第 2 章 わが国における公的年金の変遷 19
2.4 公的年金の転換点
2.4.1 拠出建て方式への移行 : 2004 年改革 ( 平成 16 年改革 )
保険料固定方式とマクロ経済スライドによる拠出建て方式の導入
1994年および2000年改革後も少子化は進み続け, 公的年金の持続可能性への懸念が解 消されることはなかった. 2002年1月に発表された新たな人口推計に基づく将来予測に よれば, 既存の公的年金を存続させれば, 厚生年金の保険料率は25.9%,国民年金保険料単
価は2004年価格で29,500円まで上昇するとされた.
また, 老齢厚生年金の支給開始年齢の引き上げを通じて, 65歳引退社会へのシフトが決 定された一方で, 在職老齢年金による高齢者の就業に対する阻害効果は残されたままで あった. 長引く不況に伴う厚生年金が適用されない非正規雇用者の増大と, その就業環境 の劣悪さを一因とする国民年金保険料納付率の低下も大きな問題となっていた.
加えて,国庫負担率引き上げとその財源調達, 保険料引き上げの凍結, 女性の年金権に関 する諸問題など, 2000年改革において積み残された課題にも対応しなければならなかっ た. そのような多くの課題に直面する中, 2004年改革という1985年改革以来の大改革は 実行された.
2004年改革において最も注目されるべきは,将来の保険料の引き上げスケジュールを法 定する保険料固定方式の採用である. それに伴い, 2017年度にかけて厚生年金の保険料率 を13.58%から18.3%へ, 国民年金保険料を2004年度価格で月額13,300円から16,900 円へ引き上げることが決定された. 加えて, それまでの永久均衡方式に替えて*26, おおむ ね100年間を財政期間とし, その間で財政均衡を図り, 100年後の積立金比率を1年程度 とする有限均衡方式が採用された*27.
そして, 2000年改革の課題であった国庫負担率の引き上げと合わせて, その下で得られ
る財源の範囲内に年金給付総額を抑えるために, 再評価率表および年金給付の改定率に人 口動態を反映し, 被保険者の減少に際して自動的に改定率を引き下げ, 財政収支の均衡を 図るマクロ経済スライドが導入された. それらの措置により, 所得代替率を1973年改革以 来の目標である60%から引き下げることが決定された. 目標とする所得代替率はおおむ ね50%に設定されたが, 想定を超えた少子化や, 経済成長の鈍化などが生じた場合には,
*25以下, 断りがない限り, 2012年改正法の説明を除いて山崎・大川(2007), pp.28-77に沿っている.
*26永久均衡方式とは,将来のかけて永久に年金財政を均衡させる方式である (山崎・大川, 2002, p.32).
*27積立金比率とは, 積立金の期首残高を当期の年金給付総額で除したものである. 詳細は本論6章を参照され たい.
2.4 公的年金の転換点 31 財政収支の均衡のために50%を下回る場合もあり得るとされた*28.
就業環境の変化への対応
それ以外では, ライフスタイルの変化への対応が一層進められた. 第1に, 在職老齢年 金の改善である. それまでは, 60 歳代前半に厚生年金に加入すれば給付が一律に20%減 額されていたが, それが廃止された. 60歳代後半については, 新たに老齢厚生年金の支給 繰り下げが導入された*29. また, 2004年改革では70歳以上の雇用者にも60歳代後半の 在職老齢年金制度を適用するとされたが, 60歳代後半とは異なり保険料は徴収しないとさ れた.
加えて,女性の社会進出に関連して,育児休業に関する保険料の免除が拡充された. それ までは育児休業を取得した厚生年金被保険者は, その子が1歳に達するまで保険料が免除 され, 育児休業開始直前の標準報酬額が納付履歴に残されていた. その期間を延長し,子が 3歳に達するまでとされた. 3歳に達する以前に復職し, 勤務時間短縮等の措置により標準 報酬が低下した場合も, 育児休業開始直前の標準報酬額を適用するとされた.
