75%という閾値は,風間ら(2006) 2) による報告で不飽和地盤が非排気非排水条

.......

下で液状化を生じた際の初期飽和度である.KK発電所の埋戻し地盤においても大部分で 飽和度は75%程度以下,平均値は66%程度であり,液状化した痕跡は認められなかった.

飽和度75%程度未満であれば液状化や著しい剛性のひずみ軟化に至らず,第3章で後述す るような,不飽和砂質地盤が排気排水条件

......

下において剛性のひずみ硬化をともなう体積収 縮(沈下)メカニズムが発揮されると考えられるからである.

以上のように,液状化を起因とした飽和地盤の沈下とは異なるメカニズムで生じる不飽 和地盤の地震時沈下現象を定量化して示すこと,あわせて,不飽和地盤の地震時沈下量評 価手法を提案すること,の必要性は高まっているものと考えられる.ここに本研究実施の 意義を見いだすものである.

図2-17 1号機原子炉建屋(#1R/B)南東側の埋戻し地盤における実測沈下量,

Sato et al (2009) 27) に加筆・修正

#1 R/B

岩盤部 地下水位面 不飽和状態の

埋戻し土層 87cm 57cm

3m

30~40cm 12~20m

地震後の地表面 地震前の地表面

25m

原子炉設置岩盤 ( 試料採取位置)

2.3.2 2011年東北地方太平洋沖地震による宅地造成地の地盤沈下

2011年 3月 11日に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では,東日本の各所 で大規模な地盤災害が生じた.特に,宮城県,福島県では,多数の箇所で丘陵地を切盛り した宅地造成地における被害が目立った.このうち,宮城県内の被害は,1978 年宮城県沖 地震によって被災した箇所が再び被災した事例も認められた.もちろん新たに被災した箇 所もある.新たな箇所が被災した原因の一つとしては,1978 年宮城県沖地震よりも振幅が 大きく継続時間が長い揺れが考えられるとされている28)

宮城県名取市相互台児童センターの建物の基礎周囲が,揺すり込み沈下と推定される最 大 35cm程度の地盤沈下が報告されている29)(図 2-18,図 2-19).

図 2-18 名取市相互台の切土・盛土厚さと被害箇所29)

図 2-19 名取市相互台児童センター建物の基礎周囲の地盤沈下29)

図 2-20 宅地造成地の被害パターン分類28), 30)

「東日本大震災に関する技術講演会論文集―巨大地震・巨大津波がもたらした被害と教 訓―」28) には,造成宅地基礎地盤の地震被害のメカニズムを図 2-20 のように分類し,長 い継続時間の地震動の影響によって盛土部が圧縮沈下(揺すり込み沈下)を生じた箇所が非 常に多く,締まりの緩い盛土や切り盛り境界部の宅地建物の不同沈下となって被害が顕在 化していると報告された.

仙台市松ヶ丘地区の西側エリアにおいても,地震動の継続時間が長かったために,盛土 浅部の締まりの緩い盛土に地震動の繰返し荷重が作用したことによる圧縮沈下(揺すり込 み沈下)を起こし,これらが累積し地表面において沈下として変状が発生した,とされてい る 31)(図 2-21~23).

図 2-21 仙台市松ヶ丘地区の地表面変状分布図31)

図 2-22 仙台市松ヶ丘地区のA-A’地質断面図31)

図 2-23 仙台市松ヶ丘地区における地盤変状機構の模式図31)