深刻さを増している国民年金保険料の収納率の低下への対応にも更なる対策が導入され た. 第1に, 保険料免除制度等の拡充である. 全額申請免除および半額免除に加え, 4分の 3免除と4分の 1免除が導入された*30. また, 2015年 (平成 27年) 6 月までの期限付き で, 30歳未満の第1号被保険者は未婚であれば本人の, 既婚であれば本人と配偶者の所得 が一定以下であれば保険料の納付を猶予されることとなった. 第2に, 現役世代への情報 伝達である. 過去の保険料納付実績や, その時点での年金見込み額などの情報を定期的に 被保険者へ伝達するとされた. 第3に, 未納への対策である. それにより, 保険料徴収当局 は, 必要に応じて被保険者に対してその資産, あるいは収入に関する書類等の提出を命じ られるようになった.
*282004年改革に影響を及ぼした海外の事例としては, 1999年に施行されたスウェーデンの新年金制度があ る. その考え方, およびその前提となった国際的論争は第3章で論じる. 第4章では,積立方式移行論が一定の 存在感を持った1990年代後半にそれらをわが国に紹介し,当時の公的年金研究に一石を投じた高山 (1999)を 概観する.
*29繰り下げ支給を申請せずに60歳代後半に就業した場合も,在職老齢年金が適用された場合に支給される年 金額を繰下げの対象とした.
*30半額免除と同様に, それらが適用された場合に得られる年金受給権は納付した保険料分+国庫負担分とさ れる.
年金受給権の見直し
障害年金, および遺族年金の支給についても更なる見直しが加えられた. 第1に, 障害 基礎年金と老齢厚生年金の併給である. それまでは, 障害基礎年金の受給者は, 支給要件と なる障害が発生したのちに就業し, 厚生年金の被保険者となった場合, 障害基礎年金と老 齢厚生年金が併給できないとされていた. それを改め, 障害基礎年金の受給者へ老齢厚生 年金を支給するとし, 障害を持ちながらも働いたことが評価されるようになった.
第2に, 遺族厚生年金と老齢厚生年金の併給調整の見直しである. それまでは,自身の老 齢厚生年金, 死亡した配偶者の老齢厚生年金の4分の 3, あるいは死亡した配偶者の老齢 厚生年金の3分の2と自身の老齢厚生年金の2分の1の合計のうち最も高額なものを選 択するとされていた. それを改め, 遺族厚生年金の受給者が老齢厚生年金を受給する場合, 自身の保険料納付履歴を十分に反映させるために老齢厚生年金を全額受給するとし, それ まで受給していた遺族厚生年金から自身の老齢厚生年金を控除したものを遺族厚生年金と して受給するとした.
同様に, 老齢年金受給前の子のない妻に対する遺族厚生年金についても変更が加えられ た. 18歳未満の子のない30歳未満の妻に対しては, 5年間の有期給付とされた. また, 中 高齢寡婦加算も見直され, 待機期間をなくし, 夫の死亡時に40歳以上の妻に支給するとさ れた.
女性の年金権に関する整備も一層進められ, 離婚時の年金受給権に関する規定が設けら れた. 当事者の合意あるいは裁判所の決定があれば, 婚姻期間中の夫婦の保険料納付記録 の合計の半分を限度に, 厚生年金の納付記録を分割できるとされた. 同様に, 第3号被保 険者期間にかかる受給権も改定され, その期間については夫婦が共同で負担したものとみ なし, 離婚時に例外なく2分の1に分割するとされた.
積立金の管理, 運用
積立金の運用は, 自主運用の方針がさらに徹底された. 第1に, 年金資金運用基金の廃 止と,年金積立金管理運用独立行政法人の設立である. 新たに設置された法人は,理事長を はじめとする資金の運用に直接関わるポストに高度な金融の知識と経験を有する専門家を 登用し, 法人は理事長が作成した運用方針に従って資金を運用する. その運用方針と運用 状況を運用委員会が審議し, 監督するとされた. また, 大規模保養施設基地の廃止が改めて 確認され, 資金融資事業は独立法人福祉医療機構が引き継ぐとされた.
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